48話 三人で
どんな事件が起きたとしても、過ぎてしまえば徐々に日常へと戻っていく。
俺たちも同じように、あの異常種の出現による混乱から段々といつも通りの狩りの日々に戻り始めていた。
「ミラッサさん、そっちはお願いします」
「了解よ! せいッ!」
「二人とも、前から次が来てますっ」
狩場に俺たちの声が響く。
今日は三人パーティでの魔物討伐の動き方を確認しているところだ。
昨日夜まで一緒に飲み明かした影響で、今日は午後から狩場にでた。
午前中は頭痛すぎてそれどこじゃなかったからね。
「レウスくんっ」
「はい、ファイアーボール!」
撃ちだされた火球にラージゴブリンの身体が包まれる。
しばらく燃え続けた後、プスプスと焦げた死体が地面に転がった。
「おつかれです。剥ぎ取るので、周囲の警戒をお願いします」
「はいなー」
「了解だよ」
周囲に散らばる魔物の死体を、迷うことなく解体していくマニュ。
魔物の種類ごとに体の作りから肉の固さまで千差万別だっていうのに、使う道具は短剣一本。
それを巧みに駆使して素材をあっと言う間に剥ぎ取るのだから、マニュの<解体LV8>は伊達じゃない。
「ミラッサさん、どうですか? 三人で組んでみた感じ」
「レウスくんが凄いのはもう知ってたけど、マニュちゃんも予想以上に凄いわよね。二人ともそれぞれの分野の特化型って感じで、すごく頼りになるわ。……というかあたしが一番足引っ張ってるんじゃない?」
「いやいや、そんなことないですよ」
俺は即座に否定する。
ミラッサさんが入ってくれて助かったことなんて山ほどある。
「前衛のミラッサさんが加入してくれたことでヘイト管理のおかげで俺に攻撃が飛んでくることが大幅に減りました。それに、魔法……特に火魔法が効きにくい相手には、現状ミラッサさんの剣術しか攻撃手段がありませんし」
マニュと二人でパーティーを組んでいた時は、俺が前衛として戦うしかなかった。
さすがに解体と運搬を担当してるマニュに前衛をさせるのは無理があるしね。
ただ、俺のスキル構成は主に、威力特化の火魔法である<ファイアーボール>と、即死でない限り大抵の傷なら治せる<ヒール>の組み合わせ。
どう考えても後衛タイプだ。
別に体が丈夫なわけでもないし、上手にヘイト管理ができるわけでもないしで、度々マニュが狙われると肝を冷やすこともあった。
その点ミラッサさんは違う。
魔物の周りを素早く動き回って小刻みに剣を振るい、常に魔物からの狙いを自分に集中させてくれる。
ミラッサさんが傷ついても俺が<ヒール>で治せるし、そもそもミラッサさんくらいに素早いとこの狩場の魔物のスピードじゃ攻撃を当てることすら不可能だ。
それに、他の街に移れば魔法が効きづらい魔物もいるだろう。
特に今の俺はファイアーボールのワンウェポンだから、火魔法が無効化できるような敵にであったら詰む。
そういう時に備えるためにも、ミラッサさんの<剣術LV8>や<氷魔法LV5>あたりは有用だ。
「あとはまあ、精神的主柱みたいな面もあります。俺はまだ十五歳ですし、マニュもまだ十三歳なので」
「どうせあたしはおばさんですよーだ」
「拗ねないでくださいよ、ミラッサお姉さん」
「……ミラッサお姉さん、良い響きね」
あ、意外と気に入ってくれた。
「ミラッサお姉さん、ミラッサお姉さん」と繰り返し口の中で言葉を転がしている。
そんなミラッサさんの隣で、周囲に魔物が近寄ってこないか見まわしながら、俺は別のことを考え始める。
前に一度臨時パーティーを組んでいたこともあって、俺とミラッサさんの連携はかなり取れている方だ。
マニュはあまりミラッサさんと組んだ経験はないけど、<観察LV7>のおかげか視野が広くて、常に邪魔にならないように動いてくれている。
リキュウはもう自分の目標に向けて色々と勉強を始めてるんだ。
俺たちもあんまり足踏みしてるわけにはいかないよな。
よし、決めた。
明日も特に問題なく狩りができたなら、エルラド行きを二人に持ち掛けてみよう。
「解体終わりましたっ」
そんなことを思っている間に、マニュが魔物の解体を終える。
解体を行ったとは思えないくらい服も綺麗だ。
マニュが解体を終えてリヤカーに素材を詰め込んだなら、ご苦労様を言って、再び魔物を探し始めるのが今日のいつもの流れだ。
でも……。
「……あ、あの、まだ狩りますか?」
「そろそろ帰ってもいいような気はするなぁ」
「そうね。マニュちゃんの引いてるリヤカーももう一杯みたいだし」
ミラッサさんの言う通り、マニュの引いてるリヤカーも素材でパンパンだ。
うちのパーティーの運搬役はマニュだ。そのマニュがこうやって聞いてくるってことは、そろそろ潮時ってことだろう。
そういうわけで、俺たちはニアンの街に帰還し始める。
帰りは俺が最後尾だ。
中がずっしり詰まったリヤカーを引いているマニュが動きが遅くなっちゃうからな。
不意打ちとかされたら危ないし。
ニアンに帰った俺たちは、素材の清算をすませる。
そしてそれらを四等分して、それぞれ懐に収めた。
あ、人数分より多い数で割っているのは、パーティーとしての共有資金のようなものだ。
例えばリヤカーを買い替えたりとか、ミラッサさんの剣を新調したりとか、そういうのに使おうってことでミラッサさんが発案してくれた。
良い案だと思ったからすぐに採用したよ。
そしてギルドを出て、一緒に道を歩く俺たち。
泊っている宿はそれぞれ別だけど、ある程度のところまでは方向が一緒だからね。
それに、こういうメンバー同士のコミュニケーションの時間はなるべくあった方がいいと思うし。
マニュとミラッサさんと何でもない会話をしながら、ふと思う。
なんだか最近、結構順調かもなぁ。
お金も随分溜まってきたし……あれ?
さ、財布どこやったっけ。
たしかギルドで一回カウンターの上に置いたでしょ? それから……。
「……あっ。ごめん二人とも、ギルドに財布置きっぱなしかも。取りに戻るから俺はここで」
「うっかりだなぁレウスくんは。走って転ばないようにねー?」
「あ、お、お気をつけてっ」
ヤバいヤバい、気が緩んでたや。
こういう凡ミスみたいなの、戦闘では絶対にしないようにしなきゃな。
そしてギルドに戻ってみる。
幸いなことに、目の付きやすいギルドカウンターの上に置き忘れていたこともあって、さすがに誰にも盗まれていなかった。
慌ててその財布を取り、ポケットにしまう。
いやー、よかったぁー!
盗まれてたらどうしようかと思ったよぉ……。
こういうことも起こりうるし、そろそろギルドの貸金庫にお金を入れることも考えた方が良さそうかも。
月額を取られるけど、その分ギルドがあるどこの街でもお金をおろせるようになるみたいだし。
今まではそんなにお金を持ってなかったからいらないと思ってたけど、これからは必要になってきそうだ。
「……ん?」
ホッとしてから初めて気付いたけど、なんかギルド全体がざわざわしてる……?
話題の中心は、多分あの人……かな?
周囲の視線の先には凛としたオーラのある女の人が立っていた。
否が応でも視線を引き付けるような強烈な存在感があるのに、同時に淡く儚い感じもちょっとする。
白銀の髪が綺麗で、ちょっとドキッとする。
「あ、丁度来ました。あの子ですよ」
誰かが女の人にそう告げた。
……え、あの子って俺のこと指さしてるけど、何のこと?
うわ、こっち向いた。
で、近づいてきた……っ。
「貴殿が異常種の魔物を倒したという少年か?」
「え、あ、そうですけど……?」
「少し話がしたいのだが、いいかな」
「は、はい」
有無を言わせぬ迫力に、僕の頭は自然と縦に揺れる。
で、でも一体、なんの話だろ……?




