39話 苦戦と光明
書籍化決定しました!
ありがとうございます、ありがとうございます!
来春刊行予定です! 出版者様はまだ秘密です!
Cランクの狩場は丘。
Dランクの狩場である平原とBランクの狩場の森の丁度中間地点にある。
頭の中に響いた声から十数分後、俺とマニュはその丘の近くへと走ってやってきた。
「やっと見えてきたな。戦闘状況はどうなってるんだ?」
「れ、レウスさん、あれ……っ!」
「……っ!? な、なんだよあれ……!」
俺たち二人の足が揃って止まる。
魔物、魔物、魔物……丘の上全体が魔物でいっぱいじゃないか……!
十や二十じゃない、下手したら百ちかい数の魔物の大群。
それらがゾロゾロとニアンの街の方角へ向けて歩みを進めている。
悍ましく、そしてあり得ない光景だ。
これは一体どういうことだ……!?
魔物の大量発生は珍しいことだが、俺も何度か経験がある。
だけどこんなに統率された魔物たちの群れなんて、今まで一度も見たことないぞ……!?
「べ、別種の魔物同士がいがみ合うこともなく、協力して冒険者を倒そうとしてる……!? れ、レウスさん、こんなことってあり得るんですか!?」
「いや……俺も見たことない現象だよ。開いた口が塞がらない」
普通、別種の魔物相手には闘争心が働くはずなんだけど……どうなってるんだ?
何が起きているかさっぱりわからない。とにかく今の時点で分かることは一つだけだ。
――これは絶対に止めないとまずい。最悪の場合、ニアンの街が滅びるかもしれない……!
「マニュ、戦ってる人たちのところに急ごう!」
「はい!」
戦いが激しい場所は……あそこか!
戦闘が展開されている場所に急がなきゃ。これだけの魔物の群れと戦うのはかなりきついはずだ。
「行け、そこだ!」
「仲間が倒れた、誰か回復スキルを頼む!」
「数に怯むな! なんとかして押し返せぇ!」
冒険者たちのところに合流した俺たちの耳に、絶えず聞こえてくる冒険者たちの声。
前線はかなりの混乱状態にあった。
皆荒々しく声を発するばかりで、連携も何もあったもんじゃない。
未曽有の事態に、平静さを保てているのはほんの一握りの冒険者だけみたいだ。
そもそもこんな事態を想定した訓練なんて誰もしてないもんな。
かくいう俺もこれだけ大規模な正面戦争は初めて。緊張していないと言えば嘘になる。
「ぐああああっ! 腕があああっ!」
「痛え……痛えよぉぉ……」
押し寄せてくる魔物は約百匹。対する冒険者の数は七十人ほど……そのうち今も戦えているのはほんの二十人くらいだ。
状況は考えるまでもなく劣勢で、辺りには冒険者の悲鳴が絶えず木霊している。
「ひ、酷い……」
マニュが言葉を失くしてしまうのも無理ないよ。
こんな惨状、EランクやDランクの狩場ではまずあり得ない。
俺たちにとっては完全に未経験な事態だ。
「うぎゃああっっ!」
「あがあああっっ!」
その間にもあちらこちらで上がる叫び声。
状況は明らかにジリ貧。何か突破口がないとこの現状を打破することはできないだろう。
俺とマニュもそれぞれ剣と短剣を持って魔物の群れと対峙する。
「やぁッ!」
「ふッ! せいッ! ……おらぁぁァァァッ!」
「ガアアア……ッ」
……よ、よし、マニュと協力したおかげで何とか一体倒せたぞ……。
でも結構きついな。
剣の腕だけだと俺はEランククラスだしマニュも俺よりちょっと上くらい、二人で協力してもCランクを相手どるのは厳しいものがある。
「グロァァァァッ!」
……しかもすぐ次かよ。これじゃキリがない。
俺もマニュもCランク相手だと一人で相手取るのは無理だし、このままだとすぐにバテがきちゃうぞ……。
「そうだっ、俺がファイアーボールを撃てば……いや、無理か」
当初の予定だとそうするつもりだったんだけど、いざ現場を確認してしまったらそれは無理だ。悔しいけど。
魔物との戦いが長引いているせいで、冒険者側はどんどんと後ろに押し込まれている。
そのせいで、負傷して戦えなくなった人たちが魔物たちの群れの中に何人か取り残されてる。
今俺が全力でファイアーボールを撃てば、魔物のほとんどを倒すことはできるかもしれない。
だけど同時にあの人たちの命を奪うことにもなる。
でもかといって、<剣術LV2>の俺が普通に戦ってもほとんど戦力にはならないし……。
クソッ、俺はどうしたらいいんだよ! 助けに来たのに役立たずなのか!?
どうしたらいいんだ、どうしたら――
「レウスくん、マニュちゃん!」
誰かが俺たちを呼んでる。誰だ? ……って。
「ミラッサさんっ!」
ミラッサさんも応援に来てたのか!
その赤い髪を靡かせる凛々しい顔を見ただけで不思議と少し不安感が軽減された。
ミラッサさんは装備が魔物たちの血で真っ赤になっている。
つまりそれだけの敵を倒してきたってことだ。
そんな人がいるなら、勝ち目もあるかもしれない。
「戦況は率直に言ってかなりまずいわよ。リキュウも来てたけど、もう倒れちゃったし……このままだと、まず間違いなくあたしたちの負け」
ミラッサさんは流れるように魔物を斬り伏せながら、俺たちに情報を伝えてくれた。
……やっぱりそう上手くはいかないか。
ミラッサさんが首で示した先には、倒れている緑の髪の男がいた。
うつ伏せの状態で転がっているけど、あれがリキュウで間違いないみたいだ。
幸い魔物たちの方ではなく俺たち冒険者側にいるからまだ少しは安心だけど、このまま後退させられ続けたらいずれリキュウも魔物の群れに呑みこまれてしまう。
Cランクの魔物に苦戦する俺とマニュとは対照的にミラッサさんはバッサバサと魔物を斬っていく。
でも駄目だ、それでも一向に戦局はよくならない。むしろ俺たちが駆けつけた時よりもさらに悪くなっているんじゃないか……?
もはや戦えている人は俺たち含めて五、六人しかいないぞ。
「レウスくん、ファイアーボールを撃ってくれない? この数の魔物を相手に戦線を維持するのはもうほとんど限界よ、少しでも数を減らさなきゃ――」
「いや、でもファイアーボールを撃つと怪我人が巻き添えになってしまうんです」
俺だって撃てるものなら撃ちたいけど、でも無理なんです。
ギリリと唇を噛む。
わざわざ応援に来たのにほとんど力に慣れない不甲斐なさで、どうにかなってしまいそうだ。
せっかく<ファイアーボールLV10>なんてスキルがあっても、それが思いっきり使えないんじゃ意味がないじゃないか。宝の持ち腐れもいいところだ。
「ああ、そっか……そうなると本当に困ったわね」
「あ、あのっ」
……マニュ?
後ろの方に置いておいたはずのリヤカーをわざわざ前線まで持ってきて、どうした?
リヤカーじゃ戦えないぞ……?
……いや、でもこの目の輝き。
もしかして、何か策があるのかもしれない。
こんな状況だ、何でもいいから策があるなら教えてほしい。
「ミラッサさんにリヤカーごとわたしを護衛してほしいんですけど、この数の魔物が相手でも出来ますか?」
「魔物を倒さないでもいいならできるかもしれないけど……でも、そんなことしたって状況は良くならないわよ?」
ミラッサさんに護衛を頼む? 何のために……?
マニュのことだ、自分の身可愛さじゃないはず。
とすると……ああ、そういうことか!
「マニュ、つまりマニュが怪我人をリヤカーに乗せて後方まで持っていくってことだよね? そうすれば俺がファイアーボールを撃てるようになる!」
「その通りですっ」
名案だよマニュ、もしそれが可能なら、一発逆転できるかもしれない!
「ミラッサさん、出来ますか?」
どうですミラッサさん、可能ですか!?
俺とマニュの視線を受けて、意図を察したミラッサさんはグッと親指を突き立てた。
「……マニュちゃん、その案乗った! 早速怪我人のところに行くわよ!」
「はい!」
ようやく光明が生まれたぞ……!
二人ともお願いだ、なんとか怪我人を安全な場所に避難させてくれ!
そうすればあとは俺がファイアーボールで全ての魔物を焼き尽くすから!




