早朝の食堂にて
翌朝、目が覚めた俺は時間を確認する。どうやって確認するかというと、腕時計の様な魔道具を使うのだ。
なぜ、そんなものを持っているのかというと昨日、王様から全員に配られたからだ。
時刻は六時だ。食堂に集合するのは七時なので、まだ時間がある。何もやることがない。明日までに、暇潰しのための本を見つけておかなくてはならないな、と思った。
このままでは、暇なので、食堂に行ってみることにする。何か料理をしているかもしれないし、していたら見学させてもらう。どんな食材があって、どんな料理があるのかが興味がある。昨日の様にまた殺気を向けられたら料理を楽しめないかもしれないので、先に見てみるのも良いと思う。
という訳で、食堂に向かった。食堂に入ると、俺はキッチンに向かう。と、ちょうどキッチンに入ろうとしていた人を見つける。相手はこちらに気付き、声をかけてくる。
見たところ、相手の歳は二十代半ばといった所だろう。
「ん?見覚えの無い顔だな。もしかして昨日異世界から召喚された人か?」
「は、はい。そうです」
「おお、そうなのか。それで、どうしたんだ?こんな早くにきて。飯はまだだぞ?」
「いや、その・・・早く起きて暇で、急にどんな食材や調理方法があるのか気になって、見学に来たんですけど・・・」
「おお、そういうことなら見学していくか?」
「え!良いんですか?」
「つってもまだ食材運んでる最中なんだけどな。手伝ってくれたら美味いもん食わせてやるぜ」
おお!暇潰しで来てみたのに、さっそくこの世界の料理が食える。
「本当ですか!ありがとうございます!えっと・・・」
「ああ、俺の名前はゲイル・ロンバートだ」
「俺の名前は剣 怜也っていいます。剣が苗字で、怜也が名前です。よろしくお願いします。ゲイルさん」
「よろしくな、レイヤ」
「それで、どれを運べば良いんですか?」
「そこにあるやつ全部だ」
という訳で俺はゲイルさんの手伝いをした。三十分程で、全て運び終えた。
「終わりましたね」
「そうだな。手伝ってくれたからまだ少し時間あるし、どうするか」
「それなら、この世界にある食材について教えてください。どんな物があるかとか」
「ああ、それならちょっと待っててくれ」
そういって、ゲイルさんは奥の部屋に行った。しばらくすると、一冊の分厚い本を持って戻ってきた。
「これをレイヤにやる」
「これは?」
「これはな、この世界にある食材の写真と、その調理方法が載っている本だ。これを見れば大体の食材の事は分かる」
「ありがとうございます!あ・・・」
俺はある大事なことを思い出した。
「ん?どうしたんだ、レイヤ?」
「いや、その・・・俺、この世界の文字が読めないんです」
「え、そうなのか?言葉は喋れるのに・・・うーん、そうか。よし、それなら暇なとき俺の所に来い。料理教えてやる」
「え、いいんですか?」
「ああ。そうだな、どうせなら、俺の家で教えてやる。火か水の曜日に、食べすぎ亭っていう宿屋に来い。結構有名だから、人に聞けば分かるはずだ」
「分かりました。行かせてもらいます!それじゃあ、どんな食材があるのか本を見るので、部屋に戻りますね」
「ちょっと待て。美味いもん食わせてやるっつっただろ?ほら、これを持っていけ。お菓子だ」
「あ、ありがとうございます!」
貰ったお菓子からはとても良い匂いがする。早く部屋に帰って包みを開けて、どんなお菓子なのか見たい。
ところでだ、さっき曜日の話が出てきたので説明させてもらう。
この世界には、闇、火、水、風、雷、地、光の属性の魔法がある。それがそのまま、曜日となっていて、闇が月曜日だとしたら、光が日曜日だ。
月に関しても説明する。一月から十二月まであり、全ての月が三十一日までと決まっており、一年は、三七二日となる。
ちなみに、今日は五月十六日だ。そろそろ野いちごの採れる季節である。この世界にもあるのだろうか。
時間は地球と同じだ。一分は六十秒、一時間は六十分、一日は二十四時間だ。
ふぅ・・・説明も終わった事だし、部屋に帰るとする。
「ゲイルさん、ありがとうございました!今度、家に行かせてもらいますね」
「おう、レイヤ。食べすぎ亭だからな。間違えんなよ」
さっきは流していたが、食べすぎ亭という名前だと有名になってもおかしくない気がする。どんな理由でかは言わないが。
自分の部屋に着くと、姉と妹は起床していた。
「レイヤ、どこ行ってたの?なんかすっごい機嫌よさそうだし」
「俺、そんな分かりやすいかな?」
「機嫌が良いときはね。それで、どうしたの?」
「ああ、これを見てよ」
魔法の袋から取り出したるは、ゲイルさんからもらった食材の本。
「どう?これ貰ったら嬉しくない訳ないでしょ?」
「いや、それは知らないけど、その本どうしたの?」
知らないと言われてしまった。とりあえず自分が起きた所から事情を説明した。
「ふーん。ゲイルさんか・・・今度挨拶に行かなきゃね、弟がお世話になったからね。ねえ、いつ行くの?」
「私も行きたい!」
二人ともついて来る気まんまんだな。まあ、人数が増えても大丈夫だろう。
「次の火の曜日にいくつもりだけど」
「次の火の曜日ね・・・分かったわ。それより怜也。お菓子貰ったんでしょ?」
何!嬉しさのあまりお菓子の事まで口走ってしまったらしい。
「え!?い、いや。まあ、うん」
「あたしにも頂戴よ」
「お、俺が頑張って手伝って貰った物だから」
「お兄ちゃん、私も欲しい」
うぐ・・・ヒナに言われたら断れない。可愛いって得だな。
「しょうがない・・・ちょっと待ってよ」
袋からお菓子の包みを取り出す。包みを開けてみると、入っていたのはアップルパイ・・・と思われるお菓子。本当にアップルパイか分かんないし。
「「わあ、おいしそう!」」
二人が声を上げる。俺は、アップルパイ?を三等分して二人に渡す。三等分したから一口しかない。
「「「いただきます」」」
「おいしい!」
「ああ。これは、アップルパイだな。この世界でも食べることになるとは」
「ねぇ、怜也、こんだけなの?まだ隠したりしてない?」
「してないよ!せっかく一人で食べようと思ってたのに」
そんなこんなで六時五十分になった。そろそろ食堂に向かわないといけない。
「それじゃあ、ご飯食べに行くか」
俺達は食堂へと向かった。