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74話 新しい剣

 そんなこんなで武器屋にやってきた俺たちを、ゴザさんは歓迎してくれた。


「おう、よく来たな。出来たぜ、お前たちの武器」


 そう言うとゴザさんは立ち上がり、作業台の方へと歩き出す。

 俺たちは職人の背中に圧倒され、何も言わずにその後に続いた。


 作業台の上には薄い布がかけられている。

 そしてその布は凸凹としていた。

 この下に武器があるのだろう。


「お披露目と行くか」


 ゴザさんは言葉少なくそれだけ言うと、かけられていた布をとった。


「おお……っ」


 俺たちは一様に同じ声を出す。

 室内でも怪しく光る両の刃。

 最小限の装飾ながらも、施した職人の腕がありありとわかる柄。

 テーブルの上にはそれぞれのための四つの武器が並べられていたが、どれが自分のものか一目でわかった。

 きっとゴザさんが俺たち一人一人に最適な剣を作ってくれたからだろう。

 俺は自分の剣を手に取る。


「これが、俺の剣……」


 武器に一目ぼれしたのは初めてだ。

 まるで長年使ってきた剣みたいに手に馴染む。……いや、それどころか手足みたいな感覚だ。

 思った通りに動かない方がおかしい。そんな感覚。

 ……多分俺はまだ、この剣に相応しい持ち主になれてはいないと思う。

 なにせ<剣術>レベル3だし。

 でもゴザさんはそんな俺にも一切の手を抜くことなく最高の一振りを作り上げてくれた。

 それが嬉しくて、俺は自然と頭を下げていた。


「ありがとうございました、ゴザさん」

「ゴザ爺でいいぜ。客は皆そう呼ぶ。レウス坊もミラッサ嬢もマニュ嬢も、もう俺の大事な客だかんな」

「はいっ。ありがとうございました、ゴザ爺!」

「おうよ」


 ゴザさん……ゴザ爺はぶっきらぼうに答えると、ほんのわずかにはにかんだ。

 いつかこの剣に相応しい人間になれたらいいな。そうなれるように頑張ろう。

 一人そんな気持ちを胸に秘め、その場で軽く剣を振るう。

 まるで長年使いこんだかのように手に馴染んだ剣は、ブンッと鋭い音を立てた。






 それからゴザ爺の庭で一通り新たな武器の使用感を確かめさせてもらったところで、「そろそろいいか?」とゴザ爺がきりだしてきた。


「悪いが今日はそろそろ店じまいにして、家に帰りてえんだ。なにぶん徹夜続きだったもんでな」


 傷でいっぱいの皺だらけの手で眉間を強く揉むゴザ爺。


「それって多分あたしたちの武器作ってくれてたからよね。本当に感謝します」

「ご、ゴザ爺、わたしたちのためにありがとうございましたっ」

「武器屋だったらこのくらいは当然なんだが……最近さすがに年でな。無理のきかねえ体になってきちまった。一週間徹夜したくらいでまったく情けねえぜ」


 いや、一週間も徹夜できる時点で俺より体力ありそうなんですけど……。

 衰えてそれってどういうこと?

 まがりなりにも冒険者な俺だけど、徹夜は二日が限界だ。

 しかも二日目はずっとボーっとしてるだけでほぼ何にも思考できなくなっちゃう。

 それを考えるとゴザ爺の体力は凄いものがあるな。

 ……冒険者になってても大成してそうだ。


「そういうわけで、俺ぁ帰る。お前さんたちはこれからどうすんだ?」

「私はこれから特に用があるわけでもないな。いわゆる暇というやつだ」

「俺たちも同じくですね」


 この後どうしようかな。特にやりたいこととかもないしなー。

 ……あ、そうだ。


「ゴザ爺。よかったら俺たち家までゴザ爺を護衛しますよ」


 念には念を、というやつだ。

 魔導書の店が狙われているという現状を踏まえると、次は武器屋を営んでいるゴザ爺が狙われる……という可能性はなくはない。


「へん、護衛なんぞいるか……と言いたいところだが、魔物化事件もあるしな。じゃあ頼めるか。街の見回りにもなるだろうしよ」

「わかりました」

「そういうことなら私も同行しよう」


 おお、シファーさんも来てくれるのか。

 それは心強いぞ。


「この街で懇意にしているのはほとんど貴殿たちだけといってもいいからな。他に行くところもない」


 そっか、シファーさんは今たまたまこのソディアの街にいるだけで、拠点はエルラドだもんな。

 冒険者全員に尊敬されてはいるけど、特定の誰かと親しくしているところはあんまり見ないなぁと思っていたけど、この街にはあまり親しい人間がいなくても無理はない。


「エルラドに行けばシファーさんの友達にも会えるんですよね。わたし楽しみですっ」


 同じようなことを考えたのだろう。マニュがニコリと笑いながら言う。

 するとシファーさんは珍しく挙動不審になり、マニュから目を逸らした。


「いや、まあ……エルラドにも、その……す、少ないというか……いないというか……な?」

「あっ……」


 あっ……。

 ……ど、どうしよう。気まずいぃ……。

 あまりにも唐突な展開に、反復横跳びレベルで目をキョロキョロとさせ、動揺する俺とマニュ。

 そんな中、口を動かしたのはシファーさんの大ファンのミラッサさんだった。


「さすがシファーさん! 孤高でカッコいいです!」


 純度百パーセントの尊敬の目で、シファーさんを見るミラッサさん。


「なりたくてそうなったわけじゃないんだが……でも、そう取ってもらえると私も悲しい気持ちにならずに済むよ。ありがとうミラッサ」

「ねえ聞いた!? 今シファーさんがあたしに『愛してる』って言った!」

「言ってないよミラッサ」


 おお、空気が元に戻った!

 凄いやミラッサさん!


「ミラッサさんがいて良かったです……」

「シファーさんのことならどんな面でもポジティブに考えちゃうもんなぁミラッサさん」

「わたし、後でミラッサさんの言うこと何でも一つ聞いてあげることにします」


 うんうん、と神妙に頷くマニュ。

 欲望のままにほっぺたむにむにされたり頭なでなでされたりされて大変な目にあいそうだな、と思ったけど言わないでおいた。

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