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59話 反省すべきところは多く

「い、いたた……」


 転がっていた身体が止まったところで、俺はゆっくりと立ち上がる。

 そして自分にヒールをかけた。

 すごく痛むところとかはないけど、擦り傷とかは全身に出来てたからね。


 ヒールを唱えるとともに白い光が俺を包む。

 よし、とりあえずこれで怪我は完治だ。

 あとは……そうだ、皆! 皆は大丈夫かな!?


「いったぁ……擦り傷って意外と痛いのよね」

「ゴロゴロ転がったせいで目が回りました。クラクラします」

「ハイヒール。……ふむ、結構流されてきたみたいだな」


 ……あ、三人ともいた!


 幸いマニュたち三人もそれほど離れていないところに流されてきていたので、ヒールで治療する。

 シファーさんは自分で治したみたいだから、残りの二人だ。

 擦り傷くらいの軽傷だけど、治しておくに越したことはないしね。


「ま、まさか地面が崩れるとは……山って怖いです」


 マニュの言葉に頷きながら、山を見上げる。

 俺たちがいた場所は高さにして五十メートルほど頭上、距離にすると百メートル近くはありそうだった。

 あそこから転がってきたのかぁ。


 フワッて浮遊感が来た瞬間は本当に死ぬんじゃないかと思ったけど、崩壊が局所的だったおかげでなんとかなったらしい。

 これが連鎖して大規模な土石流みたいになってたら、生き埋めで息が出来なくなっていたかもしれない。

 そう考えたらゾッとするよ……。


「シファーさん、やっぱりあの土砂崩れって」

「うん、レウスのファイアーボールの直撃に山が耐えられなかったんだろうね。といっても山からすれば薄皮が剥がれたくらいの被害だったから、このくらいですんだのは不幸中の幸いだろう」


 身体に着いた土をパンパンとはたきつつ教えてくれる。

 やっぱりあれの原因俺だったんだ。

 三人には悪いことしたな。


 でもたしかに、不幸中の幸いではある。

 突進してきたい相手に慌てて撃ったせいで、十全な威力にはなってなかったからなぁ。

 もし本気の威力のファイアーボールが斜面に直撃してたら、もっと大きな規模の事故になっていた可能性もある。

 それを考えればラッキーだったと思えなくもないよね。

 こうして皆問題なく生きてるわけだし。


「レウスはもう少し勝負度胸が付くといいな。突進されたのは突然のことだし焦る気持ちはわかる。だけど貴殿は私との手合わせの時、ボロボロになりながら至近距離でファイアーボールを撃ちこんできただろ? あのくらいの度胸が常に発揮できるようになれば、貴殿はもう一段上の次元に行けると思うぞ」

「たしかにそうですね……精進します」


 シファーさんとの手わせの時も異常種と戦った時もそうだけど、ギリギリまで追い詰められれば逆に覚悟は決まるんだ。

 シファーさんの言う通り、それをもっと早いタイミングで出来れば、俺はもっと強くなれる気がする。


 ……問題はそれが出来るかどうかだけど。

 こればっかりは本能みたいなところあるからなぁ。

 考えてやってたんじゃ間に合わないし、本当の意味でもっと精神的に強くならなきゃ。


「それとミラッサ」

「あたしですか、は、はいっ」

「ミラッサの脚運びは見事だったが、囮役としては今一歩足りていなかったな。この辺の魔物になってくると、危機察知能力も向上してくる。レウスくらいの大きな魔力を感じれば、そちらを優先的に狙うようになってくるんだ。それをさせないためには、ミラッサがもっと殺気を出さなければ駄目だと思う。ただ闇雲に攻撃を撃つだけではなく、『私から気を抜けば殺す』くらいの殺気が必要だ。相手に脅威を感じさせなければデコイにはなれないからな」

「は、はい……」


 しゅん、と落ち込むミラッサさん。

 ミラッサさん的には憧れの人の前で良いところを見せたかったはずだ。

 思い描いていた理想とのギャップに意気消沈してしまう気持ちはよくわかる。


「ただ、その役割には未だ慣れてないんだろ? なら仕方ない部分もある。私がいれば少々の失敗はカバーできるから、今のうちに経験を積んでおくのがいいだろうな」


 そんな風なアドバイスをもらうと、ミラッサさんは俺の方を向いた。


「ご、ごめんねレウスくん、あたしのせいで危険に晒しちゃって」

「いやいやミラッサさん、俺が落ち着いてれば全部上手くいったことですから。それに、実際こうやって動いてみたのは初めてに近いですし仕方ないですって」


 仲間を信頼するのはもちろん大切なことだけど、仲間のミスをリカバーできるような準備に努めておくのも同じくらい大事なことだと思う。

 今回の俺は前者は出来てたけど、後者が出来てなかった。


 ……まだまだ出来てないこと沢山あるなぁ。

 でも落ち込まないぞ……足りないところが沢山あるってことは、伸びしろがあるってことだもんな!


「そして私にも反省すべき点はある」

「え? な、なんでシファーさんなんですか? それを言ったら、何もしてないわたしの方が駄目なんじゃ……」


 マニュが不思議そうな顔をするのももっともだ。

 いや、マニュの行動が駄目だったってわけじゃなくて、シファーさんも特にミスしていたようには思えなかったって意味でね?

 あの場でシファーさんに出来たことって何かあるか?

 俺たちに戦闘を任せた時点で、何もできなかったんじゃ……?


 首をかしげるマニュに、シファーさんは説明するう。


「あの場でマニュに出来ることはほとんどなかっただろう? 貴殿は戦闘役ではないのだし、立ち振る舞いに問題はなかった」


 うん、それは俺もそう思う。

 今回の件でマニュに過失はない。

 邪魔になることのない位置取りで戦闘を見守っていただけだ。


 ……で、シファーさんの反省点って何?


「だがマニュと違って、私には出来ることがあった。斜面が崩れだしたその瞬間に、率先して貴殿たちの前に立って盾を構えていれば。もしかしたら今回の被害は防げた……かもしれない」


 ……え、それってこの土砂崩れを盾一つで防げなかったから反省してるってこと?

 いやいや、そんな無茶苦茶なことできるわけないんじゃ……たしかにシファーさんならちょっと出来ちゃいそうでもあるけどさ。


「ずっとソロでやってきたからな。自分の身を守るのには慣れているが、他人を守るのには慣れていないんだ。君たちを見守る立場にありながら守れなかったのは明確な失態だ」


 冗談ではなくシファーさんはそう思っているみたいだ。

 自分への理想が凄く高い人なんだな。

 そういう人だからこそ今の地位まで上り詰められたのかもしれない。


 そしてシファーさんは俺たちの顔を見比べる。


「そういうわけで、今回のこの一件は各自に反省すべき点がある。完璧な人間などいないが、反省点を解消することでそれに近づくことはできるはずだ。私も貴殿たちもまだまだ冒険者として道半ば、互いに切磋琢磨をしていこう」


 Sランクの人にそんなこと言われちゃ、嫌でも奮い立つよね。

「互いに」なんて言ってもらっちゃったらさ、歩みを止めるわけにはいかないよ。

 シファーさんとの間にある冒険者としての差、人としての差を少しでも縮められるように、明日から……ううん、今日から頑張ろ!

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