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姉妹冒険者物語  作者: 並野
王国の竜
22/181

出立者-04

 鳩麦堂、店内の隅。

 半ば定位置状態のその場所で、三人は食事の最中だ。

 ピエールとアーサーは外套のフードを深めに被ったまま、ニナは若干気まずげな顔で。


 机の上には、多種多様な甘味の数々。

 平皿に小綺麗に並ぶのは、森の薬草が練り込まれた薬草クッキー。十分な下処理と大量の砂糖のおかげで薬草の苦味は殆ど無く、爽やかですっとした香味と、薄緑色の鮮やかな色合いが机に彩りを与えている。

 個々の目の前には、ライ麦のフレークと生クリーム、それに砂糖を絡めて煮詰めた林檎を合わせた林檎のパフェ。とっておきと言わんばかりのいかにも高価そうな硝子の杯に、暗褐色、白、黄色が境界を曖昧に滲ませながら積まれている。

 その他初日に食べた紅麦のアップルケーキ、プリン、少量の飴など。机の上はちょっとしたパーティ状態だ。


 澄まし顔のアーサーが右手でクッキーをつまみ上げ、匂いを嗅ぐ。

 焼きたての麦の香ばしさと薬草の爽やかさが混ざり合った香りを軽く堪能してから、優雅に一かじり。さくさくと咀嚼しながら、口の端だけをほんの少し持ち上げて微笑んだ。


「……おや、あまり浮かない顔ですが、どうしましたか?」


クッキーを食べ終えたアーサーが、視線だけを横に滑らせてニナを見る。その顔は、どこか底意地の悪さを予感させるものだ。


「いえ、その……こんなにお菓子がいっぱい並んでるところを見るのは初めてで、凄いと思う反面、奢ってもらうのが少し申し訳なくて……」


話を振られ、曖昧な苦笑いで答えるニナ。

 その返事を聞いて、アーサーの顔が嫌味ったらしく歪んだ。


「ええ全くそうですね、何の働きもしていないあなたにそれだけの量を奢るのは本当に不釣り合いですね。一体どうや、っ」


いつも通りの嫌味を投げかけたアーサーが、途中で中断し椅子を素早く引いた。

 机の下、見えない所でアーサーのすねを蹴ろうとしていたピエールのつま先が、一瞬の差で空を切る。


「姉さん、治りたてのすねを蹴ろうとするのはいくらなんでも止めてください」


アーサーの文句を、とぼけた笑顔でピエールは受け流した。

 次いで、机の下でのやり取りを知らず目を丸くしていたニナに明るく笑いかける。

 意図する所は「気にせず食べて」だ。


「あ、ありがとうございます、ピエールさん」


その笑顔にニナも微笑みを返し、おずおずといった調子でスプーンを握り自分の前の菓子に手を付け始めた。

 一方のアーサーは、実に面白くなさそうな顔だ。

 苛立ち紛れに、パフェを掬って口に運ぶ。舌が溶けそうなほど強烈なクリームと林檎の甘味に、ライ麦の風味がアクセントとなって絶妙なバランスを醸し出している。このフレークも炒りたてで、ほんのりと温かくそして食感と香ばしさが引き立っていた。

 甘さ一辺倒ではないバランスの良い味わいで、彼女の苛立ちは多少ながら霧散した。


「はふ……」


普段の不快感を示す為のものとは違う、満足感からのため息を吐くアーサー。手に持った長いスプーンをくるくると回し、机の上の景色を目で味わうように眺める。

 スプーンを置いて、アーサーは紅麦茶の注がれたコップを手に取った。音を立てず一口含んだ所で何かに気づき、コップを置いて店内、入り口方面へ視線を向けた。

 同時にピエールも店内入り口、店内に入ってくる存在に目を向けている。

 入ってきたのは、二人にとって見慣れた存在である小男と巨漢の二人組だ。

 小男は悠々と、巨漢は入り口をくぐるのに身体を縮め窮屈そうに店内へと入る。


「いたいた」


店内を見回したアロイスが姉妹を捉え、中年二人が彼女たちの座る席の前へ歩み寄った。

 小男が手を掲げ挨拶し、アーサーがそれに応じる。ピエールは笑顔を浮かべ会釈するのみだ。

 アロイスの後ろでは、縦にも横にも巨大なオットーが椅子に座る三人を見下ろしていた。蛙顔の巨漢の身体からは包帯は既に無くなり、頭部の火傷の痕も皮膚の色が異なる程度。だが皮膚は治っても毛はすぐに治らないようで、髭や髪、眉毛などはうっすら生えかけている程度だ。


 その巨体の上毛まで無くなったことで、存在感と威圧感は凄まじいものがある。

 オットーのぶっきらぼうな視線がピエール、アーサーと経由し最後にニナへと向かった時。小さな宿屋の娘ははっきりと恐怖を滲ませ、悲鳴すら上げられずに近い位置にいたアーサーの服を強く掴んで身体を寄せた。

 見開いた目は恐怖に歪み、視線をオットーから外そうとしない。


「おい妹、そっちの娘っ子は何だど」

「私たちが泊まってる宿の娘です。意味も無く付いてきてるだけなので気にしないでください」

「気にせずいるにゃ怖がられ過ぎてる気がすんべ。娘っ子、そんなに怖がらんでええど。なんもせん」

「今のお前かなり人間離れした見た目だし、当然だよなあ。……嬢ちゃん、俺はアロイスで、こいつはオットー。俺たちはその二人の……まあ仕事仲間って所だ。心配すんな」

「それで、何か私たちに用ですか?」


自身に縋り付くニナを一瞥すらせず鬱陶しげに引き剥がし、アーサーは中年組に問いかけた。


「用ってほどでもねえ。怪我が治ったらしいし、ちょっとくらい世間話でもしようかと思ってな。席、座るぞ」


アーサーの黙認を待って、隣の席から椅子を引き寄せて座る中年組。オットーは椅子を二つ並べ、そこに腰を降ろした。


「よくもまーこんな並べたもんだべ。甘いもんばっかで舌が馬鹿になりそうだでよ」

「この町の特産が砂糖である以上、最大限楽しんでおかないといけませんから」

「にしたってこんな一度で大量に食わなくても……ああ、そういやお前らは人よりよく食うんだったな」


呼びつけた店員に酒と軽いつまみを注文し、アロイスは姿勢を崩して机の上に頬杖を突いた。

 アーサーが珍しく気を利かせ、机の上の菓子を寄せて中年組の為の空間を開ける。


「怪我はもう良さそうだな、姉ちゃんの顔も妹の腕も」

「ハンスと、多少ですが私が使える分の治癒呪文がありましたからね」

「多少なりとも、自分で使えるってのは羨ましいもんだ」

「そう頼りになるほどのものではありませんよ」

「それでもだよ」


目を細めアロイスはにやりと小さく笑った。

 やや間を開けてから、視線がピエールへと向かう。


「……姉ちゃんやけに静かだな」

「姉さんは机に向かって食事をする時は、基本的に会話はしません。話は私が聞きますから放っておいて構いませんよ」

「何だべそりゃ」

「親の厳格な教育の賜物であり弊害、でしょうかね」

「そういや、初日の昼にマナーがどうとか言ってたな」


やはり言葉を発さず、ピエールは微笑んで小さく首肯した。

 中年二人はどちらも納得がいった様子ではないものの、それ以上何か言うこともなくピエールに向けていた意識を外す。


「で、本題、って訳でもないが」


視線をピエールから外したアロイスが、正面からアーサーを見据えた。

 あくまでマイペースにケーキを口に含みつつ、アーサーは同じようにアロイスを見返す。


「お前らこれからどうすんだ?」


小男の口から出たのは、何てことのない世間話の延長のようなものだ。事実姉妹二人に、特に驚いた素振りは無い。

 その中で、アーサーの横に寄り添ったままのニナだけがはっとした顔で姉妹二人の顔を伺い始めた。


「……。装備を揃えたら、すぐにでもここを出ますよ。今日中とはいかないでしょうから、三日後が目安ですね」


むぐむぐと時間をかけて口内のものを消化してから、アーサーが言葉を返す。


「お城の後始末には参加しねえのけ? これからどっと仕事増えるべよ、それにガットどもと話せるおめえは役に立てるんでねえの」

「一つの地域に滞在するのは一月程度と決めていますから。もう過ぎていますし、これ以上の滞在はしません。……何よりもうじき冬が来ます。本格的に寒くなる前に南に逃げますよ。ガット語に関しても、会話方法は城からの帰路の間にハンスにある程度教えてあります。教え切れていない細かい部分は今紙にまとめているので、それが出来たらハンスに売って私の仕事は終わり。それ以上の面倒は見ません」

「何とも慌ただしいな」

「そう言う貴方たちはまだここに滞在するようですね」

「後始末で稼げそうだからな。少なくともそれまではここにいるつもりだ」


中年二人とアーサーの会話が、一段落付いた時。

 ニナが、不安げな顔ですぐ隣にいるアーサーの服の裾を引っ張った。


「あ、あの、お城の後始末、って、なんですか……? もう、終わったんじゃないんですか、レールエンズのことは」


ニナの行動に、反射的に苛立たしげな顔をしたアーサー。だが、ニナはそれでもめげずに見つめ続けている。

 羽虫でも払うかのような無造作さでニナの手を払いのけようとした所で、オットーが窘めた。


「妹、ちっこい娘っ子相手にんな扱いするもんじゃねえべ」


思わぬ所から横やりが入ったことにアーサーだけでなくニナも一瞬驚きを見せたが、いくらか見つめ合った後、やはりうんざり顔のままアーサーは上げかけていた左手を降ろす。


「嬢ちゃん、さっきの言葉からするとそこの二人から城での顛末は聞いてるのか?」


音量を二段階ほど下げ、内緒話のような姿勢でアロイスが囁いた。

 ニナは緊張で身体を震わせ縮こまったが、それでもはっきりと一度頷き返した。


「……お前ら、契約違反だぞ。今回のことは勝手に流布すんなって言われてただろ」

「色々事情がありましてね。一応他人に伝えるなとは厳命してあります」


アロイスの言葉は内容とは裏腹に責めるようなものではなく、悪意無くからかう口調だ。

 アーサーの本心とは思えない心の籠もらない返事に軽く笑い返してから、ニナへと視線を戻した。


「ま、それなら言ってもいいか。後始末ってのはそのまんまの意味だよ。動かなくなった骨は殆ど野晒しのままだし、魔法の道具、まだ動く時計、硝子細工と価値のあるものも全部手つかず。放っておけば骨は風化するし、何より廃墟荒らしが大挙して押し寄せてあの国はケツの毛一本残さずむしり取られる。何だかんだ言っても、あの王女は外敵から国を守る守護者だった訳だからな。レールエンズに対し特別な感情を抱いている上の連中には、そんなのはとても見過ごせない。だから廃墟から脅威が消えたって話が出回る前に、町の総力を挙げて先に国の遺物を全て確保し、墓を立てて死者を弔いに行く。それが後始末。俺たちは余所者だが、今回の件の立役者だから特別に後始末に参加出来る。報酬もそれなりに出るって話だ」

「そういえば、持ち帰った遺物はどうするつもりなんでしょうか。まさか余所に売るとも思えませんが」

「数日前に聞いた時点ではまだ決まってなかった。町外に持ち出さないことを条件に町民に売るとか、町長と幹部たちが分けて保存するとか、中には博物館作ろうなんて冗談みたいな話も上がってた」

「……この町の豊かさには驚きを通り越して呆れすら感じますよ。全く金にならない慈善事業に一体どれだけ労力と金をかけるつもりなのか」

「ティカネ草とアルガ大王様々だな」

「全く羨ましいことで」

「そのおかげで今つまんでるそれが食えてるんだからいいじゃねーか」


アーサーが薬草クッキーをかじり、アロイスはいつの間にか来ていた酒のつまみ、軽く焦げる程度に炙ったチーズの盛り合わせを一欠片口に放り込んだ。片肘を机に突いたままで、その姿勢はあまり行儀がよくない。

 隣のオットーも、つまみにしては量の多いベーコンを巨大な口でむしゃむしゃと咀嚼していた。


「ま、そういう訳だ。分かったかな、嬢ちゃん」


木製のコップに注がれた透明な紅麦酒を呷り、アロイスがそう締め括った。

 ニナは途切れ途切れながら小さく礼を返し、すぐにアーサーに向き直る。


「ア、アーサーさん、それなら何も、すぐに出なくても、その、後始末に、参加してからでも」

「……は? 何でですか、さっき理由は言ったでしょうが」

「だ、だって、その」


まるで初対面の頃のように、胸の前で両手の指を動かしながらしどろもどろになるニナ。

 慌ただしく視線をさまよわせていた所で、丁度食事を終えてハンカチで口元を拭うピエールの姿が映った。


「はー、美味しかった。もう当分甘いものはいいかなってくらい満足した」


右手で自身の腹部を軽く一撫でし、満足げにため息を吐くピエール。


「やあおっちゃん二人、久しぶり。オットーのおっちゃんはあれだね、頭の毛という毛が全部産毛なのが逆に怖いね」

「けっ、うるせえど。そういうおめえも黙ってメシ食ってる所は気持ちわりいべ」


互いに一言ずつ軽口を叩き合い、ピエールはふっと笑った。オットーも笑いこそしないが、その雰囲気は軽い。


「ピエールさん」


二人の会話が終わった所で、ニナがピエールへと呼びかけた。

 胸元で両手を強く握りしめ、縋るような表情だ。


「ピエールさんも、すぐに、ここを出るつもりなんですか?」


ニナの表情に気づいたピエールは、寂しげながら明るく笑う。


「まあね。これは私たちのいつものルールだから」

「で、でも、まだ怪我が治ったばかりですし、もう少しくらいここにいても……」

「くどいですね。一体何が理由でそこまでしつこいんですか? そんなに私たちから宿泊費をむしり取りたいんですか? それとも何か宣伝に使えるとでも思っているんですか? そんな意味の分からない執着見せる前にもっと他に気を回すべきことがあるでしょうに。……そのみっともない人見知りと、すぐに吃る吃音癖の改善とか」


ピエールに否定されて尚引き下がらない彼女に、痺れを切らしたアーサーが割り込んだ。

 一切の遠慮の無い辛辣な邪推の言葉に、息を詰まらせ唇を噛むニナ。

 前髪の下の丸い瞳が、じわじわと潤み始めた。


「アーサー、流石にそれはない」

「おめえ最低だべ」

「今実感した、嫌な奴だなお前」


心無い発言に三人からの非難が集中し、アーサーはたじろぎ目を逸らした。

 口をもごもごさせて反論の言葉を言い掛けるが、何を言っても逆効果なのを悟って何も言わずに終わる。

 ピエールが席を立ち、ニナのすぐ横まで回り込んだ。

 俯いて唇を噛み締め、ぽろぽろと涙の雫をこぼし始める少女の頭を、右手で優しく撫でる。


「ごめん、ごめんねニナ、アーサーが酷いこと言って。大丈夫だよ、私はそんなこと考えてないからね」


唇を噛む力は緩み、やがて途切れ途切れの消え入りそうなほど小さな嗚咽へと変わる。

 嗚咽と、鼻を啜る音とを繰り返しながら、ニナは合間合間にぽつぽつと喋り始めた。


「だって、私、ずっと、人見知りで、知らない人となんて、全然、話せなかったのに、友達なんて、赤ちゃんの頃から、知ってる人ばっかりなのに、二人は、初めて、ゼロから、ここまで、仲良くなれた、人なのに、しかも、私より、少し年上な、だけなのに、立派で、凄いことして、英雄みたいで、私、尊敬してて、怪我も、酷かったのに、我慢してて、それで、私、私」


服の袖でぐしぐしと鼻と目を拭ってから、最後に一言。


「わたし、もっと二人と一緒にいたくて……」


そう絞り出し、ニナは顔を覆って静かに泣き始めた。

 ピエールが隣の席に座るアーサーを無言で追い払い、彼女が座っていた椅子をニナのすぐ隣にくっつけて座った。

 密着した状態でニナを抱え、その背中を無言で撫でる。

 中年二人は黙ってその光景を眺め、それから非難の視線をアーサーへ向けた。

 自身の席を追い出されピエールが座っていた席に座り直しているアーサーは非難の視線を真っ向から睨み返し、やり場の無い不快感を紛らわす為クッキーを一つ丸ごと口へ放り込んだ。

 それからやはり不満の満ち満ちた仏頂面で、抱き合う二人を眺める。

 ニナが泣き止むまでの間、ピエールはずっとその身体を包み込み、背中を撫で続けた。


   :   :


 中年二人とアーサーが言葉少なに食事を続けている中、ピエールに身体を預けて鼻を啜っていたニナがようやく落ち着きを取り戻した。


「……ピエールさん。もう、大丈夫です」


目を赤く腫らし未だ鼻水を啜りながらも、ニナの口調ははっきりとしたものだ。

 背中を撫でていたピエールが、椅子を離して座り直した。


「ごめんなさい、我が儘言って。そうですよね、お二人とも、旅人さんなんですよね。旅立ちを邪魔しちゃいけませんよね」


涙の滲む瞼を擦り、ニナは気丈に微笑んだ。

 笑い返すピエールと、ふいと顔を背けるアーサー。


「気にするこたねえべ。さっきのは全部そこの拗ねてる妹がわりい」


オットーのフォローにニナは一瞬身体を震わせ、がちがちに緊張しながらも何とか一言、礼の言葉を絞り出した。

 にんまりと巨大な口を歪ませて笑い、酒を呷る巨漢。その手にあるコップ自体は他と同じ大きさなのだが、大きな頭との比較で小さな杯でちびちびと飲んでいるかのような印象だ。


「……なんかオットーのおっちゃんニナに優しいね」


二人のやりとりを見ていたピエールが、何の気なしに呟いた。

 言葉を聞いたオットーは一瞬目を見開き、それから若干酒臭くなり始めた口をわずかに開いて笑う。


「おではいつもこうだべ」

「オットーはな。女は基本的にか弱くて、か弱いからこそ男として守り甲斐がある、って価値観なんだよ。だから普通の女には基本的に優しい」

「んで、娘っ子の癖にみょーにつええおめえらは気持ちわりい、ってこった」

「気持ち悪いって何さ、失礼しちゃうなー」


顔を見合わせて笑う中年二人にピエールも加わり、三人でけらけらと明るく笑い合った。


「ま、こいつは根本的な部分が身体張って他人を守る性質ってことなんだろうな。だから男女問わず守り甲斐のある奴が好き、と。その辺はお前も結構分かるんじゃねえの?」


笑いながらアロイスは話を振り、アーサーは返事こそしないもののまんざらでもなさそうな雰囲気でパフェの最後の一掬いを口に運んだ。


「しかしよぉ。そこの嬢ちゃん、えーっと、ニナだったか。嬢ちゃん割と妹にも懐いてるよな。見た限りでは妹からの扱いは酷いもんだが、よく懐いたな」


アロイスが話題に挙げたことで、中年二人の視線が同時にニナへと集中した。

 無意識の内に縮こまり、ニナは右手で隣にいるピエールの服の裾を掴む。

 俯き何度か深呼吸をしてから、意を決したニナが俯いたまま喋り始める。


「え、えと、その。……アーサーさんも、普段は、そんなに、理不尽じゃ、ないですし、宿の部屋の掃除とか、食事とか、褒めて、くれましたし、それに、それに……」


再び深呼吸。


「……わたしに、意地悪するのも、結局、や」

「ニナ」


決定的なことを言い掛けたニナの言葉を、有無を言わせぬはっきりとした言葉でアーサーが遮った。

 他の四人全員の視線が集中し、場に一瞬奇妙な沈黙が流れる。

 小さく一度だけ咳払いを行い、平静を装って一言。


「余計なことは言わなくていいです」


口調は極めて冷たいものだったが、最早その冷たさに説得力が無いのは誰の目にも明らかであった。中年二人とピエールがにやにやと笑い、ニナが控えめにはにかむ。

 若干罰が悪そうにしながらもアーサーがそれ以上険悪な雰囲気を出すことはなく、穏やかに以降の食事の時は過ぎていった。

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