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潜在魔力0だと思っていたら、実は10000だったみたいです  作者: どらねこ
1章 <ファイアーボールLV10>編
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4話 生活費も稼げないこんな世の中じゃ

 翌日、俺は魔物を倒しに岩場へと向かった。

 いつもは森へ魔物討伐に行ってるんだけど……さすがにあのファイアーボールを森の中で放つ気にはなれないしね。

 もしやったら、あっという間に森が全焼する未来が見える。というかむしろそれ以外の未来が見えない。

 そういう訳で、狩場を移すことにした。


「うっし! 心機一転、頑張るぞ!」


 屈伸を数回したあと、一人気合を入れる。


 この岩場は、一年、二年前まではたまに来ていた。

 まだチームを組めていたころだ。

 あのころはパーティーの中で色々役割分担とかして、楽しかったなぁ……。

 ……足手まといだったから、ほとんど荷物持ち兼解体係だったけど。

 それでも組んだパーティーの人たちはほとんどが俺を苛めることもなく、分け前もきっちり人数で割って払ってくれた。

 でも段々同期はDランクやCランクに上がってしまって、狩場を移していって、後輩はいつまで経ってもEランクの俺に気の毒そうな目線を向けてくるからあんまり関わりたくなくて……ソロで魔物を討伐することが多くなったんだよなあ。


 はぁ……って、テンション下げてどうするっ!

 今の俺にはファイアーボールがあるんだ! 気合い入れろ!

 パチパチと自分の頬を叩く。

 いってぇ……! ……でも、気合入った。


「よし、行くか」


 俺は周囲を警戒しながら歩き始める。

 ここに出る魔物は二種類。岩場にのみ生息するスライムである『ロックスライム』と、両手についた大きな鋏で敵を捕食する『ロックキャンサー』だ。

 どっちも剣や拳などの物理攻撃には強い敵。だけど、魔法には弱い。

 そのうえ身体もある程度丈夫だから、素材も残ってくれると思うし、力試しには格好の敵だ。


 ちなみに、今回特に狙うのは『ロックキャンサー』の方。

 なんでかって? 素材が高く売れるから。

 その日暮らしの生活だからな、少しでも高く売れる方を多く倒していきたい。

 プライドじゃ腹は膨れてくれないのだ。


「おっと、さっそくか」


 そんなことを思っていると、さっそくお目当ての魔物が姿を現した。

 ロックキャンサーだ。

 茶色と灰色の二色しか存在しない岩場に溶け込むように、茶と灰のまだら模様をした体色。

 今まで幾多の冒険者を圧殺してきた巨大な鋏。

 身体を守るように覆う固い甲羅。


 一対一で対峙してみると、正直少し怖い。

 冒険者なのに情けないとか、そんなことは分かってるけど、怖いものは怖いのだ。

 でも、この三年間で恐怖との向き合い方は身を持って学んだ。

 弱かった分、死にかけたことも一度や二度じゃない。

 死線ならトッププロに負けないくらいに潜ってきた。

 大丈夫、俺ならやれる。


「ファイアーボール!」


 ギルド長に見せた時とは真逆――出来る限り威力を絞って、目の前のロックキャンサーへとファイアーボールを唱える。

 努力の甲斐あって、直径百センチくらいの規模に抑えられた。

 まだでかいけど……でも、これなら周囲に影響は及ばない!


「くらえっ!」


 そのままロックキャンサー目掛けて火球を撃ち込む。

 魔法が直撃したロックキャンサーは、跡形もなく溶けて消えた。

 そう、消えたのだ。それはもう、跡形もなく。

 ……え?


「ちょ、ちょい待って? ……素材は?」


 素材が取れないと、ギルドにお金貰えないんですけど……?

 生活費、生活費が……!


「うわあぁぁぁ……生活費があぁぁぁ……っ」


 この日、岩場に一人の男の悲しい叫びが木霊したという。






 それから一週間後。

 この一週間一日も欠かさず街の近くの様々な狩場へと通っていた俺は、ついにある結論を得ていた。


 ――うん、ファイアーボールが強すぎて素材が残らねえ!


 LV10のスキルを習得したというのに、まさかの収入減。というか収入ゼロ。

 想定外中の想定外だ。

 魔物に弱いロックキャンサー以外なら素材が残るかもと思って試してみたりもしたが、やはり同じように塵一つ残らなかった。

 つまり、俺はこの街では魔法を活かすことはできないってことだ。


 ……マジかよ! 予想外だよこんなの!

 普通、強くなったら収入も増えて生活が潤ったりとかするんじゃないの!?

 逆に貧しくなってるんだけど! どういうことだよこれ!?


 とまあ、色々言いたいことはあるのだが、文句ばかりつけていても仕方ない。

 今日の俺はギルドにある意思を伝えに来ていた。

 宿から移動し、表口からギルドに入る。

 冒険者用の裏口は地下からの通路だが、表口は普通に地上にあり、ドアには魔道具によって匂いの行き来だけを遮断する魔法がかけられている。

 そのため、素材の血生臭い匂いも漏れ出さないという訳だ。


「あ、レウスさん。本日はどういったご用件でしょうか?」


 俺がギルドに入ると、すぐにギルド員が華のような笑顔を浮かべて俺に挨拶してきた。

 あの日俺に応対してくれた女性……すなわちギルド長以外に唯一、俺の潜在魔力が10000であると知っている人だ。

 潜在魔力が0ではなく10000であると判明して以来、俺をまるでSランク冒険者を見るような尊敬の眼差しで見てくれる。

 こんな綺麗な人にそんな眼で見られること自体は嬉しい。

 とても嬉しいんだけど……この一週間何の素材も持ち帰れてないだけに、なんというか、羞恥プレイを受けてるみたいな感じがしてしまう。

 俺が気にしすぎなんだろうか? 気にしすぎなんだろうなぁ……。


「? どうかされました?」


 ほら、こんなに邪気のなさそうな笑顔だし。


「いや、なんでも……少しギルド長と話がしたいんですけど、いいですか?」


 周りに聞こえないよう小声でそう伝えると、すぐにギルド員は慌てて裏へと駆けてゆく。

 やれやれ、少し前までは同じことを言っても見向きもされなかっただろうに……俺も凄いことになっちゃったなぁ。

 こんな扱いに慣れる日は来るのだろうか。来る気がしない……。

 と、しばらくするとギルド員の人がこちらへと戻ってくる。


「レウスさん、ギルド長は中でお待ちです。ご案内しますね」

「ああ、ありがとうございます」


 女性に案内されるがままについて行き、部屋に入る。

 他の仕事があるのか、もしくは気を効かせてくれたのか、ギルド員の女性は「では、失礼します」と言って帰って行ってしまった。

 これで俺はギルド長と二人きり。

 ……やっぱり、少し緊張する。


「レウス君、どうかしたかね?」


 そんな俺に、ギルド長は優しい口調で尋ねてくる。

 この人に促されると、言葉がスラスラと口から零れてくるから不思議だ。

 これが年の功というヤツなのだろうか。


「あの……俺、決めました」

「ふむ……『決めた』というと、あのことかな?」

「はい。俺、エルラドに行きます!」


 ギルド長にはっきりと告げる。


 ここに居ても魔法を使う機会がない。

 剣でならゴブリンを狩れるけど、一週間前に言われた通り、これだけの才能を使わずにいるのは俺も惜しいと思う。

 ――なら、魔法の才能が十全に発揮できる場所にこっちから赴くしかない。

 そんな決意を感じ取ってくれたのか、ギルド長は「ほほう」と片眉を上げてこちらを見た。


「ついにあそこへ行く気になったんじゃな」

「はい。行ってきます」

「頑張れよ、君なら必ず成功できる! 儂も追いかけるから待ってろよ!」


 そんな後押しの言葉が何より嬉しい。

 追いかける、か……。

 ……ん?

 え、ちょっと待って? 追いかけるって何?


「……え、あの、追いかけるって、どういう……?」

「うむ、レウス君のファイアーボールをみたら、儂の炎にメラメラ火がついてな? 現役復帰することにしたのじゃ」


 まじかよ!?

 目を丸くする俺の視線を、髭を撫でながら笑って受け止めるギルド長。

 あ、これマジだ。マジで言ってるよこの人。


「俺の記憶が間違ってなければ、ギルド長って今、七十歳くらいじゃなかったでしたっけ……?」

「七十一じゃな。人生死ぬまで冒険じゃわい! ホッホッホッ!」


 そう言って本当に楽しそうに笑う。

 そんな笑顔を見て、俺は観念する。

 ああ、この人には敵わないな。

 戦闘力とかそういう話じゃなくて、冒険者として敵わない。


 でも、今は叶わないけど、いつかは勝ちたいな。

 そのためには、エルラドに行かなきゃ!


「じゃあ、先に行って待ってます!」

「うむ。なまった体を鍛え直さんといかんから、ちょいと時間はかかるがの。必ず追いつくから待っておれ。それまで死ぬんじゃないぞ?」

「はい、もちろんっ!」


 そんな返事をして、俺は部屋を出た。

 よーしっ、待ってろよ最前線の街エルラド!

1章『<ファイアーボールLV10>編』完結です。次話から新章に入ります!

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