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第7話 オムライス

 翌日の昼。



「サラ! 旅に行ってたカエルが帰ってきたわ!」

「わぁ! 今度はお寺に行ってきたんですね!」

風情ふぜいがあって美しいわね、これ。えっと、『OK、グー〇ル。この建物に連れて行って』…………ちょっと奏真そうま、お役に立てませんって言われたんだけどどうなってるの!」

「さすがのグ〇グル先生も、清水寺までのワープ機能は付いてないなぁ」



 ミレイユとサラ、そして僕は朝イチで家電量販店に行き、スマートフォンを買ってきた。ゴールデンウィーク中ということもあって店の中は多くの人でにぎわっていたけど、契約自体は三十分弱で終了。帰ってきて以来、ずっと二人でスマホを片手にわいわいと盛り上がっている。


 どうやら、カエルが旅に行っては写真を取って帰ってくるゲームアプリに夢中みたいだ。その上、さっき教えたばかりの音声入力による検索機能も早速使いこなしている。



「ふたりとも、そろそろ昼ご飯に──」

「あ! そう言えばクラスの萌って子がいつも言ってたアレ! えっと、いん……」

「『いんすたぐらむ』ですね。説明書を見ると、最初からスマホの中に入っているようですよ」

「そんなのあったかしら? ……あ、これね! タップしてっと……」



 うん。らなさそうですね。僕の声が聞こえている様子はない。



「(僕はお腹空いたんだけどなぁ……)」



 今にもぐぅと鳴きそうなお腹をなだめるように触っていると、ミレイユがスマホから顔を上げた。



「ねぇ奏真そうま

「はいはいなんでしょう」

「料理はできる?」

「えーっと、人並みには」

「あっそ。じゃあ任せるわ。適当に何か作りなさい」



 そうおっしゃると、再びスマホの画面に顔を向けられた雇用主様ミレイユ。へ……?



「ちょ、ちょっと待ってよ! 僕って家庭教師だよね!? コックさんになったつもりはないんだけど!?」

「もう、男の癖に細かいことにこだわるわねぇ……じゃあ、成功報酬で二千円。これでどう?」

「うっ……」



 お金を引き合いに出されると弱い。めっぽう弱い。


 さっきからの様子を見ていると、ミレイユやサラとの付き合いも決して長いものにはならないだろう。スマホを使いこなせれば大抵のことはできるようになる。地球で生きていく上での常識だって、暮らしている内に自然と身に付いてくるはずだ。彼女たちが地球に慣れてしまえば、僕を雇い続ける理由はないだろう。


 そうと決まれば、お金にえた大学生が取るべき行動は一つしかない。



「喜んで作らせていただきます!!!」





「「「いただきまーす」」」



 「お昼ご飯を作る」という任務を達成した僕は、ミレイユ・サラも一緒に食卓を囲み昼食を取ることにした、のだが。



「…………」

「…………」



 テーブルの上にデデンと置かれたのは黄色の皮に包まれた、老若男女問わず日本で大人気の料理。そう、オムライスだ。


 異世界出身の二人は初めて見たのだろうか。先ほどからじーっと鎮座ちんざしているオムライスを見て、スプーンを手に取らない。


 「もしかして卵料理がキライだった……?」と僕が不安を覚えていると、最初に手をつけたのはミレイユの方だった。


 

「…………(ぱくっ)」

「わ、私もいただきますね……!」



 ミレイユに次いで、サラがスプーンを持ってふんすっと構える。その間もミレイユは無言で咀嚼そしゃくを続ける。



「では、失礼して……」



 小さくオムライスに向かって一礼するとスプーンに一口分をのせ、それをあむっと口の中に放り込んだ。



「…………」

「…………(ごくりっ)」



 無言の空間で二人の咀嚼そしゃく音だけが小さく聞こえる。果たして──



「「お、美味しいわ(です)!」」



 二人ともが目を輝かせて、再びスプーンで口に運ぶ。三回目、四回目……どんどんとお皿に盛られたオムライスは小さくなっていく。



「ふわっとしてます!」

「え、本当!? ちょっとケチャップライスの味が薄かったかもって思ったんだけど……」

「そんなことないですよ! ね、お嬢様!」

「……まぁ、そうね。素人が作る料理にしては及第点ってとこかしら」



 そんなことを言いながらも、サラ以上のペースでオムライスを口に運び続けるミレイユ。途中で味にアクセントが欲しくなったのか、ケチャップをさらに投入した。ぶちゅっと、それも結構な量を。



「ミ、ミレイユ!? 結構辛くない!? 大丈夫!?」

「へ、平気よ! あんたたちひ弱な人間と一緒にしないでよね!」



 言葉では強がっても体は正直、というべきだろうか。額の汗が尋常じゃないことになってる。そりゃオムライスがまるで血の海に沈んでいるかのごとくケチャップに浸かってるんだもん。平気なはずはない。


 そんなこんなで昼食を食べ終わり、みんなでほぅっと一息つく。「お茶を準備しますね」と言ってサラが席を立つと、ミレイユが口を開いた。



奏真そうまってよく料理してたの?」

「え? うーん、大学生になるまではほとんどしてなかったかなぁ」

「両親が作ってくれてたってこと?」

「両親ってか、僕の場合父さんだけどね。親、離婚してるから」



 言うべきか、と思ったけど気がつけば訂正の言葉が口から出ていた。ミレイユはそれを聞いて「ふーん」と言ったまま、次の言葉を発しない。


 気を使わせてしまっただろうかと、慌てて別の話題に変えた。



「ミ、ミレイユたちの住んでた世界の料理って、どんなのだったの?」

「どんなのって……別に普通よ」

「いやその普通が分かんないんだけど……」

「あたしも城にいたときは料理なんてほとんどしたことがなかったから、再現するのは難しいわね。……サラならできるかしら?」



 そう言って、ミレイユは視線を台所にいるサラの方に投げる。昨日ティ〇ァールの使い方を教えて以来、何かにつけてお湯を沸かそうとしている。今も何故か家に買いためてあった紅茶パックを手に、お湯が沸くのを今か今かと楽しみにしているようだ。



「(こうしていると、普通の女の子たちなんだけどなぁ)」



 未だに、二人が異世界から来た魔族で、しかもミレイユがそれをべる魔王という話が信じられなくなる時がある。会って二日だけど、サラはちょっと臆病だけど働き者の良い子だし、ミレイユだってわがままなところもあるけど僕が不快な気分になったことは一度も無い。



「ねぇ奏真そうま



 そんなことを考えていると、ミレイユが声をかけてきた。何やらもじもじしている。心なしが頬もあかい。



「どうしたの? トイレ?」

「ち、違うわよバカ! デリカシー無し!」



 全然違ったらしい。怒らせてしまった。



「ごめんごめん。で、どうしたの?」

「はぁ。コイツに相談するの、何かしゃくなのよね……」



 昨日も似たようなことを言われた気がする。がーん。生徒からの信頼が命な家庭教師としては、おもちゃのナイフで胸の辺りを一突きされた並みのショックだ。うん全然伝わる気がしないね、この例え!


 再び深々と溜め息をついたミレイユが、決心したように“質問”を口にした。



「その……どうやったら、友達ってできるのかしら?」


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