1話
爺ちゃんが死んだ。特に病気を患っていた訳でもなく、普通に寿命だった。そして数日後には葬儀が執り行われ、俺も出席し、親戚一同が集まり会議が開かれた。議題は相続問題。よくある話だ。
因みに婆さんは生きているが体が弱くて家に居たり、病院に入院を繰り返す生活を送っているので、爺ちゃんが亡くなった今、田舎の祖父母の家は誰も居ない状態だ。なので誰かが相続する必要があるのだが、誰も欲しがらない。なにせ田舎の、それも町から少し離れた山にポツンと建った家だ。家自体は立派でリフォームとかもしてたので現代人でも文句のない家なのだが、周りに何もないような田舎だ。誰も欲しがらないのも仕方ない...。
集まった親戚一同が葬儀ムード。本来それが正しいのだろうが、これでは話が進まない。そこで俺も考えてみる。まず俺のスペックだ。
年齢18歳。高校卒業と同時に就職活動を開始したが失敗し、今は実家でニート生活を送ってる。
だが収入は一応あり、その収入源はブログや動画投稿サイトなどの広告収入で月に10万前後を稼げている。まぁ、少ない時は少ないが...。
あと次いでに言うと自己評価で顔は平均以上~ではあると自負しており、頭の方はもう学校で習った事をほとんど忘れてるのでバカだと思う。
それはそうと相続の件だ。俺は祖父母の家を引き継いでも良いと考えている。いつまでも実家に寄生してる訳にもいかないしな。それに田舎暮らしだって悪くはないだろ。向こうは物価も安いし、家賃なんて俺の物になるからタダだ!まぁ、相続税とか固定資産税があるが、相続税は1回だけだし、固定資産税は田舎なら安いと聞く。
という事でその旨を伝えると両親、親戚一同が賛成してくれる。皆嫌なのだ。だが、それでは悪いとでも思ったのか、皆さん手続き面や金銭面での協力を申し出てくれた。
*
数日後。俺が引っ越しの準備をしてた間に手続きは完了しており、後は俺が住むだけになっていた。
そして宅配業者に荷物を任せ、親の車で家族揃って家へ向かうと婆さんからあれこれ家の説明を受け、数時間後、両親と婆さんは婆さんの大事な物なんかを回収して帰っていった。残ってる物は捨てるなり使うなり自由にして良いらしい。
後は荷物を出していくだけだ。学生時代の夏休みに来た時などに俺の部屋にしてた2階の大きな部屋はあの頃と全く変わっておらず、そこを自分の部屋とする事にして段ボールから荷物を出していく。
そしてそれが終わると飯や風呂の準備を進める。飯は簡単、レトルト食品を電子レンジにぶちこんで温めるだけ。問題は風呂の湯沸し器だ。ガス式の古いタイプの物で、お湯を使う時はスイッチを押して点火し、温まったお湯はどんどん使わないと熱膨張でボイラーが爆発すると昔から教えられている。
なので水が温まる間にレトルト食品を大急ぎで平らげ、風呂場に急行してまだぬるいお湯が温まるのを寒い風呂場で待つ。もちろん浴槽もあるが、俺はシャワー派で水代も勿体ないので使う気はない。
シャワーを浴びるともうやる事が無くなる。まだ寝るには早いが辺りはもう暗くなっており、様々な虫の音が鳴り響き、屋根にタヌキかなんかが乗っているのか物音が聴こえてくる。正直うざい...。
「はぁ...ん?ゲジゲジっ!?キモ!」
家は田舎の山の中。しっかり戸締まりしても何処からか虫が湧いてくる。俺は各部屋に設置した殺虫スプレーを持ってゲジゲジにシューっと噴射してやると、くねくねと大暴れし、少しすると丸くなって死ぬ。そして死骸を専用に準備したトングで拾うと窓から外へ捨てる。
これから毎日、虫と戦わないといけないのか~と少し落胆してると、床を一列で動くアリンコの群れを発見する。俺は咄嗟に殺虫スプレーのトリガーに指をかけるが、考え直す。確か蟻という生物はなんか自分等の匂いを辿って移動してた筈だ。なのでその匂いごとアリへ殺虫スプレーをかけてどうなるのか?最悪の場合、いま家の中に居るアリどもが巣に帰れず、家の中で散らばる事になると...。
対処は慎重に行わなくてはならない。俺はそう考え、まずは巣を、または外への出口を探す事にし、蟻の列を辿って歩いていく。
「ん?うわぁ...壁に穴あけて道作ってやがる...」
蟻は1階の壁を貫通して隣の部屋への道を着くってやがった。俺は隣の部屋、婆さんが昔に集めて今日持って帰らず残していった大量の衣類が収納されてる部屋に移動すると電気をつけ、蟻の行方を探す。
「おっ?居た。あぁ~荷物が多すぎる...」
積み重なった段ボール、ハンガーラックいっぱいになった服のバリケード、それらをどかして蟻の列を辿った先にあったのは押入れだった。
発生源はここか!と思った俺はもう1頑張りと疲れた体で押入れを開けるとーー。
「えっ?なにこれ...扉?でもこの先って外だし、裏口とかがあるなんて知らない...なんだこれ?」
よくわからないが俺はその扉を開けると、その先には本来あるべき家の敷地ではない“遺跡„のような場所へと繋がっており、そこには“尖った長い耳を持つ人„が沢山居た。
その時、俺の頭には2つの言葉が浮かんだ。
異世界。そしてエルフ。
『まじかよ...異世界とかヤバすぎだろ。それになんかエルフまで居るし。てか、俺の立ち位置はどうなんだろ?勇者様?それとも普通に異世界人?』
いろいろな考えが浮かぶが、どうするにしろ行動に移さなければ話にならない。そう爺さんも言ってた。という事でまずは話し掛けてみる事にした。
「えぇ~と、あの!すいませーーぇ~、ん?」
エルフの皆さんはやはり耳が良いのか直ぐにこちらに気付き、俺を見るや叫んだり、腰を抜かしたり、信じられない物を見るような反応を示す。
何か不味かったか?と不安になって、とりあえず扉を閉めようとするとエルフ達が慌て出す。そして次々とエルフは土下座の体勢になり、暫くして村長かなにかと思わしき身なりの良いエルフが来たかと思うと、そいつは途中で止まり、代わりに隣の少女が近付いてくる。
「...君は?」
「レナと申します...あなた様はいったい?」
「あぁ、俺は司波 大祐だ」
「っ!?もしや司波 総一郎さまのご子息様で?」
司波 総一郎というのは爺さんの名前だ。俺は「そうだけど?」と言うと、エルフの少女は目を見開いて驚くと、その場で膝をついて祈りを捧げるようなポーズをとる。
「お待ちしておりました、司波様。我らエルフの民は危機に瀕しております。どうか我らをお救いください!」
*
少女はエルフが危機に瀕している、助けてくれと言った。俺に何ができるのかは知らないが、とりあえず話ぐらいは聞こうと扉の先へ足を踏み出して、建物の中で話を聞いた。
いわく森でひっそり暮らしていたら人間に突然襲われ、戦争状態となって抵抗はしたが森を焼かれしまい、故郷を失った今、本来は神聖な場所として入ってはいけなかったこの遺跡へ逃げ延びたところだと言う。
「まぁ、話は分かった。でもなぁ、俺にできる事なんて殆ど無いぞ?」
「そんな...では、我々はどうすれば...」
「いや、見捨てたりはしないぞ?幸い俺は時間だけはいくらでもあるからな」
そう、だってニートだもん。引っ越してまだ挨拶回りもやってないので存在すら周りに知られてないので、もしこの異世界でずっと暮らすとしても失踪届けが出されるのはとうぶん先だろう。
あれ?そいえば地球の方に帰る事はできるのだろうか?扉は開けっ放しなので戻れる可能性は高い。ならば地球からあれこれ持ち込むのが良いだろう。戦争するなら戦術書や昔の武器が載ってる本なんかあれば心強いし、他にも様々な近代知識を活用できるだろう。俺にできるか分からんが...。
「まぁ、とりあえず向こうから使えそうな物を持ってくるよ。戦争するなら準備が必要だろ?」
「っ!?ありがとうございます!」
そうして俺は建物から出るとエルフの少女レナに見送られ、遺跡の壁に取り付けられたドコ○モドアもどき、これからはゲートと呼ぶことにする、それを通って家の中へ無事帰還する。
そして扉を閉め、2階の自分の部屋にあるベッドへ倒れ込む。異世界、エルフ、そして戦争。もしかしたら夢なんじゃないかと頬をツネってみると痛い。
「ふぅ~異世界生活か...」
といってもまずは戦争をどうにか終結させないと冒険どころではないし、なんとかしなければ。暫くは遺跡を拠点に人間の軍隊を迎撃したり、エルフの斥候を動かす作業が続くだろう。だが、そればかりでは敗北は確実。少数のエルフでは勝てない。何か作戦を考えないといけないのだが...。
『今日は疲れた...寝よっ』
そして俺は寝た...。
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