たのしいゆうはん(最期の晩餐)
タイトルは間違っていません。
「レイヤ!あんたねぇ、せめて別れの挨拶ぐらいはしなさいよ!」
「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!すみませんでした!ちょ、痛いです!離して下さい!」
今、俺が何してるかって?アルフさんにコブラツイスト仕掛けられてる。
俺、地球でも掛けられた事無いのにー!
ってか、冗談抜きで痛い。物理的にも精神的にも。受付の近くでこれだから、目立つし、変な目で見られる。
先生も、せめて一言教えて欲しかった。
「あの、そろそろ離してあげては?」
「ふう・・・。仕方ないわね。今回はこれくらいにしといてあげるわ」
クリフさんのおかげで、俺はようやく解放された。クリフさんマジ天使。
「良かったです・・・。料理を教えてくれなくなったら困りますから」
前言撤回。全ては料理の為だった。泣けてくる。
「そ、そうですか・・・。それで、俺が何か?」
そうだ。俺、何か変な事でもしたっけか?
「え?いや、別に。ただ、昨日お別れの挨拶くれなかったから、会いに来ただけなんだけど」
会いに来ただけって、コブラツイスト仕掛けてきたくせに・・・。でも、わざわざ、俺なんかに会いに来てくれて嬉しい。
「あ、そうだ!折角だし、お前も夕飯一緒に食おうぜ」
え?お誘いっすか?嬉しい・・・けど。
「えっと、でも今お金が・・・」
「ん?そんなんこっちで出すに決まってんだろ。なあ?」
「当たり前じゃない。こっちはBランク冒険者よ?」
だそうだ。とっても嬉しい。
「ありがとうございます!」
「いいって事よ」
「その代わり、料理を教えてくださいね?」
クリフさんがまだ押してくる。ま、まあ女だしって思っとこう。え?アルフさん?知らんな。
「わ、分かりました。都合の付く日は、ギルドに伝言しておきますから」
そう返事をしておく。まあ、休日みたいなもんもあるだろうし、大丈夫だろ。問題はクリフさんの都合だし。
「うしっ、じゃあ飯食いに行こうぜ!いつもの場所で良いよな?」
「そうね。じゃ、さっさと行ってご飯食べましょ!」
という訳で、料理を食べに向かった。向かったんだが・・・この時、俺はまだ、地獄が待ち受けている事を知らなかった。
ギルドから歩く事三十分。とある宿に着いた。四階建てで大きいよ。
店の名前が書いてある看板を見る。そこには、こう書かれていた。
[食べすぎちゃっ亭]
お分かり頂けただろうか?宿の名前に既視感が・・・
「ん?どうしたんだ、レイヤ?」
「・・・え?ああ、何でもありません」
とりあえず、中に入るか。
「いらっしゃい!おお、アルフ達か。ん?そっちのお嬢ちゃんは?・・・いや、坊やか?」
お、お嬢ちゃん・・・。何故だ。俺、男なのに。しかも、言い直したのだって、坊や・・・。
俺は、ガックリと項垂れる。俺、一応十四歳なのに。・・・十四歳は坊やか。
「おいおい、そんな言い方しちゃだめだろう?こいつだって、立派な男なんだから」
「ハハ、すまねえな。お前、名前は?」
「えっと、剣 怜也です」
「おう、レイヤだな。俺は、デイル・ロンバードだ」
デイル・・・ロンバード・・・。ロンバード!もしかしなくてもあれだよな!
そういえば、この人、魔族じゃない。あと、ゲイルさんに顔立ちが似てる!あの人が年取ったら、きっとこんな感じだろう。
「あ、あの。もしかして、ゲイルっていう息子さんがいたりとかしませんか?」
「ああ、いるが・・・。もしかして、あいつに会った事があるのか?」
「は、はい。ゲイルさんにはお世話になりました」
主に、料理方面で。てか、店の名前、絶対デイルさんに影響されたろ。
「あいつは、元気にしてたか?」
「ええ、綺麗なお嫁さんも貰って羨ましいですね」
そういえば、ずっと前に、中学生の癖にって言ったが、この世界だと、十五歳に男女共に、結婚が認められるらしい。まあ、そんな早くに結婚するつもりも無いが。・・・つもりが無いんじゃなくて、相手が無いとか言わないでね。
後、一夫多妻制らしい。良かったな、竜崎。
・・・閑話休題。
「そうか・・・。楽しくやってんなら良かったぜ。よし、あいつの事も聞かせてくれたし、今日はサービスしてやる。タダで好きなだけ食わしてやる!」
わお!デイルさん、太っ腹!・・・ほんとに腹が太いなんて思ってない。断じて。
「流石デイルだぜ!好きなだけ食わしてもらうぜ?」
「ん?何言ってんだ?レイヤだけだぞ?」
「「えーーーー!?」」
ビックリしたような声を上げたのは、アルフさんと、リックさんだ。この二人、姉弟だからか、気が合うなぁ。
「あはは、とりあえず、席を探しましょう?」
そう言ったのは、ガイさん。
・・・あれ?自己紹介以外で喋ってるの初めて見たような・・・気のせいか?
「あー、そうだな。席は・・・どこも空いてないな。っと、あそこは一人しか座ってないし、ちょっと頼んでみようぜ?」
あ、ほんとだ。あそこ、六人席みたいだし、座れそうだな。
早速、そちらへ向かう。
・・・ん?あれ?もしかして・・・エルフィンさん?
「あの、もしかしたら知り合いかもしれないので、僕が頼んでみましょうか?」
「んー?知り合いぃ?・・・ふむふむ、なるほどなるほどぉ・・・。レイヤも隅に置けないわねぇ。あんな可愛い娘と」
?アルフさんは何言ってんだか。そりゃあ、そういう関係になれたら嬉しいが、そんなの無理だろう。
「えと、とりあえず行って来ますね?」
とりあえず、行ってくる。
「あの、エルフィンさん」
「キャ!あ、レイヤさん?えと、何でしょうか?」
キャ!って言われた・・・。俺は泣かない。
「夕飯を食べに来たんだけど、席が空いてなくて。どうしようかと思ってたら、エルフィンさんがいたから、席に座らせてもらえないかなと」
「ああ、そういう事ですか!はい、大丈夫ですよ」
「あーっと、その。実はあそこの四人もなんだけど、良いかな?」
「はい、大丈夫です・・・よ」
え?どうしたんだ?
「あの、レイヤさん。もしかして、あの人達って、【銀の集い】ですか?」
「え?うん、そうだけど?」
あれ?結構有名なの?
「わわわわわ!ご、ごめんなさい、すぐにここからどきますから!」
「え!?い、いや、え?きゅ、急にどうしたの!?」
「い、いや!私なんかがいたら、きっと邪魔に・・・」
「え?何で?」
「え?」
な、何でこんな事に・・・。そうこうしてる内に四人がやってきた。
「こぉ~らぁ~。レイヤぁ、無理矢理どかそうとするなんていけないわよぉ?」
「ちょ!誤解です!ガ、く、首が・・・息が・・・」
主に、エルフィンさんとあなたが誤解してるだろ。てか、やばい。首を絞めにきた。死ぬ、死ぬ。ギブギブ。
「あ、ち、違うんです!私が勝手に・・・」
「あ、そうなの?ほんとに?」
よ、良かった。首を絞める力が弱まった。
「は、はい。皆さんが、【銀の集い】だって聞いて、驚いちゃって、つい」
「レイヤぁ?もしかして、いきなりそう言ったの?」
ギャー!!!ま、また首が・・・
「あ!わ、私が【銀の集い】じゃないかって聞いたんです」
「え?あ、そうなの?」
「は、はい。・・・えっと、あの、私と一緒で良いなら、皆さんも座って下さい」
ハア・・・ハア・・・。し、死ぬかと思った。ようやく、首から手を離してくれた。
・・・他の三人が笑ってる。気付いてたなら助けて・・・。
「じゃあ、お言葉に甘えて。ほら、レイヤ。いつまで、床に座ってんの?さっさと椅子に座りなさい。まあ、そこで良いんなら、別に良いけど」
・・・この扱い、あんまりじゃ。せめて、謝罪の言葉を・・・
「えっと、ごめんなさい、レイヤさん。大丈夫ですか?」
「あ、うん。まあ、なんとか」
天使だ。エルフィンさんは天使だ。きっと本物。
俺は椅子に座る。
その後は、まあご飯食べつつ、六人で楽しく雑談をした。ここまでは良かった。
アルフさんが酒を飲み始めたあたりで、地獄は始まる。俺は、アルフさんの隣に座っていた事を後悔した。
だって、アルフさん、めっちゃ酒癖が悪いもん。めっさ絡んでくる。この、酔っ払いめ。
「大体ねぇ、あいつらはねぇ・・・」
などといった感じで、俺にグチグチと愚痴を言ってくる。
「あー、はい。そうですね」
「ちょっと!ちゃんと聞いてんの!?」
頭を思いっきり叩かれた。かれこれ二時間、ずっと、この調子である。この酔っ払いめ・・・。
「あの、リックさん。これ、何とかなりませんか?」
「無理だ。諦めろ」
ハァ・・・。
「んん~?レイヤ、あんた全然酒飲んでないわね。ほら、飲みなさい」
「い、いや、俺は酒は―――」
「あたしの酒が飲めないっていうの!?」
やい、の○太!俺の歌が聴けねぇのか!?というセリフを思い出す。
あ、無理矢理、酒の入ったコップを口に押し付けてきた。飲まざるを得ないようだ。
ならば、俺は現実逃避気味にちょっとだけ説明をしよう。
飲酒が可能になる年齢は、この世界では十二歳。故に、年齢を理由に断れない!以上!
あ、俺の口の中に酒が無理矢理・・・。
「おお、良い飲みっぷりね!ほら、もう一杯!」
「い、いや、その」
「ほら、のめのめ!」
「がぼっ!?」
それが、幾度となく繰り返され、気付いた時には、俺の意識は無かった。




