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41話 激闘の果てに

◇――――――――――――――――――――――◇

 イビルディアー(異常種)

【ランク】?

【スキル】<統率LV7><風魔法LV7><雷魔法LV7><頑丈LV6><自己再生LV6>

◇――――――――――――――――――――――◇




「二人とも、どうやらあの魔物が今回の騒動の原因みたいです」


 二人に手短にそう伝えつつ、俺はイビルディアーのステータスを注視する。

 最初に目に入ったのは『統率』のスキルだったけど、よく見ると他にも色々ヤバい。


 異常種なんて表記初めて見たし、【ランク】の?も初めてだ。

 その上本来イビルディアーが持ってるスキルは<風魔法>と<跳躍>くらいなもんなのに、五つも持っている。

 <跳躍>がないことなんてどうでも良くなるほどのチート具合だ。

 それもこれもすべてひっくるめて異常種ということなんだろうか。


「ミラッサさん。あの魔物どうやら異常種らしいんですけど、異常種について何か知ってますか?」

「い、異常種……!? ま、まずいわよレウスくん」


 ミラッサさんの目に焦りの色が浮かぶ。赤い瞳が動揺で小さく揺れていた。

 ミラッサさんのこんな姿を見るのは初めてだ。

 どうやら異常種というのはそれだけでBランク冒険者のミラッサさんが焦るような相手らしいな。


「異常種っていうのは、普通の魔物とは一線を画すくらいに異常に強い魔物のことよ。突然変異か何かで生まれるらしいけど、詳しいことはわかってないの。それで、ここからが大切なことなんだけど――異常種が出た場合、Aランク以上の冒険者が総出で討伐に当たることになっているわ」


 なるほど、そんなに強いのか……って。


「Aランク以上って、ニアンにはいませんよね!?」

「ええ、そうね。しかもあの魔物、ゆっくりこっちに向かってきてる。もしここを超えられたら、多分ニアンは滅びるでしょうね」


 マジかよ、めちゃくちゃヤバいじゃんか!

 そりゃミラッサさんも顔をこわばらせるわけだよ。

 あの超頼りになるミラッサさんでさえBランクなんだぞ。

 なのにAランク以上が総出で討伐に当たるって、異常種の強さは本当に異常ってことか。


「あたしの剣でも大したダメージは入らないと思う。頼れるのはあなたのファイアーボールだけ。先輩としてとても情けないけど……この街の命運はあなたに懸かってるわ」

「大丈夫です。開けた場所での一対一の勝負なら、俺自信ありますから」


 ミラッサさん、そんな顔しないでください。俺が何とかして見せますから。

 異常種とやらが規格外なのは鑑定で見たステータスと今のミラッサさんの説明で十二分に分かった。

 一方の俺はさっきまでの戦いもあって心身ともに疲れてるのは間違いない。

 だけど勝機はある。勝機はあるんだ。


 今回は周りを巻き込む心配がない。

 だから最初っから思いっきり撃てる。

 ……今まで俺、全力でファイアーボール撃って耐えられたことないんだよ。


「……ファイアーボール」


 ファイアーボールを発動させる。

 詠唱から数秒で、さっき撃ったものに勝るとも劣らない大きさのファイアーボールが形成された。

 よし、これを……アイツに撃ちこむっ!


「いっけえええ!」


 真っすぐにイビルディアーの方へと飛んでいく。

 避けるな、避けるなよ?

 よし、そのまま行け! 行け、行け……よし、当たったっ!

 ふう、これでなんとか一件落ちゃ――


「まだよ、レウスくん!」

「っ!?」

「ビギィィィィッッ!」


 ま、マジか……。

 俺の本気のファイアーボール耐えてくるのか。さ、さすが<頑丈LV6>。

 かなりショックだけど、戦ってる最中に落ち込んでる暇はない。

 幸い効いてはいるみたいだ。ギラギラと鋭かった眼光が虚ろになってる。

 今立て続けに攻め込めれば……!?


「ビギィィ……」


 ……傷が治っていく!? ……ああそうか<自己再生LV6>ね。

 その組み合わせはかなり強力だなぁ。正直困ったぞ。


「……でもまあ、押すしかないよね」


 俺に出来ることなんて元々そんなに多くない。

 中でも今取れる選択肢なんて、ファイアーボールで押し切ることくらいなもんだ。

 だけど、だからこそ迷う必要がない。

 もうこれしかないんだ、一気に行く!


「ファイアーボールっ!」

「ビギィィッ!」


 よし、確実に効いてる! あとは<自己再生>で回復される前に攻め切りたい。


「ビギィィ……」

「……まあ、そんなに楽にはやらせてくれないよね」


 ただこの状況、押してるのはこっちだ。

 倒しきれないのは困ったものだが、現状こっちはアイツにまだ一撃もくらっていない。

 俺の攻撃→イビルディアーの回復→俺の攻撃→イビルディアーの回復→……というサイクルが成り立っている限り、こっちに負けはない。


「ファイアーボールっっ!」


 三発目のファイアーボールがイビルディアーに直撃する。

 うめき声をあげてよろけるイビルディアー。


 ……でも駄目だ、また倒れるまではいかない。

 でも段々回復が追いつかなくなってきている気がする。

 このまま行けば――


「ビギィィィッッ!」

「……あ、まずいかも……」


 イビルディアーのやつ、回復を捨てて攻撃に出てきやがった!

 このままだとジリ貧だと踏んだのか!? ちくしょう、正解だよっ!


 マズいマズいマズいマズい!

 イビルディアーの二本の角がバチバチって不規則に光り始めてる。

 間違いなく<雷魔法LV7>が飛んでくる…………いや。


「嘘……なにあれ……?」


 マニュの言葉はそのまま俺の気持ちを代弁していた。

 単なる雷魔法じゃないぞあれ。

 もしかして……いやもしかしなくても、風魔法も混ざってないか?


 本来のイビルディアーが使う風魔法が自然と雷魔法と混ざり合い、二本の角の先で暴風と雷の凶暴タッグを組んでいる。

 一回の魔法行使で二属性使うとか、そんなの初めて見たぞ!?


「ファイアーボールっっっ!」


 喉が張り裂けそうなくらいの声で叫ぶ。

 冗談じゃない、あんなもの食らったら即死じゃすまない。五回は死ねる。

 このファイアーボールで絶対に相殺しきる!

 ここにいるのは俺だけじゃない、マニュやミラッサさんや他の怪我人たちもいるんだぞ!踏ん張れ俺!


「ビギイイイィィィィィィィィッッッ!」

「おらあああぁぁぁぁぁぁァァッッッ!」


 雷魔法と風魔法の混合魔法と、ファイアーボール。

 二つの巨大な球体がイビルディアーと俺の間で激突する。

 ……いや、俺の方が発射が遅れた。その証拠に激突した箇所が明らかにこっちよりだ。


 ……しかも相殺しきれてない!

 まずい、爆風が来る……ッ!

 俺が怪我人たちの盾にならないと!


 少しでも威力を後ろに逸らさないために、俺は皆の前に立った。


「アイスウォールっっ!」


 ミラッサさんが咄嗟に<氷魔法LV5>でアイスウォールを唱えてくれる。

 俺の前に分厚い氷の盾が出現する。

 しかし、スキルレベルの差以上に込められている魔力量が天と地の差だ。

 多分軽減できる威力はごく僅か。


 でもこれは大きいぞ。

 即死さえ免れれば俺は<ヒール>が使える。

 体も連続回復で限界に来てるけど、あと一回ならなんとか耐えてくれるはず!

 さあこい、全部この体で受け止める!


「ぐうううっっっ!? ヒールぅぅぅぅっっ!」


 全身を襲う風の刃と雷の衝撃。そしてヒールを唱えたことでその痛みがさらに増大する。

 限界を超えた体がバカになって回復を痛みに変換しているんだ。

 目の前がチカチカする。痛みで視界がおかしくなったらしい。

 耐えろ、耐えろ俺! ここを耐えれば……!


「……よっし、なんとか、耐え、た……」


 見た目の傷はほとんどない。ヒールのおかげで軽傷レベルだ。ただし、当の俺は痛みで立っていられないレベルだった。

 これ以上何か食らったら間違いなく耐えきれない。ショック死する。

 次で、絶対に決める……!


「ビギィィィッッ!」


 って、嘘だろ……? 魔法の用意が早すぎる!

 イビルディアーの二本の角には、俺に絶望を植え付けるに十分な魔力を携えた風魔法がすでに装填されていた。


「ファイアーボールっ!」


 慌てて唱えるが、明らかに間に合わない。風魔法は今にも放たれようとしている。

 くそっ、ここまでなのか……?

 諦めかけたその時、俺の視界を赤い何かが横切った。


「イビルディアー、こっちよ!」


 ミラッサさんだった。

 ミラッサさんが、イビルディアーに向かって駆け出していく。


「アイスボールっ!」


 素早い溜めで放たれたその一撃はイビルディアーに毛ほどのダメージも与えることはなかったが、その怒りの矛先を俺からミラッサさんに変えることには十分成功した。

 イビルディアーが「ビギィィッ!」と鳴き、その角をミラッサさんの方へと向ける。


「ミラッサさんっ!」

「こっちの心配はしないで! 一撃くらいならなんとか躱してみせるから!」


 ミラッサさんはこともあろうにイビルディアーの方へと接近を続ける。

 そして目と鼻の先まで近づいたところで、イビルディアーが風魔法を角から解き放った。

 さっきのより威力は落ちてるけど、それでも人ひとりの命を奪うには十分すぎるほどの威力。

 悲惨な未来が目に見えるようで瞼を閉じかけた俺の目に見えたのは、ミラッサさんがギリギリで魔法を躱し、イビルディアーの股の隙間を潜り抜けるところだった。


 な、なんで避けられたんだ?

 あんなに近づいてたのに……そうか、逆だ! 近づいたから避けられたんだ!

 近づけば近づくほど、少しの移動でイビルディアーは角の角度を変えなきゃならなくなる。

 そこに付け込んだのか! さすがミラッサさんだ!


 そして俺のファイアーボールの形成も完了した。

 あとはこれを撃つだけ。ミラッサさんが作ってくれたチャンス、絶対にここで決めるぞ!

 また耐えられて回復されるともうゲームオーバーだからな、慎重に……。


「レウスさん、あそこです! 首の付け根を狙ってください!」

「マニュ?」

「わたしを信じてください!」

「……わかった、信じる!」


<観察LV7>のスキルを持っているマニュは、たまに魔物の弱所がわかることがある。

 マニュのその力に頼ろう。マニュを信じよう。


 ミラッサさんが作ってくれたチャンス。マニュがアシストしてくれた一撃。

 これで決めなかったら男じゃないだろ!


「いっけええええええっっっッッッ!」


 イビルディアーの首求め掛け、全身全霊を込めたファイアーボールを撃つ。

 ミラッサさんに風魔法を撃ったばかりのイビルディアーはまだ魔力が乱れていて、魔法で防ぐことはできない。

 そして何発もファイアーボールを食らった足腰では素早い移動は不可能。

 だからこの一撃は、必ず命中する。


「ビギギギギギギイイイイイイイイイッッッ!」


 イビルディアーが今までで一番大きな声を上げる。

 一番大きな声を上げながら、倒れていく。

 きっとこの声を断末魔というのだろう。


 声が途切れると同時にイビルディアーは地面に横たわる。

 ズシン、と地を揺らすような低い音が、イビルディアーの絶命を知らせた。





「……勝った」


 勝った。勝ったんだ。俺たちは勝ったんだ!

 生き残った~、マジで良かった! 普通に泣きそうなんだけど!

 まさか全力のファイアーボールを耐えてくるなんて、今までの魔物とは桁外れに硬かったな。

 さすが異常種。


「レウスさん、や、やりましたね! しゅ、すごすぎましゅっ!」

「レウスくーん! やったわねあなた!」


 マニュが興奮で顔を赤くしながら俺の体をブンブン揺すっているし、ミラッサさんも手を振りながら全速力で俺の元へと走り寄ってきている。

 喜んでるのは皆同じか。そうだよな、そうに決まってる。……うん?


「あれ? なんかクラクラする……?」

「えっ、ちょっ、レウスさん!? だ、だだ、大丈夫ですか!?」


 ごめんマニュ、突然倒れちゃったらそりゃ驚くよね。

 でもなんか、体に力が入らないんだ。

 ……どうしよう、俺死ぬのかな……? 死ぬのは嫌だなぁ……。


「な、何があったのマニュちゃん!?」

「わ、わかりません、突然倒れて……」

「レウスくん、体触るわよ!」


 駆けつけたミラッサさんが俺の体をまさぐっている。

 こんなときでも気恥ずかしさって感じるもんなんだね。

 でもミラッサさんの凛々しい視線、やっぱりカッコいいな。仰向けに倒れて正解だった。


 ……こんなこと考えてないと、怖くてたまんないよ。

 だってどんどん視界が狭くなってきてるんだ。

 ……ああ、もうミラッサさんの顔も見れないや。


「ミラッサさん、レウスさんは!? 大丈夫ですよね、し、死んじゃったりしないですよね!?」

「……マニュちゃん、落ち着いて聞いてね?」


 目はもう見えなくなっちゃったけど、まだギリギリ声は聞こえる。

 最後に自分の死因を知れるのは幸福なんだろうか、不幸なんだろうか。

 ……まあ、どっちであろうと俺は聞くけどね。

 さあミラッサさん、教えてください。なんと言われても驚きません。


「レウスくんは、魔力切れよ」


 ……んん? 魔力切れ? それって……。


「何日か寝ればまた元気になるわ」


 ……恥ずかしいー!

 たしかに魔力が切れると体の力が抜けて強制的に意識が落ちるって聞いてたけど、まさかこんな感じだとは……。

 死ぬかもしれないなんて思っちゃって恥ずかしいな。

 でもしょうがないよね、なにせつい最近まで魔法なんて使ったことなかったんだもん、あはは……ガクッ。

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