伝説のおじさん
私の街に住む「片目のじいさん」はおしゃべり好き。
近所の子供たちを公園で集めては、いろんな話をしてくれた。
話す内容は、子供の私たちが聞いても「嘘」とわかるような武勇伝。
お母さんたちは、あまりおじさんのことを良く思っていなかったけど
それでも私たちは好きだった。
そのおじさんの話の中でも私が一番気に入っているのは
サーフィンの話だ。
おじさんは昔「伝説の独眼竜サーファー」と呼ばれていたらしく
そう呼ばれるきっかけとなったサーフィン大会での話しだ。
「お前たちは聞いたことないか?「乗れない波はただの波だ」って。
あれおれの言葉だよ」っておじさんは言ってたけど
もちろんそんな言葉聞いたこともなかった。
おれは、ある日立ち寄った海岸沿いの町で偶然行われていたサーフィンの大会に
参加した。
もちろん、はじめはそんなつもりじゃなかったから、サーフボード自体持っていなかった。
というより正直やったことがなかったんだ。サーフィンを。
町の人がサーフボードを貸そうか?と声をかけてきたが、「大丈夫だ」と言って断った。
なぜなら借りても乗れないからだ。
おれの番号がアナウンスされ、おれは服のまま海に飛び込んだ。
そしてとりあえず沖に向かって泳いだ。
かなり沖の方まで泳いだ。
観客も運営の人たちも心配そうに見ている中、
ちょうどタイミングよく「ビッグジェーン」という伝説の大波が押し寄せてきた。
おれは「ダメかもしれない」と思ったが頭をフル回転させて考えた。
そしたら名案を思いついた。
数週間前にちょうど出せるようになった「メロン」とよばれる超音波を使い
イルカを呼びよせようと思ったのだ。
イルカはすぐにやってきた。
でもそれはよく見ると、イルカではなく、大きな大きなサメだった。
おれは、腕を1本持っていかれた。
ヤバイ!と思ったが、おれはお持ち前の根性と明るさで、そのままサメの背中に乗り
見事、伝説の大波ビッグジェーンに乗ったのだ。
もちろんおれが優勝。
賞金で腕を元通りにした。残りはすべて寄付したよ。
おじさんはしゃべり終わった後いつも満足そうな顔をする。
「いや、嘘つけよ!」って言いだす子供はいなかった。
おじさんはいつも、その日しゃべる内容に合った服装や道具を持って公園にやってきた。
このサーフィンの話をしてくれた時は、片手にボディーボードを持っていた。
たぶん、昨日近所のゴミ置き場に捨ててあったやつだと思う。
「片目のおじさん」というあだ名は、おじさんがいつも片方の目に眼帯をしていたからだ。
でもみんなは、それが飾りであることを知っていた。
なぜなら、たまに眼帯が左右入れ替わっていたからだ。