20話 臨時パーティー
煌々と輝く<ヒールLV10>と<鑑定LV10>の文字。
そんな俺のステータスを見て、ミラッサさんは「すごいっ」と感嘆の言葉を漏らした。
「本当に一回魔法を使うだけでLV10までスキルレベルが上がるのね。この目で実際に目の当たりにすると驚くわ」
「俺としてはLV10になったことより、ミラッサさんの火傷をちゃんと治せたことの方が嬉しいですけどね」
LV10になったこともそりゃ嬉しいけど、すごすぎてイマイチ実感がわかない。
それよりも今はミラッサさんの火傷を無事に治せたことの方が嬉しい。
目に見える結果だからね。
「ありがとね、レウスくん。全身がヒールの光で包まれた時は何事かと思ったけど、レウスくんのおかげですっかり……。すっかり……。……」
……? どうしたんだろ、ミラッサさん。
なんか夢中で自分の肩を触ってるんだけど。
いや、肩だけじゃなくて全身もだ。足とか腕とかお腹とか、とにかく肌という肌を触ってる。
最後に顔を触って……うわ、急にこっち向いた!?
「レウスくんっ!」
「は、はいっ」
「……レウスくんっっっ!」
「な、なんでしょうミラッサさん!?」
とりあえずそんなに近くに来るのやめてもらっていいですか!?
なんで興奮してるのかわかんないけど、落ち着いて!
俺は自分の胸の前で手を動かし、「落ち着いて」というジェスチャーをする。
ミラッサさんはそんな俺の手をとって、ミラッサさんの頬へと運んだ。
な、なにしてるんですかミラッサさん――って、あれ!?
「なにこの感触……」
すごいむにゅむにゅしてる……。
力を入れるとしっとりと指を包み込んでいくミラッサさんの頬。
未知の感触だけど、触ってるだけで気持ちいい。
「柔らかい……。み、ミラッサさん、これは一体……」
「自分で言うのもなんだけど、すごいわよね? これも多分、レウスくんのヒールのおかげよ」
頬をいじられながら喜びに顔を綻ばせるミラッサさん。
どうやら元からこんな肌だったわけではないらしい。
だからさっき驚いてたんだな。
つまり俺の膨大な魔力のせいで、肩を治すだけでは使い切れなかったヒールの力が全身に行き渡った……ってことなんだろうか。
こんな現象は今まで一回も聞いたことがないから確信が持てないけど。
「意図してやったわけじゃありませんけど、喜んでもらえたならよかったです」
予想外の不幸はごめんだけど、予想外の幸福は歓迎だ。ミラッサさんも上機嫌だし。
どうですかミラッサさん、日ごろの恩をこれで少しでも返せたでしょうか。
「うん、本当にありがとねレウスくん。最後に良いプレゼントもらっちゃった」
「……最後?」
最後って、どういう意味だ……?
ピキリと固まった俺にミラッサさんは告げる。
「うん、最後よ。目標だった魔導書は買えたし、Dランクの魔物からも素材をとれるようになったし……もうあたしがいなくても大丈夫でしょ?」
そうだった。
たしかに最初はお金が足りないから、何でもする代わりにパーティーを組んでほしいって話だったんだった。
これが臨時パーティーだってことなんて、いつの間にか頭から飛んでしまっていた。
だって、今まで組んだパーティーの中で一番居心地が良かったから。
「俺が足を引っ張ってたってことですか?」
聞きたくないけど、聞かなきゃならない。
臨時パーティーからそのまま本パーティーへと至るパーティーも少なくないのだから、解散を切り出されるのには当初の目的の達成以外にも何か理由がある気がする。
今までは役立たずだったからパーティーから追い出されていた俺だけど、今回は自分なりに上手く立ち回ることができていたと思っていた。
それだけに、ショックの大きさもいつも以上だ。やっぱり俺が足を引っ張っていたんだろうか。
しかし、そう思う俺にミラッサさんは首を横に振る。
「違う違う。そんなわけないじゃない。むしろ想像以上に良くやってくれてたわよ。でも一旦別れた方がいいと思うの」
「足手まといじゃなかったなら、何でですか?」
「それじゃ言うけど……レウスくん、あなた自分のことあたしより下だと思ってるでしょ」
「? 当然ですよ。だってミラッサさんは凄い人なんですから」
こんな田舎でBランクまで至れる人間はほとんどいない。
ミラッサさんはそんな選ばれた人間の中の一人なのだ。
だから、俺の言葉を聞いたミラッサさんがため息を零す理由が俺には理解できない。
「そんな風に思ってくれるのは嬉しいわ。だけどこのまま組み続けてたら、多分あなたは自分で考えることをやめてしまう。将来有望なあなたをそんなことで潰したくないのよ」
言われてドキリとする。
たしかに最近は、ミラッサさんの言うことに従うだけになっていたかもしれない。
ミラッサさんの言うことなら間違いないと思い込んで、自分で考えることをしなくなっていたような気もする。
そうか、だからミラッサさんは――
「だから、一旦パーティーは解散しましょ? その方がお互いのためだもの」
「……わかりました」
理由を聞かされた俺は納得するしかなかった。
原因は俺にあったんだ。
冒険者は何も出てきた相手と戦うことだけしてればいいんじゃない。
どんな装備をしていくか、どんな狩場に行くか、どの魔物を狙うか、そういうことを一緒に考えるのもパーティーの仕事なのだ。
俺は無意識のうちにそれらのほとんどをミラッサさんに背負わせていた。
くそっ……何やってんだ俺は。これじゃ愛想を尽かされるのも当然じゃないか。
……と、俺の頬に何か柔らかいものが触れた。
柔らかくて細い……ミラッサさんの指だ。
「もう、そんなに暗い顔しないのっ。おねーさんとお別れするのがそんなに悲しい?」
「んー?」とからかうような声を出しながらミラッサさんは首をかしげる。
艶のある赤髪が重力に従ってさらさらと動いた。
俺を元気づけようとしてくれているのが伝わってくる。
……そうだな、いつまでもクヨクヨしてちゃ駄目だよな。
もっと人としてでかい男にならなきゃ。
「ちぇっ、からかわないでくださいよ。ミラッサさんなんかあっという間に追い抜いてやりますからね」
「おっ、やる気だねぇレウスくん。その調子で頑張れ頑張れ」
そうだ、ミラッサさんなんてあっという間に……。
……あっという間に……。
「……すみません、あっという間はさすがに無理っぽいのであーーーーーっという間くらいでお願いします」
「け、結構時間かかりそうじゃない?」
一朝一夕じゃミラッサさんに追いつくのは到底無理だからね。仕方ないね。
そして、いつもの分かれ道。
ここで別れたら、俺たちのパーティーは解消だ。
「まあ、色んな人と組んでみると良いと思うよ。冒険者はあたしだけじゃないんだからさ。レウスくんも昔とは違うんだし、今じゃきっと引く手あまただと思うわ。そうしてるうちにあたしより相性のいいパーティーが見つかるかもしれないしね」
そうだな、ミラッサさん以外の人とパーティーを組んでみるのもいいかもしれない。
十組のパーティーがあれば十通りの役割分担がある。
今まであまりパーティーに入ったことのない俺にはとてもいい経験になるだろう。
……うん。ミラッサさんに言われたからじゃなくて、自分で考えてもいい案だと思うし、明日からは別のパーティーを探してみよう。
「この数日間、本当にありがとうございました」
「お礼を言いたいのはこっちの方よ。ほら、ほらほらっ」
自分のほっぺたを引っ張ったり潰したりするミラッサさん。
むにゅむにゅと形を変えるミラッサさんの頬に俺は思わず笑ってしまう。
「じゃあね、レウスくん」
「はい、ミラッサさん。……といっても、ギルドに行けばまた顔あわせるかもしれませんけどね」
「あはは、それもそうね」
そして、俺はミラッサさんと別れた。
それと同時に、ミラッサさんとの臨時パーティーも解散となった。
だけど落ち込んではいない。
むしろ今の俺は今までにないほどやる気でいっぱいだ。
よしっ、新しいパーティー探し頑張らなきゃな!
2章【<ヒール>と<鑑定>編】完結です。次話から3章に入ります!
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