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43話 お見舞い

 次の日。

 すっかり体調の良くなった僕は、マニュとミラッサさんと一緒に診療所を訪れていた。

 リキュウのお見舞いだ。


「あたしたちがお見舞いに行ったら、リキュウ泣いて喜ぶんじゃない?」

「アイツそんなやつですかね。むしろ悪態ついてきそうな気が……」

「リキュウさんは意外とシャイですからね」


 そんな会話をしながら廊下を歩く。

 リキュウの病室にたどり着き、扉を開ける。

 そこにはベッドの淵に座っているリキュウの姿があった。

 リキュウは俺たちを見つけると、シッシッと追い払うように手を動かす。


「なんだお前ら、誰かのお見舞いに来たのか? 残念ながらこの部屋には俺しかいねえぞ」

「別に部屋を間違えたわけじゃないよ。リキュウのお見舞いに来たんだから」

「……ふーん、あっそ」


 一瞬だけちょっと意外そうな顔をして、元の目つきの悪い顔に戻る。

 俺たちが想像してた反応とは違ったけど、でもリキュウらしいと言えばらしい反応だ。

 まあ、あのリキュウが素直に喜んでくれるわけないか。

 俺が言えたことじゃないけど、結構捻くれてるもんなぁ。


「お怪我はもう大丈夫なんですか? だいぶ包帯の面積も減ったみたいに見えますけど」


 マニュがリキュウの身体を上から下まで眺める。

 俺も見てみるが、たしかに何カ所か包帯を巻かれてはいるものの、大事(おおごと)ではなさそうだ。

 ホッ……一安心だ。

 なんだかんだ言ってもリキュウは仲間だし、心配だったんだよな。

 二人から怪我の具合について大体は聞かされてても、やっぱり自分の目で確認しないと安心はできないからな。


「ん、ああ、お陰様でな。あと数日で退院出来るぜ」


 おお、もう退院も近いんだ。

 よかったじゃんか。


「あ、もしあれなら俺が『ヒール』かけようか? そうしたら今すぐにでも退院できると思うけど」

「いや、ミラッサとマニュから聞いた。お前この前魔力切れで倒れたんだろ? 無理すんなって。俺は数日待てば退院なんだから大丈夫だ」


 自分的にはもうすっかり元気なんだけど……でもまあ、リキュウがそういうならやめとこうかな。

 俺のことまで考えてくれてるなんて、やっぱお前は良いヤツだよ、リキュウ。……リキュウ?


「……あの日のこと、朧気だけど記憶はある。お前らが助けてくれたんだろ?」


 どうやらリキュウは倒れていた間もかすかに記憶はあったみたいだ。

 あの戦いを見て、俺たちに恩義を感じてくれているのか。

 ……ちょっと照れくさいな。


「あらリキュウ、あなたらしくもないじゃない。もしかしてあたしたちにお礼の一つでも言いたくなっちゃった? んー?」


 ミラッサさんも同じ気持ちになったのだろう。あえてからかうような口調だ。

 もう、駄目ですよミラッサさん。そんな言い方したらリキュウがまた拗ねて――


「ああ、ありがとな」

「えっ」

「えっ」

「えっ」

「三人そろってその反応はなんだ。ぶん殴るぞ」


 いや、だって……えっ?


「リキュウって人に感謝できたのね……」

「俺のこと血も涙もない極悪人かなにかだと思ってないかお前」

「はぇー……リキュウさんって人の言葉喋れたんですね……」

「マニュ、お前俺のこといじってるな? いじってるよな完全に?」

「リキュウ、お前……っ。……俺は……幸せだ……」

「レウスに至ってはマジで意味が分からん。ここの診療所で頭を見てもらうと良い」


 リキュウ、そんな呆れたような顔しないでよ。

 でも俺たちのおふざけに一つ一つ対応してくれる当たり、リキュウは根が優しいよな。

 と思っていたら、無造作に頭を掻き始めた。そしてため息をつく。


「ったく……珍しく俺が素直になってやったってのに、お前らはなんだ。お前らの方がよっぽどシャイじゃねえか」

「……言えてるなぁ」


 真正面からお礼を言われたのが気恥ずかしくて茶化してしまった。

 せっかくリキュウが本心をぶつけてくれたのに、これはよくないよな。……よしっ。


「じゃあ、ゴホンっ……どういたしまして」

「わたしも、どういたしましてです」

「あたしもどういたしまして」

「なんだお前ら偉そうに。うるせえうるせえばーかばーか」


 殴りてぇ……。

 くっそぉ、リキュウのやつ、こっちが真面目になった途端におちゃらけやがってぇ!

 その顔の周りで手をヒラヒラさせるやつやめろ腹立つから!




 しばらく俺たちを逆に茶化した後、リキュウはフハっと最後にひと笑いする。


「とまあ、おふざけはこの辺にしてだ。ちょうどいい機会だから、お前らには話しておこうと思う。こうして律義にお見舞いにも来てくれたわけだしな」


 ……リキュウがそう切り出したとき、俺はなんだか嫌な予感がした。

 経験上の話になるが、こういう前置きをするときは大抵悪い話が後に続くんだ。

 リキュウの顔を見ても、どうみても笑えるような話題じゃなさそうなのは間違いない。

 腹の底がザワザワと騒ぎだす。そんな俺たちに、リキュウは言う。


「冒険者としてエルラドを目指すのは……諦めようと思う」


 ……え、今なんて?

 エルラドを諦めるって言ったのか?


「ど、どういうことだよリキュウ!」

「お前たちが助けに来てくれたおかげで怪我の後遺症もないし、なんの問題もねえ。ただな……今回のことでよくわかっちまったんだよ。自分の分相応の位置ってやつがな」


 詰め寄る俺にうろたえることもなく、リキュウは淡々とした口調で地面を指さした。


ここ(・・)が冒険者としての俺の限界だ。まあ、最初からわかっちゃいたんだよ。人並み程度の才能しかねえってことはさ。たから、そんなに落ち込んではねえんだ」


 リキュウ……。


 たしかにエルラドという街は人類の最前線だ。

 常人では相手にならないような魔物や、耐えられないような環境。そういうものがある、過酷極まりない街だ。

 そしてそこでやっていけているような人間は、もれなく特別な人間だ。


 同じようなことは俺もずっと思っていた。

 エルラドという地には、冒険者なら誰でも多かれ少なかれ憧れる。

 好奇心や功名心、そういう気持ちを持った人間が冒険者だから。

 だけど実際にそこを目指す人間はそれほど多くはない。自分の()は自分が一番よく知っているからだ。

 俺はずっと、自分はそこを目指せるような人間じゃないと思っていた。

 だから「エルラドを目指す」なんて誰にも言えなかったし、言おうと思ったこともなかった。

 俺には降ってわいたような潜在魔力があったけど、リキュウには……。


 もちろん、リキュウの<剣術LV5>は立派なスキルだし<聞き耳LV6>も情報収集には役立つ。

 リキュウならエルラドでもやっていけると俺は思うけど、リキュウは思わなかった。そういうことだ。


 なんと声をかけていいかわからず、黙り込む。

 リキュウの気持ちを考えれば、軽はずみに励ますのもしづらいし、慰めるのも違うような気がする。

 それはマニュとミラッサさんも同じようだった。


 そんな俺たちを見て、リキュウは大げさに眉をしかめる。


「おいおい、そんな悲しそうな顔すんじゃねえって。あんまり湿っぽいのは苦手なんだ。どうせならさっきみたいに茶化してくれよ、別に死んだわけじゃねえんだしさ」


 本人が一番吹っ切れているみたいだ。

 もしかしたらここに入院した時から今までの間に、すでに気持ちの整理を終えていたのかもしれない。

 だとしたら、俺たちが暗くなるのも違うかな。


「リキュウ……。正直最初は嫌なヤツだと思ったけど、リキュウは良いヤツだった。俺、リキュウのこと忘れないから。絶対っ!」

「おい、俺が死んだみたいな熱量やめろ! 縁起でもねえだろうが!」

「絶対……忘れないから……っ!」

「だから止めろって言ってんだろうが!? 話聞いてる!?」


 リキュウ、お前は最高の仲間だよ……!


「……あたしも、あんたのことは忘れないわ。何があってもあたしたち四人の絆は永遠よ」

「わたしも、忘れません……絶対に。リキュウさんっていう、とっても優しい人がいたことを」

「あれ? 俺って自分が気づいてないだけでもしかして死んでる? もしもーし?」


 ごめんごめん、ふざけすぎた。

 加減が難しいな。


 リキュウがエルラドを目指すのを諦めたのは正直結構ショックだ。

 あの地竜車に乗り込んだ全員が同じ目標を持ってたのは奇跡みたいな偶然だし、できることなら一緒に頑張っていきたかった。

 だけど、当の本人が気にしてないみたいだし、俺たちが落ち込むのも違うよな。


「まあ、リキュウが決めたのなら俺は止めないよ」

「あたりめえだ。つーか誰に止められたって変えねえよ。俺の人生だぞ。俺が決めねえでどうすんだよ」

「うわ、なんか凄いあんたっぽいわねその言葉」

「なんだそれ。褒めてんのか貶してんのかわかんねえって」

「ぽいですね。ぽいぽいー」

「マニュにいたっては完全にふざけてるよな? いい加減に俺怒っていいんだよな? な?」

「リキュウさんは本当は優しいのがわかったから、もう怖くないです!」

「あーあ、ばれちゃったなリキュウ?」

「お前のその親戚のおじさんみたいな顔すげえムカつくんだが……!」


 はっはっは、イライラするなよリキュウ、ストレスは体に悪いぞ?

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