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50話 それぞれの願い

 あくる日の午前中、俺は待ち合わせ場所にシファーさんと二人で立っていた。

 ただ黙って集合を待っているのもあれなので、シファーさんと話をして時間を潰すことにする。

 Sランク冒険者なんで一握り中の一握りなんだから、こうして直に話せる機会なんてめったにないしね。


「シファーさん、早いですね。まだ教えた集合時間より十五分も前ですよ?」

「私は土地勘がないからな、念のために早めに来たんだ。それより、レウスも早いじゃないか。いつもこんなに早く来るのか?」

「いや、いつもはこんなに早くないです。でも今日は、早く来て待ってた方がいいかなと思って」


 ミラッサさんとマニュは事情を知らないわけだから、先に二人がシファーさんと会っちゃうとややこしいことになっちゃいそうだしね。

 それを避けるために、今日はいつもより早く集合場所に来てみたんだ。


「貴殿のパーティーメンバー……たしか、ミラッサとマニュと言ったか? 会うのが楽しみだ」

「二人ともいい人だから、多分シファーさんとも仲良くなれると思いますよ……あ、来た来た」


 丁度ここに来る途中で合流してたみたいで、ミラッサさんとマニュが二人隣り合って俺たちの方に歩いてきている。


「ミラッサさん、マニュ、おはよう。えっと、この人は昨日ギルドで会ったんだ。俺たちと同じ冒険者の人で、悪い人じゃないから大丈夫だよ」

「そ、そうなんですか? レウスさんが知らない女の人といるので、わたしビックリしちゃいました」

「いや、それもだけどさ……この人ってもしかして、シファーさんじゃない?」


 え?

 ミラッサさん、シファーさんのこと知ってるの?


「私の名前を知ってくれているのか? 光栄だな」

「え、本物!? 凄い、初めて見たっ」


 片方の手で口元を抑え、もう片方の手でマニュの袖を掴んで、ミラッサさんは「はぁぁ……っ」と喜び始める。

 今まで見たこともないくらいに興奮してる。

 小刻みに震えるくらいの興奮で、周りが見えなくなっちゃってるみたいだ。

 袖を掴まれたマニュが、伝わってくる小刻みな振動に「うぇぇぇ!?」って叫んでいるのもお構いなしだもんな。


「シファー・アーべラインっていったら、エルラドでも三本の指に入る高名な冒険者よ!? う、嘘、こんなところで会えるなんて、し、信じられない……」


 あ、やっと震えが止まった。

 興奮から呆然に感情がシフトしたみたいだ。


 ミラッサさんによる電動マッサージから解放されたマニュは俺に顔を寄せる。

 耳元に顔を近づけて、こしょこしょと言う。


「れ、レウスさん。シファーさん?ってそんなにすごい人なんですか?」

「ごめん、俺もよくわかんないんだ」


 エルラドに憧れは抱いてたけど、絶対に行けるわけがないと思い込んでたからなぁ。

 意図的に情報をシャットダウンしていたところもあったから、実際問題エルラドについてはぼんやりとした情報しか知らないんだよね。

 エルラドで誰が活躍してるかとか、そういうのはほとんど知らない。


「すまないな、二人とも。急に貴殿たちパーティーの狩りの予定を邪魔してしまって」

「いえいえ、そんなことないですっ。ね、マニュちゃん!」

「え、あ、は、はい」


 ミラッサさんの勢いが凄い。マニュが押され気味だ。

 多分シファーさんのファンなんだろうな。それも結構熱烈な。

 じゃなきゃいくらなんでも、こんなにテンションが上がるとは思えないし。


 あ、そうだ。今なら胸のこと考えてもバレないんじゃないかな?

 見るからにシファーさんのことで頭がいっぱいだろうし。

 よぅし、ミラッサさんの胸はBカップ――


「レウスくんっ、胸のこと考えてるでしょ! もー!」


 あ、これはバレるんだ。

 相変わらずの超能力。本当にどうやって感知してるんだろ……?

 それにしてもテンション高いなぁミラッサさん。

 怒ってるはずなのにニコニコでルンルンだ。なんだかかわいい。


「今日私が貴殿たちの元に来たのは、先日のイビルディアーの異常種の一件を見事収めたらしい、貴殿たちの手腕をこの目で確かめてみたかったからなんだ。そういうわけで、今からレウスと戦わせてほしい」


 シファーさんが今日ここに来た目的を話し始める。

 ミラッサさんの興奮度合いで頭から抜けてた。

 そうだ、元々そういう話だったよね。


 エルラドで活動してる冒険者と戦えるってだけでも貴重な機会なのに、三本の指に入るくらいってなるともう、それはそれはとてつもなく貴重な機会だ。

 正直とてもありがたい。


「ただ、元々貴殿たちは今日狩りの予定だったんだろう? それを邪魔してしまうのは申し訳なくも思う。だから、私が貴殿たち三人の願いを何でも一つずつ聞こう。なんでも言ってくれ」


 シファーさん、俺たちにそこまで気を使ってくれるの?

 どんだけ出来た人なんだよ……。


 でも……うーん。

 シファーさんへのお願いかぁー……。


 ……うーん、そうだなぁ。


「俺は戦ってもらえるだけで大丈夫なので、そんな願いとかはないかなーって」

「そうか? レウスは無欲なんだな」


 いやいや、元々戦ってもらえるだけでこっちがお礼しなきゃいけない立場ですから。

 これでさらに何かを望んだりしたら、それこそ罰が当たっちゃうよ。

 冒険者なんていう職についてるからこそ『強欲は身を亡ぼす』って言葉を忘れちゃいけないよね。


「……まあ、それで貴殿が納得しているというのなら、私が口を出すことではないか。他の二人はどうだ? 何でも遠慮なく言ってくれてかまわないからな」

「あのっ。あたしもシファーさんと手合わせ願いたいんですけど、いいですかっ!? 指導って言うか、そういうのしてほしいですっ!」


 ミラッサさんがハキハキと告げる。

 ハキハキしすぎて若干声が裏返ってるけど、そこはご愛嬌だ。


「それはもちろん。私で良ければ相手になろう」

「し、幸せすぎる……ありがとうございます!」


 ミラッサさんはとても嬉しそうだ。

 声が裏返るくらい喜ぶなんて、滅多にないもんね。

 でも憧れの人と戦えるってなったら、そのくらいなってしまうのも無理はないかもしれない。


「あ、じゃあわたしも、ミラッサさんと同じお願いにします。シファーさんに、手合わせしながら指導を付けてほしいです」

「わかった。……ふむ、向上心のある者たちだな。冒険者が皆貴殿たちのようだといいんだが」


 シファーさんは俺たちの願いを聞いて感心したように唸った。


 ……ん?

 なんか、ミラッサさんに腕を掴まれたぞ?

 おわわ、揺れないで! ミラッサさん揺れないで!

 い、一体どうしたっていうんですか!?


「レウスくん聞いた!? 今あたしシファーさんに褒められたよ、あのシファーさんに!」

「き、聞きましたよ、よ、よかったですねミラッサさささん」


 揺れてるせいで喋りにくいよぉ。


「あぁぁ、生きててよかったよぉぉ……っ!」


 喜び方が半端ないな。

 ついに生への感謝をし始めちゃったよ。

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