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はじめての冒険


「お前は今日で14歳を迎えた。支度金だとっとと出ていけ」


生ゴミを見る目で金髪の小太りの恰幅の良い男性が私にそう言い放った。


え、誰だこいつ。あ、僕の父親か。



このとき私は前世を思い出した。



前世、和やかな両親のもと、行木素子と名付けられ、すくすく育ち、就職後、平日は馬車馬のように働き、休日にRPGゲームをしていた26歳OLだった。

最後の記憶は、上司に押し付けられた仕事をなんとか終わらせて帰宅した後にお酒を1杯飲んでへろへろでベッドまであと1歩まで記憶はある。

……これ過労死してないか?


何はともあれ、前世あこがれた日本人にはない顔つきの今世の父親。

小太りでも鼻だけは高くて良いな~とじろじろ外見を眺めていたら顔面にお金の入った粗末な麻袋を投げつけられた。

あっぶな!


顔面で受け止めるのは痛いので、手でキャッチする。

息子にものを投げつけるとかなんなんだこいつは!

ジト目で見上げると、舌打ちがひとつ返ってきた。


どうやら対話を忘れたようだ。可哀想に。なむ。


そのまま男は豪勢な服を見せびらかし、背を翻し豪邸に堂々と入っていく。



今世で見慣れた恐ろしく広い庭園付きの豪邸。玄関内にはメイドが無表情で佇んでいる。

美人だけど僕がいびられても無表情なままだったからあんまし良い印象はない。

もともとこの家に良い印象など1ミリもないが。


服は貴族ならではの装飾品をふんだんに使った上等な服。

比べてよれよれのシャツに、着古した半ズボン、汚れた皮靴と見るからにボロボロな僕。


今世の僕は、それなりの貴族ウッド家の5男に誕生し、クライマーと名付けられ7歳まで大切に大切に育てられた。

しかしこの度、親元から独立できる最少年齢の14歳を気に追い出されたのだ。



大切に育てられていた生活が180度変わる事件は7歳の時に起こった。


王族、貴族、平民、奴隷、どの身分でも7歳の時に皆平等に、教会で神父様から様々な職業をひとつ授かる。職業によりスキルが異なるため人生の方向性が決まる。

モンスターやダンジョンが蔓延る世の中で優位となるのは戦闘特化の職業だ。


王族であれば「王」「宰相」「聖女」といった国を運営するのに特化した職業が多く、

貴族であれば、「魔法使い」「戦士」「騎士」「僧侶」「巫女」など戦闘特化のレアジョブが多く、その中でも更に希少なのが「勇者」「賢者」などである。

平民では「農民」「遊牧民」「村長」「商人」など生産に特化しており、

奴隷は「盗人」「人形」など、あまり表だって生活できないものが多いそうだ。


身分により出やすい職業が変わる中、長男「勇者」に始まり兄姉たちは皆全員が貴族に恥じない戦闘特化のレアジョブを取得しており、私の期待もそれはそれは大きかった。


父母に連れられ王都の教会へ豪華な馬車で向かう。


「お母さまと同じ魔法使いがいいなあ」

「ふふ、うれしいわクライマー」

「なんだクライマー、お父様同じ戦士は嫌か?」

「お父さまとも同じが良い!」

「そうかそうか。」


温かい日常が崩れ去る。


「クライマー・ウッドさま。あなたの職業は「ただの人」です」


—————無常に告げる神父の堅い声


「くそ!なんなんだ「ただの人」って!おかげで大恥をかいた!お前のせいだぞ!」


—————声を荒げ部屋を荒らす父


「「ただの人」だなんて変な職業ありえないわ!誰か私の息子を取り換えたんでしょう!?誰なの!?」


—————ヒステリックに叫ぶ母


汚れるから触るなと本を没収され、ろくな食事を与えられなかったせいで力もない僕。

外で生きていくのは大変難しいと14歳にして絶望していた。


だがそれは前世を思い出す直前までだ。

今は大人だった前世の記憶がある。


そして、この世界にはダンジョンとモンスターが存在する。


なにより、私は前世で様々なRPGゲームをやりつくしている。


前世の知識を応用すればこのガリガリな体でも生き残ることは大いに可能だ!

まずは情報を手に入れなければ。



父親とすれ違いで若い青年がニヤニヤと歩み寄ってきた。

輝く金髪をこれでもかとワックスで塗り固めているのは長男であり、ウッド家を継ぐ次期当主だ。


「ふん。勇者という極めて有能なジョブのボクを前にしてひれ伏さないとは礼儀を忘れたようだな。ゴミ虫め」


ふんぞり返ったまま永遠と自分がいかに素晴らしく、私がダメかを語っていく青年。


なんて操りやすそうな子供だ。

内心ほくそえみながら情報を聞き出した。


七三ワックス息子から、前世の仕事で磨き上げた話術で聞き出せるだけ情報を引き出しさっさと豪邸をあとに街へと向かう。豪邸は別荘で街と少し離れたところに建材するのが雅なんだそうだ。

貴族の考えはよくわからん。


初期装備、よれよれのYシャツに半ズボン、汚れた皮靴と、ぼろぼろの麻袋(お金入り)。

それとワックス息子から言葉巧みに譲ってもらった装飾品のついた小さなダガー。

ワックス君。ちょろすぎるぜ。


町へと続く砂利道をひたすら進む。街道はモンスターは出ないようだ。出ても食用ラビットで5歳児でも素手で倒せるらしい。


草木はいたって普通でありRPGでよくある凄まじい色をした果物など特に実っていない。

整備された街道だからというのもあるのだろう。

お金も見慣れた日本円ではなく、銅貨8枚である。貴族は銅貨は使わないらしく、ワックス君もよくわからなかったらしい。


ちっ使えない奴め。おっと失礼。


いかにも未知の冒険でRPGっぽくワクワクする。


とりあえず、街までの道のりは長い。ワックス息子から搾り取った情報を整理する。


まず、どの身分でも多くの人がダンジョン経由で利益を上げる。

ギルドで依頼を受けるのもある。

モンスターは倒すとお金、経験値、まれにドロップアイテムを落とす。

街には生産職が店を構えており、アイテムを売る、加工する。

などして強化していくらしい。


戦わずして稼ぐには生産するしかないが、ぼろ服の少年にアイテムを頼む人はまずいないだろう。

となると戦ってレベルを上げるしかない。「ただの人」というジョブのレベルがどうやったらあがるのかは謎だ。


そもそも「ただの人」ってなんだ。謎が多すぎる。


特定の施設はステータスカードを確認しないと利用できなかったりするようだ。

ワックス君がステータスカードをドヤ顔で見せてくれた。ステータスカードは基本自分にしか見えず、特定の人物にのみ見せることも可能なようだ。

名前、種族、年齢、性別、身分、職業と簡潔に表示されるらしい。


詳しい情報が手に入るならたとえ殴りたくなるようなドヤ顔にも寛容になるというものだ。


試しにステータスカードと念じるとウインドウが表示された。




〚クライマー〛

 ヒューマン 14歳 男

 元貴族

 ただの人 Lv.1 空きスロット 空きスロット

 ボーナススキル(隠匿)

  SP:74

  職業再振り分け

  sp再振り分け

  話術 Lv.6



聞いた情報と違うぞワックス君。


ワックス君のに比べて、色々付随している。

ワックス君のスキルカードには職業が一つまでしか表示されていなかった。私のは2つ空欄がある。

転生得点かなにかか?

SP:74とは何だろう?RPGでよくあるスキルポイントか?

もう一つウインドウが表示された。


〚SP振り分け〛


ずらっと様々なスキル項目が表示されている。

筋力アップから経験値報酬アップ、錬成など、なんでもありなようだ。

よくわからないのでとりあえずウインドウを閉じる。


次、職業再振り分けは手にした職業をその都度自由に変えられるという事だろうか?

振り分けは一度だけかもしれないので追々慎重に試すこととしよう。


続いて、SP再振り分け、これで何度でも再振り分けができたら恐らく職業も何度でも再振り分けができるだろう。

SPを1使って、幸運を会得してからステータスカードを確認する。


〚クライマー〛

 ヒューマン 14歳 男

 元貴族

 ただの人Lv.1 空きスロット 空きスロット

 ボーナススキル(隠匿)

  SP:73

  職業再振り分け

  sp再振り分け

  話術Lv.6

  幸運


ステータスカードの表示が、SPが74から73に代わり、ボーナススキルに幸運が追加された。

もう一度SP再振り分けで幸運に使ったポイントを外すとステータスカードも幸運が消え、SPも最初の値である74に戻った。


SPは何度も振り分けられそうだ。


とりあえず、鑑定スキルを会得し、残りポイントをすべて幸運に入れる。

万が一何かあってもこれで死なないだろう。


〚クライマー〛

 ヒューマン 14歳 男

 元貴族

 ただの人Lv.1 空きスロット 空きスロット


 ボーナススキル(隠匿)

  SP:0

  職業再振り分け

  sp再振り分け

  話術Lv.6

  鑑定Lv.1

  幸運



幸運にはレベルは存在しないようだ。SPを73つぎ込んで幸運Lv.73になるかとおもったが違うようだ。

なかなか面白い。


さて、運よくさくっとたおせる食用ラビットとか出てきてくれないだろうか

かわいかったらどうしよう。倒せないかもしれない。

そしたら仲間にする事はできないだろうか?

テイマー職をどうやって手に入れるかは謎だが……


「!」


ウインドウを閉じると目の前に

いかつい顔をした毛のない小さい動物がたたずんでいた。


え、なにあれ。え


〚食用ウサギ〛

  ???  ???


小動物の上に名前が表示された。


ええええええ、まじか 

注視すると鑑定されるらしい。

想像とは全然違った食用ウサギが短い爪でとびかかってきた。

慌てて腰にさしていたダガーでウサギを叩き落とす。


ウサギは地面に落ちるとキラキラと弾けるように消え、皮らしきものがその場に残った。

拾って鑑定する。


〚食用ウサギの革〛


やはり先ほどのは食用ウサギだったようだ……

モンスターを仲間に引き入れて戦うとかちょっと憧れてたけど、どのモンスターもあんなのだったらちょっと……これは奴隷を購入して仲間に入れるのがベストかなあ。

ひょろがきと手を組む大人はまずいないだろう。いても絶対訳アリだ。


戦利品の食用ウサギの革を畳みポケットにしまう。


1戦目でアイテムを落とすとはなんともまあラッキーだったな。

鑑定の使い方もわかったし、幸運スキルのおかげかもしれない。


初の冒険は非常に順調だといえるだろう。


お読みいただきありがとうございます。

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