13話 ミラッサさんのステータスを見せてもらおう!
そして翌日。
狩場へと向かうため、ニアンの街の入り口に待ち合わせた俺とミラッサさん。
「さっそく行きますか?」
「その前に見せておきたいものがあるの」
見せておきたいもの?
なんだろう? って、これは。
目の前に、半透明の板が浮かぶ。
「あたしのステータスカードよ。パーティーを組むんだし、あたしのできることはレウスくんにも把握しておいてほしいから」
たしかにミラッサさんの言う通り、相手の能力を知っておくのは大切だ。ミラッサさんはなんでもできる気がしてそこまで頭が回ってなかった。
でも、Bランク冒険者のステータスカードなんて見るの初めてで、ちょっと緊張するな。
えーと、どれどれ……?
◇――――――――――――――――――――――◇
ミラッサ・アンドリューズ
【性別】女
【年齢】20歳
【ランク】B
【スキル】<剣術LV8><感覚強化LV7><素手戦闘LV5><直感LV5><氷魔法LV5><雷魔法LV4>
◇――――――――――――――――――――――◇
いやいや、何これ! Bランクってこんな凄いのかよ!
やっば、興奮が収まらないぞ……!
「剣術LV8!? すごいですミラッサさん! 俺LV8のスキルなんて初めて見ましたよ!」
「ふふ、そんなに褒められると照れちゃうわよ」
頬を押さえるミラッサさんにいつもなら目を奪われているところだけど、今はちょっとそれどころじゃない。
「感覚強化もLV7か、すごいな……って、うわ! しかも魔法系のスキルが統合済みじゃないですか!」
次に目に着いたのは、<氷魔法>の文字だ。
俺の<ファイアーボール>とは表記が違う。
実は<ファイアーボール>や<ファイアーウォール>などの同一属性のいくつかの魔法を覚えると、それらが統合されて<火魔法>となるのだ。
高い方のレベルに合わせて統合されるうえに、ファイアーボールだけ使っていても火魔法のスキルレベルが上がれば他の火魔法の習熟度も上がるという、まさにいいところしかないスキルだ。
でもスキル統合のためには、たしか同一属性のスキルを五個とか覚えなきゃいけなかったはずなんだけど……ミラッサさん剣士なのに魔法もそんなに使えるのか。
凄まじいなBランク。
そして直感LV5……俺の力に気付いたのもこのスキルが原因だろうか。
何かで迷った時の決め手になりそうなスキルだ。
「はぁぁあ……っ。すっごい……」
俺からしてみれば、全てのスキルが宝の山である。
俺なんてたまに見る理想の自分の夢でもスキル五つくらいしか持ってないのに。
俺の想像力を現実が超えてきてるよ。
「ちょっ、ちょっとストップ! そんなに宝物を見るみたいな目で見られると、あたし照れちゃうから!」
ステータスカードの前でブンブンと腕を振るミラッサさん。
そんなに見られたくないなら消せばいいと思うんだけど……もしかして、それに気づいていないのだろうか。
意外と抜けてるところもあるんだな。なんだか親近感が湧く。
ともあれ、隠さないのなら見せてもらおう。
細い腕の隙間からミラッサさんのステータスを覗きこみ、まじまじと確認させてもらった。
「ありがとうございます、勉強になりました」
「ああ恥ずかしかった……。あんなに食い入るように見られたの、初めての経験よ?」
「でも、本当に驚きました。やっぱりミラッサさんって凄いんですね」
「え? そ、そうかな……?」
ミラッサさんは照れたようにはにかむ。
いつもなら「おねーさん凄いでしょ?」くらい言ってきそうなもんだけど……まだ恥ずかしさが残っているんだろうか。
「中でも一番驚いたのは、LV2未満のスキルがないことです。全部LV3以上って本当に凄いですよね!」
興奮気味にまくしたてちゃったけど、変には思われてないと思う。
ミラッサさんはそういうのに理解のある人だし。
……あれ? でも小首をかしげてるのはなんでだ?
「あれ? レウスくん、知らないの?」
「え、何をですか?」
「初期設定でLV2以下のスキルは隠れるようになってるってこと。あたし、LV2のスキルなら、たしか<運搬>とか<解体>とか……他にも三十個くらいはあったはずだわ」
「……え? でも俺は……」
ちょっと待ってよ? ステータスオープン……っと。
◇――――――――――――――――――――――◇
レウス・アルガルフォン
【性別】男
【年齢】15歳
【ランク】E
【潜在魔力】0000
【スキル】<剣術LV2><解体LV2><運搬LV2><ファイアーボールLV10>
◇――――――――――――――――――――――◇
うん、やっぱりだ。俺の見間違えじゃない。
俺のスキル欄にはくっきりとLV2のスキルが三つ並んでるんだけど……。
ステータスからミラッサさんへと目を移す。
ミラッサさん、気まずそうに頬を掻いてるのはどうしてですか。
「あ、あー。それは多分その……登録するときに、LV2以下のスキルしか持ってなかったからじゃないかなぁ。そういう人はスキル欄を空欄にしないためにそういう処理がされるって聞いたことあるような……」
「ああ、なるほど……」
……なんか、あれだな。結構きついな。
剣術はともかく、運搬と解体は持っている人も少なかったから結構自慢げに話してたこともあったのに。
そっか、皆LV2くらいだったら持ってたのか。ただ表示してなかっただけで。
俺が自慢するたびにいつも皆が気まずそうな顔をしてた謎が今解けた。うぅ、泣きたい……。
なんで皆教えてくれなかったんだろ……って、決まってるか。
教えたら俺の心が折れると思ってたんだろう。
実際折れてたかもしれないだけに、昔のギルドの皆を責めることも出来ない。
「で、でも! 今のレウスくんなら設定を変えられるはずよ? 最初にギルドに行って変えてくる?」
俺が落ち込んでるのが分かったのか、さすが直感LV5。
そうだ、今から魔物と戦うっていうのに落ち込んでてどうする!
ミラッサさんに励まされてばかりじゃ駄目だろ! 頑張るんだ俺!
「いえ、大丈夫です。頑張ってきた証なので、このまま残します」
「そっか。うん、良いと思う」
俺の顔を見て、ミラッサさんは微笑んだ。
まるで俺が立ち直ったのが分かったみたいに。
……なんだか、ときおり心の奥を見透かされてるような感じがする……。
これが年の功ってやつなんだろうか。いや、まだ二十歳のミラッサさんにそれを言うのは失礼だよな。
「じゃあ行こっか、レウスくん」
「はい、ミラッサさん!」
まあとにかく、今は狩りだ!
よぉーし、狩るぞぉー!