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56話 ビビっちゃいない

「こんな感じなんですけど」


 人形を跡形もなく破壊してしまった俺はゴザさんにそう声をかける。

 ゴザさんは人形のあった場所をしばらく呆然と見つめていたが、やがて俺の方に視線を向けた。

 その額にはかすかに冷や汗が光っている。


「なるほど。こんな規格外の威力の攻撃を受け止めたんじゃ、そりゃ壊れても無理ねえな。……つーか坊主、お前さんすげえな」

「いやいや、そんなことないですよ」

「……でもすげえけどよ、オーラはねえよな。一般人っぽいっていうか、普通っていうか。とてもあんなえげつない攻撃をする人間とは思えないぜ」

「まあ、降って湧いた力ですしね」


 段々自分の力だって思えるようになってきたけど、この力に気付いたのって暦で言えばまだすごく浅いからな。

 剣一本で三年間冒険者をやってきた俺からすると、「天からの贈り物」って感じも未だ根強い。

 だからあんまり大きい顔とかできないんだよなぁ。


「こういうところはレウスくんのいいところだとあたしは思うけどね」

「わ、わたしも! わたしもそう思いますっ」


 ミラッサさんとマニュがそんな風に俺を擁護してくれる。

 そんな二人を見て、ゴザさんは制止させるように手の平を見せた。


「いやいや、別にけなしてるわけじゃねえんだ。むしろこれだけの力を持ってて、それに浮かれてないのは立派なことだぜ。なあシファー嬢よ」

「うむ。自分の持つ力に満足してしまっては、それ以上の成長はないからな。常に研鑽研鑽だ。そういう意味では三人は冒険者としての資質を持っていると思う。全員とも現状に満足していなさそうだからね」


 おお……!

 まさかそんな風に受け取ってもらえるなんて思っても見なかったぞ。

 ゴザさんもシファーさんも、実力者をたくさん見てきているだろうし、そんな人たちにこうして認めてもらえるのはやっぱり嬉しいな。


 ほら、隣を見ればマニュも俯いて頬のゆるみを隠しているし。

 ミラッサさんだって天にも昇るような安らかな顔を浮かべている。

 ……そのまま死んじゃったりしないでくださいね?


「んじゃあ、店に戻るか。小僧のスキルが桁違いだってことはわかったしな」


 そんなゴザさんの掛け声で、俺たちは店の中へと戻る。


「いやぁ、世界は広いな。まさかファイアーボールであんだけの威力を出せる人間がこの世にいるたぁ思わなかったぜ」

「私も全くの同感だ。エルラド以外にも際立った才を持つ人間というのはいるところにはいるものだと思い知らされたよ」


 さ、さっきから褒めすぎじゃないですか二人とも?

 ちょっとどうしていいかわかんないんですけど……後頭部でもさすっておこう。

 二人の会話に無理して割り込む必要はないよね。


 と、シファーさんの顔が少し引き締まる。


「で、盾の件だが……私が送った素材は足りているか?」


 シファーさんの問いかけに対して、ゴザさんは顎髭を数度撫でる。

 この反応だと、足りていないみたいだな。

「いんや、飛竜で送ってもらった素材じゃ剣の修繕分は足りてるが、盾もとなると足りねえなぁ」


 やっぱり。


「真っ二つなこの有様じゃ、修繕より新調の方が楽そうだし……そうだな、あと二つばかり欲しい素材がある。この近くで取ってこれる素材だ。シファー嬢なら余裕だろ。取ってきてくんねえか?」

「それはお安い御用だ。……ああそれと。彼らの剣も新しく作ってあげてほしいのだが、どうかな」

「……へぇ?」


 うっ!?

 ジロリ、と射抜くような視線が俺たちに向けられる。

 今までとは異なる、職人としての鋭い視線を浴びて、俺とマニュはビクッと肩を跳ねさせてしまった。


 だ、だって急に声のトーンも一段下がるし、目は座るし、ビビるのも無理ないでしょ。

 むしろ反応せずにやりすごしたミラッサさんが凄すぎるだけだと思うんだ。


「小僧と嬢ちゃん二人、今使ってる剣見せてみな」


 俺たち三人は言われるがまま、剣をカウンターの上に置く。

 俺とミラッサさんは普通の剣で、マニュはコンパクトな短剣だ。


 ゴザさんは首にかぶらさげていた眼鏡をかけ、三本の剣を順番に見ていく。

 真剣な目で、裏返したり角度を変えて見てみたりしている。


「なるほどね……」


 何がなるほどなのかはさっぱり良くわからないけど、ゴザさんには俺たちには見えない何かが見えているみたいだ。

 そして持っていた剣をカウンターに置く。


「か、カッコいいですね。あ、その眼鏡っ」


 マニュなりに距離を詰めようとしたんだろう。ゴザさんの眼鏡を褒め始めた。

 おお……この雰囲気のゴザさんに話しかけるなんて、度胸あるなぁマニュ。


 声はちょっと震えてる気もするけど、それでも話しかけられるだけで大したものだ。

 俺は正直、今のゴザさんに話しかける度胸はなかった。

 というかそんな選択肢すら思い浮かばなかった。


 ……これは、このパーティーで一番ビビりなの俺って説が出てきたぞ?

 ヤバいヤバい、たった一人の男なんだからもうちょっと度胸あるとこ見せていかなきゃ。


「そうかい、嬢ちゃん? こんなもん、どこにでもある老眼鏡だけどな。近頃は集中して一点を見ようとすると、目のピントが合わなくて仕方ねえんだ。ったく、俺も衰えたもんだぜ」


 そう言って老眼鏡を外すと、俺たち三人の顔をサッと見るゴザさん。


「つうか嬢ちゃん……いや、もう一人の嬢ちゃんと小僧も含めてか。お前ら、そんな緊張しないでくれ。俺なんてどこにでもいる普通の爺だぜ?」

「いやでも、オーラが違いますよ。ブワーって感じです」

「へっ、こんなしょぼくれた爺にオーラなんかあるのかねぇ。別に冒険者だったわけでもねえってのに」


 あるよ、普通にめちゃめちゃあるよ。

 特に剣を観察し始めてからは特に。

 元冒険者でもないってことは多分そんなに強くはないんだろうけど、そういうのとは無関係に一流の人間が持つオーラみたいなのがガンガン放出されてるって。


「……で、どうなんでしょう。俺たちの剣、作ってもらえたりはするんでしょうか」


 別にこんなことで男気見せたってことになるとは思ってないけど、一応率先して聞いてみる。

 この人の腕が確かなのは、職人事情に疎い俺でもわかる。

 さっきの武器を見る目力もそうだし、なによりシファーさんが懇意にしている武器屋だし。

 そんな人に剣を作ってもらえるなら、これほど嬉しいことはない。


 五年間ずっと剣を使ってきたわけだし、正直言って思い入れの深さで言えばファイアーボールよりも剣の方がずっとあるしね。

 何と言っても剣はタメ無しで使えるから。


 どれだけ魔法が使えるようになっても、緊急時に一番早く使えるのは剣だ。

 そういう意味では<剣術>スキルの需要はなくなることはない。

 他の武器でもいいんだろうけど、俺の場合は剣が一番体に馴染むし。


 で、どうだろうか。

 ゴザさん、作ってくれますか?


「……いいぜ。俺がもっとお前らに合った剣を作ってやる」


 おお、やった!

 本当に作ってもらえるのか……!


「ありがとうございます!」

「礼を言われる筋合いはねえぜ。お前らに少し興味を持った、それだけの話だ」


 そう言ってゴザさんはかすかに笑みを見せてくれる。

 俺は同じように頬を緩ませた。

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