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潜在魔力0だと思っていたら、実は10000だったみたいです  作者: どらねこ
2章 <ヒール>と<鑑定>編
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16話 耳元はこそばゆい

 それから。

 ギルドについた俺とミラッサさんはさっそく素材の査定と買い取りを行ってもらった。

 リヤカーが半分埋まるくらいのBランクの素材は、結果としてなんと6万イェンで買い取ってもらうことができた。


 おっかなびっくりお金を受け取る俺。

 それとは対照的に、ミラッサさんは慣れた手つきだ。


「結構な額になったわね」

「こ、こんな額のお金、見るのも触るのも初めてですよ……」

「Bランクになれば日常茶飯事になるわよ。今のうちから慣れておくと良いわ。きっとあなたなら、近いうち一人でもこのくらい稼げるようになるでしょうしね」


 そうなれば嬉しいけど、本当にそんな日が来るのだろうか。

 ……いや、ミラッサさんは本気みたいだし、疑うのは良くないよな。

 ミラッサさんの言うことを信じてみることにしよう。


「ちなみに、ミラッサさんはいつもどのくらいの額を稼いでるんですか?」

「いつもはもっと少ないわよ? Bランク用の狩場に入ったの自体初めてだしね。ただ今日の感じだと……慣れてくれば10万イェンくらいは狙えそうかも?」

「す、すっげぇ……」


 顎に手を当てながら何の気なしに言う額じゃないよ……!


「ふふ、驚いてる場合じゃないでしょ? あなたも一緒に稼ぐんだから」

「そ、そうですよね。この調子でいけば魔導書も夢じゃないし、頑張ります!」


『鑑定』と『ヒール』の魔導書、このペースでいけば思ってたよりずっと早く手に入れられそうだ。

 ミラッサさんのおかげだな……って、あれ?

 なんでミラッサさんちょっと拗ねたみたいな顔してるんだろ?


「あーあ、順調すぎてレウスくんと組める時間があんまり長くなさそうだなあ。唯一の誤算ねぇ」


 そ、そんなに俺のこと認めてくれてたのか。

 素直に嬉しい。と同時に、少し畏れ多い。

 万年Eランクの俺がBランクのミラッサさんからこんなにも認めてもらえるなんて、いまだに都合のいい夢なんじゃないかと時々思うよ。

 そんなことを思う俺の前で、ミラッサさんは自分を納得させるように数度小さく頷いた。


「……まあでも、うん。将来のスーパースターとパーティー組めたことを幸運に思うべきかしら」

「またまた、そんなにおだてないでくださいよ」

「あたしは本気で思ってるんだけどな~」


 さすがにそれは言い過ぎでしょ、ミラッサさん。

 まあ、俺もそんな期待に応えられるように頑張るけどね。

 エルラドに行くにはそのくらいの実力が必要だと思うから。




 ギルドを出た俺たちは、並んで宿への道を歩く。その道中で色々な世間話をした。

 ミラッサさんの育った町には若者が少なくて、ミラッサさんはあまり同年代の人と関わらずに生きてきたらしい。

 だから最初の地竜車ではどうやって俺たちと関わっていいか分からなくてちょっと気張ってたんだって。


「なんか意外ですね」

「あ、これもマニュちゃんには言っちゃ駄目よ? もうレウスくんにはバレちゃったけど、あの子の前では何としても素敵なお姉さんでいるんだから」


 しーっ、と自分の口元に細い指を当てる。

 どうしてもマニュの前では立派な人であり続けたいようだ。


 今日でけっこうミラッサさんのイメージ変わったなぁ。

 もっと手の届かない凄い人かと思ってたけど、意外と庶民的というか。

 でも、もちろん凄い人には変わりないけどね。


「あ、あとリキュウにも絶対言わないでね。アイツに弱味を握られたらずっと言ってきそうだし……」

「いや、リキュウも悪いヤツじゃないですよ? ……まあ、間違いなくずっと言ってきそうではありますけど」


 悪いヤツじゃないんだけど、リキュウに弱味を見せたくない気持ちはすごく分かる。

 嬉々として弱味を抉ってきそうなイメージあるし。いや、ほんと勝手なイメージだけどさ。


 そういえばギルドの前で出くわして以降二人とは会ってないけど、それぞれ良いパーティーに入れたんだろうか。ちょっと気になる。

 あ、でもまだニアンについて数日だし、パーティー探ししてる最中かもな。

 そんなにすぐには自分に合ったパーティーって見つからないだろうし。

 そういう意味じゃ、俺はミラッサさんに拾ってもらえて運が良かった。


「っと、あたしは宿あっちだから、ここでお別れね」


 ミラッサさんが立ち止まる。

 俺は一番安い宿に泊まってるけど、ミラッサさんは違うんだろう。

 EランクとBランクじゃ泊まる宿の質も違うのは当たり前だ。

 今日で身に染みて分かったけど、稼げる額も段違いだしね。


「今日はありがとうございました。お蔭様でとてもいい経験が出来ました」

「いえいえ、こちらこそー」


 かしこまって頭を下げると、ミラッサさんも下げ返してきた。

 そのわざとらしさがなんだか笑えてくる。

 っと、そこでミラッサさんがふと何かを思い出したみたいな顔になった。


「あ、そうだ。釘を刺しておかなくっちゃ」

「?」


 何のことだろう……って、近い!

 耳元に近づいてきすぎて、息遣いまで感じられるんですけど!?


「秘密、ちゃんと守ってね?」


 ひ、秘密……?

 ……あ、からかわれたら弱いって話か!


「わ、わかってます!」


 なんとかそう返した。

 耳元での囁き声に思わずビクンと肩が反応しちゃったけど、バレてないことを祈りたい。

 だってしょうがないじゃないか、俺だって年頃の男なんだ。

 頼む、どうかバレてないでくれ……!


「……今あたしの中で、『からかいたい』という衝動と『逆にからかわれるから止めておけ』という自制心が激しく戦ってるわ」

「……自制心のほうに頑張れと伝えてください」


 バレてたみたいです。

 そりゃ、あんなに近くにいたら気づきますよね。

 くっそー、カッコ悪いぞ俺。



「レウスくん、また明日ねー!」


 ミラッサさんはブンブンと元気に手を振りながら、段々小さくなっていく。

 いつまでも手を振り続けているのがなんだかちょっと子供みたいで可愛い。


 それを見届けて、俺は小さく息を吐いた。

 つ、疲れた……。

 Bランクの狩場ってやっぱり緊張感が段違いだ。

 ずっと守られてたのに、背中は冷や汗でビッショビショだし。

 まだ空は明るいけど、宿に帰ったら風呂入ってご飯食べて早く眠ろう。

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