1話 ファイアーボールLV10ってなにごと!?
「おらあああッ!」
怒気を滲ませて、魔物を切り裂く。
最後の一匹のゴブリンがどさりと倒れたのを見て、俺はほっと息をついた。
まだ森の中だから注意は必要だけど、とりあえず依頼は達成できた。
これで今日も生きて行ける。
うだつの上がらない冒険者。
可もなく不可もなく。どちらかというと不可寄り。それがギルドでの俺の評価だ。
端的にいってしまえば、いてもいなくても変わらない存在。
優しいから誰も表だって言ってはこないけど、影では多分皆思ってる。
なんとか努力して、そういう人たちの印象を変えられればいいんだけど……。
「ステータス、オープン」
そう唱えると、目の前に半透明の板が浮かび上がる。
ステータスカードだ。
◇――――――――――――――――――――――◇
レウス・アルガルフォン
【性別】男
【年齢】15歳
【ランク】E
【潜在魔力】0000
【スキル】<剣術LV2><解体LV2><運搬LV2>
◇――――――――――――――――――――――◇
これが俺のステータス。
正直、ため息が出るくらいに酷い。
スキルこそ三つ持っているけど、一般的にはLV3以上じゃないと習得しているとは思われない。
LV3で効果を実感できる。
LV5で一人前。
LV7で一流。
マックスのLV10は人外とか化け物。
これが大体の目安と思っていい。
LV7とかになると、才能のある人が十年くらい修行してたどり着くくらいのレベルなんだってさ。まあごく一部のとびぬけた天才は一年とかでも到達しちゃうらしいけど、俺には関係のない話だね。
ともかく、LV2のスキルしか持っていない俺は、実質的にはスキルなしと一緒だ。
しかしそんな俺にも、他人と違う俺だけの特徴がある――あ、悪い意味で。
そう、それこそがこの燦然と輝く【潜在魔力】0000!
潜在魔力というのは、その人に備わっている魔法の素養のみたいなものだ。誰しも少なからず持っているものである。
それが0なんて、めちゃくちゃ珍しい。少なくとも俺は今まで自分以外にそんな人に出会ったことがない。
超一流の魔術師だと3000とか4000、普通の魔術師で1000、魔法なんて生まれてこの方使ったことがないような生粋の剣士だって3とか5とかはあるものだ。
それが0って! 0って! 自分の才能に涙が出てくるよ!
というわけで結構話のネタになるので、わざわざ別料金を払ってステータスカードに記入している。
普通は潜在魔力なんて魔術師以外必要ないからステータスカードには記入しないんだけど、0となれば話は別だ。なんせ珍しいからね。
「俺、実は潜在魔力0なんですよ!」と言うと「マジかよ!」「嘘だろ!?」と、多かれ少なかれ場が盛り上がるし。
うん、半分はやけくそだけどね!
「とまあ、現実逃避もこれくらいにして……帰るか」
ああその前に、倒したゴブリンを軽く解体しなきゃな。
俺はゴブリンの死体に近づき、ナイフで部位を削ぎ落していく。
最初は気持ち悪くなって吐いてしまったこの作業も、この一年ですっかり慣れた。
ゴブリンの素材で売れるのは両耳と足の裏だ。
薬か何かに使われるらしいけど、詳しくは知らない。
それらだけをリヤカーに乗せ、あとは放って、来た道を帰るために百八十度くるりと回転する。
「……ん?」
とそこで、俺の目の前に見慣れぬものがあることに気付いた。
緑と茶色がほとんどの森の中で、場違いな金色の輝きを放つ箱――すなわち、宝箱。
「マジか、珍しいなおいっ!」
周囲の警戒なんてしてる場合じゃねえ!
飛びつくように宝箱に近づき、夢中でそれを開ける。
宝箱は魔物の棲息している場所にランダムに現れる物体だ。
中身もランダムなのだが、中にはとんでもないものが入っていることもある。
この宝箱にもすごいものが入っているかもしれない!
やばい、胸がバクバクしてきた!
「よし、開いた!」
ガチャリ、と音がして、ギギギと宝箱が開く。
中に入っていたのは、魔導書だった。
「魔導書か……」
うーん……。
まあ売ればいいんだけど……なんかがっかりだなあ。
俺に仕える装備とかだったらよかったのに、よりによって魔導書って。
潜在魔力がある人はこれを読んで魔法を習得するらしいけど、俺は潜在魔力0なんですけど!
「なになに……ふーん、ファイアーボールの魔導書か。初級の一番メジャーなヤツ……魔導書の中でも一番やっすいヤツかあ」
内容を知ってさらにがっかり。
宝箱から出てくる魔導書の中でも、外れに近い部類のドロップだ。
これだとあまり高値では売れないだろう。
50000イェンくらいか。
まあ、今回のゴブリン討伐で貰えるお金が5000イェンであることを考えれば十倍。臨時収入としては充分だろう。
……他の物だったら、100万イェンもありえたかもしれないけど。
くっそー、そう考えると悔しいな!
「ええい、もうやけだ!」
一冊につき一人しか習得できないらしいけど、関係ない!
ファイアーボール、俺が習得してやる!
潜在魔力0だけどな!
ペラペラと魔導書を捲り、中身を確認する。
内容を理解することが重要ではなく、『読んだ』という事実が重要なんだって、知り合いの魔術師が言っていたからな。
魔法ってヤツはよくわからないが、それを信用することにしよう。
「よし、読んだぞ!」
これでファイアーボールを唱えれば、ファイアーボールのスキルが習得できるはずだ。
……潜在魔力0じゃ無理かもしれないけど。
まあ無理だったら、今度は売りに出せばいいし!
たまにはこんなバカなことしてストレス発散でもしねえとやってられないよ!
右手を天に掲げ、得意げに唱えてみる。
「ファイアーボール! ……なんちゃって」
誰に見られてる訳でもないのに、ちょっと恥ずかしいなこれ。
イキってるとか思われないよね? 大丈夫だよね?
……で、肝心の魔法はどうなったかな、っと。
「……へ?」
――俺の右手に、太陽と見まがうような超巨大な炎の塊が存在していた。
呆然とする俺を無視して、それは空に向かって飛んで行く。
そして百メートルほど飛んだところで、轟音と共に爆発する。
「うわっ!?」
爆風が俺の場所まで届き、吹き飛ばされた俺はごろごろと地面を転がった。
仰向けになったところで、回転が止まる。
自然と目に入った空は、火球の形に白い雲が吹き飛んでいた。
自分の頭上にある雲の塊に、直径数十メートルの大穴が開いている。
未だかつて見たことのない異様な光景に、声が震える。
「……え。なに、今の……?」
俺? 俺がやったの?
呆然とする中、ピロン、と頭の中で無機質な声が響いた。
――<ファイアーボール>を習得しました。現在のレベルは1です。
――<ファイアーボール>のレベルが上がりました。現在のレベルは2です。
――<ファイアーボール>のレベルが上がりました。現在のレベルは3です。
――<ファイアーボール>のレベルが上がりました。現在のレベルは4です。
――<ファイアーボール>のレベルが上がりました。現在のレベルは5です。
――<ファイアーボール>のレベルが上がりました。現在のレベルは6です。
――<ファイアーボール>のレベルが上がりました。現在のレベルは7です。
――<ファイアーボール>のレベルが上がりました。現在のレベルは8です。
――<ファイアーボール>のレベルが上がりました。現在のレベルは9です。
――<ファイアーボール>のレベルが上がりました。現在のレベルは10です。
……なにこれ。どういうこと?
恐る恐る「……ステータス、オープン」と発し、ステータスカードを見る。
◇――――――――――――――――――――――◇
レウス・アルガルフォン
【性別】男
【年齢】15歳
【ランク】E
【潜在魔力】0000
【スキル】<剣術LV2><解体LV2><運搬LV2><ファイアーボールLV10>←NEW!
◇――――――――――――――――――――――◇
待って、待ってよ、<ファイアーボールLV10>って何ごと!?
え、LV10って、人外レベルなんじゃ……。ど、どういうことだ、これ!?
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