決闘・・・
「おい、聞いたかよ?あのツルギってやつ、アニさんと決闘するらしいぜ?」
「マジかよ!アニさんって、C級冒険者パーティー【竜の爪】の、アニータ・マリンの事だよな?」
「ああ。対して、あのツルギって奴はG級だろ?今までやってた依頼も、G・キャタピラーとダークゴブリンの討伐だけらしいし」
「それしか、受けれる討伐依頼無いしな。あいつ、絶対勝てないだろ」
「まっ、あの人(エルフィンの事です)に手を出したんだしな。仕方ないだろ」
「ははは!まったくだ!ざまあみやがれ!」
などなど。そんな会話がおもいっきし聞こえてるんだけど?俺、聴力を強くなってるみたいなんだ。
しかし・・・やっぱ凹むわぁ・・・。味方がいないもの。
まあ、あのパーティーはほんの一,二年で、Cランクまで上がったらしくて、いわば、学校のスター的なものらしいよ。
「そういえばだけどさ、あいつって、【銀の集い】の人達と酒飲んでたらしいんだけど」
「は?冗談だろ?」
「それが本気の本気よ。しっかりと見たって奴が何人もいるんだよ」
「ふーん・・・。あれか?凄腕の冒険者に媚売ってんのかな?ハハハ!やる事が人族らしいよな!」
「弱いから、それぐらいしかできねえんじゃねえのか?何で、こんな所に来たんだよ」
・・・余りにも酷くない?もう、試合始まる前から、負けそう。
というか、負けた気分。だって、
「キャー!アニさまー!!」
「エルフィン様に手を出した人族なんて、やっつけちゃってくださーい!」
「エルフィン様に手を出した奴は死ねーー!」
などなど・・・。もう、泣きそうだ。俺の精神がゴリゴリ削られていくよね。
「さて、覚悟はできた?」
「ぐすん・・・あんまりだ・・・」
「ちょっと!無視してんじゃないわよ!」
「・・・え?ああ、すみません。気づきませんでした」
「・・・まあ、いいわ。それよりも、まず、決闘のルール。どちらかが、戦闘不能になるまで、または降参するまで戦いは続く。ただし、殺すのは駄目。そして、戦いは魔法以外は、基本的に何でもあり。武器も好きな物を使っても良い。最後に、勝者は、好きな事を一つ相手に要求できる。以上よ!」
・・・勝手にルールが決められてしまった。
「あの、武器なんですけど、自分が持ってるもの・・・ですか?」
「そうよ!質問はそれだけ?」
「はい」
あー、やっぱ決闘ってそんなものなのか?こういう決闘だと、武器統一しないと駄目な気もしなくもない。
方やGランク冒険者、方やCランク冒険者。武器の差が大きいのは確定的に明らかである。
ま、俺はそんな心配は無いけど・・・ただなぁ。剣を使ったら、うっかり殺しそうで怖い。だから、今回はナックルだね。
「準備はできたようね。それじゃあ、始めるわよ。審判さん。よろしく」
「へいへい。あー、何で俺がこんな事」
ちなみに、審判は俺の担任。相変わらずめんどくさそうだが、この人なら不正はしないだろう。後、俺もめんどくさいから、そんな顔しないで欲しい。
「よし。それじゃあ・・・始め!」
まずは、相手がどのくらいなのか・・・。気で身体能力強化は・・・やめとこう。いちゃもん付けられたら敵わんしな。
相手は、剣と格闘だな。
剣で切りかかってくるので、篭手で受け流す。あれ?意外と楽勝・・・。と、今度は、蹴り上げてきたが、軽く避ける。やっぱし、楽?
「っ!これなら!一凪!」
恐らく、スキルだろう。が、俺は避ける。当然だ。スキルなんか受け止めてたまるか。ていうか、殺す気マンマンじゃね?
うっかり、死んじゃあたまらんからな。剣はへし折っとくか。
魔法の袋から、竜の牙を取り出す。相手の剣は恐らくミスリル製。これなら、切り裂けるだろ。
「てい!」
「なっ!」
おお・・・。ほぼ抵抗無く、スッパリ切れた。すげえよ・・・。剣は魔法の袋に戻す。
「武器を狙うなんて、卑怯よ!」
「そんな事言われましても・・・スキル使ったら、うっかり殺しちゃいました~、は嫌ですし」
おっと、話をしてる最中に襲い掛かってきた。当然か。・・・が、遅い!
「このっ!このっ!」
「あの、できれば、降参してくれませんか?余り、手荒な真似はしたくないと言いますか・・・」
「する訳ないじゃない!この変態!」
・・・まじ酷いよ。けど、まあ仕方ないか。それなら、せめて一撃で終わらせようかな。
俺は、気で足を強化して、相手の背後へ回りこむ。そして、そのまま後頭部に一撃入れると、相手は、気を失った。
「んあ?・・・勝者、ツルギ レイヤー」
うん、勝った。周りは・・・まあ、唖然としてるよね。先生は、あんまし驚いてない?
「要求はこの場で言ってもらうからな。後で伝えるの面倒だし。回復魔法掛けてっと」
先生が魔法を掛けて、マリンさんを治す・・・と、起き上がったマリンさんが俺に襲い掛かる・・・けど、避けるよね。普通に。
「おい、アニータ。もう勝負はついてるぞ~」
「ま、まだ私は負けてないわ!」
「お前は気を失っただろ。だから、ツルギの勝ちだ」
「きっと、何か卑怯な手を・・・じゃないと、私がこんな変態に負ける訳が・・・そうだ!魔法よ!魔法を使ったのよ!」
しつこいなぁ・・・。後、しれっと変態って言わないでくださぁい。
「魔法の使用・・・それどころか、魔力の使用も感じられなかった」
「で、でも―――」
「いい加減にしろっ!もしかして、お前のパーティー・・・ドラゴンズネイルだったか?・・・は簡単なルールさえ守れないパーティーだったりするのか?それが、学校のスター・・・か。笑っちゃうぜ」
おおう・・・先生、こんな事も言うの?・・・尊敬しちゃうぜ!
「なっ!そんな言い方は無いじゃないですか!」
「実際、そうじゃねえか。そうじゃねぇなら素直に負けを認めろ。それに、負けを認めないなら・・・」
「・・・分かりました」
案外、あっさり。凄い、先生。
ちなみに、後で聞いた話だが、この教師、元Sランク冒険者で、知らない人はいないそうな。怖いねぇ・・・。
「よし、じゃあツルギ、要求を言え」
「えっと、そうですね・・・うーん・・・」
そうやって、俺が考えてたら、その内、マリンさんが、
「何を要求されるのかしら・・・!?もしかして!い、嫌よ!そんなの!・・・ああ、ディール、私、穢されちゃうかも・・・」
何て言い出して、
「嫌よっ!そんなの絶対嫌よ!私は、ディールに初めてをあげるって決めてるの!そんなの絶対嫌よ!」
と、大声で言い出して、俺に非難の視線が集まって、終いには、
「おい!」
と、以前見た事のある顔の男が場内に乱入してきた。ちなみに、会った場所は、ティアラさんの家である。
つまり、ティアラさんの兄である、ディールさんが入ってきた。
「ディール!来てくれたの!」
「てめぇか?アニに手を出したのは・・・。お前は、ティアラにも手を出そうとしてた奴じゃねえか。このクソ野郎が。父さんと母さんは、なんだって、こんなやつを・・・」
またも、酷い言われようである。一体、俺はどんな風に見られているのだろうか?たかだか14,5歳の少年だというのにさ。てか、この人、18歳・・・だったよね?・・・あれ?じゃあ、マリンさんも、そのくらいなんじゃ・・・。
まあ、それはいいのだ。それよりも、
「俺と決闘しやがれ」
そう言われたのが、一番の問題だった。
「だ、そうだが、ツルギ。どうするんだ?」
「受けるしか・・・ないんでしょう?」
「まあ、そうだろうよ」
「はあ・・・もう、好きにしてください」
「よし、じゃあさっきと同じルールだ。ディール、ルールはいつもの通りだ」
「分かりました」
「それじゃあ・・・始め!」
この人も剣と格闘かよ。どうせ、二人で俺の背中は任せたとかやってるんだろ?分かる。
「降参するなら、今のうちだぞ?この剣は、ドラゴンの爪からできていてな、切れ味はとても凄い。鉄だって、それなりに切れる。この剣が俺のパーティーの名前の由来なんだ」
いや、聞いてねえよ。今すぐ、襲い掛かりたい・・・が、それをやると、ブーイングが来そうなので、やめておく。
「この剣はな、俺の家に代々伝わる家宝なんだ。俺が15歳の時に貰った」
あ、そうですか。ていうか、自分で手に入れた訳ではないのな。
「この剣のおかげで、俺はBランクまで上がる事ができた。勿論、俺の腕もあるがな」
「はあ・・・。それよりも、早く始めません?」
「降参しないんだな?」
「ええ、ですから―――」
「上等だ!」
おいおい、こっちは話を聞いてやったってのに。
まあいいや。とりあえず、普通に受け流す。あれ?これ、普通に受け止めれそう。だけど、受け流す。
と、蹴り上げてくる。攻撃パターンがマリンさんと一緒である。まあ、マリンさんよりは速いけどさ。
それでも、アルフさん達に比べると、全然遅い。まだ、Cランクなんじゃない?黒ゴブGの方が速いよ?
俺は、避けた後に魔法の袋から、剣を取り出す。めんどいから、もう使うよ?別に問題無かろう。
Bランク冒険者なら、死なない、死なない。
「まだまだぁ!」
再度斬りつけてくるので、俺も剣を振る・・・と、ふっつーに相手の剣を切断できた。
・・・え?そんな馬鹿な事があるの?俺は、凄く動揺する。
それは、相手も一緒だったらしい。
「なっ!?」
あー・・・。やっぱ、剣は控えた方がいいかもなー。
結局、袋へと仕舞われる事になった剣。
それよりも、相手はというと・・・
「まあ、武器が無くても別に良い。何も、俺は武器だけに頼ってる訳じゃないからな」
だ、そうである・・・が、やっぱ遅いよね。どうしても、黒ゴブGと比べてしまう。
女じゃないなら、手加減する必要、無いよね?
俺は、カウンターを相手に放つ。
「がふっ!?く、くそっ!」
俺は、そのまま畳み掛ける。・・・おかしいな?いつもなら、ここまでやらないけど、結構ストレス溜まってたのかねえ?そんな自覚無いんだけど・・・。
で、気づいたら、相手が戦闘不能になってた。
「勝者、ツルギ レイヤ」
またも、周りは唖然。まあ、いいや。今回は、気すら使わんかった。一撃で終わらせる必要無かったしね?
ちなみに、マリンさんと同じ様な事をディールさんもやった。一緒にいると似るんだね?
先生がディールに回復魔法を掛ける。
「じゃあ、レイヤ。要求を言え。二人分だぞ?」
「えー・・・うーん・・・。」
「どうしよう、ディール・・・。私、私・・・」
「大丈夫だ、アニ。俺がいる」
ほんと、俺はどんな外道に見えるんだろうか?酷いよねぇ・・・。
どうして、ここまで誤解されたのかな?決闘が始まった時の、あのヒソヒソ話は中々、心に来た・・・。
あ!そうだ!
「決まりました!まず、マリンさんは、女子の俺に対する悪口等を、俺のいる前で言わせないようにしてください!ディールさんは、男子の俺に対する悪口等を、俺のいる前で言わせないようにしてください!」
「へ?」
「おい、ふざけてるのか?」
「そんな訳無いじゃないですか!俺は大真面目です!別に、悪口言われる事自体は良いんですよ。ですけど!その内容を俺が聞いちゃうから駄目なんです!正直、辛いんですよ!さっきなんか、もう変態扱いですよ!?酷いじゃないですか!というか、何で俺が変態なんですか!おかしいじゃないですか!俺が何したって言うんですか!それに・・・」
思った以上に鬱憤が溜まっていたらしい。自分でも驚きだ。何せ、勝手に言葉が口から出て行くもの。そして、大声で叫んでる。やばい、恥ずかしい。
「あー、まあ、お前が常日頃からどれだけ我慢してたのかは分かったが、とりあえず、落ち着け。要求内容の確認をするが・・・それ、この二人に頼む事か?」
「・・・えっと、どうでしょうか?学校のスター的存在だと聞いたので、できるかな、と思ったんですけど」
「今お前が、打ち負かしたからな。その威厳があるかどうか、って感じだな」
「ええー!?じゃあ、また考えないといけないんですか?めんどくさい・・・」
「んな事言うな」
「えー・・・それじゃあですね・・・。そうだ!調理器具をディールさんに買ってもらいましょう!マリンさんは、調味料を買ってもらいます!」
何で、こんな簡単な要求が思いつかなかったんだろうか?
「んー・・・別に、それでもいいけどよ、お前それでいいのか?」
「はい!自分だけで料理できる場所が欲しかったので」
「分かった。じゃあ、そこの二人は、ツルギの望む調理器具全てと、調味料全ての代金を支払う事。以上だ!」
こうして、決闘は幕を閉じた。
疲れたので、スタミナポーション飲む。と、
「レイヤ、大丈夫か?」
「ん?うん」
「レイヤさん、ごめんなさい・・・」
「いやいや、別にいいよ。絡まれるのは慣れてるし、向こうが勝手に勘違いしてただけだし。それじゃあ、ちょっと、調理器具とかを見に行こうかな?」
調理器具は、ニヒトさんの店で、調味料はデパートで買えばいいよな?
で、どちらとも、しっかり買って頂いた。調理器具は魔道具で、魔力があればどこでも使えるし、調味料は、一般的な物を20kg程買ってもらった。良い買い物をしたよね。
調理器具は高くついたでぇ?確か、全部で40万ゼン。遠慮は・・・エルフィン家なので、ティアラさんとその両親に被害が及ばないかな?なんて思ったので、しようとも思ったけど、割と稼いでるので、そんな心配は無かった。
後、調味料は、全部で3万ゼン程度だった。
あ、最後に、家宝とか言ってた剣だけど、あれ、家宝のレプリカだったみたい。流石に、まだまだ未熟なので危ないから、という理由だそうだ。
でも、一応、竜の爪は使われてたそうだ。まあ、そのせいで調子に乗っちゃった、とはお母様のお言葉。
今日あった出来事はこんなものである。疲れたよねぇ・・・。




