49話 規格外
謎の女の人に話しかけられて、俺はたじろぐ。
うわ、なんかギルドの人の目が全部こっち向いてるし……。
あんまこうやって注目されるの慣れてないから、どうしたらいいかわかんない。
「おっと、ここでは目立ちすぎてしまうな。場所を移してもいいか?」
「お、お任せします」
「すまない、奥の部屋を使わせてほしいんだが」
白銀の髪の女の人はギルド職員にそう告げる。
職員はそれを聞くと、慌てて奥へと一度引っ込んでいった。
ギルドの奥の部屋とか、普通の冒険者が使わせてもらえるんだっけ?
そんな簡単に使わせてもらえないような……というかこの人、何者なんだろ。
……<鑑定>使ってもいいかな。……いいよね?
どんな人なのか気になるし、どうせバレないし。
よし、<鑑定>っ!
◇――――――――――――――――――――――◇
シファー・アーべライン
【性別】女
【年齢】23歳
【ランク】S
【潜在魔力】3812
【スキル】<剣術LV9><盾術LV9><防御の極意LV9><直感LV8><ウィンドストームLV7><起死回生LV7><ハイヒールLV6><挑発LV5><威圧LV4><韋駄天LV3><水魔法LV3>
◇――――――――――――――――――――――◇
え、Sランク冒険者……!?
な、なんでSランク冒険者がこんなところに……っていうかこのスキル何!?
LV9が三個とか、む、無茶苦茶だろ……。
ヤバいよ、こんな人に目を付けられたら俺の人生おしまいだよ。
うわ、なんかすごいジッと見られてるし。
落ち着け、落ち着け。平静を装うんだ!
「……今、何かしたか? ……ステータスを見た?」
「うぇぇっ!? す、すみません、出来心でつい!」
なんでバレたのっ!?
こんなの平静を装うのとか無理に決まってるだろ!
「なんでバレたのか、って不思議そうな顔をしているな。目の前をジッと見て何やら驚いている貴殿は、考え込んでいるというよりも何かを見ている様子だったから、そこに貴殿にしか見えない何かがあるのだろうと思っただけだ」
そ、そんな仕草とかでわかるもんなの……?
俺だって自分なりに不審に思われないように気を付けてたはずなのに。
「その上で、驚くということは今まで知らなかったことがわかったんだろうから、自分のことではなく私のことに関することだろうと推測した。ステータスを見られたんだと思ったら得心がいったよ。察するに、私がSランクということに驚いたというところかな?」
全てお見通しにされた。
こっちは<鑑定LV10>だから絶対気付かれないと思ってたのに、スキル以外の所作から気付けるもんなんだ……さすがSランク。
「いやはや、他人にステータスを見られたのは初めての経験だ」
「す、すみませんでした……殺さないでください……」
不快感を持たれても仕方のない行為だ。
どうせバレないだろうと高をくくっていた。
Sランクから見たら、Cランクの俺なんてゴミも同然だ。
ゴミに気分を害されたんじゃ、この人も相当お冠だろう。下手したら殺される。
殺さないで! 殺さないでぇぇ! まだ死にたくなぃぃ!
「こ、殺しなどしないよ!? 気にしないでくれ、これだけ突然話しかけられたんじゃ警戒するのも当然だ」
「怒ってないんですか……?」
「ああ、貴重な経験をさせて貰ったことに感謝したいくらいだ」
何この人、心でかい……。
多分俺だったら、見ず知らずの人にステータス盗み見られてたらけっこう嫌な気持ちになると思うんだけど。
やっぱSランクは強さだけじゃなくて、そういうところも規格外なのか?
「相当な鑑定スキルだな、LV8……いや、LV9か? どっちにせよ素晴らしい。……で、どうだった、私のステータスは?」
「それは勿論凄かったですっ」
なんかもう次元が違ったよね。
驚きを通り越して無の境地に入りかけたよ。
と、そんな話をしているとギルドの職員がこちらに駆けてくる。
どうやら部屋の用意が済んだようだ。
「シファー様、お部屋の用意が出来ました。どうぞこちらへ」
「ああ、手数をかけさせてすまないな。ありがとう。さあ、貴殿と奥でゆっくり話がしたい。よろしく頼む」
「はい、よろしくお願いします」
俺はシファーさんの後をついて行くようにして、ギルドの奥へと進んでいく。
部屋に通されると、シファーさんは俺と向かい合うように椅子に座った。
「改めて、私はシファー・アーベラインだ。貴殿と同じく冒険者をしている」
「俺はレウス・アルガルフォンです」
「レウスか。やはり知らぬ名だな……」
そりゃそうですよ、Sランクの人が俺の名前なんか知ってるわけないじゃないですか。
「レウス、貴殿は先日異常種のイビルディアーを倒したと聞いた。それに間違いは?」
「ないです。あ、でも俺だけじゃなくて、パーティーの仲間の助けもあってですけど」
ミラッサさんがイビルディアーの気を引いてくれたり、マニュが<観察LV7>で弱点を見抜いたりしてくれなければ、多分負けていただろうと思う。
それくらい薄氷の上の勝利だった。
「なるほどな……自分一人の戦果ではないということか。殊勝な心掛けだな」
「いえいえそんな。だって本当のことですし。……で、俺にどんな用があるんですか?」
「ああ、それを話していなかったな、うっかりだ。私は普段人類の最先端の街、エルラドで活動しているんだが――」
「エルラドで!」
さりげなく凄いこと言ったよこの人!
マジか、エルラドで活動してるのか!
うわ凄いな、じゃあ俺の憧れの人じゃん!
「気分をリフレッシュするためにエルラドを離れていたところ、ここニアンの街に異常種が出現したという報が入ってな。もし大規模な魔物災害に陥っていればなんとかせねばとやってきたが、報を受けてから数時間後に急いでやってきてみれば、事態はとうに収束済みで面食らっていたというわけだ」
ああなるほど。
なんでSランクの人がこんな街にいるのかと思ったら、イビルディアーの騒ぎを聞きつけて応援に来てくれていたからだったのか。
見ず知らずの人のために駆けつけてくれるなんて、冒険者として一番あるべき姿じゃないか。
「このランク帯の冒険者たちがどうやって異常種を倒したのかと疑問に思っていたのだが……ここ数日の聞き込みによると、どうやら君が最大の功労者らしいな」
蒼い瞳が俺を捉える。
歴戦の強者の目だ。
俺も少しは逆境を乗り越えてきたと思っていたけど、こういう目が出来るようになるまでにはまだとても達していない。
「そこで相談だ。貴殿の実力が知りたい。――私と戦ってくれないか?」
そんなことを持ち掛けられて、正直驚いた。
エルラドで活躍してる現役の冒険者の胸を借りれるなんて、こんな機会滅多にないぞ!?
「し、シファーさんがいいなら是非! むしろこんなチャンスくれてありがとうございます!」
俺は悩む間もなく決断し、椅子から立ち上がって頭を下げる。
「ではまた明日会いに行ってもいいか? 貴殿のパーティーメンバーにも会ってみたいのでな」
「あ、じゃあいつも俺たちが集まる場所を教えておくので、そこに来てくれれば」
「助かる。ではまた明日」
「はい、よろしくお願いしますっ」
よーし、せっかくだし俺の全力をぶつけさせてもらおう!




