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ほこり放置 

掲載日:2019/05/05

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共に、この場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 うおお、連休が終わる! 「この休み中に、ぜってー終わらす!」と誓ったものが、半分もできていない! ぐああ、間に合え、間に合え……などと、俺の弟が供述していたぜ。ついさっき。

 休みにまで仕事を持ち込もうとか、口では大層なことをいえても、実際に行える奴がどれほどいることか。経験上、できる人間は、休みを休みって認識していないな。仕事の時間って思っている。

 休みって頭が考えた途端、どうしてもそちらに傾いちまうよ。生存本能の一環か、だらけ始めたら、ぎりぎりまでだらけたいと思うのは人のサガだと感じているぜ。出勤前に限界までゴロゴロしてしまう、布団の中とかな。

 そして、急に発進しようとすると、どこかしら手落ちがあるもんだ。忘れ物をしたり、書き損じがあったり……更に厄介な事態を引き起こしてしまうケースもある。


 ――何? その厄介な事態に興味がある?


 話を聞きたいってか? まあ、お前の話好きは今に始まったことじゃないが……いいだろう。


 今でこそ、そこそこやるようになったが、実家にいたころの俺は、部屋の掃除とかはほとんどしない人間だったのさ。時折、親が部屋にやってくるから、それに任せていたんだ。

 だが、その時は色々な用事が重なって、親も忙しかった。イライラしていたんだろう。俺がいつものように部屋をゴミ屋敷にしていたところ、「たまには自分で片付けなさい!」と怒鳴られたよ。

 普段されないことをされると、人間、文句が出てくるもんだ。


「なんでえ。いつもそんなこと、言いやしないのに」


 ぶつくさ文句を垂れながら、部屋の掃除に手を出し始めたが、どうにもいらないものを選別するのに時間がかかる。寝転がりながら手を出す可能性のあるものとか、どうにも移動させづらい。

 親が部屋の入り口へ置いていったゴミ袋。一応、種別ごとに複数在るのだが、先のように、踏ん切りがつかないものばかり、俺の周囲には溜まっている。よって、いっぱいになるのは燃せるゴミの袋ばかり。わかりやすいわたぼこりと、それに絡む髪の毛こそ中身のメインだった。

 部屋入り口の柱の脇に、置かれたゴミ袋。親から渡されたほうきとちりとりを持って、せっせとかき集めたほこり達が、中へどんどん溜まっていく。半透明なボディをしているから、いかにも不健康そう――そりゃ、部屋から出たもの。いわば「老廃物」だし――な色が透けて見えるんだ。

 まばらに散っていたものも、ひとつに集まれば効果を大にする。あっという間に八分目ほどまでほこりが溜まった。その中にティッシュやら古いプリントなりを突っ込んで、仮の蓋とする。

 母親はそれ以上追及してこなかったし、俺自身も読みたい漫画があったから、そこそこですぐにリラックスタイムに突入だ。

 袋は軽く口だけしばって放置。そのまま夜を明かしたんだ。

 

 ところが、問題は翌日。

 外出から部屋に戻ってきて、入り口のゴミ袋を見ると、かさが半分ほどに減っていたんだ。

 親が持っていったとしたら、袋ごとなくなっているはず。中途半端に中身だけ持っていくなど、誰がするのだろうか? 

 不審に思った俺が、中身をビニール越しに見てみると、完全に蓋をしていた紙たちが一枚を残してなくなり、ほこりの頭がもろに見えている。これもまた、誰かがいじった証だろう。しっかり口は結び直してはいるようだが。

 そっと袋の口を開けてみる。残った一枚は上を向き、見開いた状態で俺を待っていたが、その文面を見て、首をかしげちまったよ。


「気に入ったぞ。もっとたくさん持ってこい」


 筆跡は俺に近いような、違うような……男らしい文字ではあった。だが、こんな王様みたいな台詞、書くどころか、口にすることも滅多にない。ましてや自分の部屋の落書きでなどと……。

 俺は紙を取り出し、くしゃくしゃに丸めて、別のところにあるゴミ箱へ。もう一度、袋の口を結び直すと、また読みかけの漫画に手を伸ばす。

 夕飯を食べて、布団へ潜り込む時には、もう奇妙なメモのことなど、頭からすっかり抜けていたよ。

 だが、翌日。目が覚めた俺は、またゴミのかさが減っているのに気がついたんだ。あれから掃除などしていないから、増えることはあり得ないが、減っていくのもおかしなものだ。

 母親のいたずらなのか、ともう一度口を開いて確認すると、またメモが開いておいてある。


「お前、見ていただろう。分からなかったのか? また言うぞ。もっとたくさん持ってこい」


 ――おいおい、手が込んでないか、これ?


 俺は早速、母親を問い詰めたものの、芳しい返事はもらえなかった。それどころか、「まだ捨ててなかったの?」と、どやされる始末。どうやら、母親がおせっかいを焼いてくれたわけではないらしかった。

 父親は俺の部屋にやってくることは、まずない。話をするのはいつも居間とか台所とか、呼び出された両親の部屋でとかだ。三人家族だから、他にいじる奴はいないはず。だが、そうなると……。


 ――俺の部屋、誰かが潜んでいるとかか?


 俺は玄関の傘立ての中に突き立っている、木製バットを手に取った。小さい頃に、子供会のソフトボールクラブに入っていた時に、愛用していたものだ。今となっては、振るう機会がなくなって久しく、もっぱら害虫退治の役目を引き受けるよう、職を変えてもらっている。

 これから不審者撃退の栄誉に、預かることになるかもしれない。そんな期待と共にバットを手にした俺は、自分の部屋の押し入れや棚の後ろを片っ端から漁ってみたんだ。

 だが、誰もいない。畳んで入れてある布団たち、クローゼットの中の服たちの裏側、そして敷いてあるじゅうたんを引っぺがした下にも。

 もしや他の部屋か? とも思った。俺の部屋には鍵がついておらず、その気になれば別の場所へ潜んでいて、その時だけ移動することも可能だ。俺は家中を探したものの、家族以外の痕跡を見つけることはできなかったんだ。

 

 それから三日経つと、ゴミ袋の中のほこりは、すっかり空っぽになってしまった。だが、例によってあの小さいメモだけは入り続けている。


「お前、早く補充しろ。腹が減ったぞ」


 こいつ、何様だと思いつつも、いいなりになるのもしゃくで、俺は無視し続けていた。それでもバットを手に、定期的な家探しをすることは怠らなかったよ。「もしやストーカー?」とも思ったし、ベッドの下に潜り込んでいた男の都市伝説もある。気を抜いていたら、どこから襲われるか、分かった物じゃなかったからさ。

 母親はそんな息子の様子を、あきれた顔で見ていたよ。傍目には見えない敵と戦っているかのようだったしなあ。だが、こいつの正体は意外なところで、見られることになる。


 その日は、制服姿のまま遊びに行って、ちょっとやんちゃをしちまってな。ズボンの裾を盛大に破いちまったんだ。

 次の日も学校があるし、取り替えないとと、クローゼットの中から予備の制服を出したのさ。

 だが、そいつの身につける部分。上着の中、ズボンの中、いずれも髪の毛が絡んだほこりがぎっしりと詰まっていたのさ。

 最初見た時、さすがにたじろいじまったぜ。わたがしか何かと見まごうくらいの、つまり具合だったからなあ。

 しかも簡単に取れない。手で握って思い切り引っ張って、ようやくだ。しかも接着剤で止めたかのように、めくれ上がるにつれて、「バリバリ」と生地が剥がれる音が混じる。どうにか身につけられるようになった時にはほつれがひどくてな、母親に繕ってもらったよ。

 予備の制服、買ってから年単位で着ていなかったものだ。もしかしたらあいつ、ほっとかれすぎて腹が減り、ほこりの味を覚えたのかもしれん。

 あいつを身につけるようになってからは、空気の味を覚えたのか、あの奇妙なメモとほこりの消失はなくなったがね。

 


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― 新着の感想 ―
[一言] そりゃ、しばらくほっとかれたら不貞腐れたり荒んだりもしますよね。 その寂しさを、間に合わせの他の何かで埋めたくなったりしたのかもしれません。 ちょっと偉そうな文句でわざわざメモを残したのも、…
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