初陣の成果と今後の課題
街と自警団に出た被害は大きくなかった。フィリンとガルドの怪我はケーラが治療している。ニックは軽傷だから自分で治療をしている。そして僕はゴードンにこっ酷く説教を受けている。
自分でもあの時の行動は最悪だった。魔物と相討ちになったとしても、誰も喜ばないし寧ろ悲しむだけだ。これから僕の最低限の目標が決まった。
一つは魔物の事を知る事、そして最低限の負傷で済む戦い方を考える事、最後にこの世界の文字を読める様にする事だ。
「全くお前さんは見かけによらず無鉄砲な奴じゃ。儂の寿命が数年は縮んだわ。」
「まあそういうなよ爺さん。結果的には皆と街は無事だったんだからさ。」
「そうだよ。オイラも掠り傷程度で済んだしさ。」
「ニック、あなたがその程度で済んだのは私たちがあなたを守ったからなのよ。」
「そうだぞニック、後で剣の稽古をしてやるからな。」
今回の戦いは僕だけで無く自警団全員に反省点がある戦いだった。もしこれからも魔物が現れたら平和ボケしていたなんて言い訳は絶対出来ない。
フィリンが今後の方針を皆に伝えた。先ずは自警団の戦力強化、そして街の人々に魔物に対する危機感を再認識してもらう事、最後に僕とニックの教育だった。今回の戦いで街の人々は自警団を見直したらしくケーラが自警団の噂を流すように伝えたらしい。幸いこの街には鍛冶師が人口の3割いるとの事で武器を新しくすることも鍛え直す事も時間は掛からないそうだ。
僕は早速ケーラとニックの二人から文字の読み書きを、戦い方をフィリンとガルドから、そして魔物の事をゴードンから教わった。前世界では学業だけが取り柄だった僕は時間を作っては勉強に勤しんだ。その結果、僕は7日間でこの世界の文字を理解した。しかし戦い方だけは中々上達しなかった。
「すみませんガルドさん。僕こういう事は苦手だった者でして。」
「なあに気にするな。ニックに比べればお前は上達が早い方だ。それにお前は俺以上に体力がある。これなら余程のことが無い限り、戦いで命を落とすことは無いかもな。」
僕の体力は戦士だからという訳ではなく、異世界に転移した事によるのかもしれない。そして僕には誰にも言えないことが2つある。1つは僕の成績の事、そしてもう1つはニックとゴードンの事だ。
999年355日
街は千年祭の準備が整っていた。バルトウェイ周辺の村人達も夜が来るのを楽しみにしている。自警団の団員も気づけば14人になった。団員は騎士2人、神官3人、僧侶1人、残りが戦士だ。フィリンは僕を副団長にしてくれた。僕はガルドかゴードンが適任と言ったが、二人も僕を推薦してくれた。
「スカイが立ててくれる戦術のお蔭で団員に大きな被害がでなくて助かるよ。」
「そんなこと無いよ。僕は被害を最小限に抑えようとしているだけ。フィリンが皆と統率してくれている成果さ。」
何日も一緒にいるせいか、彼は僕の親友になった。いつかは彼にも言わなくてはならない時が来る。しかし今は祭の準備を魔物に壊されないようにする事だ。
その時団員の一人が僕らの元へ息を切らして来た。
「団長大変だ。見張り役からの報告で、とんでもない化け物がこの街に向かって飛んで来ている。」
彼の言葉に僕らは驚く。今まで空からの襲撃は一度も無かった。この街には対空防御の設備が整っていない。このままでは祭は勿論、この街が壊滅されるかもしれない。
「フィリン、直ぐに団員全員で迎撃しよう。街から離れて戦い、祭の準備を守ろう。」
「分かった。君は警鐘を鳴らして街の人々に危機を知らせるんだ。僕らは団員達を招集する。」
鐘の音は街全体に響き渡った。人々は直ぐに家の中に避難し始めた。僕らが入口に向かった時には、ガルド達も集まっていた。目視で確認すると魔物は大きな鳥のようだった。あれが街まで来ると壊滅は免れないだろう。
「これからふもとの草原にて奴を足止めする。僕とスカイ、ガルド、ゴードン、そして戦士3名でこれを迎撃する。ケーラとニックは万が一に備えてここで待機するように。以上だ。」
「待って、私も行く。そうすれば万が一なんて起こらないから。」
「落ち着けケーラ、お前まで来たら誰が俺達を治してくれるんだ。安心しろ、相手は1体だから大丈夫だ。」
「ガルドの言う通りじゃ。儂らは引き際位弁えておるわい。ニックよ。ケーラ達を頼むぞ、これはお主にしか出来ぬ事じゃ。」
「分かったよ。団長達も気を付けてね。」
ケーラ達に別れを告げて僕らは7人はふもとへ降りた。果たして今の僕らに迎え撃つ事が出来るだろうか。