能力の選定
頭の中に浮かんだ能力は多種多様のものがあった。瞬間移動、飛行、魅了などもあればファンタジーの代表格の火や水等の各種魔法。どれにするか決めて兼ねているとふと父の能力が気になった。
『そういやさ、父さんの能力は何なの?』
『おっ、大好きなパパと同じ能力にしたいのか、大地ー。残念だが教えてやらんけどな!これは意地悪っているより、先入観がつかないようにって事でな。俺も選択する前に親父、つまり大地のじいちゃんの能力は教えてもらえなかったしな。自分の好きな奴にしたらいいぞ。』
『なんか、もっともらしい事いうな。親っぽいじゃん。』
少し褒めると一瞬で調子に乗った父はまぁなと胸を張る。
『とはいえ、こっちで仕事手伝うんだったらそれに合わせた能力が欲しいからそれぐらい教えてくれよ父さん。』
『あー、まぁそれもそうか。つってもなぁ、仕事って決まってないんだよな、実は。』
今日何度目の衝撃だろうか。異世界に来てから仕事を探す父。つまり現在ニート。親子で無職。なんて残念なんだ。よくもあんなに生き生きと息子を連れてこれたもんだ。やれやれだぜ。
『大地、心の声が漏れてるぞ。』
どうやら声に出していたらしい。父が遠い目になっていた。
『勘違いすんなよ大地。決まってないってのはな、状況にあった仕事をするって事だよ。ギルドってとこに登録してだな、そこで探すんだよ。知ってんだろ?冒険者ギルドってやつ。』
『冒険者ギルド!なんだよ、あんじゃん、ちゃんとしてんの!でも冒険者って話だけ聞くとフリータ―みたいなんだな。』
『大地・・・なんて夢がないことを・・・』
遠い目をした父が止まらない。
『まぁ、でも戦ったりとかってこと?そういうのやるんだよな?』
『そういうことだな。もちろん、それ以外にも配達や採取、皿洗いに掃除なんかの雑用もあるけどな。』
それ、まんまバイトじゃねぇかよ!と思ったのは俺だけじゃないはずだ。。。てか、その仕事だったらドラゴンの契約の無駄遣い感がすげーな。そんな感想を抱いてるとは知らず父が話を続ける。
『あと、追加情報としては戦いに関して言えば、あれだぞ、特に能力は何も必要ないぞ。本気出したらドラゴンと同等の力出せるから。因みにコイツ、この世界で最強らしいから。自称だけど。』
その情報先にくれないかな、父さん!最強なのかよ!チラリとドラゴンに目をやるとじっと見られている。うん、お待たせしないように早く決めよう。というか、俺の中ではもう決まってるんだけどね。
『これ、能力が決まったらどうすればいいんですか?』
こちらを見ているドラゴンに尋ねるとため息を一つついて答えだした。
『お主はなかなかの臆病者じゃの。また言葉が戻っておるわい。まぁ、最初は仕方ないかの。能力じゃが強く念じれば使えるようになる。もう決まったのかの。』
『あっ、すいません、いや、ごめん。わかった、やってみる。』
『なんだ大地、もう決まったのか?つうか全部に目を通してもないだろ?』
『まぁね。でもいいんだ。もう決まってるから。ちなみにさ、一個だけ教えてほしいんだけどこっちの世界って日本みたいに発達してないよな?』
自分の中では能力は2つ決めていたが念のため父に確認を取る。
『まぁそうだな、いわゆる剣と魔法の異世界って感じだな。大地が持ってるラノベ的な感じだな。』
『・・・。なぜ父さんが俺のラノベを読んでるかは聞かないでおこう。でもそれを聞いてとりあえず安心した。よし、決めたわ。』
俺はそういうと2つの能力を強く念じる。すると頭に浮かんでいた能力は霧散し念じた2つの能力だけが残る。その様子を見ていたドラゴンは愉快気に話し始める。
『どうやら上手くいったようじゃの。その2つの能力を選ぶとはとはな。我と初めて契約したお主らの先祖以来じゃ。楽しみになってきたわ。魔法は想像力さえあれば使えるゆえ、色々と試すが良かろう。それではこれで我の伝えたいことは終わったかのぅ。む、そういえばまだ名を名乗っておらんかったの。我はタロウじゃ。』
『・・・。え?タロウ?』
『うむ、お主らの先祖が名付けてくれての、気に入っておる。』
誇らし気に語るドラゴンもといタロウと噴き出すのを必死でこらえる父。ドラゴンでタロウ。この世界で最強を自称するタロウ。ヤバい、ツボる前に話題を変えなくては。
『い、良い名前だね、タロウ。ちなみに、ここから町までは近いの?見えないけど。』
話題を変えようとする俺の意思を察した父が笑いを堪えながら応じてくれた。
『んっんぅー、町までは遠いんでな、タロっふぅに飛ばしてもらうんだぜ。』
いや、堪え切れてなかったよ、このひと。
『だが今日はここに泊まるけどな。』
そういうと後ろの大木を指した。
『これ、単なる木じゃねぇ、俺の最高傑作だからな。』
これ、父さんが作ったって事か!?とんでもねぇな、異世界。