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姉妹冒険者物語  作者: 並野
リッチーと宝石島の冒険
79/181

05

 市場通りへ赴いた翌日、丸一日かけて更に入念な情報収集に努めた三人。この日は島の伝承や言い伝えなど、些細な話まで。

 空いた時間は全て休息に当て、ゆっくり身体を休める。

 そうして、姉妹がシテテに到着してから四日目の早朝。

 万全の旅準備を整えた三人の、出発の日だ。



   :   :



「……眠い」

寝ぼけ眼のリッチーが、早朝の朝陽を浴びて眩しそうに、日射しに照らされる夜行性生物のように建物の陰へ逃げ込んだ。

 隣ではピエールとアーサーが、リッチーとは真逆の晴れやかな面持ちで朝陽を真正面から浴びている。


 二人は完全な旅格好だ。

 薄手ながら全身しっかりと覆う地味な茶一色の衣服に、旅道具や食糧、水などが詰まった大容量の背嚢。外套は着ていないが腰にはしっかりと各々の武具、ピエールは刃の付いたショベル、アーサーは鋼鉄(はがね)の直剣と革張りの丸い小盾を提げている。


 一方。

 リッチーの格好は、二人と比べると雲泥の差であった。

 服はどこかぼけたような駱駝色で、一応手足は隠れているという程度の見た目重視の格好。荷物も小振りで可愛らしいリュックサックと、普段使っていた肩掛け鞄。腰に武具は無い。

 彼女の装備は、近所の丘までピクニックに向かう、とでも言うかのような装いだ。彼女一人で山へ送り出せば十中八九帰らぬ人となるだろう。


「朝陽が刺さる……」

「この三日間は、あなたが普段どれだけ不摂生な生活をしているのかがよく分かる三日でしたよ」

「リッちゃんずっと寝付き悪いし、起きるのも遅かったもんねー」

「仕方がないの……仕方がないのよ……」

「何も仕方なくありませんよ、ほら早く出てきなさい。行きますよ」

「ああ待って、浄化、浄化されちゃうっ」


アーサーに手を引かれ、リッチーは嫌々ながら日陰から外に出た。

 三人の、アラシャルテの町からの出立。




   :   :

――あの煌めく輝きの力さえあれば、君の笑顔を再び見られる筈だ。

一縷の望みに全てを託し、私は影なる力を求め島の頂きを目指すことにした――

   :   :




 町を出た三人は、大きな一本の川沿いにある道を遡り南東、島の中央へ向けて進んでいる。

 道は馴らされているが、片や大きな川、片やどこまでも広がる広大な森林に左右を挟まれている。

 足取りは遅く、一歩一歩ゆっくりと辿るような歩みだ。

 姉妹と違いリッチーは少女相応の身体能力なので、彼女の体力に合わせたペースである。


 先頭を歩くアーサーの目は、川の流れと川底を転がる石へ向かっている。

「これがエルフの涙筋(なみだすじ)ですか」

「そうよー」

「涙筋? 変な名前だね」


ピエールが尋ね返すと、アーサーが視線を川へ向けたまま語り始める。


「この川、宝石の類の産出量が異常なほど多いらしい。私たちが今向かっている上流で川の石浚いを町ぐるみで行っているのですが、大きさこそまちまちなものの一日に数十個もの魔法の石が拾えるのだとか。しかもそれとは別に、拾い損ねや川浚いをしない時間帯に流れたものが下流域まで流れてくることもある。川の水に乗って宝石が流れてくるところを、涙が宝石になるという伝説のエルフの話に(なぞら)えて、エルフの涙筋、という名前がついた」

「ほら、一昨日競売所で見たじゃない桃色の涙石。あれもこの川で見つかったのよ」

「へー。それじゃ、もしかしたら今ここで見つかったりするのかな」

「かもしれませんが、この流れでは見つけて拾うのは難しいでしょうね」

「んー」


説明につられ、ピエールも川へと目を向けた。

 大きな川だ。幅は二、三十メートルはあり、深さも子供の背丈以上。水こそ澄んでいるが、流れも速くこの川底の石を浚うというのは骨が折れるだろう。


「宝石が川を流れてくるなんて浪漫よねー、あたしこの川見てるだけでワクワクしてきちゃう。ここに来たばっかりの時は、半日くらい綺麗なの流れてこないかなー、ピカピカこないかなー、って眺めてたのよ」


胸の前で指を組み、うっとりした顔でリッチーはくるりと一回転した。後頭部の長い金色の尻尾毛と、重みのある胸が二つふるりと揺れる。

 だが姉妹の顔は呆れ半分だ。


「半日川を眺めて、収穫は?」

「一個綺麗な石が来た! と思って川に飛び込んだらただの艶がある小石が光を反射してるだけで、宝石でもなんでもなかった上に流れ速くて溺れかけた」

「すごい無駄!」

「無駄じゃないわよ浪漫よ! あーあまたよ、ピエールちゃんなら分かってくれると思ったのに裏切られちゃったわー」

「いやあ、半日川眺めてるだけってのはちょっと……」

「ちぇっ」

「……リッチー、私の意見は聞かないのですか?」

「そんなの聞くまでも無いし……って何で物欲しそうな顔してるのよ。アーサーちゃんって結構あれよね。構って欲しがりよね」

「普段周りに他人がいる時は全然そんな素振りないのにねー」

「ねー」

「……」


その後も三人は川へ視線を投げかけ他愛もない雑談をしながら、川を遡上していった。


   :   :


 ピエールが、前方にいる一つ目走鳥を目を見開きじっと凝視していた。

 相手である走鳥も、全身を硬直させたまま微動だにせずピエールを見返している。

 彼女の視線は片時もぶれることなく、その身体は歩く姿勢で停止したままぴくりとも動かない。

 もしも視線を逸らし、気迫負けすれば走鳥は即座に襲いかかってくるだろう。

 それを防ぐ為、余計な諍いを避ける為、ピエールは無言で、威圧するような雰囲気を込めて走鳥を見つめ続ける。


 前方に走鳥が現れてから、およそ三分は見つめ合った頃だろうか。

 走鳥がゆっくりと踵を返し、森へと戻っていった。

 同時に、一行の間に満ちていた緊張感も霧散する。


「……帰ってくれて良かった」

息を吐きながら、額の汗を袖で拭うピエール。ほっと一息、という所だ。


「追い払っちゃうのね、あの一つ目キッカー。二人のことだからさくっと倒して今日のお昼ご飯にするのかと思ったのに」

「これから何日も歩くのに、余計な体力は使いたくありません。それに、どうせ川から逸れ始めたら襲撃者など嫌でも現れますよ」

数言交わし、すぐに歩みを再開する三人。


 代わり映えのしない道すがらに会話の種も尽き、言葉少なに川沿いの道を歩き続けることおよそ数時間。

 変化が現れた。


「……誰か戦ってるね。それに大勢いる」


真っ先にピエールが呟き、遅れてアーサーも気配を察知した。

 一方リッチーは戦闘力皆無なので気配などという不明瞭なものには一切の感知力が無く、気づいたのは視界に変化が現れてからだった。


 三人の前方、百メートルほど先の地点で、川の横幅が大きく膨らんでいる。

 人為的に川の幅を広げ、流れを緩く浅くしてあるのだ。幅は倍以上に広がり、膝より低い位置まで浅くなっている。

 周囲の木々も切り開かれ、広々とした開けた空間だ。その上、側には見張り台らしき櫓や小屋まで設置してある。その様は、さながら急拵えの前線基地のよう。


 幅を広げられた浅い川の中には十数人の作業員らしき者たち。

 手には大きな笊のような道具を構えて川の石を浚っている。

 時折笊の中の砂利や、川から直接光る石を取り上げては、背負い籠へと放り投げていた。


 彼ら川浚いの周囲、川の縁を囲むのは武装した護衛たち。

 片手用の槍と盾の前衛、それに弓を持つ後衛と魔法使いらしき後衛で統一されており、装備も皆革製の防具で統一されていた。川浚いたちすら、防具だけは同じものを着込んでいる。

 今は三人から見て左側にいる者たちが、森から出てきたであろう鳩のような姿をした人間大の巨鳥三匹と戦闘中だ。

 どうやらその巨鳥は空を飛べないらしく、地面を跳ねるように移動しながら盾を持った相手に攻撃を仕掛けている。

 だが前衛の対応は手慣れたもので、嘴や足の爪を堅実に盾で捌きながら槍で足を突き、動きが鈍ったところで喉を一息に貫き討ち取っていた。

 前衛が巨鳥を討ち取れば、待機していた別の作業員たちが巨鳥を回収し解体を始めていく。

 実に統制の取れた分担作業だ。


 その光景を眺めながら歩いていた三人。

 川の膨らんだ地点まで到着すると、外周にいた武装した者たちが手を上げて挨拶を行った。

 三人も、二人は手を上げ、一人は会釈のみで挨拶を返す。


「よお。お前ら冒険者か?」

「うん、そうだよ。……ここは何してるの?」

「知らないのか? ここは涙筋の川浚い場だ。見ての通り涙筋から流れてくる宝石や魔法石を集めてんだ」

「こんな所で?」


聞き返しながらピエールが視線を向けると、森から再び魔物がやって来たようだった。

 現れたのは人の頭ほどの大きさの雀型の鳥が複数。空を飛び、護衛を飛び越えて川の石を浚っている作業員へと強襲しようとしている。


「矢雀が来たぞっ! 気をつけろ!」

誰かの叫びと同時に、空を飛ぶ鳥へ向けて何本かの矢と呪文の光弾が射かけられる。

 矢弾は総勢六匹いた矢雀のうち五匹へ命中したが、一匹だけ射撃の雨を切り抜けて作業員へと肉薄した者がいた。

 一直線に飛来する矢雀が、作業員の一人の胴体へと真っ向から突撃した。

 作業員たちは皆防具を着て身構えていた為、体当たりされた者も吹き飛ばされただけで被害は少ない。

 だが突き飛ばされた拍子に作業員の籠から石が零れ、矢雀はその中の一つを啄みその場から飛び去っていった。

 何とも迅速で手際のいい犯行だ。


 突き倒された作業員は何とか一人で立ち上がると、こぼれた石を拾い集め籠へと戻していく。

 同時に解体作業員が撃ち落とされた五匹の矢雀を回収し、一人の魔法使いが手当の為作業員の元へ。


「……やられた! やっぱり取られたのは魔法石だ! ついさっき拾った推定五百ゴールドの翡翠!」

「だから魔法石拾ったらすぐ金庫に入れに行けって言っただろ!」

「わ、悪い……」

「後衛が一匹逃したのも悪かったし取られたもんは仕方ねえ。ただし次から高価な石が出たら面倒臭がらずすぐに金庫に入れに行けよ」


一連の対応が終わり、作業員たちはまた川浚いへ。

 ピエールの視線も、目の前の護衛の一人へ戻った。

 再び彼女が口を開こうとする直前。

 先に説明を始めたのはアーサーだ。


「本来なら川の下流の安全な領域で川浚いをするべき、というのは尤もな意見ですね。ですが、今見た通り魔法の石は魔物にとっても重要な石なので下流で待っていると高価な石を魔物に先に浚われてしまうんですよ。なので、可能な限り上流で行った方が価値の高い石が多く集められる。ここがその限界。……加えて、魔物に襲われるのも裏を返せば石以外の収入に繋がる。文字通り一石二鳥という訳です」

「……なんだ。そっちの奴はよく知ってるじゃないか」

「有名な話ですからね」


言外に"有名な話なのに何故知らない"という含みを持たせながらアーサーが説明すると、ピエールはごまかすようにあっけらかんと笑って顔を逸らした。


「それで、あんたらはどうしてここに? まさかまだ上に行く気か?」

「ええ、そのつもりです。その為の準備も情報収集も行いました」

「そうかい。止める気は無いが気をつけろよ。この辺の魔物どもは間抜けな面してるがどいつも凶暴だからな」


そう締めくくって、護衛の一人は元の陣列に戻った。

 ピエールが礼を言い、アーサーが会釈を行い、

 一人川の中に踏み込んで作業員相手に石をせがんでいたリッチーを回収しに、アーサーが肩を怒らせて川の中へ足を踏み入れた。



   :   :



「見て見てこのオパール! 遊色が大きく出てて綺麗よね、加工したらどうなるのかしら……はああたし感激」

「リッちゃんそれどうしたの?」

「川浚いしてたおじさんから貰ったの。魔法の石じゃないからくれるって」

「いつの間に……」


歩きながら拳大のオパールの原石を空に掲げてうっとり眺めるリッチー。

 ピエールが呆れの混じった笑顔で見ている中、アーサーは思案顔だ。


「本当にこんな大きな物が川を流れてくるとは……流れている間に削れたり割れたりしないのでしょうか」

「逆に考えるのよ、これだけの石が川を流れてくるなら、上流にはもっと大きな塊があるって。……わくわくするよね、とってもわくわくするよね! ね!」

「多少はしますが……」


アーサーの言葉が、途中で詰まる。

 同時に彼女の視線が、隣のリッチーから真正面遙か先へと向かった。

 釣られて横の二人も、前方へと目を向ける。


 一行の視線の先では涙筋の流れが大きくうねり、進行方向から見て左へ曲がっていた。結構な急角度だ。

 立ち止まる三人。


「ここから森を一直線に進むんだっけ?」

「そうよー。涙筋が左に曲がってもそのまま真っ直ぐってあの紙に書いてあった」

「大丈夫かな。ちょっと危なそう」

「この道を進んでいた時のようにはいかないでしょうね。……ひとまず、予定通り昼食休憩にしましょう」

「やった、休憩!」


三人は森に入る前に、休憩を取ることとなった。

 真っ先にリッチーが、背負っていたリュックサックを地面に降ろし座り込む。

 続いて二人も、背嚢を降ろし地面へ。


「はー疲れたー、お腹ぺこりんこー、喉もからっからー」

「荷物軽いんですからもうちょっと頑張ってください」

「あたしは二人みたいな武闘派じゃないのよー」


リッチーは地面にぺたりとへたり込むと、無遠慮にピエールの横へと這い寄り彼女の背嚢を開けて中身を探り始めた。


「おーなかぺこぺこぺこりんこー」

歌いながら、我が物顔でピエールの背嚢を漁って食料を探すリッチー。

 姉妹と違い人並みの体力しかないリッチーの荷物は、大部分をピエールとアーサーの背嚢に分割して収められている。本人の鞄にはろくなものが入っていない。

 やがてリッチーが探り当てたのは、かちかちに乾燥した果物が詰まった袋。薄い輪切りになった乾いたバナナを一枚口に放り、ピエールの大きな背嚢に腹を預けて大きく息を吐いた。


「ふぃーっ」

「私にもちょうだい」

「私にも」


袋に入った干しいちじくを、並んで座るピエールが差し出した手に乗せ、離れた位置にいるアーサーには放り投げる。山なりの軌道で投げられたいちじくは、器用にアーサーが口で受け止めた。

 もしゃもしゃ。

 三人して果物を咀嚼する。干し果物は砂糖が殆ど使われておらず、圧倒的に甘味より酸味の方が強い。だが、旅路の疲れた身体には貴重な糖分だ。


「酸っぱっ……」

「ねー。もっと甘いやつにすればよかったのに」

「価格が倍以上違ったじゃないですか。流石にあんな高価なものを買う訳にはいきません。……それでは茶の準備をします」

「はぁい」


立ち上がったアーサーが早足で川縁から石を、森から薪になる小枝を集める。

 集めた石を小さな竈になるよう組み、底に枝を、上に空の小鍋を置く。

 作業は手早く手慣れたもので、あっという間に小さな竈の完成だ。


「では水と火を」

「めんどくさーい。アーサーちゃん出来るんだからやっちゃってよ」

「私よりあなたの方が得意ですし余裕もあるでしょうが、荷物の肩代わりもしてるんですから呪文による火付けや水出しくらい働いてください」

「ちぇっ」


握っていた食料の袋を名残惜しそうに置き、鍋の前まで四つん這いで近づいたリッチー。むにゃむにゃ呪文を呟いて鍋に水を満たし、続けて指先に火を灯すとぞんざいに枝に火を付けすぐに元の場所まで戻った。

 川の流れる音に紛れて、火の爆ぜる小さな音が響く。

 ぼんやり果物をつまみつつ暫く待っていると、小鍋の水はすぐに沸き終えた。

 沸かした水で紅茶を淹れ、姉妹は静かに、リッチーは音を立てて啜りつつ昼食が進む。


 今回の食事は米粉を練って揚げた菓子、干し果物、魚の干物の三種類。

 干し果物は酸味が強いものの揚げ菓子と干物は塩気が程良く、中々悪くない味わいだ。

 どれも乾いており口内の水分を容赦無く奪っていくので、合間合間に紅茶を含みながら三人は食事を続けている。


「この揚げたお菓子美味しいね。これってお米なんだっけ?」

「そうよ。米を粉にして練って揚げてあるの。ここは主食は米で、麦は全然見ないのよー。美味しいことは美味しいんだけど、麦も恋しいわー」

「パンが無いんですよね、ここ。米粉を使った似たようなものはありますが、やはりどこか違う」

「そう! そうよ、パンが無いのよ! はー……考えるとどんどん食べたくなって来ちゃう」

「言われてみれば食べ物のお店でパン見たことって一度も無いかも。やっぱ独特だねーシー……この島」


島名を言おうとしたがさっぱり覚えていなかったことに気づき、ピエールは言葉を引っ込めて言い直した。

 勿論、そのことはアーサーにもリッチーにも筒抜けである。


「……シーレペテレンペティカッソンです。姉さん、島名を覚えていないことは構いませんから、無理して言い掛けようとしないでくださいね。そういう半端なことを住民は嫌います」

「い、いや覚えてるし? 別に忘れてなんかないし?」

「うわ、清々しいほどの嘘。だから、その強がりが駄目なのよ」

「じゃあそういうリッちゃんはどうなのさ」


リッチーにも否定され、少しむっとしながらピエールが尋ねた。

 するとリッチーはあっけらかんとした顔で、


「あたしもついこないだまでちっとも覚えてなかった」

と即答した。

 ピエールの肩がずるりと下がる。


「なんだ、リッちゃんも覚えてなかったんじゃん。半年くらいいたんでしょここ?」

「そうよー、だから、覚えてなかったら正直に言うの。あたしもね、昔無理して言おうとしたことあったのよ。……すっごい剣幕で怒られたわ。あと、シテテって略した時も怒られた。ついでに、町で仲良くなった人の名前を勝手に略して呼んだ時も怒られた。その時はビンタされたわ」

「……そんなに」

「ここの人ってね、名前は出来るだけ長い方がいい、みたいなところがあるのよ。で、その名前を一字一句間違えずに覚えてくれるのがその人を大事に思っている証で、名前を勝手に略したりわざと間違えたりするのは殴り合いするほどの侮辱、なんだって。誰も彼も長い名前ばっかりで()んなっちゃう。ディルフェレンディ君でしょ、マールダリードウ君でしょ、パルシュリフシャ……あれパルシュルフシャだっけ……どうしよ忘れたかも……」


ぱりぱりと揚げ菓子をかじりながら、首をひねるリッチー。

「姉さんにはとても住めなさそうな島ですね」

と横からアーサーに呟かれ、ピエールはぐうの音も出ずに力なく空を見上げた。

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