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魔女と夢魔と左手  作者: 直弥
3/4

その3

   3.


 夢の中でサキュバスを打倒する方法は幾つかあるらしいけど、その何れもが容易じゃない。最も単純な方法は力づくでサキュバスを跳ね除けることだけど、これはまず不可能。現実でならば俺でも容易に捩じ伏せることが出来る相手でも、夢の中では事情が違う。夢の中で夢魔と戦うのは、水中でサメと戦うようなものであるそうだ。だからそれとは違う、俺が出来る範囲で最も可能性の高い手段で倒す。そして俺がそれを成し遂げるには、忌々しいこの力に頼らざるを得ない。

〈奪牙〉――つまり、俺の能力の使い方についての説明は受けた。


「でも、そもそも夢の中でもこの力って有効なのか?」

「へ? 当たり前でしょ。何言ってるの?」

 当たり前らしかった。

「じゃあ、お前の魔法で俺を強化したりしてから……」

「ああ、そういうのは無理なの。夢に持ち込めるのはあくまで自分の力だけ。じゃあ、寝て」

 寝間着に着替えてベッドに横になった俺に向かって指示する魔女。電気は消しているが、目だけがらんらんと光ってこっちを見ている。まるで猫だ。

「いきなり寝ろと言われてもな」

 夢でサキュバスを打倒するのだから当然夢を見なくてはいけないわけで、それにはつまり寝る必要があるのだが、寝ろと言われて一瞬で寝られるほど俺はあやとりや射撃が得意ではない。

「いや、その特技は関係ないな」

「何を一人でぶつぶつ言ってるの? とにかく寝なきゃ何にもならないよ」

「でもなぁ」

「いいから寝る!!」

「どっ!!」

 魔女のかかと落としが見事にみぞおちに決まり、俺の意識が遠のき始めた。

 ――いや、アリなのか? これ。


 気がつけばベッドの上。寝る前と変わらぬ光景。いや、正確には一つだけ違う所がある。魔女がいない。そうか、これはもう夢の中なんだ。サキュバスは、俺が夢に入った途端にそれを嗅ぎつけ、すぐに夢の中にまで追って来る、とあいつは言ってたけど……。

「待ちわびたわよ」

「……っ!!」

 突然の出現に言葉が出ない。まばたきの間に現れたという感じ。いきなり現れるっていうのはこういうことを言うのか。昼間見た時と変わらぬ姿、昼間聞いた時と変わらぬ声で、夢魔は俺の夢に侵入してきた。男の理想そのもののような肉体で。

「……」

「ふふふ、どうしたの惚けちゃって」

 サキュバスは余裕の表情を浮かべ、俺に擦り寄ってくる。まだだ。まだ早い。まだ動くな。口も利くな。惚けているふりをして身体を硬直させる。

 あの魔女は言った。

 ――〈奪牙〉の真骨頂は、ただ相手の〝牙〟を奪うに留まらず、奪った〝牙〟を自分で使ったり、誰かに譲渡したり出来ることなんだよ。

 ――サキュバスの〝牙〟は十中八九〈テンプテーション〉、つまり誘惑の術。それさえ奪えば勝機はある。

 サキュバスの〈テンプテーション〉を奪い、逆に俺が利用する。

 つまり、俺がサキュバスを誘惑するわけだ。一見無茶苦茶かもしれないその方法が、俺が唯一こいつを打倒し得る方法。そのためには、出来る限りこいつに近づかないと……。しくじれば終わりだ。親父を起こしに行くことも出来ない。下手を打てば俺まで眠ったままになりかねない。

「つっ!!」

 とうとうサキュバスの手が俺の身体に触れる。

「ふふ……」

 官能的な笑みを浮かべながら自分の着衣を乱しつつ、身体を絡ませて来る。ゆっくりと、俺を焦らすことを楽しむように。

 しかしなんだろうか、この違和感は。確かに俺はこいつの正体を知っている。テンプテーションで俺の肉欲を引き出し、ただの雄に成り下がらせようとしていることも知っている。それにしたって今の俺は冷静過ぎやしないだろうか? 相手は仮にも夢魔、淫魔だぞ? どんな誘惑にも屈しない鋼の決意で夢に入ったのに、テンプテーションってのがこの程度のものだっていうんなら、仮に俺がそれを奪って利用しても、こいつを誘惑するなんてことが可能なんだろうか? 俺でさえ耐えられるこの術で。

 ――いや。もしかしたら、まだテンプテーションを使っていないのかもしれない。だったらいっそ使われる前に……。いやいや、止めろ。一回しくじったらお終いなんだ。引っ張るんだ、ぎりぎりまで!

 そしてそのぎりぎりが、いよいよ訪れた。

 サキュバスが俺に接吻する。その後頭部を俺は、左手で、渾身の力で掴む!

「んんっ……!!」

 異変に気付いたサキュバスは俺に口づけした状態のまま目を見開いた。その瞬間、俺はサキュバスを引き剥がし、そいつを掴んだ左手に力を送り込み、〈奪牙〉を発動する。左手が僅かに輝き、熱を持つのが分かる。ああ、そう言えば親父を殴った時も手がこんな風になっていた。どうして今まで忘れていたんだろう。ただ目を背けていただけなのか。臆病にもほどがある。

「あああっ!! き、貴様ぁぁ!!」

 感傷に浸っている俺を凄まじい形相で睨みつけてくる夢魔は、しかし俺の手を振り払うことも出来ずにもがいている。強制的に〝牙〟を奪われる際には苦痛が生じるらしい。蚊が血を吸うときに麻酔を出すのとは正反対の理屈で、相手の抵抗を避けるために。普通の夢ならともかく、この夢では俺もサキュバスもすべての感覚が現実と変わらず感じられるのだ。

 徐々に手から熱が引き始め、輝きもなくなっていく。そして、熱が完全に引いた時、夢魔はもはや叫ぶことも止め、力なくしゃがみ込んだ。

 間違いなくF以上はカップのあった夢魔の胸が平原になっていた。完全に俺以下の胸囲だ。

「…………」

 いや、いや、いや。え? 何? こいつの最高の武器って……胸?

 わけが分からず唖然としていると、俯いたまましゃがみ込んでいた夢魔が顔を上げた。褐色の顔でも一目で分かるほどに赤面し、目には涙をためている。そして、

「元に戻せえ!!」

 さっきまでと同一人物とは思えない、子どもじみた声を張り上げて掴みかかってきた。

「戻せ! 戻せ!!」

「ちょ、ちょっと待て! ストップ! 落ち着けって!」

「戻せ!!」

 ――こいつ、いい加減に、

「いい加減にしろ!」

 そう言って頭をはたくと、夢魔はまたしゃがみ込んで、今度はすすり泣き始めた。

「うううっ……元に戻せよぉ。お前、何やったんだよぉ……」

「落ち着けよ。戻せって何をだ? ……言われなくてもわかってるけど」

「だったら黙って戻せよ! 元に戻せよ!」

 泣いたり怒鳴ったりと、何とも騒がしい奴だ。それにしても、まったく予想外の展開にはなったが、これはある意味好都合かもしれない。

「そうだな。元に戻してやってもいい。でも、条件がある」

「体か! 体が目当てなんだな!?」

「何でだよ! 黙っててもお前から犯ろうとしてたじゃねえか!!」

「男は皆ケダモノだな!」

「てめえがそれを言っちゃお終いだろうが」

 痴女っ子猛々しい。まあ、これ以上不毛な言い争いをやっていても仕方ないか。

「起こせよ」

「え?」

「俺が起きて、現実に戻ったら、元に戻してやる。現実の世界でな」

 もちろんこれは騙りだ。現実にさえ戻ったらサキュバスは所詮雑魚。元に戻してやる、と言っておびき寄せれば簡単に倒せるはずだ。

「ホントだな?」

「……ああ、本当だ」

 サキュバスは悔しそうに唇を噛み締めている。少し、心が痛む。

「くうう、仕方ない。じゃあ、行くぞ!」

 は? と言う暇も与えず、夢魔は俺をぶん殴った。罪悪感が吹っ飛んだ。呆れた夢魔だ。生かして置けぬ。そして意識も落ちていった。


「あ? やった! こんなに早く目が覚めたってことは成功だね!!」

 魔女の声が聞こえる。そうか、俺は目が覚めたのか。

「ところで、君が目を覚ました時にそのお腹の上に現れた子は……」

「え?」

 言われて気がついたけど、確かに腹に何か乗っかっているような重みを感じる。ちょうど子どもが乗っかっているような重みを。その正体を確かめるべく上体を起こそうとすると、

「うわ!!」

 と言う声とともに何かが……というか誰かが、俺の腹の上から転がり落ちた。

「な、何だ?」

 完全に身体を起こし、ベッドの上に乗ったままで真っ直ぐ前を見ると、右子よりも更に幼そうな女の子が、床にぶつけたらしいその小さな頭を抱えて唸っていた。

「ぐおおお……」

「えっと、大丈夫?」

 魔女は一応声をかけるが、かけられた方は痛みでそれどころではないようであった。が、しばらくすると痛みが引いてきたのか、片手で頭をさすりながらも顔を上げ、涙目でこっちを睨みつけて言った。

「ああ、痛たたた……。なぁにすんだよう!」

 この声。そしてこの喋り方は、間違いない。

「お前、もしかして、さっきまで俺と夢の中で喋ってた奴か?」

「ああ? 記憶力ゼロかよ、お前。見りゃわかるだろ?」

 いや、少なくとも視覚的には分からない。確かに言われてみれば、夢の中のサキュバスを子どもにしたような容姿ではあるけれど。

「お前、ガキじゃん」

「ガキ!? ガキって言ったな? チクショウ!! それを言われちゃお終いだ!!」

「やっぱりお終いなのか」

 とにかく『ガキ』はこいつにとって相当の禁句だったらしい。今まで以上に顔を真っ赤にして喚いている。はっきり言って、ますますガキっぽい。

 と、唐突に、ガキが「あっ」という声を発する。続いて。

「そうだ、約束だぞ! ちゃんと元に戻せよな」

「……今思い出したのか」

「約束?」

 それまで黙って俺たちのやり取りを見ていた魔女がようやく口を開いた。そうだ。俺もこいつに訊かなくちゃならないことが幾つかあるんだ。

「おい、何なんだこいつは? 昼間いきなり俺にチューして来た時も夢の中でも、二十そこそこにしか見えなかったのに、今は完全にガ……子どもじゃんか」

「うーん、それはつまり〈変貌〉を使っていたんだろうね。そんな姿でも、仮にもサキュバスなんだし、夢の中なら〈変貌〉くらい使えるでしょ。現実でもちょっとぐらい、ほんの数十秒くらいは使えるだろうし。テンプテーションは無理かもしれないけど」

「なるほど。テンプテーションがなかったから、変わりの〝牙〟が胸だったってわけか」

 だけど、どっちかっつうと変貌の方がまだ牙にならないか? などと考えていると、魔女は不思議そうに俺に質問した。

「胸? 胸って何?」

「いや、だからさ、俺が夢の中でこいつの〝牙〟を奪ったら胸がしぼんだんだよ。今のこれは子どもの姿だから元々胸はないのかもしれないけど」

「それはちょっと変だね。だって、〝牙〟っていうのは、あくまで本来の最高武器のことなんだし。〈変貌〉した結果の身体の一部が〝牙〟になるなんて有り得ないはずだけど」

「こらぁ、そこぉ!! どうでもいいから早くアタシを元に戻せ!」

「元に戻してもほとんど変わらないんじゃないか?」

「……いや、ちょっと待って」

 魔女はそう言って俺と夢魔の間に割り込んできて、眼を見開き、夢魔をじっと見つめ出した。

「な、何だよお前、その眼……まさかウィッチのイビルアイか?」

 今更気がついたらしく、夢魔の言葉は突然弱々しくなった。ウィッチはそのまま、魔女のことだろう。でも『イビルアイ』ってのは一体なんだ? アイ……目? そんな風な感慨を抱いていると。

「あ、なるほど。そういうことか」

 魔女は突然声を出して手を叩いた。

「何がそういうことなんだ? 一人で納得しやがって。説明しろよ」

「もちろん、説明するよ。あのね、君が奪ったのはこの子の胸じゃないよ」

「あ? じゃ、一体何を奪ったって言うんだよ」

「君が奪ったのは、この子の〝女性〟だよ」

「は?」

「何ぃ!?」

 夢魔は俺とほぼ同時に声を上げた。自分のことなのに、俺と同じ見解だったらしい。夢魔は後ろを振り向き、服をずらし、自分の身体を確認して叫んだ。

「ぎゃあっ! 本当の本当につるっつるだ! マネキンみたいな股になってる!」

 色々とぎりぎりの発言だった。いや、ぎりぎりじゃねえよ。アウトだろこんなもん。それはともかくとして。

「女性を奪ったって……じゃあ、今のこいつは一体どういう性別なんだよ」

「えーっと、男ではないし…………無?」

「それはまた新しいジャンルが生まれそうだな」

 とんでもなく開拓が難しそうだけど。世の中には無機物ですら性の対象として妄想する人たちもいるらしいが、彼氏彼女たちでさえ便宜上の性別を与えるというのに。

「ふざけんな、ドチクショウ! 返せよ、この変態!」

「ケダモノの次は変態呼ばわりか。別に好きで〝女性〟なんてものを盗んだわけじゃねえよ」

 それにしても、〝女性〟か。テンプテーションが使えない以上、女性であるということがサキュバス最大の武器になるのか。……ん? と言うことは、俺が今こいつの〝牙〟を使えば、俺が女になるってことか? 『ひだり(俺の名前)1/2』じゃん。……女体化した俺? きっつ!

「ねえ、返してあげてもいいんじゃない? キスによる、君の夢へいつでも入り込めるって呪いも消えてるし。それともやっぱり殺しちゃうの?」

「ころっ……!」

 その言葉に反応して夢魔はびくっとする。やっぱり殺されるなんていうのは、夢魔でも恐いらしい。

「あー、心配すんなって。殺したりしねえよ。なんか馬鹿らしくなってきた。返してやるから手を出せ」

「ほ……本当に本当だな? 油断させて殺そうとしたりしてないよな!?」

 思いっきり警戒している。無理からぬことではあるけど。

「大丈夫だって。お前だってそのままじゃ困るんだろ」

「うう、ほら! 手、出したぞ。痛くすんなよ」

 片方の手で目を覆いながら、もう片方の手を差し出した悪魔は小刻みに震えていた。これじゃあまるで俺が苛めているみたいだ。

 差し出した手を右手で握り、念を送る。夢の中で奪ったこいつの〝女性〟という〝牙〟が俺から抜けて、悪魔に戻っていくのを感じる。互いに合意の上であれば、〝牙〟を奪われる時も返される時も、苦痛はないらしい。

 事が済んでもまだ夢魔は目を覆ったまま震えていた。

「おい、終わったぞ」

「え? あ、本当だ」

 覆っていた目を放し、俺からも手を放した夢魔は安堵の表情を浮かべた。見た目的には何が変わったのかよく分からない。いや、先程よりは僅かに胸が膨らんでいる気がしないでもない。どっちにしろ誤差程度だけど。

 さてと。

「それにしてもどういうことだよ、こいつは。サキュバスってのは子どもの頃からこんなことをやるのか?」

 ここまで来て俺はようやくもう一つの方の疑問をぶつけることが出来た。

「まさか」

 魔女は横に首を振って否定する。

「成体にならないと子どもなんてつくれないし。そもそも、その成体になるまでは母親に育てられるし」

 ――母親に育てられる。

「っていうことは……お前、もしかして家出娘か?」

「あ、それも違うよ」

 俺は夢魔の方に声をかけたつもりだったのに、どういうわけか返答は魔女の口から発された。

「歳はわたしたちより少し下だけど、この子は間違いなく成体だよ。サキュバスって幼体と成体じゃあ姿がまるで違うもの。幼体の方は、昔は別種の夢魔属だと思われていたくらいだし」

 今でも幼体と成体は違う名前のまま呼ばれていることが多いしね。と、付け加えた。

「それにしても、これが? サキュバスの正体ってのは皆、見た目は子どもなのか?」

「そういうわけじゃないよ。この子……っていうのもおかしいのかな。とにかく彼女が特殊なだけ。幼体の時に、あんまり栄養が取れなかったのかなあ」

「ふぅん……」テンプテーションが使えなかったり、他の術も総じて拙かったのは、多分それが原因だろう。「幼虫の頃に余り栄養が取れなかったクワガタは、成虫になっても小さい。みたいなもんか」

「虫で例えるなよ!」

「ああ、悪い。声に出てたか」

「栄養が足りないとか、そういうんじゃない。体質の問題なんだよ。ちくしょうっ! こんなんだからアタシは子どもの時からずっと落ちこぼれ呼ばわりなんだ。大人になってからもガキだなんて言われるし。お母様ぐらいしかまともに相手してくれないんだ」

 どうりで『ガキ』という言葉に敏感だったはずだ。気を使うつもりで途中から子どもって言い換えてたけど、こいつにとっちゃ同じことだったんだな。俺が『子ども』っていう度に腹を立てていたに違いない。

「悪かった」

「え?」

「悪かったよ。子ども扱いして。それにしても、今まで一回も精気を奪うのには成功してないのか?」

 幾らこいつでも、一度くらい精気を奪うことが出来るはずだ。現に俺だって何も知らないままだったら簡単に奪われただろうし。

「……初めてだったんだよ、今回が。三日前に大人になったばっかりだったから」

「なんだ、そうだったのか」

「そうだったんだよ。とにかくさ、アタシを殺すつもりがないんならもうどこか行っちゃっていいか?」

 これ以上話すこともないという感じで、夢魔は訊ねる。

「どう思う?」

 魔女の方はどうやらこの夢魔の始末について俺に決めろと言っているらしかった。

「うーん、逃がしてやっても問題はなさそうだよな。夢に入るごとに口づけがいるようじゃ。とり憑かれている方も流石に気がつくだろうし、自己責任だろ、そこから先は」

「そうだね」

「よし。じゃあ、もう行っていいぞ、お前。あんまり気を落とすなよ」

「分かってらい。そう簡単には諦めないぞ、アタシは。じゃあな」

 小さな夢魔はそう言って窓を開け、闇の中へと消えていった。

「さてと、じゃあわたしもそろそろお暇しようかな」

 魔女は伸びをしながらそう言った。

「帰るのか? でも、その前にちゃんと皆を起こして行けよ」

「わかってるよ。ああ、そうそう。帰る前にこれを渡しておくよ」魔女がそう言うと、何もなかった所から突然水色の封筒が現れた。そして魔女はそれを俺に渡しながら言葉を続ける。「明日にでも開いて中身を見てちょうだい。忘れたまんま、引き出しの中じゃ嫌だよ。それからわたしのことは皆には内緒だよ」

「言ったってどうせ誰も信じないって」

「それもそうだよね。なら、安心だ。じゃあね」

「あ」

 という、俺の声にも気付かずに、指を鳴らした魔女は姿を消してしまった。

「お礼、まだ言ってなかったのにな」

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