表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/81

44話 分かれた道の先

 暗い雰囲気も払しょくされて、いつも通りの雰囲気になった。

 ミラッサさんがお見舞いに持ってきた果物を切り始める。


 おお、意外と包丁さばきが物になってる……っていうのは失礼か。

 剣と果物ナイフじゃ勝手は違うだろうけど、刃物の扱いは慣れてるだろうしね。


「あ、苦手なものとか大丈夫か? もしあるなら先に言っといたほうが」

「そうだな、瓜系は苦手だな。メロンとかスイカとか」

「え、キュウリなのに?」

「リキュウな。俺リキュウな」


 あ、リキュウか。

 ごめんごめん間違えた。


「え、あんたメロン駄目なの? もう切っちゃった」


 どうやら好き嫌いを聞くのがちょっと遅かったみたいだ。

 もう少し早く聞いとけば良かったんだけど、切っちゃったものはしょうがない。

 捨てるのはあれだし、俺たちで食べるか?


「あ、じゃあそれはわたしがいただいときますっ。捨てるのももったいないので」


 マニュは食欲旺盛だなぁ。

 小さな口を目いっぱいに開けながら、んぐんぐ、って一気にメロンを呑み込んでいく。

 もはや食べるというより飲む……いや、吸い込むって感じだ。

 本当にすごいな、どうなってるんだ?

 見てると未知なる存在への恐怖が腹の底から湧き上がってくるような……いや、どんな食事シーンだよそれ。


「マニュってご両親掃除機だったりする?」

「ひ、酷いですレウスさん! わたしは食いしん坊なだけなのに!」


 いやだって、そうでもないとそのブラックホールみたいな食べ方に説明がつかないよ?


 プンプン、と怒るマニュにごめんごめんと謝る。

 でもなんかマニュが怒ってるところもあんまり見たことないかも。

 引っ込み思案な子だと思ってたけど、心を開いてくれればこうして怒ってもくれるんだよね。

 それだけ仲良くなったってことだよな……うん、いいことだ。


「お、怒られてるのに笑ってる……レウスさん怖い……」

「い、いや、これは怒られてるのが嬉しかったんじゃなくてね?」


 違うよ? 違うからちょっとずつ離れるのやめて?

 そのおびえた顔向けられるの結構傷つくよ?


「仕方ねえよマニュ、レウスにはそっちの気があるからな」


 おいリキュウ、いたいけな少女に変なことを吹き込むんじゃない。

 そっちの気ってなんだよ、Мってことか!?

 俺はノーマルだから! ドが付くほどノーマル、ドノーマル! 略してドル!


「へー、レウスくんってそうなんだ」

「待って違う、違います。数秒黙ってる間に凄い方向に話題が展開していってる。僕はノーマルですから!」


 おいリキュウ、お前が変なこと言いだしたせいでこんなことになったんだからな。

 反省してんのか? ……なんでニヤニヤしてんだよ!


「いいかリキュウ、俺はノーマル!」

「ハッ、言ってろ」

「……誰でもいいんで、このウリ科の野菜にファイアーボールを撃ちこむ許可をくれませんか?」

「おい、誰がキュウリだ!?」

「キュウリとは言ってないもんねー。ウリ科の野菜ってだけでキュウリと結びつくってことは、自分でもキュウリって自覚があるからじゃないんですかー」

「て、てめえ……っ」


 ふんだ、口げんかで俺が負けると思ったら大間違いなんだからな。

 思い知ったかリキュウめ!


「やんのかよレウス!」

「やってやるよリキュウ!」


 大声を出してにらみ合う俺とリキュウ。


「……ふっ」

「……ふはっ」


 だ、駄目だ、さすがに笑いがこらえられない……!

 きっかけが下らなすぎんだよ、なんだよこの喧嘩。


 二人で笑っていると、病室のドアがノックされて診療所の職員が入ってくる。


「他の方もいらっしゃるので、診療所内はお静かにお願いします」

「ご、ごめんなさい」

「すみません」


 注意されてしまった。

 さすがにふざけすぎたみたいだ、反省。



 それからとりあえず俺に関する誤解を解いた。

 といってもミラッサさんは本気で信じているわけじゃなかったし、マニュはそもそも意味もわかってなかったけど。

 結局一人で空回りしてたってことですね。悲しい。


「あーミラッサ、ブドウあるかブドウ。俺ブドウ好きなんだよ」

「あるわよ、はい」

「サンキュー」


 リキュウはミラッサさんから受け取ったブドウを食べる。

 めちゃくちゃ偏見だけど、リキュウはブドウよりマスカットの方が好きそう。ほら、髪の色的に。


「で、リキュウはこれからどうすんの? 冒険者はやめないんでしょ?」


 それは俺も気になるところだ。

 知らない仲じゃないんだし、リキュウの今後の身の振り方は聞いておきたい。

 場合によっては何か助けになれるかもしれないしな。


「実は考えはあるにはあるんだが……それには協力が不可欠でな。マニュ、お前の技術が欲しいんだ。協力してくれるか?」

「へ? わ、わたしですか?」


 たしかに意外だ。

 リキュウがマニュに頼みごとをするイメージはあんまりない。

 それだけに、マニュもびっくりしていたようだけど、しばらくしてコクンと頷く。


「よくわからないですけど……わたしがリキュウさんのお役にたてるのなら、喜んで」

「……お前、意外と良いヤツだな」

「い、意外は余計ですよ……!?」

「そうだな、悪い悪い」

「で、何をするつもりなんだ?」


 俺はマニュとパーティーを組んでるわけだからな。

 聞く権利はあるはずだ。

 とは言っても、リキュウがそんな無茶なことを頼むとも思えないから、警戒してるわけじゃないけどさ。


「ん? そりゃーお前、マニュの解体と運搬の技術を勉強させてもらいてえのよ。聞いたところによると、エルラドには一流の戦闘技術を持った冒険者は腐るほど集まってくるが、一流の解体技術や一流の運搬技術を持った人間は不足気味だって話だ。まあ無理もないよな、そもそもその辺の技術は誰が教えてくれるわけでもなく、自分らで創意工夫しているヤツらがほとんどだ。要はまだ上達のためのメソッドがねえんだよ。――だからオレが作る。そんでその技術を教わるための営利組織を立ち上げる。生徒わらわら。俺ぼろもうけ。こういう寸法だ」


 なるほど……たしかに超一流の腕を持つ冒険者の噂ならたまに俺たちのところにも流れてくるけど、超一流の解体屋とか超一流の運搬屋の冒険者って聞いたことないかも。

<剣術LV8>やら<弓術LV8>は聞いたことがあるけど、マニュほど高レベルの<解体>や<運搬>スキル持ちは全く聞いたことがない。


 つまりそれだけ供給が少ないってことだ。

 ということは需要過多なはずで……リキュウのヤツ、意外といいとこに目を付けたんじゃないか?

 専門の詳しいところは全然わからないけど、なんか成功しそうな気がしてきた。

 俺としても特に反対する理由はない。

 冒険者の底上げに繋がることだしな。


「あ、もちろんマニュにも損はさせねえぜ」

「食べ物くれるんですか? おいしそうです」

「違う、そんなことは一言も言ってねえ。まず100万でお前の技術を買い取って、さらに授業料金として徴収した金の一割をやろう。まだ授業料は未定だが、それでも悪い話じゃないだろ?」

「食べ物じゃないんですか……」

「残念がるな、食欲に支配されるのを止めろ」


 肩を落とすマニュに呆れるリキュウ。

 仕方ないんだよリキュウ、マニュの脳の半分は胃袋に食べられちゃってるんだ。

 つまりマニュは食欲が行動指針の半分を占めてるんだから。


「食べ物じゃないのは残念ですけど、まあいいです。わたしも良くない人たちのパーティーから抜け出せなくて困っているとき、一緒に特訓してもらいましたし。困ったときはお互い様ですっ」

「助かるよ。お前にも損はさせねえように頑張る」


 なんにせよ、纏まったようで何よりだ。

 あとの細かい話は二人で詰めてくれればいいだろう。


「あー、腕が鳴るぜ」

「なんかリキュウ、今までより楽しそうね」


 ミラッサさんの言葉に俺も同意したい。

 出会ったときは死んだ魚のような目だと思ったのに、中々どうして今は輝いてるような気がする。

 まるで純粋な少年みたいだ。


「んー……まあ正直言うと、俺の戦闘力でエルラドに行くなんて、土台無理な話だったんだ。元々ほどほどの才能しかなかったしな。だけど完璧に冒険者としての道を諦めたことで、逆に新しい道が思いついた。もし今の方が楽しそうに見えんのなら、俺にはこっちの道の方があってるからかもな」


 そしてリキュウは俺たちに向けてハッキリと告げる。


「冒険者としての俺はここで終わりだ。だけどな、俺はまだエルラドを諦めてねえ。まずはここの街から初めて、支店出して支店出して、いつかエルラドにも支店を出す! 見てろよお前ら、俺だってエルラドに行ってやるからな。ちょっとリードは許しちまうが……心配すんな、あっという間にお前らなんか抜き去ってやるよ。なんせ俺はリキュウ様だからな」


 ……正直、ビビッと震えた。

 冒険者以外で生きていく道も考えつかない俺に比べて、すごいしっかりしてるじゃんか。

 リキュウ。なんかカッコいいよ、お前。


「……あ、またキュウリ様とか言おうとしてんだろおまえら! こっちにはお見通しなんだかんな!」

「いや、今はさらさらそんな気なかったけど」

「へっ、図星だったか! ざまあみろレウス!」


 ……あれだな。

 やっぱり、あんまりカッコよくはないかもな。


 まあでも、お前の夢は俺も応援させてもらうよ。

 がんばれよ、リキュウ。俺も頑張るからさ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ