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姉妹冒険者物語  作者: 並野
パフォーマンスナイトガール
133/181

38

 白目を剥いて気絶した氷像(チェリ)は別室へと運ばれた。

 ひとまずの目的(いじり)が済んだニネッテも付き添い、一旦ニアエルフ二人組とは別れる。


「……それでは、皆を呼んだ本題に入ろうか」


ルーベンが、先ほどとは異なる堅く重い口調で口を開いた。

 ラモーナ、エリアス、アニタの姿も既に無い。

 ここから先の話に必要なのはルーベン、パウル夫妻、マリウス夫妻、姉妹だけだ。


「パウル武具店への妨害工作に荷担していた者たちと、首謀者を確保した」


ルーベンの発言に驚いたのはピエールのみ。

 夫妻二組は既に把握しており、アーサーもここに来るまでに大凡の事態の推測は出来ている。

 ルーベンは一度姉妹の顔を窺ってから、詳しい説明に移行した。


「まずは今日のことを話そう。魔物の襲撃の報が伝えられ、君たち姉妹は撃退へと向かった。更にその後、娘が馬車を駆り、直接戦場へ武器を届けに向かった。……愚かにも、な」

「もう、お父様ったら!」


最後に付け足された言葉にルアナは軽い調子ながら声を上げた。

 しかし、この場においてルアナの味方をする者は殆どいない。誰もがルアナの行動を蛮行と捉えている。

 唯一違うのはピエールだけだ。

 ルアナが上げた声はするりと流され、話が進む。


「……そうして、君たち二人とルアナが、家を空けた際に。パウル武具店に、暴漢が侵入した」

「えっ」


その発言に、やはりピエールだけが目を丸くして応える。

 アーサーはやはり予想の範疇のようだ。


 ピエールは眉尻を下げ、心配の眼差しを椅子に座るパウルへと送った。

 しかしパウルには異常は見られない。怪我は依然として両腕のみだ。


「やはり首謀者としては、パウルが両腕を怪我して尚店の営業が続いていたことに危機感を覚えたのでしょうか。その結果、我々とルアナが不在の隙を狙って今度こそパウルに決定的な被害(・・・・・・)を及ぼそうとした」

「恐らくは、そういうことだろう。だが、その首謀者にとって、誤算だったのは」

「不肖マリウスめが人知れず店に潜み、暴漢を撃退した次第でごぜえます! 全てはご当主様の為に!」


マリウスが再び揉み手を行いながら黄色い声を上げた。

 笑みを形作ろうとするあまり、細まった目がまるで糸のように細くなっている。

 しかし先のエリアスの理知的な糸目とは大いに異なる、媚びと(へつら)いの糸目だ。

 ピエールとパウルも揃って再び信じられないという顔を無毛男へ向け、ヴァレンティナは慣れた顔でため息一つ。

 ルーベンだけが彼へ穏やかに笑い返している。


「という訳だ。マリウスの活躍によって、暴漢は撃退、捕縛された。その暴漢というのが、顔の知れている人物であった」

「……全身革防具の男と、顔の刃傷が特徴的な男。でしょうか?」

「君たちも、知っているのだな。であれば、話は早い」


頷いたルーベンが、懐から小さなベルを取り出す。

 数度振ってベルを鳴らすと、応接間へアレックスがやって来た。


「彼らを呼んでくれ」

「はっ」


一度頭を下げたアレックスは再び外へ。

 暫くしてから、二人の男を連れて戻ってくる。


「失礼する、ルーベン」

「待たせたね、エドワード」


一人はルーベンとおおよそ同年代の、やはり髪に白が混じり始めた厳格そうな初老の男。

 そしてもう一人は。


「……!」


鼻血を流し、頬を真っ赤に腫らし、普段後ろに撫で上げている髪や自慢の尖った髭も乱れ、すっかり憔悴した面持ちの悪魔顔の男、サミーであった。



   :   :



「ルッ、ルアナ様! その髪は……っ」

「誰が勝手に喋っていいと言った。黙っていろ」


縦ロールをばっさりと切り落とし、耳を覆う程度のセミショートヘアとなっているルアナ。

 彼女の髪を見てサミーが目を剥き叫びかけたが、一緒に入ってきた初老男に鋭く叱られ、言葉ごと息を詰まらせた。

 そんなサミーのことをルアナは、歯を剥き出しにしそうなほどの怒りの顔で睨んでいる。若干犬っぽい。

 マリウスも先ほどまでの媚びた表情は一切無くなり、怒れる悪鬼の顔に戻っていた。

 一方、二人の相方であるヴァレンティナとパウルは理性的に自分を律しているのが分かる表情だ。

 姉妹は事が済んだ後なので、余所者ゆえの曖昧な反応である。


「紹介しよう。彼はエドワード・ニェク・コシェント。現コシェント商会の当主だ」

「エドワードだ。よろしく頼む。……君らが最近話題の女騎士姉妹、かね?」

「うん、私がピエールで、こっちが妹のアーサー。男の名前だけど女だよ。よろしく」

「君らのおかげで、今回の解放戦線との戦いでは色付きが大量に穫れた。収益も前年比で三割五分一厘増加した。礼を言わせて貰おう」

「う、ううん、私たちもその分お金はいっぱい組合から貰ったから……」


やや戸惑いがちに応えるピエール。

 というのもこのエドワードという男、厳格を体現するかのような非常に鋭い顔のまま、表情が全く変わらない。

 二人は今賞賛されている筈なのだが、ピエールはまるで責められているかのような気分だ。


「エドワード、首尾はどうだね?」

「なに、少し絞ってやったらすぐに吐いた」

「……っ」


エドワードが"少し絞って"と口にしたところで、サミーはびくりと身体を震わせた。

 表情には不満と恐怖が滲み出ている。

 "あれのどこが少しだ"と言っているかのようだ。


「やはり目的はルアナ嬢だったようだ。ルアナ嬢をパウルという男に取られたのが我慢ならず、店を潰し、二人を別れさせ、再度ルアナ嬢を我が物とする為の機会を得ようとした。当初は悪評を撒くのみに留まっていて、それだけでも店の先行きは十二分に悪化していた。しかしそこの二人が宣伝を始めてからはせっかく広まった悪評が見る見る内に払拭。危機感を覚え、暴力的な手段を画策。しかしパウルの腕を折ったにも関わらず店の営業が続いていることに危機感は収まるどころか強まり、魔物の襲撃とルアナ嬢の不在を機に今度こそパウルの命まで奪おうと試みた」

「……が、ルアナ自らが、武器を届けに家を空けたのは、襲撃者を誘い込む為の、罠だった。誰にも知られず、店に潜んでいた、マリウスによって、襲撃者は返り討ち」

「その上当人は魔物の予想以上の侵攻に怯え、慌ててロールシェルトから東に逃げようとしたが森で鞭打ち草に絡まれあわや大怪我という所を、寸前で村人に助けられ情けなくもロールシェルトへ逆戻り。……そして私に絞られ、今に至る」


エドワードとルーベン、二人の当主によって今回の事件の真実が全て白日の下となった。

 蓋を開ければ特に捻ったところは無く、おおよそ皆の想定通りだ。

 ピエールは何も言わずに目を閉じ眉を寄せ、アーサーは自分と姉が無事被害を受けず解決した以上、以降の話には何の興味も無い。

 そんな調子で我関せずの態度を取ろうとしていた姉妹だったが、勢い良く顔を上げ叫び散らすように話し始めたサミーに二人とも思わず目を向けた。


「そこの忌々しい武具屋の盆暗(ぼんくら)! お前っ、分かっているのか! ルアナ様が、武具屋の嫁になんか、なったらッ!」


キッとパウルを睨むように見つめながら、サミーは恥も外聞も無く叫ぶ。

 その様には、今まで姉妹が接してきた時の慇懃な態度はどこにもない。

 ある意味これが彼の本性であり本心なのだろう。


「武具屋の嫁になんかなったら……! 筋骨隆々になってしまうじゃないか!」


ある意味これが彼の本性であり本心なのだろう。


「熱で肌も髪も灼け、美しい金髪も、柔らかい白い肌も、ちょっと余った下半身の肉も、全て無くなってしまう! 現にあの美しい巻き髪も今は失われてしまった! どうせお前の所為で切ることになったんだろう! 私は、そこにいるマリウス武具店の妻みたいに、男か女か分からなくなったルアナ様を見たくない! あの絶妙なだらしなさこそが! ルアナ様の魅力だと! 何故分からないんだ!」


ある意味、これが、彼の本性であり、本心、なのだろう。


「……」


場の空気が凍る。

 今この時だけはくたびれた悪魔顔の男を責める空気が霧散し、突然自身の性癖を披露し始めた男への冷たく冷えた空気へと置き換わった。

 ピエールまでもが極限までうんざりした表情で顔ごと目を逸らし、アーサーは目から光が失われ人の形をしたゴミを見る目に変わる。

 マリウスは今にも唾を吐き捨てそうな"素"の顔に戻りかけ、ヴァレンティナとルーベン、エドワードの目もどこまでも冷たい。


 唯一、パウルだけは同意出来る面が多大にあったのか目を見開きはっとした顔を見せ、ルアナはそんな夫へ強烈な肘打ちを突き込んで諫めていた。

 一切の遠慮が無い一撃だ。


「それだけじゃない! 父上! 私は今、北方、カカシナの武具屋から武具を輸入する契約を進めているのです! 武具の供給不足が続くこのロールシェルトなら、武具の輸入路の拡大は我が商会にとって大きな利益になります! そして! その計画には新しい武具屋など邪魔でしかない! だから人知れず消えて貰おうと思ったのです!」


言うのはそれだけでいいだろ。

 この場にいるほぼ全ての者たちの内心が一致した。

 勿論誰も言葉にしない。


「言いたいことは終わりか、馬鹿息子よ」

「……」


感情のままに言いたいことを全て吐き出し終えたのか、サミーは肩で息をしつつも口を開かない。

 エドワードは冷たい目でそんな息子を見下ろす。


「武具の輸入は大いに結構。お前がその計画を進めているのを知った時は、陰ながら成功を祈っていたものだ。だが今のネリリエル地方における慢性的な武具の供給不足を鑑みれば、わざわざ排除せずとも武具屋が一つ増えたところでコシェントが食い込む余地は十二分にある。それどころか外部からの供給を増やすことで多忙極まる武具屋にも余裕が生まれ、互いに益となる。そのことはお前も分かっている筈だ」

「……」

「そもそも……」

「そもそも! 卑怯な裏工作でパウルさんの店を潰そうとし、あまつさえ暴力的な手段に出るなど言語道断ですわ! 髪を切ったのもただのわたくしの覚悟の表れです! サミー様! わたくし今まではあなたのことは嫌いではありませんでしたが、今はもう大嫌い! もうわたくし、あなたとは絶対に仲良くして差し上げません!」

「そ、そんな……!」


エドワードの会話に割り込み金切り声で叫ぶルアナ。

 彼女の宣言を聞いたサミーは、父のどんな説教を受けた時よりも悲痛な顔でルアナを見返した。

 ルアナは腕を組み、ぷいと顔を背けている。


「ううっ……」


先ほどまでは反抗的な態度が残っていたサミーだったが、遂にがくりと項垂れた。

 どうやら彼のルアナへの想いは本気だったらしい。

 エドワードは息子の後頭部を見下ろしながらほんの少しだけ親の顔を見せ、ため息を吐いた。

 改めて、今度はパウルへと向き直る。


「息子の不始末は、父である私にも責任がある。本当に、申し訳ないことをした」

「あ、い、いえそんな、僕は別に、あなたがそんな」


厳しさが服を着て歩いているかのような風貌のエドワードに大きく頭を下げて謝られ、パウルは頭を上げさせようと思わず両手を上げかけ、折れた腕に力が入ったことで小さく呻いた。

 コシェントという一大商会の主に頭を下げられ、パウルは逆に自分が萎縮してしまっていた。

 ルアナという嫁がいなければ、パウルの立場はマリウスより更に低い。当然の反応である。


 パウルに数十秒ほど深く頭を下げ続けたエドワードの視線が、次はルーベンへ。


「ルーベン、あとの息子の処罰は任せたい。首を刎ねるなり、実行犯の二人同様鉱山送りにするなり、好きにしてくれて構わない」

「そうだな……。……パウル君。君はどうしたい?」

「えっ、僕ですか?」


唐突に話を振られた被害者(パウル)は、首を捻って思い悩んだ。

 その表情にはどうにも真剣味、というよりもサミーへの負の感情が窺えない。

 やはり彼はどこまで行っても根は善人で、よくも悪くも甘い。

 側に座るルアナやマリウスの方がよほど強い憤懣を抱えている。

 この二人に尋ねれば、十中八九首を刎ねる、もしくはそれに近い厳しい罰に至るだろう。

 しかしサミーは諦めがいいのか、エドワードが"首を刎ねるなり"と口にしても抵抗らしい抵抗は見られないままだ。


「……ううん」


うんうん唸るが、明確な答えが出せないパウル。

 横の気性の荒い二人が我慢の限界を迎えて口を挟もうか、という寸前。


「パウル、一つよろしいですか」


口を挟んだのはアーサーであった。

 ピエールがわずかに驚きを示し、過激派二人が割り込まれて不満を露わにし、当のパウルは渡りに船、といった様子で勢いよく顔を上げる。


「何かなアーサーさん。いい案でも?」

「実は私の知己の人間に、そこの男をいたく好いている者がいるのです。このまま処刑してしまうと、彼女に対し義理を立てられない」

「そんな人がいたんだね。そっか、それなら安易に厳しい罰を与える訳にもいかないね」

「ですので」


ピエールは気配で全てを察し顔を背け完全なる無関係を装い、サミーは何かに気づいたのか項垂れていた顔をばっ、と勢い良く上げている。

 アーサーは一旦言葉を区切り、


「そこの男は、彼女の管理下、あるいは所有物にして貰えませんか」


放った言葉と同時に、目をきらっきらに輝かせたニネッテが応接間の扉を開けひょこりと頭を出してサミーを見つめた。

 振り向いたサミーが目を剥き甲高い悲鳴を上げる。


「ヒイエエエッ! 白髪女!」

「サミー様ーっ!」


黄色い悲鳴を上げるサミーは咄嗟に扉から離れようとしたものの消耗と動揺のあまり足がもつれ、ニネッテがその隙にサミーの胸元へ一直線に飛びついた。

 男の胸に顔ともさもさの白髪をぐりぐりと摺り付け擦る。


「し、白髪女、お、お前なんでここにっ!」

「いやですぅサミー様、わたしのことはニネッテリトミェールティクスリリエリオーレ、と呼んでくださいよぉ。初めての、あの時のように……」

「お前の名前などもう忘れた!」

「ならもう一度覚えてくださいますよね? ニネッテリトぉ、ミェールティクスぅ、リリエリオーレぇ……ですぅ」

「覚えてたまるか!」

「ああん、サミー様ったら薄情。わたし、サミー様と一緒に楽しむ為に、気持ちよくなれるお薬一杯作ったんですよぉ」

「あんなものただの麻薬ではないか! 人を狂わせる悪魔の薬だ!」

「ちゃんと後遺症が出ないよう呪文で処置したじゃないですかぁ」

「裏を返せば呪文を使わないと重篤な後遺症が残るってことだろうが……止め、止めろ! ヒイイッ!」

「ぺろぺろぺろ……」


ニネッテに頬を舐められ、サミーは再び黄色い悲鳴を上げ危ない毒で痙攣するかのように身体を弓なりに仰け反らせた。

 しかしニネッテは張り付いたまま頬舐めを止めない。

 応接間の一同は再び全員どん引きだ。今日の応接間の空気は凍ったり燃え上がったり忙しい。

 アーサーはニネッテに対し安易に義理を立てようとしたことを、今になって心の底から後悔した。


「……彼女は」

「ニネッテリトミェールティクスリリエリオーレ。最近ロールシェルトに来たニアエルフ二人組の片割れです。樹の魔物の襲撃の際にも、彼女が魔物の正体を知っていた為被害を大きく減らせました。討ち取ったのも、もう一人のニアエルフと彼女が協力して唱えた古代呪文によるものです。……どうやら彼女は、あなたのご子息を酷く慕っているようで……」

「ニネッテリトミェールティクスリリエリオーレです、以後お見知り置きを、お義父様」

「……」


ニネッテにお義父様と呼ばれたエドワードの顔が一瞬だけ盛大に引きつり、しかめられたのを、室内にいる何人かが目撃した。

 この場に来てから一切表情を変えなかった厳格な商家当主が、最初に表情を変えたのがニネッテの厭に湿度のある挨拶であった。

 マリウス夫妻のニネッテを見る目などは最早、人智の理解の及ばない不気味な魔法生物を見る目だ。


「止めろ! 離せ! 気持ち悪い!」

「お話は、扉の前でこっそり伺っていました。……皆様、サミー様をわたしにくれませんか? サミー様のことはわたしが朝から明け方までずっと目を離さず監視しますから。二度と、皆様に悪さをしないように」

「嫌だ! 誰がお前なんか、こんなガリガリの棒きれみたいな貧相な女!」

「その貧相な身体の魅力を、これからたぁーっぷり教え込んであげまぁすよぅ……」

「ひっ、も、もう舐めないでくれ! お前の口は薬臭いんだ!」


四本の手足でサミーにがっしりと食らいついたまま、ニネッテが顔を上げてこの場にいる者たちにサミーの身柄を願う。

 そのあまりの状況にマリウスはサミーの処遇とニネッテについて関わることを放棄し、ルアナもパウルの手当で世話になった手前ニネッテに厳しくは返せない。


「ええと……まあ……僕は別に……構わない……けど……」


途切れ途切れにパウルが答え、当主二人に視線を送った。

 彼らも戸惑いや辟易や軽蔑の感情が多大にあったものの、先ほどまでの流れとしてパウルに結論を委ねた形であったので反論はせず流れに任せることにした。

 人を人が所有する、という契約における必要な手続きや道具などの確認事項をニネッテに伝え、正式にサミーがニネッテの所有物になる、ということで結論が出た。


「ありがとうございます皆様……このわたし、ニネッテリトが末永くサミー様を大事にして(あいして)いくことを誓います。アーサー様も口添えありがとうございます……それでは」

「嫌だああーっ!」


ぺこりと折り目正しくお辞儀をしてから、ニネッテはサミーを引きずりその場を後にしていった。

 サミーの叫び声が部屋の外でも響いていたが、やがて聞こえなくなる。


 彼は散々拒否していたが、本当に死んだ方がましだというなら自殺の手段はいくらでもある。

 だが彼に自死によってニネッテから逃げようという気配は、最後まで微塵も見られなかった。

 何だかんだ言って、ニネッテの所有物になる罰は戦闘経験の無い一般人が鉱山で金属ワームの相手をさせられたり、首を刎ねられるよりはよほどマシだということを、彼も分かっているのだ。

 加えて、ネリリエル地方で人が人の所有物になることは完全に人権を喪い、物として扱われる、というほど凄惨ではないことも。


 後にニネッテは貴重な魔法の薬の生産者の一人として、サミーはニネッテのずぼらな日常生活を含めた公私に渡る管理者兼良き夫として、ニネッテが常時サミーを尻に敷きながら暮らしていくことになる。

 だがそれはまだ先のことだ。

 今のサミーに科せられた最初の使命(ばつ)

 それはニネッテ謹製の"かなり気持ちよくなれるけどかなり危ない薬"の乱用から生き残ることであった。

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