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潜在魔力0だと思っていたら、実は10000だったみたいです  作者: どらねこ
3章 マニュ・ルナチャルスキー編
30/81

30話 草むらの中から

 それから一週間。

 四人での特訓の甲斐あって、とうとうマニュは人型モンスター相手にも全力を出すことができるようになった。

 ちなみに、今のマニュのステータスはこんな感じだ。


◇――――――――――――――――――――――◇

 マニュ・ルナチャルスキー

【性別】女

【年齢】13歳

【ランク】E

【スキル】<解体LV8><運搬LV8><観察LV7><危機回避LV6><野草知識LV4><短剣術LV3>

◇――――――――――――――――――――――◇



 運搬LV8と解体LV8だけでも充分凄かったのに、それに最低限の戦闘能力が付いたんだから鬼に金棒だ。

 まあ、最低限って言っても俺の<剣術LV2>よりもレベルが上なわけだけどね。とほほ……。


 いくらレベルが低いうちは成長が速いって言っても、一週間でLV3まで上がるのは相当早い方だろうな。

 なんにせよ、この一週間でマニュは生まれ変わったと言ってもいい。


「なんとか間に合ったな」


 最後の訓練の帰り道、マニュにそう囁く。

 マニュは「はいっ」と嬉しそうに笑顔を零した。

 ギリギリ間に合った。明日はケビンたちが退院してくる日だ。

 いよいよ明日、マニュは生まれ変わった自分の姿をケビンたちに見せつけて、今のパーティーを抜けるのだ。


「いい結果になるように頑張ります。冒険者は、自己責任ですから……!」


 ふんす、と気合を入れるマニュ。

 気合の入れ方まで可愛らしい。でも、その気合は本物だ。


「言うようになったじゃんか」

「皆さんのおかげですっ」


 どうやら俺たちとの特訓のおかげで自分への自信もついたようだ。嬉しい誤算だな。

 でも考えてみれば当然かもしれない。

 今までのマニュはずっと戦えないことに対する劣等感を抱えていたんだ。

 それがなくなれば、自信を取り戻せるのは自然な流れだもんな。


「マニュならきっとどうにでもなるよ。明日は俺は隠れて見てるだけだけど、ずっと応援しとくから」


 俺が口を出すのはマニュのためにもならないし、なによりマニュが自分一人で解決することを望んでいる。だから、俺も明日は口出ししないと心に決めていた。

 リキュウとミラッサさんの二人も各々バレないように見守るらしい。

 あの二人もなんだかんだでおせっかい焼きなのだ。まあ、俺もかもしれないけど。

 ……って、マニュ? クスクス笑ってるけど、何かおかしなことでもあった?


「どうかした?」

「隠れて見てるだけって、ちょっとストーカーみたいだなって思っちゃって。あ、もちろん良い意味でですよ?」

「……本当に言うようになったなぁ」


 まあ、それだけ言えれば明日も問題なさそうか。

 ところでマニュ、ストーカーに良い意味なんてあったっけ?




 そして、とうとう運命の日。

 マニュとケビンたち三人の男は、ギルドで待ち合わせをしていた。

 俺は朝から飲んだくれている冒険者たちに姿をまぎれさせ、彼らの様子をそれとなく見守る。


「よぉ、お前がさっさと助け出さなかったおかげで一週間も入院しちまったぜ。どうしてくれんだよ」

「入院費は持ってきたか?」

「そうだそうだ」


 相変わらずのっけから面の皮の厚いヤツラだな……。

 まず最初は「助けてくれてありがとう」だろうが。そんなことも知らないのか?


「入院費は払いません」


 よし、良いぞマニュ、その調子だ!

 ほら、アイツらもいつもと違うマニュの雰囲気にちょっと驚いてるぞ!

 ……お? 取り巻き二人の内の一人が驚きから怒りに変わったな。


「はぁぁ!? てめえ、自分だけ運よく無傷で助かったからって調子乗ってんじゃ――」

「おい、やめとけ」

「け、ケビンさん。でも……」

「でももマリモもねえ。俺がやめとけって言ったらやめろ。その耳は飾りか? あん?」

「す、すみませんっ!」


 やっぱりあの三人の中のリーダーはケビンで間違いないみたいだな。

 恐怖でまとめ上げるのは良いこととは思えないけど、それでもその手腕だけは大したものだ。

 そのままケビンはマニュを顎で見る。


「で? 退院してすぐの俺たちを呼び出したのは一体どんな用事だよ。くだらねえ用だったらただじゃおかねえぞ?」

「この一週間、わたしは戦闘ができるようになるために特訓しました。今日は、わたしの狩りを見てもらいたくて皆さんに集まってもらったんです」

「ほう……? 面白え。あの無様なへっぴり腰を披露してたEランクのお前が戦えるようになったってことか? そりゃ傑作だ、見せてもらおうじゃねえか」


 大丈夫、マニュは冷静だ。

 しっかり相手の目線から逃げないで向かい合っているし、おどおどしている様子もない。

 自分に自信がついたおかげでケビンとも互角に渡り合えてるぞ。


 っと、ギルドから移動するみたいだな。

 会話の内容からして、行き先はEランクの狩場か。

 不自然にならないよう、少し間を開けてついて行かなきゃな……って。


「あっ」

「げっ」

「あらっ」


 リキュウとミラッサさん……。

 ああでもそうか。狩場までの道のりを尾行したら、そりゃ鉢合わせるよな。

 なんだか奇妙な気まずさを漂わせたまま、無言で数秒。


「……一緒にいく?」

「そうだな」

「そうしましょう」


 そういうことになった。


 三人で合流した俺たちは、再びマニュたちの後を尾けてゆく。

 人数が多くなった分、音も出しやすくなっちゃったからな。その辺バレないように気を配らないと。

 ケビンたちはあんまり周囲を警戒している様子もなさそうだから、ちょっとくらいじゃ尾行はバレないとは思うけど、念には念を入れなきゃな。




「さあ、狩場に着いたぜ?」


 よしよし、バレずに無事Eランクの狩場までたどり着いたぞ。

 あとはこの草むらに身を隠しながら、マニュたちの行方を見守るだけだな。


「お前の特訓の成果とやらを見せてもらおうじゃねえか。なあお前ら」

「そうだそうだ!」

「見せてみろ!」

「わかってます。じゃあ、まずはあそこのスライムから行きます」


 そう言うと、マニュは手慣れた動作で短刀を構える。

 そしてそのままスライムの方へタタタタッと疾走した。

 即座に距離を詰め、そのまま短刀をスライムの脳天に突き刺す。


「ギャギャッ!?」

「ふう……」


 マニュが息を吐くのとほぼ同時、スライムの身体がドロドロと溶けていった。

 もうスライム相手じゃ戦いというよりも作業だな。全く危なげない。

 しかし、それではケビンたちも納得しないようだ。


「おいおい、特訓の成果っつーのはそんなもんか? 大体お前はスライムとは前も普通に戦えただろうが。特訓したっつーなら、そんな最下級の魔物じゃなくてよぉ……」


 そこまで言って、ケビンはビッとその剣で遠くを歩く魔物を指し示す。


「そこのラージゴブリン。あれくらいは相手してもらわねえとなぁ?」


 ら、ラージゴブリン!?

 ……本当だ、ラージゴブリンがいる! なんで!?

 本来アイツはDランクの狩場にしかいないはず!

 なんでこんなところに……Dランクの狩場から移って来たのか!?


「ほら、速くしろよ。特訓したなら倒せんだろ?」


 ラージゴブリンがいたのをいいことに、ケビンのヤツ、ニヤニヤと笑いやがって……。

 まさかアイツラがラージゴブリンを連れてきたって可能性は……いや、それはいくらなんでもないな。考え過ぎだ。

 今さっき狩場に行くって知らされてからこれまで不審な動きはなかったし、第一そんな器用な芸当が彼らに出来るとは到底思えない。

 たまたま紛れていたラージゴブリンを運良く発見しただけだろう。


 ラージゴブリン。ヤツは確かに強い。

 ゴブリンより一回り大きい体格から繰り出される棍棒の振り回し攻撃は、一発喰らえば並の冒険者なら致命傷だ。

 本来ならば、Dランクが適正ランクである。

 ……でも、今のマニュならもしかしたら!


「……わかりました。アイツを倒してきます」


 そうだ、その意気だ! 頑張れマニュ~っ!

 俺には天に祈りをささげることしかできないけど、応援してるぞ~っ!


 そんな俺の祈るような視線の先で、トタタタと駆けだすマニュ。


「グギャッ?」


 くそっ、もうマニュの接近に気付いたか!

 さすがDランク、索敵範囲も広いな。

 でも、マニュだって負けてないんだぞ。


「っ……!」


 ただでさえ低い体勢をさらに低くして、勢いを増す。

 短剣を構えて一直線に突撃するその様は、さながらランスの一撃だ。

 あれが俺たちとの特訓の一番の成果だ。

 軽かった身のこなしを回避だけじゃなく、攻撃にも応用させた技。

 わかっていても、よっぽどじゃなきゃ避けられない。


「ギャッギャッ!」

「あなたに恨みはないけど、倒させてもらいます……!」


 ラージゴブリンとマニュ。両者の身体が平原の真ん中で交錯する。

 そして――


「ギャ、ア……ッ」


 ドサリ、とラージゴブリンの身体が地面に倒れた。


「や、やった……」


 すごい、すごいぞマニュ! 良くやった!

 ラージゴブリンなんて、俺でもファイアーボールなしじゃ絶対倒せない相手なのに!

 凄いよマニュ!

 ああもう、もっと近くにいってマニュを褒めてあげたいのに、なんでこんなところに隠れなきゃならないんだ。

 ……う、うわっ!? なんだ!? 後ろに引っ張られるぞ!?


「レウスくん、ちょっと抑えて。じゃないと見つかっちゃうっ」


 シーッと、口元に手を当てているミラッサさん。

 どうやら俺は熱中しているうちに草むらから身体が出てしまっていたようだ。

 あ、あぶねー。ミラッサさんが引っ張ってくれなきゃバレてたかも……。


「あ、す、すみません……っ。……でも、やったっ」

「ああ、見事なもんだぜ」

「さすがマニュちゃんね」


 俺たちストーカー三人衆は、マニュの快挙を草むらの中から喜んだ。

 ……本当なら、もっと大々的に祝ってあげたかったなぁ。

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