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潜在魔力0だと思っていたら、実は10000だったみたいです  作者: どらねこ
3章 マニュ・ルナチャルスキー編
23/81

23話 情報収集、酒場が似合う男から

 翌日。


「なんだよレウス、わざわざ会いに来たりして」

「いや、ちょっと話が聞きたくてさ」


 俺はリキュウと酒場で待ち合わせをしていた。

 リキュウは酒場に完全に馴染んだラフな服装をしている。

 改めて考えてみると、俺が今まで関わりのある人の中でも一番冒険者然とした性格と雰囲気なのがリキュウかもしれない。

 良いところも悪いところも含めて。


「まあ、何の話だってしてやるよ。奢ってくれるってんならな」

「そりゃもちろん。わざわざ狩りを中止してもらっちゃったんだから、それくらいは当然だ」

「おいマスター、この店で一番高い酒くれ」

「……ほどほどにしてな?」


 酒場で一番高い酒っていくらするんだ……?

 滅多に来たことないからわかんねえ。

 未知の値段にビクビクする俺を見て、リキュウは愉快そうに笑う。


「カッハ、そんなビビんなって。この店は安酒しか置いてねえから。まあその代わり、浴びるほど飲むから覚悟しとけよ? ……つーか、お前は呑まねえのか?」

「俺、酒は苦手なんだよなぁ」


 一応十五歳だし、呑めないことはないのだが……あの苦い感じが好きになれない。

 そんな俺の渋い顔を見て「ハッ、まだまだお子ちゃまだねぇ」と馬鹿にしたように鼻を鳴らすリキュウ。

 普段ならムッとしたりするところかもしれないけど……今日の俺は色々と聞きに来てる立場だからな。立場は弁えるぞ。


「なあリキュウ、早速話に入りたいんだけどいいか?」

「ん? ああ、いいぜ。そんで、マニュの話だったか?」


 リキュウは片膝を立て、俺の話を聞く体勢に入った。

 人の話を聞く体制が片膝立てってのもおかしな話だが、一々気にしていても始まらない。

 今日の俺はマニュのことを聞きに来たんだから。


「昨日の夜ミラッサさんに聞いたら、リキュウなら何か知ってるかもって言われてな」

「まあ、俺はこのギルドのことなら大抵知ってるしなぁ」


 どうやら俺の知らない間に、リキュウはこのニアンの街のギルドの情報通になっていたようだった。

 まだこの街にやってきてから高々一ヶ月も経っていないはずなのだが、リキュウは持ち前の遠慮のなさで交友網をあっという間に広げたらしい。

「あの馬車に乗っていた四人の中で今一番有名な人間は?」と聞かれれば、おそらくミラッサさんではなくリキュウの名が上がるだろう。ちなみに俺は多分三番目だ。

 有名になってくれていたおかげでこうしてすぐにリキュウとコンタクトを取れたのはありがたかった。


「マニュのこともある程度は知ってるぜ。なんであんな柄の悪いヤツらとつるんでるのかってことも見当はついてる。確証はないけどな」

「その話、詳しく聞かせてくれないか?」

「ああ、いいぜ」


 リキュウが前のめりの体勢になる。

 周りに聞こえないようにするための配慮ってところだろうか。

 酒場は常に喧騒がやまないが、たしかに注意しないよりはした方がいいのかもしれないな。


「まず、アイツらとマニュとの出会いの話だが……それはよくわからん」

「わかんないのか?」

「俺だって全部を知ってる訳じゃねえよ。ただな、あの男たち……特に三人の中でもリーダー格でCランク冒険者のケビンって男には悪いうわさが付いて回ってる。噂ってのは大抵尾ひれがつくもんだが、あそこまで悪い噂だらけだとさすがにまともな人間じゃねえだろうな」


 なるほど、リーダー格の男はケビンって名前なのか。

 そんで、ケビンは悪いヤツと……。

 聞いた情報はちゃんと覚えておかないとな。


「で、いつの間にかマニュはケビンたちのパーティーで働くことになったってわけだ。まあ十中八九……というか確実に無理やり加入させられたんだろうな。んで、そうなるってことは脅されてるってことだ。じゃなきゃ加入なんてしねえしな」


 そう言うと、リキュウはピッと指を二本立たせる。


「脅されてる理由として考えられるのはいくつかあるが、多いのは金と不祥事。だからまあ、マニュがアイツらから金を借りてるか、人に言えない弱味や悪事をアイツらに握られてるかのどっちかだろ」


 なるほど……。

 リキュウの話は筋道が通っているように思えた。

 たしかに無理やり従わされて、かつ逃げだす素振りがないとなると、マニュはケビンたちに何かしらの弱味を握られていて逆らえないと考えるのが自然だ。


「どうだ、参考になったか?」


 グラスに入った酒を乱暴に胃に流し込みながら、リキュウは俺に尋ねてくる。

 そんな態度に、俺は正直ムッとした。


「そこまで知ってて助けようとしなかったのか?」


 マニュがどんな目に合ってるか、リキュウは知ってたんだろ?

 なら、救いの手を差し伸べてあげてもいいじゃないか。

 そんな俺の発言は、リキュウからすると目が飛び出るくらいに甘いものだったらしい。


「……は? 何甘いこと言ってんだお前。冒険者なんだから、その辺は自己責任だろ? なんで偶然地竜車に乗り合わせただけのヤツのために、俺が厄介ごとに首を突っ込まなきゃいけねえんだよ」

「それは、そうかもしれないけど……」

「それに、流されるアイツも悪いんじゃねえか? 俺は無理でもお前かミラッサのヤツに相談すりゃなんとかなったかもしれねえのに、それさえしなかったんだろ? それじゃ自分で助けを求めるのを諦めてるようなもんだ。自分じゃ何もしないでただただ誰かが助けてくれるのを待つってヤツ、俺は好きじゃねえんだよな」


 ……言い返せない。

 たしかにリキュウの言っていることはもっともだ。

 冒険者は何が起きても自己責任だし、誰も助けてくれないのが当たり前。


「……でも、俺はほっとけない」


 拳をぎゅっと握りしめる。

 マニュをこのまま放っておくなんて、できない。できっこない。


「……さっきから不思議だったんだがよぉ、お前がそこまでマニュに入れ込むのはなんでだ? 正直お前もマニュとそんな関わりがある訳じゃねえだろ。今日までマニュの置かれてる状況も知らなかったんだしよ。……なんだ? 惚れたか?」

「ああ、惚れた。一目惚れだよ」


 あのスキル、本当に凄いもんな。ほれぼれする。

 まあそんなことは二の次で、本当はただマニュを助け出したいだけなんだけど。

 「すごいスキルを持ってるから助けたいと思った」って方がリキュウにとっては納得しやすいだろう。

 それも一割くらいは本心だし、嘘はついていない。


「……おお」

「ん、なんだ? どうしたんだリキュウ」

「……いや、お前って意外と大胆なこと言うんだな、と思って」


 ぽかんと口を開けられても、何に驚いているんだかわかんないんだけど……。

 俺、そんな変なこと言ったっけ? 言ってないよね?


「よくわからないんだけど……情報ありがとう、助かったよ」

「本来なら情報料の一つでもいただくとこなんだが……地竜車でのよしみと、ここの酒場代でチャラにしてやんよ。感謝しな」


 感謝しろと言われたので「ありがとう」ともう一度繰り返す。

 「素直でいいじゃねえか。感心感心」って、お前すげえ上から来るな……。

 いや、まあ今の立場は実際リキュウが上か。

 CランクとDランク、話を聞かせてる側と聞かせてもらってる側だもんな。


 ……でも、さっきからなんか腑に落ちない顔をしてるんだよな、リキュウのヤツ。

 腑に落ちないというか、煮え切らないって感じか?

 本心を言っていないというか、なんかそんな感じが――。


「……まあ、俺だって名前も顔も性格も知ってるやつがあんな目にあってて何も感じないってわけじゃねえ。直接何か助けてやるってことはしねえが、上手くいったら言えよな。祝いくらいはしてやんよ」


 これがリキュウの本心なんだろうか。

 だとしたら、やっぱりコイツは悪いヤツじゃないよな。

 今一気に酒を煽ったのはどうやら照れ隠しのつもりみたいだし。


「リキュウ、お前意外と良いヤツだな」

「意外じゃねえだろ、俺は真っ当に良いヤツだ」


「それはないだろ」と言うと、「失礼なヤツだなお前」と帰ってきた。

 互いに笑って、俺は一口酒に口をつけた。

 やっぱり苦かった。

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