突然の倒産
ルルルルル・・・
ルルルルルル・・・
ルルルルルルル・・・
うるせぇなぁ。
ルルルルル・・・
ルルルルルルル・・・
うるせぇよ。
ルルルルル・・・
あ~、、もう、わかったよ!
そんないつものやり取りをしながらベッドの上で鳴り続ける目覚ましを消す。同じくベッドの上にある目覚ましを見るとまだ5時45分。出社時間が8時45分、家を出るのが7時30分であることを考えると、まだ時間に余裕はある。でも、これが俺の日課。5時45分に目覚ましをかけ2度寝に挑む。いきなり目覚まし時計通りに起床なんてそんな聖人みたいな生活は無理だ。次にかけてある6時に再度起きて目覚ましを消す。この作業を6回繰り返してようやく起床。え?繰り返しすぎ?いや、2~3回?4~5回?無理でしょ?睡眠はこの世で一番大事と自負する俺からすると無理な話。睡眠時間がどうこうよりもまずは何度寝できるかでしょ?そんな俺がようやく7時に起きてすることはベッドの中でまず瞑想。ベッドから起きてまずシャワーの蛇口をひねる。で、歯ブラシを取って口に突っ込む。バスタオルを右手に持ってシャワーの温度を確認。温くなっていることを確認してから寝癖を取るために頭にお湯をぶっかける。バスタオルで頭を拭きながら・・・
よし、今日もこれで良くか。そうと決まると早速起き上がる。
『あ。』
思わず口に出してしまった。 もうその必要がないことを思い出して。
俺は25歳の製薬会社社員、青葉大地。東京生まれ、東京育ち。東京生まれと言うと聞こえはいいかもしれないが、下町のアパートで育ち、平凡な子供時代を送った。器用貧乏だったので何かに苦労したという事は無かったが突出したものも無かった。クラスによくいるありふれた子供だったと思う。優等生でもなく、かといって不良にもなりきれない。いや、外聞を気にしてた分、優等生に近かったかもしれない。特にやりたいことも無かったから地元の製薬会社に就職した。製薬会社といっても下請けの小さな会社。別に何がやりたいわけでも無かったので言われるがまま営業職に回された。やりがいというよりは給与のためにこなしていたという感じ。
そんな日々が唐突に終わりを告げたのが昨日のことだ。理由は簡単。倒産だ。経営難に陥っていたのは知っていた。何せ、営業をしているんだから数字が取れているかどうかなんてのは嫌だってわかる。ただ、社長が金を持って逃げることまでは頭が回らなかった。朝、社員60名が集められた先で副社長から事情を聞かされた社員達の反応は様々だった。頭を抱えるもの。副社長に問い詰めるもの。事態が把握できずボーッとしているもの。自分は後者の事態が把握できない人間だった。副社長が何か言っていいたがよく理解できなかった。ただ、理解できたのは退職金は払えないこと、就職先は各自で決めて欲しいこと、管理職以外は明日から来なくてもいいとのこと。そのあと、どうやって帰ったかはあまり覚えていない。
部屋についてとりあえず寝た。まだ朝だったにもかかわらず、1日寝ていた。もしかしたら自分は特別な人間かもしれないと思っていたのかもしれない。突出したものは無かったが、何でも器用にこなせたから。何となく幸せな家庭を持ち、管理職、まぁ課長くらいには出世し、中の上の人生を送る。今までだってそうだったし、これからもそうだと思っていた。なんとなく。何か根拠があったわけじゃない。ただ、なんとなく。漠然と。
そんな風に考えていたからだろう。何も考えずに寝て起きた時、やりようのない怒りを覚えた。俺が何かしたのかよ?なんで俺なんだよと。そして少しすると不安が押し寄せてきた。社会からはじき出された気がして、不安になり、なんだか分からないが涙が出てきた。そして何もやりたくなくてとりあえず寝た。眠れなくても、目を瞑った。それでも眠れなかったので部屋に置いてあった日本酒を一気飲みして無理やりにでも寝ようとした。もう、考えるのが嫌だった。そうこうしている内に眠りについた。
そうして冒頭に戻るという感じ。正直、何から手を付けたらいいか全くわからないが、一晩寝ると少しは楽になるもんだななんて考える自分もいた。まぁ、今までだって何となくでやってこれたんだから今回も何とかなるかもしれないしね。まずは、帰省・・・っていっても一駅先に実家があるわけだが、そこでメシでも食いながら今後のことを考えようとしますかね。どうせなら母さんに好物のエビフライでも作ってもらって英気を養うとしますか!なんて考えなから実家に向かうことにした。
実家に向かうと、母さんと父さんが朝ごはんを食べていた。まぁ、見慣れた光景だ。こちらは違和感がないのだが両親は平日の朝に息子がいきなり現れるというシチュエーションに見慣れていないのだろう。
『大地!どうしたの!?こんな時間に!?』と母さんが慌てながら聞いてきた。父さんは何も言わないがジッと俺を見つめていた。
はぁ、自分が悪くないとは言え、どうやって切り出したもんかねぇ。