22話 不穏
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マニュ・ルナチャルスキー
【性別】女
【年齢】13歳
【ランク】E
【スキル】<解体LV8><運搬LV8><観察LV7><危機回避LV6><野草知識LV4>
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……ちょっと待って。マニュのステータス、めちゃくちゃ凄くない?
思わずジッとステータスを凝視しちゃったよ。
「え、マニュ……? 君はマニュで合ってるよね……?」
「は、はい。わたしはマニュですけど……?」
そうだよな。ステータスの名前の欄もちゃんとマニュ・ルナチャルスキーってなってるし、マニュで間違いないよな。
ってことは、これは本当にマニュのステータスだってことだ。
「……ねえマニュ。相談があるんだけど、いいかな?」
「へ? なんでしょう?」
「俺とパーティー組んでください。お願いします」
こんなレベルの高いスキル持ってる人、ミラッサさん以外で初めて見た。
しかももう性格もある程度は把握済みで、大人しいけど変な子じゃない。
パーティーを組むのにこんなに理想的な人もそうはいないぞ!?
なんとか俺とパーティーを組んではもらえないかな。
この通り、頭ならいくらでも下げるから!
「うぇ!? うぇうぇっ!?」
突然のパーティーの勧誘に、マニュは少し……だいぶ戸惑っているようだ。
さすがに少し先走り過ぎたかもしれないな……なんだか言ってしまってから反省してきた。
もうちょっと流れの中で切り出した方が良かったかもしれない。
頭をあげれば……ほら。マニュが信じられないって顔してるし。
「わ、わたし、全然戦えないですよ? あのラージゴブリンが襲ってきた時なんて、一匹も倒せなくて……レウスさんも見てたじゃないですか」
「うん。でも俺がマニュに期待してるところはそこじゃない。マニュには解体と運搬専門の役割を担ってほしいんだ」
反省はしなきゃいけないけど、もうこうなってしまった以上は仕方がない。
ここからなんとか巻き返そう。なにも考えなしでパーティーを提案したわけじゃないんだ。
マニュは不思議そうな顔で、袖から少しだけ出ている指を口元に当てる。
「解体と運搬だけ……?」
「ああ。魔物と戦うのは全部俺に任せていい。マニュにやってほしいのは今言った二つと、おまけで周囲の危機察知くらいかな。あ、もちろん危機察知は俺もやるけど、協力してってこと」
マニュはたしかに戦闘能力は低いのかもしれない。
実際にラージゴブリンとの戦闘では全く戦えていなかったのをこの目で見た。
だけど、それを補って余りある高レベルのスキルを二つも持っている。
<解体LV8>と<運搬LV8>――これを活かさない手はないだろう。
マニュとパーティーを組むことができれば、LV2の俺がやるより素材を剥ぎ取る時間も短縮できるし、必要最低限の部位だけを剥ぎ取れるから運搬量も増える。
そしてマニュも苦手な戦闘をしなくてすむ。
俺たちにとってはWin-Winだ。
「で、分け前は半々で」
「は、半々!?」
……え、そんなに驚く?
もしかして俺、常識しらずな提案をしてしまっただろうか。
「だ、駄目かな? 一応命を張ってマニュを守る訳だし、半分くらいは欲しいなって思ったんだけど……」
正直言って、お金は欲しい。
今後新しい魔導書を買うためにも必要だし、エルラドに行くための旅費だってかかる。
何事にもお金は必要だ。ごうつくばりに思われるかもしれないけど、無償で命を懸けるなんてことは俺にはできない。
……まあでも、三割くらい貰えるならいいかな……?
「どうしてもっていうなら、俺の取り分は三割まで下げてもいいよ。それ以上はさすがに厳しいけど……」
「い、いや、そうじゃなくて! わたしは解体と運搬だけで五割も貰うのは、貰い過ぎじゃないですか……?」
……あ、そっち?
貰い過ぎだと思ってたのか。それは流石に予想外だ。
「そんなことないよ。だって解体と運搬って討伐と同じくらいに重要な作業じゃん」
たしかに運搬と解体は討伐に比べるとどうしても軽視されやすい作業だ。派手さもないし、作業自体には危険も少ないし、質を求めなければ誰でも出来るし。
でも、とても大事な作業だと思う。
いくら魔物を狩ったとしても、素材が手に入れられなければ冒険者にお金は入らない。
最近までファイアーボールで素材を燃やし尽くしていたせいで生活に困っていた俺としては、解体と運搬の大切さは他の人より身に染みてわかっているつもりだ。
「そんな風に言ってくれる人、初めてです……。あ、ありがとうございます。その……嬉しいです」
マニュは俯きながら恥ずかしそうに服の裾をにぎにぎと握る。
もしかしたらずっと、マニュは戦闘が苦手なことへの負い目を感じで生きていたのかもな。
そんな俺の勝手な推測が当たっているなら、俺がその認識を少しでも変えてあげたい。
だって、マニュは凄い人なんだから。
「どういたしまして。……で、どうかな? 俺は真剣にパーティーを組んでほしいんだ」
見つめた蒼い目は、一瞬大きく開かれて俺に向く。
そしてそれからすぐに、今度は申し訳なさそうに伏せられた。
「わたしを認めてくれたことも、誘ってくれたことも、本当に嬉しいです。……でも……」
「そっか、駄目か。残念だけど、仕方ないよね」
無理を言う訳にはいかないし。
パーティーを組めれば最高だったけど、断られるなら仕方ない。
だからそんなに申し訳なさそうにしなくていいんだよ?
「ほ、本当にすみません。今わたし、別のパーティーに入らせてもらっているので……」
「ああ、そうなのか。……いや、冷静に考えればそりゃそうだよね」
これだけのスキルを持ってる人間を、周りの冒険者たちが放っておくわけないか。
やれやれ、興奮して突っ走り過ぎちゃったなぁ。なんだか恥ずかしいや。
……うん。一緒にパーティーを組めなかったのは残念だけど、それより先にまずはお祝いの言葉だよね。
「良かったね、おめでとう。皆良い人たち?」
「……その、えっと……」
……え、ここで言いよどむの?
そのパーティーメンバー、本当に大丈夫?
「おいお前、いつまでちんたらしてんだよ! 早く素材売って来いつっただろ!」
うわっ。
……な、なんだか柄の悪そうな男たちが怒鳴ってるよ。
あんなヤツラとパーティー組むのは絶対嫌だな。
あれなら絶対一人の方がマシだ。
しかもアイツラ、めちゃくちゃこっちを指差してるし。
……って、なんでこっちを指差してるんだ?
「ひっ……! す、すみません、すみません! ごめんなさいっ!」
……え? ま、マニュ?
もしかして、マニュのパーティーって、コイツラなの……?
「ったく、役立たずが。謝る暇あったらさっさと動けやこのうすのろ!」
「……っ。は、はい……」
マニュは肩を震わせて一瞬泣きそうな顔をした。
だけどその後すぐに唇を噛みしめて、俺の方にくるりと向き直る。
「すみませんレウスさん、そ、そういうことなので!」
そういうと、マニュは一目散にギルドのカウンターの方に走って行ってしまった。
……どうやら本当にマニュはあの男たちとパーティーを組んでいるみたいだ。
でもこんな男たちのパーティーに入っていても、とてもマニュのためになるとは……。
「……あ? なんだよ? 何か用か?」
「いや、別になんでも」
ほら、ちょっと目が合っただけで喧嘩を吹っかけてくるようなやつだぞ?
あんまりマニュのパーティーメンバーを悪く言いたくはないけど、さすがにこれは……。
「も、持ってきました!」
「遅えよ、のろま」
「ご、ごめんなさいっ」
小さな歩幅を目一杯に広げて走ってきたマニュからお金を受け取ると、男たちはそれをその場で分配し始める。
だが、どう見てもマニュの分は一割もなさそうだった。
そんな分け前にも、マニュは有難そうに何度もお礼を言っている。
「あ、ありがとうございます、ありがとうございます」
「うるせえな、何度も何度も同じこと繰り返すんじゃねえよ!」
「……す、すみません。うぅ……」
そのまま舌打ちをして不機嫌そうにギルドを出て行く男たちと、ビクビクしながらその後を追うマニュ。
……これは、ちょっと気になっちゃうなぁ……。




