51話 VSシファーさん
やってきたのは平原。
平原の中でも街からなるべく離れた、一番邪魔が入らないところだ。
せっかくシファーさんと戦えるのに、邪魔が入ったんじゃ面白くないもんね。
まずは俺がシファーさんと戦う運びになったので、ミラッサさんとマニュは少し離れたところで俺たちの様子を見守っている。
そして俺とミラッサさんは、平原の奥地で向かい合う。
二人の間に風が吹く。
「私はいつ始めてもいいが……貴殿はどうだ?」
シファーさんは左手に盾、右手に剣を構えている。
えっと、そうだなぁ。
戦う前に一度、シファーさんのステータスを思い出してみよう。
情報は大事だからね。
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シファー・アーべライン
【性別】女
【年齢】23歳
【ランク】S
【潜在魔力】3812
【スキル】<剣術LV9><盾術LV9><防御の極意LV9><直感LV8><ウィンドストームLV7><起死回生LV7><ハイヒールLV6><挑発LV5><威圧LV4><韋駄天LV3><水魔法LV3>
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うん、改めてすごいなこれは。
ほれぼれしちゃうステータスだ。
<盾術>と<防御の極意>ってスキルがあって、どっちもLV9ってことは、相当守りが固いってことだよな。
一撃入れるのさえかなり至難の業だろう。
かといって別に防御だけに特化してるわけじゃなくて、攻撃面でも<剣術LV9>と<ウィンドストームLV7>で物理も魔法も両立してるし。
さすが、エルラドで三本の指に入る冒険者だけあって、隙が見当たらないよ。
あ、ちなみに俺のステータスはこうね。
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レウス・アルガルフォン
【性別】男
【年齢】15歳
【ランク】C
【潜在魔力】0000
【スキル】<剣術LV2><解体LV2><運搬LV2><ファイアーボールLV10><ヒールLV10><鑑定LV10>
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勝機がありそうなのはやっぱり<ファイアーボールLV10>と<ヒールLV10>だよね。
どう考えても<剣術LV2>の攻撃が通るとは思えないし。
<解体LV2>と<運搬LV2>を使ってどうにか……できるわけないか。戦闘じゃ使えないし。
うん、ファイアーボール連発で勝ち切るしかないな。
とりあえず目標は、シファーさんに一撃入れること。
最悪怪我させちゃってもあとで<ヒール>で治せばいいし、とにかく本気で行こう。
相手は遥か格上なんだから。
「俺も、いつでも大丈夫です」
「よし、では始めるとするか。先手は譲ろう」
ああ、そっか。
俺は本気でぶつかるだけだけど、シファーさんの目的は俺の実力を知ることだからな。
瞬殺しに来たりはしないのか。
そういうことなら、遠慮なく。
「ファイアーボールッッッ」
ファイアーボールを生成する。
あまり大きさにこだわる必要はないだろう。
多分この感じだと、避けてくることはないはずだ。
直々に攻撃を受けることで、その威力を確かめようって腹みたいだからな。
大きさや速度よりも、とにかく威力。今必要なのは威力だ。
「ファイアーボール? 初級中の初球の魔法をなぜ……?」
たしかにファイアーボールは一番基本の魔法だ。
ただ、俺のファイアーボールは普通じゃないけどね。
掌のファイアーボールに魔力を供給し続ける。
煌々と光を放つ火球は、俺の魔力を喰らうごとにさらにその輝きを増していく。
先手は譲ってくれたんだ、そのアドバンテージを最大限に活かさなきゃ。
「……!?」
シファーさんの表情が、疑念から驚愕へと変わっていく。
当初は盾を構えずにいたシファーさんだが、ファイアーボールが完成するころにはすっかりその体を盾に隠していた。
「な、なんだそれは……っ!?」
「何って……さっきシファーさんも言ってたじゃないですか。ファイアーボールですよ」
「そんなファイアーボールがあってたまるか……!」
そう言われても、実際あるしなぁ。
「先手を譲ったのをこれほど後悔したのは初めてだよ。……だが、耐えてみせよう」
「じゃあ、行きますね」
シファーさんの構える盾に向かって、おそらく今までで最大威力のファイアーボールを撃ち放つ。
行け! 燃やし尽くせ!
並の魔物なら近づいただけで卒倒しそうなほどの魔力を込めた、禍々しい球体がシファーさんに向かって飛んでいく。
「……っ」
シファーさんは避けるそぶりを全く見せず、真正面から盾で受け止めようとする。
ファイアーボールが、盾とぶつかる。
まばゆい光。衝撃音。
ま、眩しすぎてどうなったのか視認できない……。
「ファイアーボールッ」
でも相手はトップクラスの冒険者だ。
もしかしたらあれを食らってもまだ意識があるかもしれない。
だとしたらマズいから、次弾の用意はちゃんとしておかないと。
よし、やっと火球が消滅して、様子が見えてき……た?
「やれやれ、肝を冷やした。本当に凄まじい威力だな……」
……え、無傷?
う、うそだろ、だって最大威力のファイアーボールだぞ……!?
「え、あ……」
「もう来ないのか? ならこちらから行くぞ」
「ふぁ、ファイアーボールッ!」
シファーさんに鋭い視線を向けられ、気圧された俺は手元のファイアーボールを発射する。
だ、駄目だ、あの人をこっちに近づけさせたら駄目だっ。
あっちには<剣術>もあるんだ、近づかれたら終わるっ!
「ファイアーボールっ、ファイアーボールっ、ファイアーボールぅぅっっ!」
矢継ぎ早にファイアーボールを唱え、火球の行列がシファーさんの元に殺到する。
頼む、せめてダメージぐらいは負っててくれ……!
「最初のよりもだいぶ威力が下がったな。これなら問題なく受けきれる」
な、なんで無傷なんだよ……。
たしかに連発した分、最初の一撃よりも威力は下がってる。それは事実だ。
だけど威力が下がったって言ったって、ほとんどの魔物が素材すら残さず蒸発するくらいの威力はあるんだぞ!?
「その表情からすると、もう貴殿の武器は出し尽くしたらしいな。では、そろそろ終わりにしよう」
そう言うと、シファーさんの姿が視界から消えた。
どこにいったのか、と探すまでもなく、腹部に衝撃。
視線をゆっくりと下に降ろす。
腹に、シファーさんの剣が刺さっていた。
「……い、いつの間に……?」
「ただ走って近づいただけだ。どうやら動体視力は常人並みのようだね」
剣が引き抜かれる。
一拍おいて、血があふれ出す。
熱い、熱い、熱い。
熱い熱い熱い。
熱熱熱。
「ふむ、これで終わりかな」
……ふざけんな、このまま終わってたまるか。
マニュとミラッサさんが見てるんだよ、なのにこんないいところなしで終わっていいのか?
いいわけないだろ……っ。
せめて、せめて一撃だけでも入れなきゃ……!
「心配しなくてもいい、怪我は私のハイヒールで治させてもら――」
「……ヒール……」
「……何?」
「ファイアーボールっっ!」
「っ!?」
ヒールで怪我を全開させ、逃げられないようシファーさんの腕を掴んで、超至近距離からファイアーボールを浴びせる。
ど、どうだ、俺はまだ負けてないぞ……っ!
ただ、ここでボーっとしちゃ駄目だ。
すぐに距離を取って、次のファイアーボールの準備に入ろう。
さすがに相当なダメージは入っただろうけど、それでもまだ倒すところまでは行ってないはず――
「驚いたな、ただのヒールでその傷を治せるとは……」
……こっちの方が驚きだよ。
なんでほぼゼロ距離であのファイアーボール喰らって、かすり傷しか出来てないんだ……!?
盾で防いだのか!? だ、だとしたらいつの間に……!
「面白くなってきたね、レウス」
「は、はは……」
乾いた笑いしかでないよ、こんなの。
シファーさんめちゃくちゃ楽しそうだし……ヤバいなぁ、本気にさせちゃったくさい。
「さあレウス、早速第2ラウンド開始と行こうじゃない……か?」
ガキンッ。
シファーさんの盾が真っ二つになって、地面に落ちた。
……えっ。
まさかのことに、シファーさんより俺の方が驚いてしまう。
「ほう……この盾が割れるとはね。エルラドでも充分通用するものなんだが……貴殿のファイアーボールをこう何度も受けるには些か力不足だったらしい」
あ、シファーさんの身体から溢れてたピリピリした空気が弛緩していく。
「こうなれば仕方ない、勝負は私の負けだ。盾なしでは貴殿の攻撃を耐えられる気はとてもしない」
「あ、え……?」
勝ったの? 俺が?




