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35話 自然にね

 二日後。

 今日は俺とマニュにとってはパーティー結成以来初めての魔物討伐の日だ。

 やってきたのはDランクの狩場。Dランクの俺とEランクのマニュだと、安全に狩れるのはこの狩場までだしね。


「じゃあ、頑張ろうか」

「よ、よろしくおねがいしまっしゅ!」


 ぶぉんっ。

 風切り音が聞こえるほどのダイナミックな頭下げだ。

 自然と俺の頬にも苦笑いが浮かぶ。


「もう、マニュ。そんなに緊張しないでよ。知らない仲じゃないでしょ?」

「で、でも、レウスさんはDランクですし……やっぱり先輩というか。が、頑張って足手まといにならないようにするので、見捨てないでくださいっ」


 マニュは特訓を通して自信をつけたと思ってたんだけど……もしかして俺が威圧感与えちゃってるのか?

 こんなにペコペコしてたんじゃ戦闘になっても動きが硬くなっちゃいそうだし、ここは年上の俺が優しく声をかけてあげなきゃ。


「ランクなんか関係ないし、見捨てるなんてありえないって。マニュは俺にできないことができるんだから、胸を張ってくれれば――」


 ……ああ、そっか。

 ミラッサさんもこんな気持ちだったのかなぁ。

 俺はかしこまり過ぎてたんだなぁ……今更気づいたや。


「? レウスさん?」

「ああ、ごめんごめん。ちょっとボーッとしてた。とにかく、俺に対して気負う必要は一切ないから。むしろ……そうだな。マニュ、呼び捨てとかどう?」


 ちょっと荒療治かもしれないけど、マニュが俺にかしこまっちゃうのは『さん付け』してるからっていうのもありそうだし。

 呼び捨てにしてみれば、自然と心の距離も近づくかも。


 ……あれ、マニュ!?

 めちゃくちゃ顔赤くなってるよ!?


「ふぇぇ!? そ、それはちょっとその……恥ずかしい、です」


 マニュのほっぺたは、かぁぁっ、とまるでリンゴのように真っ赤になっている。

 いや、考えてみれば当然じゃないか。

 俺がミラッサさんを呼び捨てするようなもんだと考えれば、その無理難題加減が分かる。


 ああ、ごめんマニュ。

 俺変なこと言って逆にプレッシャーかけちゃったかも……というかこんなの、パーティー解消されても文句言えないんじゃ……!?

 そ、その前に謝らなきゃ!


「ごめんねマニュ、今のはちょっと……うっかり! うっかりしててさ! だからパーティー解消とかはまだちょっと待ってもらえると――」

「え、えっと……れ、レウス」


 顔を真っ赤にしたままで俺を呼び捨てにしてくるマニュ。

 ちょっと待ってやばい。

 俺まで顔赤くなりそう。というか多分なってそう。

 あああっ、早く何か言わなきゃ変に思われるよね!? 何か言わなきゃ、何か――


「う、うん。……レウスだよー」


 ――こんなん絶対駄目じゃん。

 せっかく勇気だして呼んでくれたのに、何やってんだ俺は!

 なんでひらひら手を振ってるんだよ! 自分で自分がよくわかんないよ!


「や、やっぱり無理ですっ。ご、ごめんなさいっ!」

「い、いや、今のは俺が悪かったよ。無理しないでいいからね」


 ま、まあ、無理して呼び方を変えるのも違うと思うしね。

 変えたくなったら変えてくれればいいから、当面はこれまで通りで行こう。

 その方が俺的にも安心というか……呼び捨てってやっぱりちょっとドキドキしちゃうし。


「よ、呼び方はそのままでいいけど、とりあえずそのくらいの気持ちってことで! よ、よろしく!」

「は、はい、レウスさんっ!」


 まだ俺にもマニュにも少しぎこちなさが残ってるけど、最初だししょうがないよね。

 これからゆっくりちゃんとしたパーティーになっていけばいいんだし。よーし、がんばろ!




 そして俺たちは狩場を進む。

 先頭が俺で、リヤカーを引きながらついてくるのがマニュだ。


 役割分担は単純。

 俺が戦闘役で、マニュが解体と運搬役。

 適材適所ってやつだね。


「……いた。マニュ、あっちだ」


 俺が指を指した先には、ドランクカウカウという大きな身体の牛の魔物がいた。

 のんびりと平原を歩きながら、生えている草を頬張っている。


「了解ですっ」


 俺が指示を出すまでもなく、マニュは自分から動き出す。

 決して俺の邪魔にならず、でも離れすぎて危険になる距離でもなく。

 まさに運搬役としては理想的な動き方だ。

 ミラッサさんと組んでいた時の俺とは雲泥の差だなぁ。惚れ惚れする。

 ……っと、見惚れてる場合じゃないよな。


「……」


 口を開かずに、ゆっくりとドランクカウカウに近づいていく。

 たしかドランクカウカウは雑食なんだっけ。

 草だけじゃなくて、人間も普通に食べるらしいからな。

 大きな口に丸呑みにされないように注意しないと。


 ……よし、この辺でいいか。


「……ファイアーボール」


 小さな声で呪文を唱える。

 唱えなくても出せるんだけど、唱えた方が威力も出しやすいしコントロールもしやすい気がするから声に出している。そういう人も多いみたいだ。


「グモアアッ!?」


 自分の身体よりもはるかに大きなファイアーボールに驚いたドランクカウカウは足が止まる。

 その隙に、ファイアーボールがズドンと直撃した。


 炎が消えると、そこにはドランクカウカウの死体が残っている。

 よしよし、しっかり倒せてるな。

 段々加減も上手くなってきたぞ。


「す、すごい……。何回見てもカッコいいですね、レウスさんのファイアーボール!」

「そうかな? ありがとマニュ、嬉しいよ」


 まさか褒められるとは思わなかった。思わず頬が緩んでしまう。

 俺にとってはもう慣れた光景だけど、マニュにとっては今の戦闘は新鮮で驚きに満ちたものだったみたいだ。


 俺に対してキラキラと目を輝かせてくれるなんて、なんだか誇らしいような照れくさいような……うん、正直に言おう。

 めちゃくちゃ嬉しいです。

 これ以上頬が緩むと気持ち悪い顔になっちゃいそうだから、なんとか意思の力で押し留めてるけどね。


「後はわたしが」

「うん、お願いするよ」


 ズイッと前に出たマニュが、魔物の身体に触れる。

 さあ、ここからは<解体LV8>のお手並み拝見だな……って、うおっ!?

 も、もう身体が開かれてる!?

 しかもドランクカウカウの買い取り素材である腸を、すごいスピードで回収して――


「あ、終わりました」

「……う、うん」


 速すぎるだろ!

 参考にしようと思ってたのに、目で追うので精いっぱいだったよ! というか正直目でも追いきれてないよ!?

 よくそんな平然と腸をリヤカーに入れてられるなぁ。

 正直俺だったらドヤ顔の一つもしたくなっちゃうところなのに。


「? どうかしました?」

「いや……尊敬だなぁと思って。マニュはすごいなぁ。パーティーが組める俺は幸せ者だ」

「ほ、褒めても何もでませんよ、もうっ。……えへへ」


 そんな可愛らしい笑顔が見れるなら充分だよ……って、さすがにちょっとキザすぎるか。

 言葉にするのはやめておこう。


 俺は解体も運搬もそんなに得意じゃないし、マニュには俺みたいな一撃必殺の威力の技はないし……互いの無いところを補い合えてるっていう意味では、自分でも言うのもなんだけど良いパーティーだよな。


「この調子でどんどんいきましょー!」


 しかも一体倒したおかげでマニュの緊張もほぐれてきたみたいで、段々自然な態度になってきたし。

 うん、良い感じだ。今の俺たちは全部が上手くいってる気がする。


「うん、そうだな。どんどん行こう」


 この感じを崩したくないし、一気に魔物を討伐してやるぞ!






 そんな感じで意気込んでいたのももう三時間前の話。

 俺たちはすでに狩場から街への帰路についていた。


「あっという間にリヤカーいっぱいになっちゃいましたね」


 ごろごろと転がる後ろのリヤカーを振り返りながらマニュが言う。

 リヤカーの台車部分には、山のようになった魔物の素材が積み上げられていた。

 普通じゃこんなに積み上げるのは不可能だろって感じの大盛りの山だ。さすが<運搬LV8>。


「まさかこんなに順調にいくとはね。自分でもびっくりだ」

「わたしもです。一日でこんなにモンスターを解体したのは初めてですよ」

「俺もリヤカーを押すの手伝いたいんだけど……ごめんね? マニュにばかり大変な思いさせて」


 小さな体のマニュがうんしょうんしょとリヤカーを押しているのを見ると、隣でほとんど手ぶらな自分が情けなくなってしまう。

 本当に手伝いたいのは山々なんだけど……俺が手伝った途端、あの山一気に崩れるだろうからなぁ。

<運搬LV2>の俺が手伝うことは、逆に脚を引っ張ることにしかならないのだ。

 だからこうして隣を歩く事しかできない。


「気にしないでも大丈夫ですよ? レウスさんは戦闘、わたしは解体と運搬。そう決めたんですから、これはわたしの仕事です。手伝いたいっていっても手伝わせませんっ」


「べーっ」といたずらっ子の様に舌をチロリと見せてくるマニュ。

 うん、やっぱり今日の狩りで一気に打ち解けられたような気がする。

 生死の懸かった状況を共に経験すると自然と距離が縮まるよね。

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