21話 偶然の再会
「うーん……違うなぁ」
ギルドの片隅で、俺は一人難しい顔をしながら呟く。
ミラッサさんとパーティーを解散してから、あっという間に一週間がたっていた。
この一週間で三組ほどのパーティーに参加させてもらったが……どうにも自分とは合わなかった。
このままでは進歩がないし、さすがに今回はもう失敗したくない。
もっと慎重にパーティー選びをしようということで、俺は<鑑定>を使ってギルドにいる人間のスキルを観察していた。
あの人は<剣術LV4>、そっちの人は<棒術LV3>と<ファイアーボールLV3>、その隣が<隠密LV4>か……。
うーん……どれも悪くはないのだが、正直組みたいとまでは思えないなぁ。
パーティーを組むとなると、礼儀としてこっちのステータスも見せなきゃならなくなるわけだし、その時に俺のLV10が三つ並んだステータスを見て寄生してきそうな人間とは組みたくない。
……というか今までの三組が全部そうだったんだけどね。
ステータスを見た途端に嫉妬されるのはまだマシで、目の色を変えて正式なパーティーになろうと迫ってきたり、中にはその……お、女の武器を使おうとして来たり……。
ああもう、思い出しただけで顔が赤くなりそうだよ!
ま、まあそういう人たちは丁重にお断りさせていただいたわけだけど……。
「はぁ……」
思わずため息が漏れてしまう。
ともかく、ここにきて俺の見る目の無さが如実に露呈される結果となってしまった。
今までずっとEランクだったせいで他人とパーティーを組んだ経験が乏しい俺は、相手が良い人か悪い人かを判断する能力が他人よりも低いようなのだ。
だから今回は苦肉の策で、<鑑定>を使って周囲のスキルを前もって調べてみることにしてみた。
LV10とはいかないまでも、LV6とかLV7とかのスキルを持っている人なら俺に寄生してこようとはしないと思うしね。
普通なら人のステータスを覗くような真似はできないんだけど、<鑑定LV10>を持つ俺はそれができる。
その上相手に覗かれたことも気づかれないという優れものだ。さすがLV10。
ステータスを盗み見するのはあんまりよろしくない行為だけど、冒険者は何もかも自己責任で覗かれる方が悪いという認識だから、捕まるような行為をしてる訳じゃない。
マナー的にはグレーくらいかな。
……でも、ここで良い人を探し始めてもう三時間は経つけど、一向に組めそうな感じの人は見つからないなぁ。
「やっぱり一人で狩りに出た方がいいのかなぁ……でもなぁ……」
一人なら何をやってもいいぶん楽な部分もあるけど、正直あんまり気は進まない。
なんといっても大変だからだ。
素材を持ち帰るためのリヤカーを引きつつ魔物と戦闘するのって、口で言うのは簡単だけどやるのはかなりきついんだよな。
それに、素材を剥ぎ取っている間も誰も周囲を見張っててくれないから無防備になっちゃうし。
そういうことを考えていくと、やっぱりパーティーの方がいいと思えてしまう。
まあ、組んでくれる人がいればの話なんだけど。
そういえばマニュとかリキュウとかとは全然顔を合わせてないけど、あの二人はちゃんとパーティー組んでるのかな?
あの二人となら一緒にやって行けそうな気もするんだけどなぁ。
今日良い人が見つからなかったら、明日は二人を探して会いに行ってみようかなぁ……。
「……お?」
考えが煮詰まっている俺の耳に、ギルドに備え付けられた素材運搬口の扉が開かれる音が聞こえてくる。
どうやら誰か冒険者が狩場から帰ってきたみたいだ……って。
「マニュ! マニュじゃんか!」
そこにいたのは金髪蒼目の少女、マニュだった。
すごいな、丁度君のこと考えてたとこだよ!
こんな偶然あるんだな、ちょっと感動っ!
小さな身体でリヤカーを引きながらおどおどとしているマニュの元に、俺は急いで駆け寄った。
「マニュ!」
「あ、お、お久しぶりですレウスさん!」
「偶然だね! 元気にやってた?」
「お、おかげさまで、はい」
手が半分隠れるくらいに袖の余った服を着ているマニュは、両手で口元を隠して顔を綻ばせてくれる。
相変わらずまるで小動物みたいだ。
俺と会えたことを喜んでくれてるのかな?
だとしたら嬉しいな。俺も同じ気持ちだし。
初日に別れてっきりだったし、たかだか二週間ぶりくらいだけどなんだかもう懐かしい気持ちを感じちゃうよね。
「レウスさん……なんだか男らしくなりましたね。自信がついたみたいに見えます」
胸の前で手を組みながら、遠慮がちに言われる。
そんなモジモジされるとなんだか告白されてるみたいで照れちゃうよ。
大丈夫かな、顔赤くなってないよね?
「ありがとう、嬉しいよ。マニュは相変わらずかわいいね」
お返しにこっちも褒めておこう。
俺だけ照れるのはフェアじゃないもんな。
「か、かわ……!? そ、そんな、畏れ多いでしゅ! ……~っ!」
反応がかわいすぎるんですけど。
頬を真っ赤にしてまで必死に否定されると、ますますかわいく思えてきちゃうから。
「レウスさんの方が、か、カッコいいですよ!」
「い、いやいや、マニュの方がかわいいって」
「れ、レウスさんです!」
「ま、マニュだよ!」
……なにこれ?
終わりが見えないのに恥ずかしさだけがどんどん高まっていくんだけど。
と、そんな話をしていると、視界に半透明の板が出現する。ステータスだ。
そうか。鑑定のスキルが発動しっぱなしだったせいでマニュのステータスが見えてきちゃったんだな。
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マニュ・ルナチャルスキー
【性別】女
【年齢】13歳
【ランク】E
【スキル】<解体LV8><運搬LV8><観察LV7><危機回避LV6><野草知識LV4>
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