父さんの仕事って?
朝ごはんを食べ終えた俺たち家族は居間のソファーに場所を移した。平日の午前中という事もあってどのチャンネルもワイドショーか通販番組で埋まっていた。どのチャンネルでも大物カップルの破局報道がほとんどでだったので適当に選局しボーッとテレビを見ていると不意に父さんが切り出した。
『なぁ、大地。お前、今、彼女とかいんのか?』
いきなりの問いかけに少し驚いた。今まで父さんから彼女の話題など振られたことがなかったのに。
『今はいないよ。今はね。』
なるべく、気持ちを表に出さないように答えると父さんはニヤニヤする。
『え?今は?大地、恥ずかしがんなよ。「今は」じゃなくて、「今まで」いないの間違いだろ?』
『何言ってるのよ、大学時代ずっとまみちゃんと付き合ってたわよね、大地。』
話した事もない事実を母さんから告げられ絶句する。
『ホントか、大地!何で一度も連れてきてねーんだよ!』
『連れてくるわけないだろ!ってか、何で母さん知ってるの!』
『あらやだ、知らないと思ってたの?近所の山本さんの奥さんが言ってたわよ。ほら、あの人喫茶店でパートしてたから。2人でよく来てるって。』
『何で山本のおばさんが名前まで知ってるんだよ!』
『まみちゃんが1人で喫茶店に来た時に仲良くなったみたいよ?お母さんも会ったことあるし。やっぱり、お母さんに似た子を好きになるのよねぇ、男の子って。なんか、お母さん照れちゃったわ。』
『なにぃ!母さんにだと!母さんはやらんぞ、大地!母さんも母さんで何で言わないんだ!』
『つか、俺でさえ母さんが会った事があるなんて知らなかったよ!勘弁してよ!』
『いい子だったのに、何で別れちゃったのかしら。母さんがもうちょっと早くラインしてたら連絡先交換したのに。』
『もう、いいじゃん。ってか、地味にダメージ喰らうよ、その事実。』
そんな、衝撃の事実を教えられながらいつものように馬鹿話で盛り上がっていた。父さんは悔しそうにブツブツ言っていたが気を取り直すと、今はいないんだよなと念を押してきた。実際、いないのでそう答える。すると次の一言に俺は言葉を失った。
『じゃあ、父さんのバイトしてみっか?どうせ、今失業中だろ?』
え?
いや、言おうとは思ってた。でも、何で知ってる?ニュースに出るような大きな会社でもないし、流石に1日でそこまで情報回るのか?そんなことが頭を駆け巡りながらなにも答えられないでいた。すると母さんが説明してくれた。
『山本さんの奥さんが教えてくれたのよ。ほら、あの人この町の情報通だから。喫茶店で耳に挟んだらしいわよ。』
誰だよ、山本のおばさん!ってか、マジで何者!?俺の情報、山本のおばさんに全部バレてんじゃねーのか本気で不安になってきた。まぁ、こっちから切り出す手間が省けたと思うべきか・・・
『まぁ、そう言うことだから。とりあえず、予定がプー太郎状態だからバイトでも何でもするけど、そもそも父さんの仕事って何だっけ?』
『あー、お前にはまだまだ言ってなかったっけ?貿易業みたいなもんだな。うん。』
『へぇ、だからたまに出張とか言って帰ってこない時期があったんだ。』
『まぁ、そんなとこだな。』
『で、主な取引先は?長いこと帰ってこなかったことを考えるとヨーロッパとか?それともアフリカ?あんま危ない地域は行きたくないけど。』
『いや、まぁ、なんて言うかな。まぁ、一言で言うなら異世界だな。』
『あ、そう。異世界ね。そりゃあ、中々帰ってこれないことも・・・って、ハァ!?異世界!?』
『おう!我が息子ながら中々いいリアクションすんじゃねぇか!ロマンがあんだろ?母さんからも許可もらってっから、お前さえよけりゃ決定だな!結構いい稼ぎになんぞ!』
いやいや、稼ぎがどうのって言うより、なに言ってるか理解できないんですけど。満面の笑みを浮かべながらこっちを見ている父さんの顔を見ながら、やっぱり俺、からかわれてるんだろうなと考えるしかなかった。