63話 二つ目の素材
翌日。
武器の素材採取のために、俺たちは洞窟を目指していた。あと少しで到着だ。
洞窟というのは、昨日登った山の、麓に存在する洞窟である。
残る素材はあと一種類。
それを入手すればゴザさんに武器を作ってもらえるわけだから、気張っていかなきゃな。
カタカタ、と僅かに音がするのは、マニュが引くリヤカーの音だ。
山は登れないけど、麓くらいだったら何とかなるからね。
俺たちで相談して、マニュはリヤカーを持ってくることに決めた。
「先の素材では、私が出しゃばりすぎてしまったからな。今度は貴殿たちだけの力を私に見せてくれ」
洞窟までの道を先導しつつ、シファーさんがこんなことを言ってくる。
これは願ってもないな。
昨日はあんまり上手くいかなかったけど、今度はちゃんとシファーさんに俺たちの実力を見せるチャンスだ。
「ああもちろん、昨日と同じように、危なくなったら援護に入るから安心してくれて構わない。ただし、それに頼り切るようなことはよしてほしいけどね」
「勿論ですよ」
今日の俺たちは、昨日とは一味違うからな!
シファーさんも驚かせてやる。
そんな風に闘志を滾らせる俺。
俺だけじゃなくて、ミラッサさんとマニュも同じ思いだろう。
そんな俺たちを見て、シファーさんは柔らかく笑った。
「……ふふ、いらぬ助言だったかな。じゃあ私は何も手出ししないから、皆頑張って」
そう言うと立ち止まり、前方を指さす。
「ほら、あれが目的の洞窟さ」
おお、あれが……。
目の前にそびえる山。
その一か所だけが、ぽっかりと口を開けて俺たちを待ち構えている。
近づいてみると、人が三人くらいは横に並んで歩けそうな大きな穴だ。
そしてその穴の先は、人の目では窺い知ることが出来ない。
暗くて長い洞窟。
光など一切介入しない真っ暗な闇に、思わず一歩後ずさりする。
風が頬に吹き付ける。そこそこ強い風だ。
中は寒いのかもしれな……うひっ!?
「……ゥアア……ッ」
な、なんか奥の方からうめき声聞こえたぞ!?
え、今のうめき声だよね……!?
「あたし、怖いの苦手なんだよね……こ、この洞窟、すごい不気味じゃない?」
「わ、わたしも苦手です……幽霊とかいそうですし……怖い……」
目に見えて怖がり出す二人。
今回の依頼をこなせるか、いきなり黄色信号が灯っちゃったぞ。
「レウスくん……っ」
「れ、レウスさん……っ」
ピタッと、左右からミラッサさんとマニュが俺の身体にくっついてくる。
多分俺を頼ってくれてるんだろう。それは嬉しい。
……だけどさ二人とも。
「そんな風に言われたら、俺まで怖くなってくるよ……幽霊とかマジ勘弁……」
俺も怖いのとか、そんなに得意じゃないんだよね……。
「あ、想像しただけで鳥肌立ってきた……っ」
いや、ごめん見栄張った。
得意じゃないどころか、端的に言うと苦手です。ごめんなさい。
つまるところ、俺たちのパーティーは三人とも怖いのが苦手だってことだ。
中々致命的な弱点のような気がしなくもない。
一応良いように捉えれば、感性が似てるとも言えるだろうけど。
「怖いわぁ……」
「怖いです……」
「怖いなぁ……」
不安そうに身を寄せ合う俺たち三人。
そんな俺たちを見て、シファーさんがクスッと笑う。
「くくっ……心配しないでくれ。このうめき声のように聞こえる音は、風が洞窟内で反響しているだけだよ。もう踏破されている洞窟だからね、間違いない。怨霊みたいなものがいないのは確認済みだ」
「な、なんだ、そうだったんですか……怖かったぁ」
そういうことならいいんだけどさ。
っていうか恥ずかしいな、俺結構ビビっちゃったよ。
「それでも安心できないのなら、レウスが常にファイアーボールで洞窟内を照らしておくといい。松明やらを使うよりもよほど明るいだろう」
「え、でもそうしたら、俺が戦闘に参加できないんじゃ……」
今回はシファーさんは俺たちを見守ってくれる役なんだよね?
ってなると、戦闘役は俺とミラッサさんしかいないわけだ。
そんな中で俺が照明役になったら、ミラッサさんの負担が大きすぎないか?
「今回の目標となる素材はマジカルスライムというんだが、コイツは身体のほとんどが魔力で出来ていてね。魔法攻撃を全て吸収してしまうんだ」
なるほど、そりゃ俺にとっては相性最悪だ。
俺の武器ってファイアーボールだけだし。
<剣術LV2>じゃ、そのマジカルスライムとやらには勝てないんだろう。
ニアンとかに出る魔物じゃなくて、ソディアに出る魔物だしな。
「だから今回のレウスの役割は、マジカルスライム以外の魔物が出てきたときにそれを迅速に処理することだと思うよ」
「なるほど、勉強になります。ミラッサさんもそれでいいですか? 負担増えちゃうと思いますけど……」
「勿論よ! レウスくんが洞窟を照らしてくれれば怖いものなしだもんっ」
おお、ミラッサさん随分とやる気だな。
暗いっていう不安要素が排除されれば、一人でも十分に戦えるっている自信はあるみたいだ。
「怖いのさえなくなればもう大丈夫!」
「それは良かったです。俺照らし甲斐がありますよ」
「ぶっちゃけあたしには今、レウスくんが神様に見えてるわ」
そ、そこまで!?
どんだけ怖がってたんだよミラッサさん。
まあ、そういうことなら話は纏まったかな。
今回は俺が照明役、マニュが解体と運搬役で、ミラッサさんが戦闘役ってことで。
「じゃあ早速行こう」
俺たち一行は、洞窟の中へと一歩を踏みだした。
それから数時間後。
無事にマジカルスライムを狩ってきた俺たちは、四人でソディアの街への帰路についていた。
「ミラッサ、貴殿の今日の動きはいつにもまして良かったよ」
「本当ですか、ありがとうございますっ」
いやぁ、大活躍だったなミラッサさん。
そりゃもうバッサバッサと魔物を斬り倒しちゃってさ。
戦闘の最中なのに思わず見とれそうになっちゃったもんね。
シファーさんも今回のミラッサさんの動きには同じ剣士として感じるところがあったのか、かなり満足げだ。
やっぱり一流の剣士同士でしかわからないこともあるんだろう。
ついつい忘れそうになるけど、LV8とかLV9とかのスキル持ちなんて本来滅多にいない。
そういう高次元の人たちに囲まれてるなんて、俺って幸運だよな。
「ミラッサ、貴殿はまだまだ伸びる。近い将来私を超えるかもしれないな。見事だったよ」
すごいなミラッサさん、シファーさんにべた褒めされてるじゃん。
これはさぞ嬉しがってるだろうなぁ。
「あれ? これ夢? それとも死後の世界?」
「ミラッサさん、どっちでもないです。現実ですよ現実」
どうしても現実とは思えないみたいで頬を引っ張るミラッサさん。
そんな姿を微笑ましそうに眺めつつ、シファーさんは俺たちにも視線を向けてくる。
「ミラッサ以外の二人も今回は動きが良かったよ。貴殿たち全員の動きに確固としたチームワークを感じられた。マニュは邪魔にならないように素早くかつ正確に解体・運搬していただろう。言葉で言うのは簡単だが、中々出来ることじゃない。そしてレウスは灯り役とスライム以外の魔物の殲滅役を見事に兼任していたね。慣れない役割なりに、ほどんど撃ち漏らしがなかったのは褒めるべきところだ」
マニュと俺は互いに目を見合わせる。
今回はミラッサさんが大活躍してたから、どうしてもミラッサさんの方に目が言っちゃうはずなのに、俺たちのことも見ててくれたんだ。
視野の広さが半端じゃない気がする。
「総評すれば、貴殿たちには大いに驚かされた。私の出る幕もなかったよ」
最後にシファーさんはそう締めくくった。
うっわぁ、嬉しいな!
前回のポルン最初の時は色々と課題もあったけど、今回はそれも無しだ。
つまり皆それぞれが、あれから成長できたってことだよな。
「やったね二人とも!」
俺は二人にそう言って拳を軽く掲げれば、二人も同じように拳を軽く掲げる。
そしてそれを三人でコツンとぶつけ合った。
「本当に、仲が良いようで何よりだ」
俺たちを見ていたシファーさんがそんな言葉をこぼす。
うん、まあ仲はいいと思う。一緒にいるごとにどんどん良くなってる気がするよね。
このままどこまでも仲良くなって良ければ一番いいなぁ。




