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77話 策

 翌日、俺は二人を連れて街の外の狩場へと向かっていた。


「街が大変な時に狩りなんてしてていいんですかね……?」

「あたしもあんまり気は進まないんだけど……」

「あっちに着いたら説明するよ。他の人にも説明しなきゃだからさ」


「他の人……?」と首を傾げる二人を連れて、俺たちは目的地へと歩き続ける。

 そしてそのまま十数分。ようやく目的地へとたどり着いた。

 そこにはシファーさんをはじめ、十数人の冒険者が待っていた。


「お待たせしてしまってすみません」

「いや、あまり一斉に動くとジークに察知されるかもしれないし、このくらい時間の間隔をあけるのが適切だろう」


 シファーさんにそう言ってもらったので、それ以上謝るのはやめておく。

 必要以上に謝っても仕方ないしね。


「で、ここに集められたのはどういうことなんだ? 『ジークを捕まえるための作戦がある』とは聞いたが、何をやるかはまだ聞いてないぞ」

「今からお話しします」


 冒険者の一人にそう答え、俺はいよいよこの場の全員に向け、俺の策を発表することにした。


「俺がヒールで魔物になった人たちを元に戻せることは皆さん知っているかと思いますが、ジークが薬を改良していることが昨日分かりました。この分だと俺のヒールが機能しなくなる日も近いかもしれません」


 ザワザワ、と冒険者たちの間に動揺が広がる。

 俺は特にそれを制止することもなく、言葉をつづけた。


「次はもっと改良を重ねた薬を使ってくると思いますし、そうされるほどこちらは不利になります。本当は俺たちからジークに接近する方法があればそれが一番いいんですが、今のところそれが出来る策は見つかっていません。なので、俺が今からはお話しするのは次にジークが現れた時、何としても逃がさないための策です。……街の見回りをしている冒険者たちは、ジークを見つけたらすぐに魔法を空に放つように聞かされてますよね?」


 冒険者たちが街を絶えず見回りし、そこで異変があれば空に魔法を放つ。

 もし空に撃たれた魔法を見つけたら、避難所にいる休憩中の冒険者たちがそこまで一気に駆けつける。

 それがシファーさんか考えた策だった。


「そこで、なんですけど。……空に撃たれた魔法を見つけたら、俺がアースウォールを唱えます。そして皆さんには、俺のアースウォールに乗って移動してもらいます」


 アースウォール。

 この街に来てから俺が覚えた魔法だ。

 土の壁が地面からせりあがってくる魔法。


 ふと思いついたんだ。

 せりあがってくる地面に乗っていれば、凄い速度で移動できるんじゃないかって。

 もしこの方法が上手くいけば、駆けつける速度が劇的に改善される。

 ジークに逃げるような暇を与えずに済むかもしれない。


「レウス」


 シファーさんが俺の名を呼ぶ。


「まず貴殿のアースウォールを見てもらった方が良いな。皆そもそも人が乗れるほどのアースウォールというものが想像できていないようだ」


 あ、そうか。俺のアースウォールはレベル10だから、範囲とか形成速度とかが段違いなんだった。

 そりゃピンと来なくても無理はない。

 失敗したなぁ。たしかにまずはどんなものかを見せなきゃだよね。


「アースウォールッ!」


 俺は皆のもとから少し距離を置き、アースウォールを使う。

 俺の足元を対象にして唱えたアースウォールは圧倒的な形成速度で俺を持ち上げる。

 グゥッと地面が凄い速度で盛り上がり、体が押しつぶされそうになる。

 それから少し遅れて浮遊感を感じた時には、俺は宙に浮いていた。


「うわっ!?」


 どうやら足元が急に持ち上がりすぎて、壁が出来上がるのと同時に慣性で体が吹き飛ばされてしまったみたいだ。

 落ちてきたところをシファーさんの<防御の極意>で助けてもらわなきゃ大怪我を負うところだった。

 使うのはまだ二度目、練度が全然足りないや。


「大丈夫か?」

「はい、助かりました」


 シファーさんにお姫様だっこから降ろしてもらい、ゴホンと一つ咳をして恥ずかしさを紛らわす。

 さすがに女の人にお姫様抱っこされるのは恥ずかしいし笑われても仕方のない光景だ。


「まっじかよ……」

「こんな高い足場を、一瞬で……」

「どうなってんだよこれ……」


 とはいえ、俺のアースウォールへの驚きが勝ったおかげで、からかってくる人間は一人もいなかった。


「正直かなり危ないので、全員が出来るとは思っていませんし、次に襲われるまでに一人も出来るようにならないかもしれません。でもジークを逃がさない確率を少しでも上げるために、できることはやっておきたいんです。協力お願いしますっ」


 冒険者たちに頭を下げる。

 凄く不確定な策だっていう自覚はある。

 でもこれで多くの人を運べれば運べるほど、ジークを逃がさずに済む確率は上がるんだ。

 なんとしてもより多くの人の協力が欲しい。


「頭上げろよ」


 十秒近く頭を下げたままにしていると、そんな声が聞こえた。

 それに逆らうことなく、頭を上げる。


「やるぜ、俺たちは」

「俺たちは冒険者だぜ? 危険には慣れっこだ」

「目の前でこんなもん見せられたら、協力するしかあるめえよ」


 冒険者たちは皆、協力的な姿勢を示してくれた。


「ありがとうございます、一緒に頑張りましょう!」


 一人一人の手を取って握手をする。

 街を救いたい気持ちは皆一緒だ。

 こんな追い詰められた状況だけど、俺たちの心は一つになった。ジークなんかに負けやしない。

 よーし、早速特訓だっ!





 そして、それから十日後。

 シファーさんはもちろんのこと、俺にミラッサさんにマニュ、それに加えて六人ほどが俺のアースウォールに乗って移動することが出来るようになったころだった。


「空に魔法が上がったっ! 宿の入り口から見て二時の方向だ!」


 宿の屋上で空を見張っていた冒険者から宿全体に連絡が入る。

 急いで外に出て魔法を確認し、現場との距離を測る。


「皆行くよ! 準備は良いですか!」


 俺のアースウォールに乗れる人間のみが周囲に集まり、他の人たちは走って現場に向かう。

 ここが勝負の決め時、絶対に逃がすことは許されない。

 やってやる……やってやるぞ……!


「アースウォールっ!」


 俺は勢いよくアースウォールを唱えた。

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