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57話 願ってもない

 ゴザさんが剣を作ってくれることが決まって、俺たちはホクホク顔を浮かべる。

 腕利きの職人とのパイプなんて、滅多に作れるものじゃないからな。

 それがこんな簡単にできかけてる現状は、かなり幸運といって差し支えないよね。


 ゴザさんも会う前は怖い人なのかと思ってたけど、会ってみれば威圧感が凄いだけで接しにくい人ではなさそうだし。

 いきなり順風満々かも。


「小僧たちはどっかの街からこっちに来たばかりなんだろ?」

「そうですね。エルラドを目指してここまでやってきました」

「ならあれだ、この近くで経験を積んでおいた方がいいな」

「それはもちろんそうだと思ってます」


 ここソディアの街からエルラドまでは、『竜の大口』っていう難所が一つあるだけだ。

 そこを超えればもうエルラドは目と鼻の先。

 直線距離で言えばあと一週間と経たずにたどり着けるようなところに見えてきている。


 ただし、だからといっていきなりエルラドに突っ込む気はない。

 ゴザさんの言っている通り、経験を積むべきだと思っている。

 いきなりエルラドに突っ込むのは無謀でしかなくて、この街でこの辺りの魔物の強さを知ってからでも全然遅くはない。

 エルラドに比べればまだ安全ではあるだろうしね。


「賢明な判断だな。田舎じゃ敵無しだったからって、自らの実力を過信しすぎるヤツも多くてな。まあ、お前らは違うようで何よりだ」


 腕を組んだゴザさんがきもち満足そうに頷く。


「長年ここで多くの冒険者の生き死にを見てきた俺から言わせてもらえば、まずこの近くで経験を積もうってのは間違ってねえと思う。そこでだ」


 ゴザさんはそこで一旦言葉を切った。

 組んでいた腕を解き、俺たちを順番に見つめる。


「お前らに相談なんだが……シファー嬢と一緒に、武器の作成に足りない素材を取ってきてくれねえか?」


 ……え?

 シファーさんと一緒に?


「もちろん見返り無しでとは言わねえ。多目に素材を取って来てくれりゃ、全員の代金に色付けてやるよ」


 えっと、つまりこの申し出を受ければ値引きまでしてもらえるってことだよな?

 その上シファーさんと一緒なら思いがけないことが起きてもまず安心だし……こ、これはなんだか、願ったりかなったり過ぎないか?


「俺たちは嬉しいですけど、シファーさんはそれでいいんですか?」


 正直俺たちには断る選択肢がないくらいに美味しい話だ。

 だけどシファーさんからしてみればどうだろうか。

 俺たち三人が足手まといに感じるんじゃないか?


 って、あれ?

 シファーさん、全然断る気なさそうな顔してる。


「勿論歓迎だよ。貴殿たちに期待しているのもそうだが、私は解体の才能がなくてな。いつも素材を無駄にしてしまいがちなんだ。貴殿たちのパーティーにはマニュという解体役がいるんだろう? マニュが解体役を買って出てくれるなら、こちらとしても願ったりかなったりだよ」


 そういえば解体と運搬は不得手って言ってたっけ。

 じゃあマニュのおかげで組んでもらえるようなものか。

 マニュがパーティーにいてくれて良かった~。


「俺としてもシファー嬢が持ってきた素材は加工しにくくて適わんからな。もっとちゃんとした<解体>スキルを持ってるヤツが採取してきてくれるなら、それに越したことはねえんだ。お前らは実戦経験を積める。俺は素材がいつも以上に手に入る。シファー嬢は安く武器を手に入れられる。誰も損しねえ取引だろ?」


 指を三本立てて告げるゴザさん。

 ありがたいことだ。まさかシファーさんと一緒に臨時パーティーを組めるなんて。

 エルラドでも活躍している人なんだし、きっと色々参考になることも山ほどあるんだろうなぁ。

 そんな人と組めるように誘導してくれたゴザさんには、こりゃしばらく頭が上がらないや。


「なんか凄いことになってない? なってるわよね?」

「多分なってると思います。わたし、今から緊張してきました」

「シファーさんに良いところ見せられるように頑張りましょう」

「「「えいえいおーっ」」」


 俺たち三人はコソコソとそんなことを話して、士気を高め合う。

 良いとこ見せて、シファーさんにもっと認めてもらうんだ。

 ただし、無茶はしないぞ!

 安全第一、死んじゃったらおしまいだからな。


 俺たちが丸くなって秘密の会話をしている間、シファーさんとゴザさんもまた二人で会話をしていた。

 途中からその会話に戻ることにする。


「素材についてはシファー嬢ならわかるだろうが、俺からも説明が必要か?」

「いや、あとで私から伝えておこう。彼らとの距離を縮める機会になるかもしれないからな」

「そういうことならお前に任せたぜ」

「うむ、任された」


 おお……まさかシファーさんから俺たちと距離を詰めに来てくれるなんて。

 俺の自意識過剰じゃなければ、かなり目をかけてもらえてるよねこれ?

 うん、多分自意識過剰でもないはず。

 だけどその分、プレッシャーもひとしおというか……が、頑張ろ!


「では私たちはこれで失礼しようか。要件は済んだしね」


 そう言って俺たちを一瞥するシファーさん。

 もう店を出るっぽい。遅れないようについて行こ。


「おう、またな。……っと、ああそうだ。ちょっと待ってくれ」


 一度店の玄関口へと歩き出した足を止め、俺たちは揃ってゴザさんの方を見る。

 どうやらゴザさんの方はまだ話したいことがあったみたいだ。


「気を付けろよ。ここらは最近物騒だからな」

「最近? いつもの間違いでは?」


 シファーさん顔色一つ変えずに答えてるけど、中々の内容だよな。

 常日頃から物騒って……。


「へっ、違いねえ。だけど最近な、いつも以上にどうにもキナ臭えんだよ」

「ほう……何が起きてるんだ?」

「そうだな……簡潔に言ってしまえば、『人間の魔物化』ってところかね」


 に、人間の魔物化!?

 それって人間が魔物になるってことだよな!?

 だ、大事件すぎない……!?


「黒マントの男が何か液体をかけてきて、それを浴びると魔物になっちまうらしい。そんなわけで、黒マントの男には気を付けろ」

「なるほど、わかった」


 わかっちゃったよ! そんなすんなり呑み込める話なのかこれ!?

 二人とも世間話するみたいなテンションだけど、これって相当な話だと思うんだけど……?

 え、俺が間違ってたりする? しないよね?


 うん、大丈夫だ。

 マニュとミラッサさんも俺と同じような顔してるや。

 そうだよね、普通そうなるよね。

 目も見開いちゃうし、顎も外れそうなくらい空いちゃうもんだよね。


「まあ、そのうちどうにかなんだろ。話はそんだけだ」

「ああ、情報感謝する。さあ行こう、皆」

「うぇ、あっ、はい」


 なんだよこの二人、全然動じてないよ……。


 シファーさんの後に続いて店を出た俺たちは顔を見合わせ、普通の人間が住む街とはおさらばしてしまったことを悟り合った。


 俺たち、本当にここでやっていけるのかなぁ……。

 なんか不安になってきた。

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