その4
4.
――その後のこと。あの時の魔女の〝指を鳴らす〟という行為は、瞬間移動的としての意味合いだけではなく、村の人たちを起こす効果もあったらしい。妹の部屋へ行ってみると、ちょうど母さんと右子の寝起き場面に出くわした。安心のあまり泣きそうになったら俺が心配された。逆切れしたら違う意味で心配された。
そして翌日の朝。
「母さん、ちょっと出かけてくる」
「珍しい。どこ行くの?」
夜の間に回していた洗濯機から洗濯物を取り出しながら、母さんが訊ねる。俺は答える。
「親父を起こしてくる」
電車は街へと近づいていく。親父が入院する病院のある街へと。俺が壊してしまった家族を、文字通り俺の手で修復するために、俺はあの病院へと向かう。その電車の中で俺は魔女の手紙に目を通した。渡された封筒の中身は一枚の手紙と地図で、その手紙には、こう記されていた。
『君の家族の問題が一段落ついたら、同封してある地図の場所に来て。そこにわたしの家がある。他の人間は連れて来ちゃダメだよ、当たり前だけど。来てくれるよね? 君のこと助けてあげたんだから、わたしのお願いも聞いてくれるよね? 友達になってくれるよね? 待ってるから』
後出しでこんなことを言ってくるなんて、卑怯だとは思う。でも、
「行かないわけにはいかないよな。いつになるかは分からないけど」
自分でも顔がにやけているのが分かる。だけどそれも仕方がないじゃないか。俺は、自分を誘惑してきた夢魔よりも、あの魔女の方にいかれてしまったんだから。
「で、お前はなんで当たり前みたいに電車に乗って、しかも俺の横に座ってんだ? こないだの夢魔さんよ。ちゃんと切符買ったのか?」
「ああ! 子ども料金でな!」
「お前、実は体型のことあんまり気にしてないだろ」
とにかく、着くまでの間に寝ちまわないように気を付けよう。
――いや、寝ても大丈夫か。こいつが相手なら。
ご時勢がら……俺が通報されないかどうかの心配をすべきかもしれない。