最終話 旅立ち
ジークとの戦いから数週間が経った。
「レウス坊たちももう出発か」
ゴザ爺が俺たちに言う。
ゴザ爺の言う通り、俺たちは今日ニアンの街を旅立とうとしていた。
「ほんと、時間の流れは速いもんだなぁ。年取ると余計に実感するぜ」
「色々お世話になりました」
「いんや、俺たちニアンの街の人間はお前らに返しきれない恩があるんだ。本当ありがとうな」
頭を下げてくるゴザ爺。
もうこれで何度目の感謝の言葉だろうか、さすがに返す言葉がもうないよ。
「顔上げてくださいって」
「ん、わかった」
「もしかしたら武器の新調のとき、またお世話になるかもしれません。その時はよろしくお願いします」
「ああ、そんときは腕によりをかけて最高の武器を作ってやる」
サァァ、と風が頬を撫でる。
それがさよならの合図だった。
「……じゃあ、お元気で」
「おうよ、そっちもな」
そして俺たちはニアンの街を旅立った。
どんどんと小さくなっていくニアンの街に一抹の寂しさを覚えつつ、新しい街へ期待も高まる。
「あれ、次の街にはどれくらいでつくんだっけか?」
「うーんどうだったっけ? マニュちゃんわかる?」
「たしか二週間くらいだったと思いますっ」
ふんすっ、と胸を張って答えるマニュ。
ああそっか、そのくらいだったなーと思っていると、ミラッサさんがマニュの背後に回り込んだ。
「さすがマニュちゃん、賢いねーっ」
「うひひ、ほっぺたむにむにしないでください~っ。ミラッサさんだってわかっててわたしに話振ったくせに~っ」
あ、そうなの?
いや、考えてみればしっかり者のミラッサさんが次の街への日程を覚えてないわけないか。
ってことは忘れてたのは俺だけってこと?
いけないいけない、ちょっと気が緩みすぎてるな。
街の外なんて危険がいっぱいなんだから、もっと気を引き締めて望まなきゃ。
「え、あたし本当に覚えてなかったわよ?」
「あ、そうなんです?」
「いや、一回は覚えたんだけどね? ほら、ここ数日ほぼ泣いてたせいで、全部忘れちゃったんだよね……」
「あー……」
そっか、そうだったや。
シファーさんがエルラドでの緊急の仕事が入ったとかで数日前にエルラドに旅立ってから、ミラッサさん泣いてばっかだったもんなぁ。
「うぅ、一緒に行きたかったなぁ……」
「また泣き出すのはやめてくださいね、俺もマニュも大変だったんだから」
「そうですよ、ミラッサさんはもう泣くの禁止ですっ。笑ってください、ほらほらっ」
「おお、マニュが良いこと言った! ミラッサさん、明るく行こうよ! ほら笑おう?」
「……ぐすっ、うへへ……いひ、うぇぇん……っ。……こんな感じ?」
「こっわ」
「こっわ」
笑いながら泣いてて普通に怖いです。
「あんたらがやれっていったからやったのにぃ……!」
「やばい、ミラッサさんが怒った! 逃げるぞマニュ!」
「合点承知です!」
「逃がすかぁぁっ!」
ミラッサさんから逃げながら、俺はシファーさんに最後にかけてもらった言葉を思い出す。
「貴殿たちならきっと、エルラドまで到達できる。私が保証するよ」
いやぁ、エルラドでも三本の指に入るような冒険者であるシファーさんにそんなこと言われちゃうと、口元のゆるみが抑えきれないよね。
「あ、レウスさんが逃げながら笑ってますっ!?」
「うっわー、レウスくんこっわーい。へんたーい」
「へ、変態じゃないですよ俺は!?」
そんなこんなで、賑やかな会話をしつつ俺たちは道なき道を進んでいく。
ニアンの街では沢山のことがあったけど、全て済んだ今では訪れて良かったと強く思う。
得るものも沢山あった。
シファーさんやゴザ爺との出会い、ゴザ爺に作ってもらった剣、アースウォールの力。
……それに、もう一つ。
「……鑑定」
俺は自分のステータスを表示してみる。
◇――――――――――――――――――――――◇
レウス・アルガルフォン
【性別】男
【年齢】15歳
【ランク】C
【潜在魔力】0000
【スキル】<剣術LV2><解体LV2><運搬LV2><ファイアーボールLV10><ヒールLV10><鑑定LV10><魔物の力LV10>
◇――――――――――――――――――――――◇
この、魔物の力ってスキル。
多分、魔物化しかけた時に手に入れたんだと思うんだけど……使ってみたら、恐ろしいレベルの肉体強化スキルだった。
おかげで翌日筋肉痛で死にかけたけど。まあ、それも今となっては笑い話だ。
「あー……っ」
なんとなく声を出してみる。
声は遠くへ向かいながら、空気に溶けていく。
このままどこまでも、マニュとミラッサさんと一緒に冒険したいなぁ。
心の底から、そう思った。
これにて完結です!
読んでくださってありがとうございました!




