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40話 閃く起死回生

 マニュの案を受け、ミラッサさんの動きが変わる。

 魔物に致命傷を与えるための動きから、魔物を近寄らせないための動きに。

 そして魔物が寄り付かなくなったミラッサさんの後ろを、リヤカーを引くマニュが続く。

 一緒に特訓をした仲だけあって、二人のコンビネーションは抜群だ。


「マニュちゃん、次は左に行くわよ!」

「了解です、ミラッサさん!」


 さすがミラッサさん、マニュに近寄ろうとする魔物をどんどんと吹っ飛ばしていっている。

 あ、もう一人目をリヤカーに乗せた。……そして二人目。

<運搬LV8>だけあってマニュの作業速度も速い。

 これなら本当に怪我人全員後方に運ぶのも無理じゃないかも。


 だとすると、あとは俺の問題か。

 マニュとミラッサさんが全員を後方に避難させるまで、自分の力だけで生き残らなきゃな……!


「さあ、かかって来いよ。俺の剣術を見せてやる」


 そう意気込んだはいいものの、正直勝てる気は全くしない。

 相手は未だ八十匹近い魔物、こっちは俺一人。

 たとえ俺が一流の剣士だったとしても、生き残るのは至難の業だろう。

 でもここは虚勢を張ってでも、立ち続けなきゃいけないところだ。


「せいッ! はぁッ!」


<剣術LV2>を精一杯フル活用して寄ってくる魔物たちを遠ざける。

 しかしミラッサさんと違って俺の剣の威力では、魔物たちもそこまでビビってくれない。


「やぁッ! ……っ!?」


 くっそ! いってえ!

 ま、まずいぞ、徐々に魔物たちの攻撃が俺の体に当たることが増えてきた。

 このままじゃ魔物の大群に呑み込まれる。そうなったら最後だ。


「ヒールっ!」


 自分自身にヒールを唱える。

 体の傷はたちどころに回復し――またすぐに新たな傷がつく。


「ぐあっ!?」


 くそ、このままじゃキリがない! いや、それどころか完全にジリ貧だ。

 ミラッサさんとマニュは……やっと半分くらいを救出したところか。


「ヒール……ぐっ!? ひ、ヒール、うあっ! ……ヒールっ、ぐふっ!」


 視界がくらむ。それに、なんだか頭もガンガンする。

 立て続けの超再生連発に体が悲鳴を上げてるみたいだ。

 だんだん再生自体にも痛みを伴うようになってきた。おそらくこの前のケビンと同じ症状だ。


 このままじゃまず間違いなく俺の体が堪え切れない。

 この感じだと、あと数回ヒールを使ったらその時点で意識が飛ぶ気がする。


「……ひー……る……っ」

「ギャオオオッッ!」


 うあっ! け、剣が弾き飛ばされて魔物の群れの中に……っ!

 くそ……もう万事休すなのか……?


 ……いや、違うだろ俺。

 こんなところで諦めるな。二人が俺のことを信じて命を張ってるんだから、ここで死ぬなんて無責任だ。

 考えろ、考えろ、考えろ。思考の海の深くまで潜れ。


 俺がここから巻き返すための武器はあるか?

 ある、ファイアーボールだ。


 でもファイアーボールは使えない。

 なんでだ? 人を巻き込むからだ。


 なら、巻き込まない方法はないのか?

 空に放てば周りを巻き込むことはない。だが、それでは魔物にも当たらない――


「――そうか」


 あったぞ、起死回生の糸口。

 もはや三百六十度を魔物に囲まれてる。

 一匹だけでも格上、それが八十匹近く。

 だけどこの状況からでも、状況をひっくり返すとっておきのジョーカーが俺にはある。


「ファイアーボールっ!」


 結局、俺の一番の武器はこれだ。

 魔物と魔物の隙間から、ミラッサさんとマニュの驚きの表情が見える。

 まだ全員を救出し終えていない、と言いたいんだろう。大丈夫、それはわかってる。

 わかったうえで、俺はこのファイアーボールを最大限に利用する。


 ファイアーボールの仕組みは簡単だ。

 呪文を唱える。体の任意の場所に火球が形成される。形状が安定したところで射出される。

 この3ステップを必ず必要とする。

 今回もその規則から外れることなく、呪文名を詠唱した俺の手のひらには、高濃度の魔力が溜まっていく。

 そしてそれはすぐに炎へと形を変え始める。……ここだっ!


「おらあッ!」

「ギャアアッ!?」


 ファイアーボールが留まったままの手のひらで魔物に触れる。

 ファイアーボールは形状が安定したところで射出される。

 逆に言えば、それまでは手のひらから離れないってことだ。

 どうだ? 俺のファイアーボールの威力は。形成途中(・・・・)でも、充分痛いだろ?


「はぁ、はぁ……っ」


 一か八かの策だったけど、成功してよかった……!

 おかげで一番近くにいた一体を跡形もなく倒せたぞ。

 しかもその光景を見た他の魔物が一瞬怯んでる。今がチャンスだ。畳みかける!


「くらえええっ!」


 形成途中のファイアーボールを盾にして、俺は前へと駆け出す。

 俺の手に火球が留まっている間は他の人を傷つける心配もない。


「ブワアアアアアアアッ!」

「ギャアアアアアッ!」

「グエエエエエエッ!」


 高濃度のファイアーボールは触れた魔物全てを一瞬で溶かしていく。

 よし、いいぞいいぞ……っと、そろそろか。


 俺がファイアーボールの形成にかかる時間は数秒間。

 わざと遅くしてみたが、それでも十秒がせいぜいだ。


 形成が完了したことを察した俺はファイアーボールを天に放った。

 これをこのまま魔物たちに撃つと巻き添えが出るからな。


 ただ、今の一連の殲滅のおかげで魔物たちの囲いから抜け出すことができた。

 あとは、マニュたちが全員助け出すのを待つだけ――


「レウスさん、全員救出しきりました!」

「どかんと行っちゃって、レウスくんっ!」


 ――オッケー、最高のタイミングだっ!


「ファイアーボールっっ!」


 立て続けに二発目のファイアーボールを準備する。

 魔物たちは先ほどの威力を見て警戒しているのか、こちらに近づいてこようとしない。

 だけどそれは愚策だぜ。

 こうなった以上そっちの唯一の勝ち筋は、俺が形成を終わらせる前に死に物狂いで撃たせるのを止めることしかなかったんだ。


「まあそれも、もう遅いけどな」


 天に掲げた俺の右手には、太陽と見まがうほどの輝きを放つ巨大なファイアーボールが誕生していた。

 久しぶりの全力ファイアーボールだ。

 君たちには悪いけど、俺たちの安全のためにチリ一つ残さず燃え尽きてもらう。


「はぁぁぁぁッ!」


 右手を振り下ろす。

 巨大な火球が墜ちてくる。


 魔物たちが逃げる間もなく着弾。

 響く轟音。消し飛んだ丘の頂上。

 そして一匹残らず姿を消した魔物たち。


 ――Cランクの狩場に、ファイアーボールという名の隕石が落下した瞬間だった。






「はぁぁ、つっかれたぁぁ……」


 思わず声に出てしまう。魔物たちが消し飛んだのを確認したことで、一気に緊張の糸が切れてしまった。

 めちゃくちゃヤバかった。めちゃくちゃヤバかった。

 マジで死ぬかと思ったもんね。てか二回くらい死んでない?

 大丈夫俺? まだ生きてる?


「凄い威力だったわね、あんなの食らったらそりゃ一たまりもないのも当然だわ」

「お、丘が半分削れちゃってる……しゅごい……」

「ミラッサさんもマニュもお疲れさまでした。そしてありがとうございます。二人のおかげで思いっきり撃てましたよ!」


 多分今の俺は満身創痍ながらに清々しい顔をしてるんだろうな。

 実際疲労感と同じくらいに爽快感がある。

 最初のころは全力で撃つと茫然したりしてたけど、慣れてくると全力でブッパなせるのって意外と楽しかったりするんだよな。

 そんな機会を与えてくれたのは二人が協力して怪我人を全員安全な場所に運搬させてくれたからだ。感謝感謝。


「わ、わたしはミラッサさんに守ってもらいっぱなしでしたから、ミラッサさんのおかげですっ。あ、あと、もちろんレウスさんも!」

「俺なんて魔法撃っただけだよ。二人がいなきゃ助けられてなかったって」

「あなたたちは謙虚ねぇ。とても冒険者とは思えないわ」


 マニュさんは俺たちに呆れたように溜息を吐き、その場に並べられているけが人たちを一瞥する。

 そしてまた俺たちの方を向いた。


「最終的に全員が助かったのは、マニュちゃんの機転とレウスくんの魔法の威力あってこそよ。二人が駆けつけてくれてなかったら、あたしは多分リキュウを助け出すので精いっぱいだったと思う。……レウスくん、マニュちゃん。あなたたちはここにいる人たちの命を救ったのよ。誇っていいわ。ううん、誇りなさい」

「ミラッサさん……はい、わかりました。誇ります!」

「わ、わたしも! わたしも誇ります!」

「うんうん、二人ともよろしいっ」


 ミラッサさんの瞳が満足げに細まる。

 ミラッサさんに褒められて、マニュは余った袖をギュッと握って嬉しそうだ。

 もちろん俺も嬉しい。


 ミラッサさんがいるとこうして俺たちのことにアドバイスをくれるから、すごく成長できる気がするなぁ。

 冒険者としてもだし、一人の人間としても。

 マニュはまだ十三歳だし、俺もまだ十五歳だし、パーティーを組むに当たってこういう年上の人がいると凄く頼りになりそ……ん?

 どうしたんだろうミラッサさん。

 すごく険しい顔してるけど、怪我でもしたんだろうか?


「……二人とも、静かに」


 違う、このトーンの声を出すってことは、怪我とかそんなんじゃない。

 まだいるんだ。魔物が。


「どこですか」

「丘の頂上よ。見える?」


 ミラッサさんが目線を送った方を向く。

 そこには得体の知れない魔物がいた。


「な、なにあれ……っ」


 マニュがそう声に出してしまうのも憚られないほどの奇妙な雰囲気。

 今まで向かい合ってきた魔物たちとは全てが根本から違うかのような佇まい。


 その理由として目で見て一番わかりやすいのは体色だ。

 神々しいとすら感じてしまう真っ白な体を見れば、本当に魔物なのだろうかと疑問すら覚えそうになる。

 しかし、額に生えた樹木のような二本の捻じ曲がった角と、そのギラギラとした本能に塗れた瞳が、ソレが魔物であると雄弁に語っていた。


 あれは……イビルディアーか?

 イビルディアーは鹿のような見た目のCランクの魔物だ。

 Cランクには珍しく風魔法を扱うことができる、魔力が多い魔物である。

 アレ(・・)はその見た目に似ているように思える。

 しかし、イビルディアーはごく普通の魔物だ。

 体の色も黒よりの焦げ茶だったはずだし、そもそもあんな雰囲気を纏ってはいないはず。


 自然と目を凝らす。

 アイツのことを詳しく知りたい。

 そんな俺の思いに応え、<鑑定LV10>が勝手に発動した。



◇――――――――――――――――――――――◇

 イビルディアー(異常種)

【ランク】?

【スキル】<統率LV7><風魔法LV7><雷魔法LV7><頑丈LV6><自己再生LV6>

◇――――――――――――――――――――――◇




 まず一番に目に飛び込んできたのは『統率』の二文字。

 ああ、そういうことね。今回の魔物たちの進軍の黒幕は君だったのか。

 じゃあまあ、倒さなきゃだよね。

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