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目覚めた災厄、動き出す世界

 魔物は僕らの想像を大きく超えていた。空には全長50M程のドラゴンがいた。ゴードンから魔物の中には幻竜と呼ばれるものがいると聞いたが、これはそれ以上の相手かもしれない。

するとドラゴンから何かが飛び降りて来た。それは僕らと同じ人間だった。

「我が名はゼオン。この辺りで妙な気配を感じたので来てみたら。まさか元凶が自ら来てくれるとはな。」

彼の言う元凶とは間違いなく僕の事だろう。しかし何の元凶なのだろうか?

「我の目的は元凶を早々に始末する事だ。死にたくなければ大人しく差し出すがよい。」

僕以外の皆は動揺している。これは間違いなく悪役の常套句であり、今の僕らでは確実に全滅は必至だ。

「僕はフィリン、一応団長を務めている者だ。お前の言う元凶とは何の事だ。仮にそれが本当だとしても、仲間を売る訳にはいかない。」

「フィリン、俺を援護してくれ。爺さんは支援を頼む。」

「良かろう、死にたくない者は速やかに後退しろ。脱退にはせんから安心せい。」

3人が覚悟を決めて武器を構える。駄目だ、彼らは間違いなく殺される。

「待ってくれ、僕が行く。僕が奴の言う元凶だ。だから皆には手を出さないでくれ。」

僕も大剣を構えて先頭に出る。フィリン達は驚いている。これが皆に言い出せなかった罰かもしれない。

「良かろう。貴様の勇気に免じて、他の者には手をださん。そして貴様が我に一撃でも食らわせる事が出来れば、貴様も仲間も街も見逃してやろう。」

奴との実力差は明らかだった。しかしこのまま自警団と街があのドラゴンに滅ぼされる訳にはいかない。僕は勇気を振り絞って、この一騎打ちを承諾した。フィリン達も無言で頷いた。


 僕はメガネを取り出して奴の成績を確認した。何処かに奴の弱点を必ずある筈だ。

【ジーク 魔騎士】

・体力 500 ・攻撃 30 ・素早さ 8.0 ・防御力 10 ・回復力 10


圧倒的だった。団員全員で立ち向かったとしても敵わないだろう。

僕はフィリン達から教わった事を何度も思い出し、奴に向かって駆け出した。

ゼオンは斧で空を切り、突風を生み出した。僕は呆気なく吹き飛ばされが、剣は包帯で固く縛っていた為手放さなかった。仰向けになった僕目掛けてゼオンが剣を突き刺そうとするが、間一髪のところで回避できた。

息を切らし震える足で剣を構えている僕に対し、ゼオンはため息をつく。

「興醒めだ。あの方が危惧するものだから来てみれば、こんな虫けらだったとはな。」

返す言葉もない。それはフィリン達のそうだった。

「今からお前たちに猶予をやろう。1007年に我は再びこの街に来る。その時までに精々力を付けておくがいい。」

そう言い残すと奴はドラゴンに乗り、空の彼方へと姿を消した。

これが僕の、そして自警団の初めての敗北だった。


 戦闘を終えて後、自警団本部は緊急会議を行っていた。

「団長、こんな奴一人の為に街が滅ぼされるのは御免だ。早く追い出そうぜ。」

「そうだぜ。もしかしたら魔物が現れる様になったのはコイツのせいかもしれねえ。」

「あんなのがまた来るなんて、もうお終いだ。」

団員の半数は僕を厄病神扱いした。誰も僕の話を聞いてくれない。このままでは自警団の存続に関わる大問題になりかねない。僕は気付かれないようにこの街を出ていこうとしたその時だった。

「僕はスカイを追い出しはしない。君も君だ、勝手に団を抜ける事は許さないぞ。これは命令だ。」

フィリンが僕を引きとめた。その表情には涙が見えた。普段は温厚な彼が怒りを露わにするのが慣れていない証拠だ。

「俺も同意だ。こいつが本当に元凶なら、もっと早くにあの化け物を呼び寄せただろうな。」

「私達はこの街を守る自警団だけど、仲間を守るのも私達の役目じゃない。」

ガルドとケーラも僕を擁護してくれている。本部の中に沈黙が生まれた。そしてその沈黙を破ったのはゴードンだった。

「このことは儂らだけの胸にしまっておこう。今夜は祭を楽しもう、そして明日からまたこれからの事を考えようではないか。」

外を見ると街の人々が楽しそうに騒いでいる。経緯はどうあれこの街の人々の笑顔を守れたのが、今回の戦いの成果であった。

「これで会議はお終いだ。明日からまた頑張ろう。解散。」

団員達はこれで納得してくれる筈が無い。明日になったら退団者が大勢出るかもしれない。このことが各地に広まったら、僕はもう戦士でいられないかもしれない。そんな事を考えていると、フィリンが僕を肩を叩いた。

「さあスカイ、僕らも一緒に行こう。早くしないとニックにご馳走食べられちゃうぞ。」

彼の笑顔を見て僕は思わず涙を流した。この祭りが終わったら彼に全てを話そう。例え彼との関係が崩れることとなったとしても。


 祭が終わり皆が寝静まった頃、僕は街外れの沼地にいた。色々な事があって中々寝付けなかった。そんな時背後から何者かの気配がした。振り向くとそこにはフードで顔を隠しローブを纏った人がいた。

「既に災厄は目覚めました。」

声から相手は女性と分かった。ケーラとは違い大人の女性だった。

「最早猶予はありません。一刻も早く力を集めなさい。」

彼女は何を言っているのか上手く整理出来なかったが、戦力強化は自警団の課題であった。

「あなたには人と魔物を見抜く力があります。それを使って、足手まといとなる者を切り捨て、力を付けなさい。」

何故彼女は僕の力を知っているのか?しかし今はそれを考える暇は無い。

「ニックの事を言っているのか!彼は辞めさせない。フィリンは僕を追い出そうとしなかった。」

「あれはまだ使えます。老人もまだいいでしょう。しかしあれは論外です。あなたも分かっているでしょう。」

確かに彼の事は前前からどうするか悩んでいた。

「もう一度言います。あの者は切り捨てなさい。あなたがあの団をそして世界の事を思っているのなら。」

突然風が吹き僕の視界を遮った。彼女は姿を消していた。僕は彼女を何処かで知ったような気がした。

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