34話 パーティー
そして、それから約一時間後。
段々と酔いが回ってきて気持ち良くなってきたところで、マニュがふと真面目な顔をする。
あれからさらにビールをジョッキで十杯は呑んだのに、ちっとも酔っ払っている様子もない。
本当にお酒強いんだな。……で、何の話だろう。
「今日は、本当に本当にありがとうございました」
ペコリと頭を下げるマニュ。
どうやらずっと話を切り出すタイミングを窺い続けていたようだ。
でも、ちょっと話を切り出すのが遅すぎたかな。ほら、だって……。
「マニュぅぅ。何言ってんのよぉぉ、当然じゃらひの。だってあたひたち仲間じゃらい、でひょ?」
もうミラッサさんがベロンベロンだ。
そのままマニュに襲い掛かるように抱き着いている。
というかミラッサさん、どこが酒豪なんですか。
まだ一杯目も飲み干してませんよね?
「あはは、ありがとうございます。嬉しいです」
ミラッサさんに抱き着かれ、マニュは答える。
だけど、なんだかちょっと雰囲気が暗い。
「何か気になる事でもあった?」
俺はミラッサさんをマニュから引きはがしながら尋ねる。
ごめんなさいミラッサさん、今雰囲気的に邪魔なんでどっか行っててください。
でも、本当にどうしたんだろう。
暗いどころか泣きそうじゃないか。
さっきまでそんな素振り一つも見せなかったのに……一体どうして。
「……強くなろうと思って頑張って、この一週間でわたしなりに強くなったつもりでした。自信もつきましたし、実力も付いたと思います。……でも結局、最後は皆さん頼りになってしまったなぁと思ってしまって……」
……そっか。
最後に俺たちが助けに入ったことで、マニュは「自分だけの力で解決できなかった」と思ってしまったらしい。
でも、そんなこと気にする必要はない。
「いや、マニュは堂々と渡り合ってたよ。武力行使してくる方がおかしいんだから、もっと自信持ちなって」
あれはケビンたちが悪いんだ。
そもそも武力行使してくる時点でおかしいし、しかも三対一でもマニュは一度勝ったじゃないか。
そのあとケビンの卑怯な手で形勢逆転されちゃったけど、三対一で勝てた時点で自信を無くす必要なんて全くないと思う。
それに、俺は知ってるんだ。
この一週間、マニュがどれだけ頑張って来たか。どれだけ努力してきたか。
それを、俺は知ってるんだ。
ミラッサさんとリキュウもそうだと思う。
だから俺たち三人の中では、マニュはもう一人前の立派な冒険者なんだよ。
「俺はマニュの頑張りを見てて、凄いなぁって思ったよ。尊敬する」
「……ありがとう、ございます」
マニュの目から、つぅと涙が零れる。
衝動的に、俺はマニュの頭を自分の方に寄せていた。
「よしよし、頑張ったなマニュ?」
小さな頭を撫でる。
ずっと触っていたいほどサラサラの金髪だ。しかもちょっと良い匂いがする。
そのまま撫で続けていると、腕の中のマニュがしゃくりあげながら言葉を発した。
「……ふぇぇん。めちゃくちゃ緊張しましたぁ……っ。ケビンさんたち怖いし、足も声も震えそうになって、頑張って我慢して……っ!」
抱え込んでいたものを俺に吐き出してくれた。
それが嬉しい。
「うんうん、よく頑張ったね。偉いぞ」
だから、俺はマニュが泣き止むまで頭を撫で続けた。
ようやくマニュが落ちついてきた頃。
俺たちに声がかけられる。
「で、どうすんだ?」
「うわっ……って、リキュウ。なんだ、起きてたんだ。声かけてくれればよかったのに」
「あんな雰囲気で入って行けるわけねえだろ。ミラッサに脚をずっと蹴られ続けながらも息をひそめてた俺を褒めろ」
リキュウが眉を顰めて隣のミラッサさんを見る。
あ、本当だ。めちゃくちゃリキュウの脚蹴ってるな。
「すごいなリキュウ、良く耐えた。よしよししようか?」
「殺すぞ。いるかそんなもん」
そうか。もし望むならしてやろうかと思ったのに。
「で、どうなんだよ?」
リキュウは再び同じようなことを口にする。
どうやらマニュではなく俺に言っているみたいだ。
だけど、イマイチ意味が分からない。
真意を量れず首をかしげる俺に、やれやれとため息をついてリキュウは続けた。
「レウスはマニュをパーティーに誘ったんだろ? そんで、マニュは『もうパーティーを組んでるから』って断った。でももうそのパーティーも抜けた。……それで『はい終わり』でいいのか? いいなら俺が口を出すことじゃねえかもしれねえが」
なるほど、そういうことか。
リキュウに一つ頷いて、俺はマニュの方へと向き直った。
「マニュ」
「は、はい」
マニュの澄んだ蒼い目に俺が反射している。
どこまで綺麗な目なんだ。
いや、綺麗なのは目だけじゃないけどさ。
……言おう。
そうだな、言わなきゃだよな。
「マニュにお願いがあるんだ。……俺と、パーティーを組んでくれないかな」
腕だけマニュの方に伸ばして、思い切り頭を下げた。
「……レウスさん」
「う、うん」
頭の上から声がする。
緊張の一瞬だ。
心臓がめちゃくちゃドキドキするのは、絶対に酔いのせいじゃないと断言できる。
でも顔が赤いのは……どっちのせいだろうか。わからない。
息を呑んで待つ俺の手に、柔らかい感触の何かが触れた。
小さくて温かいそれがマニュの手なのだと、一拍遅れて気づく。
顔を上げた俺の前には、笑顔のマニュがいた。
「不束者ですが、どうぞよろしくお願いしますっ」
……やった!
俺、マニュとパーティーを組めるんだ!
「こちらこそよろしくね、マニュ」
「はいっ!」
マニュとガッチリ握手をする。
小さい手だなぁ。小さくて、柔らかい手だ。
だけど、ちゃんと冒険者の手だ。
短剣を握り続けて出来たタコがそれを証明していた。
……ん? なんか、視界の端から赤いものがこっちにくるぞ――って、ミラッサさん!?
うわ、避けられな――
「おめれとーっ!」
「う、うわっ!?」
俺の上に思い切りかぶさってくるミラッサさん。
酔いの回った頭でも、俺たちがパーティーを組んだことだけは理解できたみたいだ。
……でもちょっと今それどころじゃない。
「ミラッサさん、あ、当たってますって!」
胸が! 柔らかい感触が手に!
ミラッサさん、早く離れてください!
「よかったわねぇ、よかったわねぇっ!」
あ、駄目だ。
酔ってて話が聞こえてない。
とまあそんなこんなで、俺はマニュとパーティーを組めることになった。
……めでたしめでたし、でいいよね?
3章【マニュ・ルナチャルスキー編】終了です! 次話から4章に入ります!
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