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42話 知ってる天井だ

体がぽかぽか暖かい。

……あれ、俺結局どうなったんだっけ?

魔物がニアンの街に大量に攻め込もうとしてて、それを倒したら異常種が出てきて、それを何とか倒して……そこから先がちっとも思い出せない。


「ん、んん……」


目をこすりながら周囲を探る。

見覚えのあるこの天井、ここは……俺の部屋?


うん、間違いない。俺がニアンで借りている宿だ。

ってことは、マニュかミラッサさんあたりが宿まで運んでくれたのかな?

助かったぁ。あのまま丘に捨てられてたら今頃魔物の腹の中だもんね。

まああの二人が置き去りにするわけないけどさ。


さあ、起きるとしますか……ん?

俺、なんか掴んでるな。なんだ?

小さくて柔らかい謎の物体。

……ちっとも見当がつかない。引っ張ってみよう。


「ひゃんっ!」


ベッドの横でマニュの声がした。


「……え、マニュ!? なんで!?」

「あ、れ、レウスさん、起きたんですね……! 良かったですぅ……っ!」


マニュが感極まると同時に、謎の物体が俺の手を強く握ってくる。

……あ、もしかしてこれ、マニュの手か!

起きあがって確認してみる。うん、やっぱりマニュの手だった。

と思ったら、すぐにマニュの方から手を放される。


「あ、す、すみません、手なんか握っちゃって! 三日間も起きなかったので、し、心配で、つい……」


俺そんなに寝てたの!? そりゃどうも頭がボーっとするわけだよ。

魔力切れって結構治るのに長いことかかるんだな。

今回みたいな事態だと仕方なかったけど、今度からならないように気をつけなきゃ。


「マニュはどうしてここに?」


もしかして、看病とかしてくれてたのかな?

だとしたら今すぐお礼を言いたい。

……って、マニュ? 聞いてる?


「うぅ、恥ずかしい……」


あ、聞いてなさそう。顔も真っ赤だし。

そんな風な反応されると、こっちも手の感触を思い出して恥ずかしくなってきちゃうよ。


「あらあら、二人ともお熱いじゃない」

「え、み、ミラッサさんまで!?」


部屋の奥から普段着のミラッサさんがこっちに声をかけてきた。


「勝手に部屋に入ってごめんね? でも意識のないレウスくんを部屋に一人にしておくのも心配じゃない? だからレウスくんが目が覚める前の間、あたしとマニュちゃんで看病しようってことになったの」

「あ、そ、そうだったんですか」


うわー、マジか! なんか自分の部屋にマニュとミラッサさんがいるのってすごい新鮮だ。

二人とはいつも外でしか会わないから、こんな狭い部屋で一緒にいるとちょっと緊張するなぁ。


……いや、そんな緊張で大事なところを聞き逃すところだった。

二人が俺の看病をしてくれてたって? なんだその夢のような状況。

なんで記憶がないんだ。俺の馬鹿。


「マニュ、ミラッサさん、俺の面倒見てくれてありがとう。……あー、ちょっと今頭がボーっとしてそれ以上の言葉が出てこないけど、とにかく感謝してる。本当にありがとう」

「いえいえですよ、レウスさん」

「そうよ、気にすることないわ。あなたがやったことに比べれば些細なことなんだから」

「俺がやったこと? ……あ、異常種討伐か」


そういえば、Aランク以上が総出で討伐するくらいの相手だったんだもんね。

まあ俺の全力のファイアーボールを耐えてくるような相手だもんな、それも無理ないか。

とそこで、赤面から復活したマニュが教えてくれる。


「ギルドの偉い人が何度もここを訪ねてきてお礼を言ってましたよ。『この街が未だに存在しているのは君たちのおかげだ、ありがとう』って。あんなにペコペコされたのわたし初めてでどうしていいかわかんなかったんですけど、ミラッサさんが助けてくれました」

「年上だし、それなりの場数は踏んでるからね。ああいうのはあたしにまっかせなさーい」


胸をトンと叩くミラッサさんは、さすが大人の女性って感じで頼りがいがある。

マニュも尊敬の眼差しを送っているし……意外とかわいらしいところもあるってことはまだ隠しきれているみたいだ。


「今回のことの顛末というか、そういうのを教えてほしいんですけどいいですか?」

「ええ、わかったわ。まず、討伐魔物の素材等は全てレウスくんのもの。ただかなり損傷も激しかったから、加工して武器とか防具にするよりも売っちゃった方が良さそうね。今回の一件でのけが人は五十人弱、でも死者はゼロよ。これはかなり歴史的なことだわ」

「誰も死ななかったんですね。良かった」


死んじゃったら全部おしまいだもんな。

俺があの場に加勢したことで助けられた命があったんならこれほど嬉しいことはない。

……まあ、自分が死にそうな思いをしたのはご愛嬌だけどね。


「リキュウは?」と聞くと、診療所で治療中だと帰って来た。

今回のけが人は全員纏めてニアン一大きな診療所で治療しているらしい。

ただそれも命に関わるほどの傷ではないとのことだ。


「じゃあかなりベストに近い終わり方だったんですね」

「それもこれも、全部レウスくんのおかげ。ありがとね」


ミラッサさんが優しく微笑んでくれる。

いつも勝気なミラッサさんの優し気な微笑みはギャップがあってとても魅力的だ。

まさかBランク冒険者のミラッサさんにこんな風に感謝される日が来るなんてね。


「わ、わたしも! わたしもありがとうです!」


機を逃すまい、とマニュも慌てて感謝を伝えてくる。

焦ったせいで噛みそうになっていたが、なんとか噛まずに言えたみたいだ。偉いぞマニュ。

それにホッとしてなのか、それとも俺への感謝なのか、マニュも自然な笑みを浮かべる。


そんな二人の心からの感謝を受けて、俺は――


「ど、どういたしまして? ……なんかすごい照れるね。あはは」


――後頭部に手を当てて照れ笑いを浮かべた。

うーん、カッコがつかない。

しょうがないじゃん、こんな美少女二人にとびきりの笑顔を向けられたら誰だってこうなるよ。




それから俺はベッドから起き、二人と共にテーブルを囲んで座った。

三日も寝ていただけあって頭にはまだ少し靄がかかっているが、体はもうすっかり万全だ。

邪魔が入らないこの場所で三人きりで話をするのも貴重な機会だろう。


「そういえばレウスくんもエルラドに行くのが夢だったよね?」


いくつかの話題で世間話のようなトークを楽しんだ後、ふとミラッサさんが話題を変えた。

たしかにそれが俺の夢だ。コクンと頷く。


「今のレウスくんなら人類の最前線の街であるエルラドでも十分活躍できると思うよ? 異常種を一人で倒すなんて、普通じゃ絶対無理だもの」


……なるほど。ミラッサさんは「もうそろそろニアンを旅立ってもいいんじゃないか」って言ってるわけだな?

たしかに頃合いと言えば頃合いだ。

色々あって長居はしてしまっているが、元々この街は立ち寄る予定もなかった街だし。


ファイアーボールの力の調節も、新しい二つのスキルの入手も出来た。

異常種と戦ったことで自信も付いた。

多分だけど、異常種の素材を売ればお金も手に入るはず。

だとすると、もうここにいる意味もあんまりないんだよな。


ただまあ、こればかりは俺の一存で決めるわけにはいかない。

マニュっていう大事な仲間がいるからね。


「……マニュ、どうする? 行っていいかな、エルラド」

「わたしはレウスさんが行くと言うならいつでも行く準備は出来てますよ。戦闘は全然へたっぴで役に立たないですけど、解体と運搬ならエルラドでも力になれる自信はありますっ」


出会った頃はあんなに自信を持てなかったマニュが、今やまっすぐ俺の目を見て「自信がある」と言えるくらいに自信を持てている。

……あ、やばい、なんか泣きそう。

成長したなぁ、マニュ。自分のことのように嬉しいよ。


「そんな自信を持てたのも、レウスさんがパーティーに誘ってくれたおかげですから。感謝してますよ、レウスさん?」

「俺がしたのなんてほんの手助けくらいだよ。マニュの成長は、マニュのおかげに決まってる」


結局最後は自分が変われるかどうかだもんな。

変わろうと思わなきゃ変われない。マニュは変わろうと思ったから変われた。それだけの話だよ。

……俺も、少しはどこか成長できているといいなぁ。

とそんな時、ミラッサさんが席を立って玄関の方へと歩き出す。


「なんだかいい雰囲気じゃない? あとはパーティーの二人で話してもらって、邪魔者は退散しようかな」

「もう、そうやってミラッサさんはまた茶化すー」

「ごめんごめん。……でもほんと、良いコンビだと思う。あなたたち二人ならきっと、エルラドでもやっていけるわ。あたしも応援してるから!」


そう言うと「お邪魔したわねー」と言ってミラッサさんは帰っていく。

部屋には俺とマニュだけが残された。


「……マニュ」

「はい?」

「少し話があるんだけど」


マニュと内緒の話をする。


「いいと思います! ぜひぜひそうしましょう!」


俺の提案にマニュは目を輝かせて賛成してくれた。

よし、じゃあ後はいつ提案するかだな。

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