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61話 魔物騒動

「ギャアアアウウウウウッッ!」


 突然の魔物の出現に、街中はすでに大きな騒ぎになっていた。

 とはいえここは人類最果ての地にほど近いソディアの街、屈強な冒険者も多いから大丈夫――。


「うわあぁぁぁっ!」

「ぐぅぅぅぅぅぅぅ!」

「がふっ……!」


 ――って感じでもないみたいだ。

 どうやら冒険者以上に、魔物が強いらしい。


 魔物は前傾姿勢の二足歩行で、人間をベースに魔物の特徴が現れたような見た目をしている。

 濁った眼もそうだし、人間ではありえないくらいに発達した腕もそうだ。

 そして何より、魔物とは思えないほど頭が良い。

 明らかに知能を持って相手の隙を狙うような戦い方をしている。


 人間に近いのに、明らかに人間ではない。

 まるで人間と魔物の間のような目の前の生物。


 俺は確信する。

 この人は元人間で、その黒マントの男とやらに魔物の姿に変えられてしまったのだと。


「腕に覚えがないものは離れていろ!」


 シファーさんは良く通る声で周囲に短く警告する。

 エルラドでの活躍も聞こえてくる人にそう言われ、ほとんどの人間はその場からの離脱を選択した。

 その中の一人を捕まえて、シファーさんは尋ねる。


「現状、ああなった人間を治す方法は?」

「あ、ありませんっ。今までは毎回犠牲者を出しながら討伐してきました」

「そうか。……仕方がないな」


 カチャリ、と剣を構える。

 それで目の前の魔物を斬るつもりなのだろう。


 いくらあの魔物が強いと言っても、シファーさんの強さは異常だ。

 シファーさんならまず間違いなくあの魔物を倒せると思う。

 だけど、あの魔物も元は人間なわけで……。


「ちょ、ちょっと待ってくださいシファーさん」

「なんだレウス、悪いがあまり貴殿の話を聞いている時間はないぞ。一刻も早くヤツを斬らねば、犠牲者は増える一方だ」

「シファーさんの腕を見込んでお願いがあります。あの魔物への攻撃を、命を奪わない程度に留めることはできませんか? あの人に俺のヒールを試してみたいんです」


 ああなってしまったら治す方法は見つかっていないらしいけど、俺のヒールならもしかしたら治せるかも……!

 思い上がりかもしれないけど、やれることはやっておきたい。

 なにせ人の命がかかってるんだ。


 ただヒールの射程距離はとても短く、手の届く範囲にしか効果がない。

 俺一人じゃどうにもならないから、シファーさんの力を借りたかった。


「……なるほど、そういうことなら協力しよう。貴殿は色々と規格外だからね」


 シファーさんにとっては危険が増すだけの提案を、すんなりと受け入れてくれた。

 これはきっと俺への信頼のあかしだ。

 裏切るような真似は出来ないぞ……!


「ミラッサ、貴殿にもサポートを頼んでいいか? 私一人では万が一がある。貴殿がいれば頼もしい」

「はい、わかりましたっ」


 そしてシファーさんとミラッサさんは魔物のところへと駆け出す。

 残されたのは俺とマニュだ。


「大丈夫、マニュは俺が守るから」


 前線の二人が戦っている間、残されて不安であろうマニュに声をかける。

 曲がりなりにも戦闘手段を持っている俺と違って、マニュにはほぼそれがない。

 一応<短剣術LV3>はあるけど、あのレベルの魔物が相手だと通用しないだろう。

 声をかけて少しでも不安を取り除いてあげなきゃ。


「大丈夫ですっ。シファーさんはもちろんですけど、レウスさんもミラッサさんもとっても強いこと、わたし知ってますから」


 ……余計な心配だったかな。

 やれやれ、マニュは凄いよ。

 そんな風に言われたらさ――頑張らないわけにはいかなくなっちゃうじゃんか。


 ヒールのための魔力を溜めつつ、二人の戦況を見守る。


「ほら、こっちだ」

「ギャアアアウウウウウッッ!」

「せいッ!」

「ギャアウッ!?」


 シファーさんが囮役として魔物の気を引きつつ、ミラッサさんが攻撃を入れていく。

 かと思えば、その役割分担が逆になる。


「あたしを警戒しないでいいの? あんた死んじゃうわよ?」

「ギャアアウウッ!」

「そうそう、いい子いい子。……まあ、本命はあたしじゃないんだけどね」

「ナイスサポートだミラッサ! やぁッ!」

「ギャアアアアアッ!」


 目にもとまらぬ変幻自在の攻撃だ。

 あんなのやられちゃ、相手としてはたまんないだろうなぁ。


 ……というかミラッサさんが凄い。

 さっき注意された殺気の話とか、もう改善してないか……?

 一度注意されただけで出来るようになるとか、なにその才能。カッコいい。


「ギャアアウウッ!? ギャアウウウウウッッ!?」


 素早い二人の動きに翻弄され、魔物は為す術なしだ。

 そしてそのまま二人は俺の要望通りに、殺さない程度の傷で魔物を戦闘不能まで追い込んでくれた。


「ギャアウウ……」

「レウス、あとは頼むよ」


 シファーさんが魔物に跨るような形で魔物の動きを封じる。

 それを確認して、俺は魔物に近づいた。


 よし、治す、治すぞ。

 治さなきゃいけないんだ。

 そのために皆リスクを許容して頑張ってくれたんだから。

 ここで治せなきゃ、二人の頑張りが何の意味もなかったことになっちゃう。

 そんなのは絶対駄目だ。


 そんな風に意気込む俺の肩に、ミラッサさんが優しくポンポンと手を添える。


「大丈夫よレウスくん。あなたが治せなくても、誰もあなたのことを責めるような人はいないわ。だから、もうちょっと肩の力抜こ? ね?」


「ほらほら。力入りすぎー」と言って今度は背中をさすってくれる。


「……ありがとうございます、ミラッサさんっ」


 おかげで余計な力が抜けた気がするや。

 マニュもミラッサさんも、いつも俺を支えてくれる。

 俺は良い仲間に恵まれたよ。


「ヒールっ」


 俺は魔物にヒールを唱える。

 白い光が魔物を包む。

 ……どうだ!?


「ギャアウウううううう……うぅ」


 少しずつ魔物の身体が人間の身体へと戻っていく。

 声にも理性が灯り始める。

 よしっ、このまま行け! 全部治れ!


「ヒールっ!」

「うぅ……」


 重ねがけでヒールを唱えると、魔物の特徴は綺麗さっぱりなくなり、代わりに元の人の身体が戻ってきた。

 やった、治った!


 グッと拳を握り、人知れず嬉しさを爆発させる。

 俺なんかが人の命を助けられたってことが、たまらなく嬉しい。


 おっと、魔物にされていたのが女の人だとわかったので、とりあえず背中を向けてっと。

 いや、服とかビリビリになっちゃってるからね。

 そういうの見ちゃうのはマズいし。

 ……でも本当に。


「よかった……」


 こういう時って、逆にそれ以外の言葉が見つからないな。

 よかった、本当によかったよ。


「あの、ありがとうございましたっ」


 ミラッサさんあたりが次元袋から代わりの服を貸してあげたのだろう、それを着た女性が礼を言ってくれる。


「いや、俺だけの力じゃありませんから。でもとにかく、助かって良かったです」


 深々と頭を下げる女性に、俺はそんな風な当たり障りのないことを言うことしかできなかった。

 ここで気の利いた言葉の一つでも言えればカッコいいんだろうけどさ。

 何にも思いつかないからね、仕方ないね。






 そうして無事事態を収束された俺たちは元の予定通り、素材を届けにゴザさんの所へ向かう。


 あの女性も通りすがりに薬をかけられたみたいで、黒いマントしか見えてなかったみたいだし、犯人の手がかりは得られなかった。

 何かわかればよかったなぁとは思うけど、助けられただけでも充分充分。

 別に手がかりを得るために助けたんじゃなくて、助けたいから助けたわけだし。


「人の命を助けるなんて、レウスさんは相変わらず凄い人です」

「そうね、さっすがレウスくん」

「いや、ちょっ、恥ずかしいからそんな言わないでって」


 照れくさいじゃんか。

 ねえシファーさん?


「なぜだ? 恥ずかしがる必要などなかろう。貴殿の殊勲なのだからむしろ誇らしくあるべきだ」

「そ、そりゃそうですけど……」


 いやでもさ、なんかむずかゆいでしょ?

 あれ、こんなこと思うの俺だけ?


「レウスさんすごいですっ」

「レウスくんすごい!」

「レウスはすごいなぁ」


 にこやかに褒めてくれる三人。

 ……あれ、これもしかして半分からかわれてない?

 そんな疑惑が急浮上してきたぞ?


「み、皆して俺をからかうの禁止!」


 俺は赤くなった顔を隠すように先頭にでて、足早にゴザさんの店まで歩くのだった。

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