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潜在魔力0だと思っていたら、実は10000だったみたいです  作者: どらねこ
2章 <ヒール>と<鑑定>編
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9話 なんとなく気恥ずかしい

「あの、れ、レウスさんっ」

「ん? どうしたの、マニュ」


 あんまり積極的じゃなさそうなマニュが、自分から話しかけて来てくれるのは少し嬉しいな……って、おわっ?

 勢いよく頭を下げられたぞ……!?

 な、なにごと!?


「わたしを助けてくれて、ありがとうございます……!」

「いやいや、そんな。むしろ遅れてごめん。最初からファイアーボールを使ってれば、あんなことにはならなかったはずだし」


 むしろマニュには謝りたかった。いや、マニュにだけじゃないけど。

 力を使うのを躊躇してしまったせいで、マニュを危険にさらしてしまった。

 ミラッサさんとリキュウだって、いらぬ怪我をしてしまった。

 いくら感謝されたとしても、その気持ちは消えない。


 今回の戦いで、俺は多分判断を誤った。

 次は間違わないようにしよう。


「でも、ありがとうございます。……その、カッコ良かったです……っ」

「あ、ありがとう」


 女の子にカッコ良かったなんて言われるの、初めてかもしれない。いや、絶対初めてだ。

 ヤバい、顔赤くなってないかな、大丈夫かな!?

 キョロキョロと視線を漂わせていると、不意にミラッサさんと目が合う。

 なんでそんなにニヤニヤしてるんだ?


「あらあらぁ? あたし、お邪魔虫かしらぁ?」

「おばさんくさい反応やめてください」

「まだ二十歳なのに、レウスくんから見たらもうおばさんなのかぁ……」

「いや、態度の話です。見た目は凄く綺麗ですよ」


 それはもう、率直に言ってとても綺麗だ。

 こんな姿で魔物を斬っていくんだからきっとモテるだろうなぁ。

 そう思う俺の前で、ふふん、と笑うミラッサさん。


「お姉さん二股は感心しないな~」

「またそうやってからかう。……まあいいです」


 なんか、こんなに人と話したのも久しぶりな気がする。

 今までギルドではどこか窮屈さというか、劣等感みたいなものを感じてたけど、この二人と話してるときはそれがない。

 一緒にいても気楽な人って、すごく貴重だと思うんだよね。

 一緒に地竜車に乗り込んだ人がそんな人たちだったのは、俺にとって幸運だったなぁ。




 あ、リキュウが地竜車からでてきた。

 話が終わったところを見計らってくれたのだろうか。意外と優しいところもあるな。


「話は終わったか? 終わったなら乗れ。地竜も無事だし、すぐにでも出発できるってよ」


 リキュウはそう言って肩越しに親指で地竜車を指差す。


「あら、ありがとね。えーと……キュウリくん? だっけ?」

「誰が緑の野菜だ! リキュウ! 俺はリキュウだよ!」


 でも、髪の色も緑だし、言われてみればキュウリっぽいぞ。

 ……というか、キュウリにしか見えなくなってきた……!


「……ふふっ」


 あ、やべっ。


「おいレウス、今笑ったな!? お前今俺のこと『キュウリに似てるじゃんコイツ』って思って笑ったな!? 許さん!」


 違うんですリキュウさん、故意じゃないんです! 信じてくだせえ!

 ……お? 俺の前に、マニュが立ったぞ?

 あ、まさか俺を庇ってくれてるのか?

 ありがとうマニュ……!


「おち、落ち着いてくださいっ、キュ、キュウ……? ……あ、リキュ、リキュウさん……っ!」

「迷うなよ! 頼むから名前くらいスッと呼んでくれ!」


 リキュウの悲しい叫びが空に響いた。

 どんまいリキュウ、少しは同情するよ。






 それからは特に問題も起きず、リキュウも含め打ち解けた俺たちは無事にニアンの街へと到着した。


「や、やっとついた……もう駄目……」


 この情けない声の主は誰かって? 俺だ。

 いやー、地竜車で街から街を移動するのなんて初めてだったけど、意外とこれ腰と尻に来るね。

 後半痛くて痛くて。


「戦ってるときはカッコ良かったのにね。ほら、手ぇ貨したげる」

「す、すみません……」


 ミラッサさんの手を借り、腰をさすりながら竜車を降りる。

 うぅ、いってえ……。


「大丈夫? おねーさんがお尻さすったげようか?」

「っ!? だ、大丈夫です!」


 ミラッサさん、くすくす笑わないで!

 くそっ、からかわれてるなぁ……!


 そんな俺を、リキュウが鼻で笑う。


「情けねえなレウス、普段から鍛えてねえからそうなんだよ」

「言い返す言葉もでないよ」


 リキュウは……平気そうにしてるな。

 癪だけど、やっぱりCランクなだけあって凄い。


「そういうリキュウも痛いんでしょ? 隠してたってわかるのよ」


 ジトッとしたミラッサさんの視線に、リキュウは顔をしかめる。


「ぐっ……!? ち、ちげえし、いたくねえし!」

「おいリキュウ!? お前、人のこと言う前に自分を鍛えろよ!」

「う、うるせえ! 俺だってこんな長距離の移動は初めてなんだ、仕方ねえだろ!」


 なんだよお前、やっぱCランクはすげえんだなとか思って損したよ!

 強がってんじゃねえよ!


「男二人は情けないなぁー。マニュちゃんは全然痛がってないって言うのにねー」

「二人とも、何でそんなに痛がってるんですか……?」


 マニュは不思議そうな顔で俺とリキュウを見る。

 え、痛くないの? 本当に?

 俺からすれば、むしろマニュがなんで平気なのって感じなんだけど。

 俺と同じEランクなのに……。


「あ、体重が軽いからかなぁ? マニュ、小っちゃいし」

「ち、ちっちゃくありませんっ! おっきいです!」


 おお、そんな大きな声出せたんだ。

 もしかして、小っちゃいって言われたくない感じなのかな?

 そんなに背伸びして……プルプル揺れている細い足が健気で泣けてくる。

 どうやらマニュに「小っちゃい」は禁句だったようだ。


「ごめんマニュ、マニュは大きいよね」

「ふへっ、そ、そうです」


 嬉しそうに顔をほころばせる。

 大きいって言われたのが嬉しかったのだろうか。かわいい。

 なんにせよ、すぐに機嫌を戻してくれてよかった――


「でもミラッサと比べれば小さいだろ」


 リキュウ、お前は余計なことを言うな! 馬鹿!

 たしかに背丈は全然違うけど!


「ふぇぇぇ……っ」

「ま、マニュちゃんはまだ子供だもん。これから大きくなるよ。ね?」


 しゃがみこんで言い聞かせてあげるなんて、ミラッサさんって意外と優しいところあるよね。

 でも、目線を合わせるためにしゃがみ込んだんだと思うんだけど、マニュはいつも俯きがちなことを忘れてる。

 その体勢だと、マニュの視界に入るのは多分ミラッサさんの胸元だ。


「で、でも、胸はもうおんなじくらいだもん!」

「がふっ!」


 あ、ミラッサさんが死んだ。

 身体から力が抜けていく。


「ミラッサさん、ミラッサさぁーんっっっ!」


 慌てて支えたミラッサさんの顔は、死んでいるとは思えないほど安らかだった。

 いや、実際死んでないんだけどさ。


 カッと目を開けたミラッサさんは、すごく力の入った声を出す。


「は、早くAランクに上がらなきゃ……! ランクを見るたびに胸のカップが思い出されてやってらんないわ!」


 Bカップなのか……。

 今のでこの場の全員にカップ数がばれちゃったんだけど、いいんだろうか。

 ……気づいてなさそうだし、言うのはやめといてあげよう。




 そんなこんなで別れの挨拶?も終わり。

 一番ランクが高いミラッサさんが「じゃあ、それぞれ頑張りましょう」と最後に纏める。

 それに頷き、俺たちはバラバラに解散した。


 少し名残惜しいが、各々ランクも違うしこの街に来た目的も違う。

 いつまでも一緒にいることはできない。


「さあ、まずはギルドに行かなきゃな」


 寂しさをかき消すように独り言を言いながら、俺はニアンの街を歩く。

 でも頭には、自然とマニュとミラッサさん――あと、おまけでリキュウ――の姿が浮かんでいた。

 皆はどこにいくんだろ。

 うーん、冒険者が行くところといえば――


「「「「あっ」」」」


 というわけで、俺たちはギルドでめでたく再会しましたとさ。

 まあ、冒険者ならまず最初はここに来るよね。

 俺たち四人は互いに恥ずかしそうに笑ったけど、その意味が分かるのは世界中で俺たちだけだっただろう。

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