18
日も傾き始める夕方。
ロールシェルトに戻った三人はまず組合に遺品を提出した。
野外での死者の遺品を組合に、引いては遺族に提出することは、規則として定められている訳ではない。
しかし今は宣伝という仕事を兼ねている為、他者の顰蹙を買いかねない行為は慎む必要がある。
もしも受け取り手がいなければ、その時は改めて三人の取得物となるだろう。
水樹破壊の件も詳細な報告を行い、組合は暫く山岳地帯、引いては西の森に向かう冒険者に注意勧告を行うということで結論が出た。
この情報は明日にはネリリエル一帯で共有されることだろう。
この組合の素早い対応には三人が犠牲者の遺体の一部を持ち帰ったこと、加えてロールシェルト支部が魔物の対応に慣れていることが理由として挙げられる。
そうして組合での仕事を一通り済ませた三人は夕焼けで町が真っ赤に染まる頃、ニネッテの家へと戻ってきたのだった。
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「チェリティリエッテさん、あの後外に出ようとしたら玄関の扉が壊れてたんですけど」
「知らないわよそんなの、経年劣化じゃない?」
「でも家の内側に、まるで外から誰かが倒したみたいに倒れてたんですけど」
「知らないわよそんなの、経年劣化じゃない?」
「扉の外側、ちょうどチェリティリエッテさんが叩く位置に拳の跡が残ってたんですけど」
「知らないわよそんなの、経年劣化じゃない?」
「……チェリティリエッテさんって悪事をしらばっくれるの馬鹿みたいに下手ですよね」
「知らないわよそんなの、経年劣化じゃない?」
「はあ……」
大袈裟にため息を吐き捨てるニネッテ。
最初から犯人がチェリであると確信を得ていたが、追求しても無駄だということも確信を得たようだ。
それ以上扉の話を続けることはなかった。
「もういいです。……それで、約束の品は」
「はいこれ」
「おお!」
言われて鞄から約束の品を取り出したチェリ。
先日姉妹に披露した"吹雪ちゃん"の氷像の中に埋め込まれた、八足獣の身体の一部を。
躍動的な人型の氷像は、一点の濁りも無く透き通っている。
中の物の姿も鮮明だ。
「どう? この吹雪ちゃん。今日の吹雪ちゃんはかなりいい出来だと思うのよあたし。氷様の機嫌がいいのかしら」
「そうですこれこれ。これが欲しかったんです! 三人とも、ありがとうございます!」
「あらニネッテリトったら。そんなに吹雪ちゃんが欲しかったなんて知らなかったわ? お望みならもっと沢山吹雪ちゃんを作ってあげてもってああああーっ!」
半ばでチェリの言葉が悲鳴に変わった。
ニネッテが受け取った氷像を躊躇無く呪文で溶かし始めたからだ。
チェリが黄色い悲鳴と共に氷像を奪い返そうとするが、奮闘虚しくあっという間に氷像は跡形もなく溶けて無くなった。
水も呪文で分解され、雫一滴残っていない。
「ちょっとニネッテリト! あんたよくもあたしが精魂込めて作ってあげた吹雪ちゃんを一切堪能せずさっさと溶かしたわね! 謝りなさいよ氷様に!」
「知らないですー、わたしが欲しかったのはこの八足獣の生殖器だけですー、氷信仰はチェリティリエッテさん一人で勝手にやっててくださいー」
「ニネッテリトぉー!」
怒り心頭に掴みかかろうとするチェリをひらりひらりと交わしながら部屋内を駆け回るニネッテ。
その手に、物を抱えたまま。
「……この二人さ、なんていうか、お互いに正面からぶつかり合うような、全力で体当たりするような会話ばっかりするよね」
「それでも仲が良く見えるのが不思議ですね」
「実際に仲もいいんだろうね……喧嘩するほど何とやらってやつ」
暫く部屋内をばたばた走り回ってから、疲れたのか面倒になったのか二人は元の位置に戻った。
ニネッテは軽く呪文を唱え、約束の品を程良く冷やし直している。
「……さて、お二人ともありがとうございました。これはお礼です、お納めください」
「あ、うん」
約束の品をベッドに置き、ニネッテは改めて姉妹に礼を言い頭を下げた。
それから、百ゴールド硬貨を四枚出して二人に二枚ずつ差し出す。
「あ、お礼二百ゴールドって」
「お二人それぞれにです。手間と今回の例の件を考えたらこれでも少ないとは思いますが、どうかこれでお許しを……」
「チェリちゃんにはお世話になってるし、その誼ってことでね」
「ニネッテリト、あたしには?」
「チェリティリエッテさんの分は毎日のお洗濯代に消えました。後であなたの心のように汚れてしまったそのドレスを洗ってあげますから……ってああっまた氷像作らないでください!」
「ふんっ!」
八つ当たりにベッドの上に一瞬で十数人の"吹雪ちゃん"を生成し、チェリは腕を組んでそっぽを向く。
ニネッテの慣れたため息。
「ところでニネッテちゃん」
「はい? なんでしょうピエールさん」
「その、ニネッテちゃんの想い人? ってさ……」
「ああっそんな! 想い人だなんて! そんなはっきり言わないでください恥ずかしい! ただわたしはサミー様と心も身体もどろどろのぐちょぐちょに混ぜ合って高みに昇りたいだけで……」
「いや……そういうのいいから……いや本当に……」
「あらそうですか?」
ピエールが心の底から辟易した顔を見せると、ニネッテはあっさりと態度を翻し先ほどと変わらぬ顔に戻った。
変わり身の早さにピエールが付いていけない中、ニネッテは微笑と共に饒舌に語る。
「……わたしの言うサミー様は、恐らくお二人が武具屋関係で出会ったであろうサミー様と同一人物です。わたしはサミー様のことをお慕い申し上げているのですが、サミー様は未だに武具屋に嫁いだあの巻き髪女にご執心な様子。……お二人とも、頑張ってあの武具屋の立場を改善して、立派な店にしてくださいね。あの店が小突けば潰れそうなままではいつまでもサミー様は巻き髪女を諦めてくれません。差し当たっては五日後の解放戦線でのご活躍、お祈りしていますよ」
「ちょっとニネッテリトー! 早く氷様を崇めなさいよー! でないと吹雪ちゃんがどんどん増えるわよー! 何せ今日は戦ってなくて魔力十二分なんだからー!」
「あっ、チェリティリエッテさん! いい加減そのへんてこな氷像を作るの止めてくださいって言ってるじゃないですかもう! ……ではお二人とも、わたしは本格的に拗ねる前にチェリティリエッテさんを構ってあげないといけないので、これで」
「あ、ああ、うん、またねニネッテちゃん」
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チェリとニネッテがじゃれ合い始めたのを見届けてから、ニネッテ宅を後にした二人。
「なんか複雑な関係を聞かされた気がする」
「複雑ではないですね。夫婦として成立しているのが一組と、一方通行しているのが二人いるだけです」
「それはそうだけど。……ニネッテちゃん、あの悪魔みたいな顔の人好きなんだ……。どこが良かったんだろ」
「私には想像もつきませんね」
「私もだよ……」
一旦会話が途切れ、少しの空白の後。
「……あの二人、色んな意味でどっちも強烈だよねえ……」
「ニアは大抵そんなものじゃないですか。誰も彼も変人ばかり」
「まあ、それは、うん……。そういやふと思い出したんだけど、チェリちゃんみたいな人この前もいたじゃん、あの……偽物稲妻聖女、みたいな感じの人。あの人はニアエルフだったっけ」
「スイ、ですね。あれは普通の人でしたよ。ただ熱の呪文に頭を侵されただけの」
「そっか普通か……。確かに、ああいう呪文大好きな魔法使いの人……意外と普通にいるね……」
「いますね、呪文の力に魅せられ過ぎた人。魔法使いではない私たちには、強力な呪文を操るということが一体どれだけ全能感を刺激させられる気分の高揚する行為なのか知りようがありませんが」
「ね……。ああなんか、思い出したら目がちかちかしてきた」
「止めましょうかこの話は。私も思い出すだけで視界が明滅しそうです」
「そうだね……」
力なく会話しながら、夕暮れの町をパウル武具店に向かって進む姉妹。
やがて店の近くまで来たところで、二人は何やら喚くような大きな声が耳に入ってきた。
初めは素通りしようと思ったものの、会話内容が自分たちに関係ありそうだったのでこっそりと建物の角から様子を窺う。
「なあお前たち、まさかあの店で武具買ったんじゃないだろうな?」
「いや、あの……」
「本っ当お前ら、目利きの出来ねえ素人だな」
「で、でも……」
話しているのは男が二人と少年少女が一組だ。
狭路で、二人の男が少年少女を前後から塞いでいる。
少年少女は身体を縮こめてすっかり萎縮してしまっているようだ。
「お前たち、駆け出しのひよっこだろ? ひよっこがあんな店の粗悪品使ってたら思わぬ怪我に遭ってもおかしくないぞ?」
「で、でもあの店も本当はそんなに悪くないって知り合いが……」
「騙されてるに決まってんだろ間抜けがよお!」
「ひっ」
反論しかけた少年に、男の片方が上から被せるように怒鳴りつけた。
隣にいた少女が悲鳴と共に少年に身を寄せる。
ますます怯えを強める少年少女。
そこへもう片方の男が怒鳴りつけた男を抑えつつ、自身は優しく語りかける。
「悪いな、こいつは気性が荒くて。だが、俺たちはお前たちのことを心配して言ってやってるってのを分かって欲しいもんだ。……あの店で何を買った? 武器か? 防具か?」
「え、えと、あの、その」
「聞かれたことにははっきり答えろってママに教わらなかったのか、ええっ!」
「ひうっ」
「まあまあ落ち着け。……ほら、買った物は俺たちが代わりに処分しておいてやるから渡すんだ。次はあんな店じゃない、まともな場所で武具を買うんだな」
「……」
「早くしろ!」
片方が怒鳴りつけて脅し、もう片方が優しい声音で懐柔を狙う。
二人の男によって少年少女がどんどん追いつめられていく様を盗み見ながら、姉妹は視線をちらりと交えた。
一瞬の交錯によって意思の疎通が済み、二人は四人の元へと近づいていく。
「あっ……」
最初に気づいたのは少女だ。
続いて他三人も姉妹に気づき、顔を跳ね上げ視線を向ける。
「大きな声が聞こえてきたから気になったんだけど、何かあったのかな?」
ピエールが問いかけた。
するとその途端、男二人は小声で何やら会話したかと思うとすぐに退散してしまう。
どうやら姉妹の存在を知っており、現れたら撤退することも予め決めてあったらしい。
離れた位置で待ち伏せするようなこともなく、気配は一直線に遠ざかり消えていく。
あっさりと男が去り、後には姉妹と少年少女が残された。
少年少女はどちらも安堵で大きく息を吐いている。
「君たち、大丈夫だった? あの二人に脅されてたように見えたけど」
「……え、あ」
「はい、私たちは大丈夫です。あの男の人たちには怒鳴られただけで、何も手出しはされなかったので」
「そっか、それなら良かった」
姉妹を見つめたまま言葉を詰まらせてしまう少年の代わりに、隣の少女が饒舌に答えた。
答えつつ、少年を後ろから小突いて我に返らせようとしている。
「……あの二人、何なんだろ」
「ただの喝上げか……そうでなければ、パウル武具店の利用者が増えると困る何者かの差し金、でしょうかね」
「……何者かって?」
「さあ」
多少わざとらしくとぼけるアーサー。
ピエールはわざとらしさに気づいていたが、この場では追求しないらしい。何も言わず妹から視線を逸らす。
「あ、あの!」
「ん?」
姉妹の小声の会話が済んだところで、少年が少し上擦った声音で姉妹に呼びかけてきた。
視線を向けると、少年はどことなく目を輝かせて二人を見つめ返している。
「二人が今噂の、女騎士様ですか? パウル武具店専属の」
「そうなの? アーサー」
「どうして私に振るんですか」
「なんとなく」
「出た……"なんとなく"」
視線を横に逸らし、アーサーは慣れたため息を一つ。
小さく息を吐いてから、少年に向き直った。
「噂になっているかなど知りませんし騎士を標榜したこともありませんが、パウル武具店とは懇意にしていますね」
「やっぱりそうなんですね! 見ろよシモーナ! やっぱ本物の女騎士は違うな! どっかのそばかす女とは!」
「うるさいわね! あなただってレツ様と比べたら全然違うわよ!」
「何だと!」
「何よ!」
「まあまあ、まあまあ……」
今にも喧嘩を始めそうな二人を慌てて宥めるピエール。
アーサーはつまらなそうに見下ろすだけだ。
「ところで今、シモーナちゃん? がレツ様とか言ってたけど、知り合い?」
「はい! 私レツ様に憧れてて……この間話をした時に、パウル武具店と、お二人のことが話題に上がったんです」
「……なるほど……あの人に憧れてて……あの人に……」
ピエールの脳裏に輝くような笑みを見せる半人半馬の美丈夫の姿が映った。
しかしその直後、頬を膨らませる金髪少女までもが呼んでもいないのに脳裏に割り込むように現れる。
ピエールは曖昧な苦笑いで視線を逸らした。
「ま、まあそれはともかく。さっきは災難だったね、これからは人通りの少ない道とか時間は気をつけるようにしないとね」
「はい、ありがとうございました!」
気勢良く少年が言い、少女と二人して頭を下げてから小走りで町を駆けていった。
その様を見送ってから、改めてピエールが尋ねる。
「で、武具店の利用者が増えると困る何者か、って?」
「私たちに思い当たる存在なんて一人しかいないじゃないですか。人を使える立場という条件も含めて」
「……あの悪魔みたいな顔のおっちゃん?」
「確定ではありませんけどね」
首肯するアーサーに、ピエールは若干のうんざり顔でため息をついた。
「ちょっときな臭くなってきた」
「なに、私たちには関係の無い話です」
「またそんな無責任な……」
言い合いながら二人は歩みを再開し、今度こそパウル武具店の扉を潜った。
: :
「まあ……そんなことが……」
パウル武具店、応接室内。
ちょうど店仕舞いを終えたパウル、ルアナ夫妻と姉妹が、向かい合って座っている。
一連の事態の報告をアーサーが行うと、ルアナは深刻そうな顔で口元を押さえた。
「それは本当にサミー様が指示したことなのでしょうか……?」
「勿論、無関係の人間のただの恐喝という線が濃厚です。ですがそれ以外の理由だった場合、この店に対して妨害を仕掛ける理由がある人と言えば私にはあの男か、マリウスという男くらいしか浮かびませんね」
「師匠はそんなことする人じゃないよ、そもそもこの店のことを疎むなら僕の独り立ちなんて認める筈がない」
「であれば候補は一つ。……尤も、我々は所詮町に来て日が浅い。私の知らないどこかであなた方が恨みを買っているというのであれば分かりませんが」
「そんな筈ありませんわ! パウルさんがそんな」
「ルアナさんは人の恨みを買うような人じゃない」
アーサーの言葉に対する夫妻の反論は全くの同時であった。
言葉と内容が被り、二人は頬を赤らめ見つめ合う。
ピエールが微笑み、アーサーが咳払いを一つ。
二人は慌てて佇まいを正した。
「それでどうするの? アーサー」
「我々に出来ることはありません。普段の活動を放棄して衛士の真似事などする訳にもいきませんし」
「……じゃあ野放し?」
続くピエールの問いに明確な返答をせず、アーサーは緩く首を振った。
そんな妹の代わりに、ルアナが真剣な顔で口を開く。
「わたくしが掛け合って、この辺りの見回りを増やして貰います」
「ルアナさん……」
「勿論、少しだけですわ。無茶な要求は致しませんし、そんな強い命令が出来るほどの力はわたくしにはありませんもの。……どなたの差し金かは知りませんが、パウルさんとわたくしの店を好きにはさせません。ですから、パウルさんは安心して鍛冶を続けてくださいまし」
「ルアナさん……」
「パウルさん……」
手を握り合い視線を交わし合い、うっとりと表情をとろけさせる二人。
再びピエールが思わず微笑み、再びアーサーが咳払いを一つ。
再び二人は慌てて佇まいを正した。
「ところでさ、そのサミーって人のこともうちょっと詳しく聞いてもいい?」
夫妻が我に返ったところでピエールが尋ねると、パウルは首を捻り、ルアナは頷く。
「僕の方は彼とは殆ど面識が無いんだ。ルアナさんがここに住み始めてから、たまにここに来て顔を合わせる程度だよ。その時も恭しく微笑んで挨拶するくらいさ」
「わたくしは子供の頃から少々付き合いがありますわ。といっても家の付き合い以上の関係ではありませんけれど……」
前置きをしてから、ルアナが記憶を紐解きながら語り始める。
「サミー様がコシェント商会の長男とは以前お話ししましたわね。長男ですので次期当主候補、普段は商会の経営について学んでいた筈ですわ。今も既にいくらか仕事を任されていた筈です」
「将来有望なのね」
ピエールの呟きに、ルアナは曖昧な笑みを返した。
肯定とも否定ともつかない顔だ。
「ところが、そのサミー様の弟である次男のイオネル様。こちらのイオネル様が非常に優秀で、商会内ではイオネル様を次期当主に立てるべきだ、という声がありますの」
「うわお家騒動」
「跡目争いの最中にこんな木っ端の武具屋に手出しをする余裕があるのですか?」
「それは当のイオネル様本人に当主になる気が全く無いからですわ。自分は兄の下に付く、当主の座を取り合う気など更々無い、と公言していますの。昔はいわゆるイオネル様派、というのも多かったようですけれど、未だに次期当主として推している人は殆どいないそうですわ」
「なるほど」
「なのでサミー様がイオネル様の存在に危機感を抱く必要はないのですが……やはり弟が優秀ということもあって、劣等感はあるようですわ。イオネル様が先ほどの話を大々的に公言する前、商会内部がサミー様派とイオネル様派で二分されたことがあって、その時にサミー様がそれはもう荒れてしまって」
「ふうん……色々あったんだね」
「今はもう荒れていないと?」
「わたくしが知る限りでは、先日お二人が出会った時の態度そのままですわ。物腰柔らかく誰にも丁寧で」
だけどどうにも滲み出る、正体不明の嫌味さ。
アーサーが心の中でそっと付け足す。
「んー、なんか話を聞くとそこまで悪い人には思えなくなっちゃったね。顔は怖いけど」
「そうですわね、わたくしもサミー様に悪印象はあまり抱いていませんわ」
「となるとやっぱり、あれは全く無関係の人だったのかなー」
ピエール、ルアナ間で彼が犯人とは限らない、という結論に達して、悪魔顔の男サミーの話は打ち切りとなった。
続いてルアナが、一度の咳払いの後に話を切り出す。
「それよりもお二人とも、もう五日後には解放戦線襲来の予定日ですわ。武具屋としてはあの日が一番の武具の活躍時。武器もしっかり用意出来ております、お二人の活躍、期待してますわ」
「もう五日後かー。未だに半信半疑なんだけど、本当にそれ起こるの?」
「勿論。わたくしが物心付いてから、毎年一度も欠かしたことのない恒例行事ですのよ」
「ふうん……」
言葉にも気合いが混じるルアナと、どうにも疑念が拭えないピエール。
しかし五日後、姉の疑念は事実を以て払拭されることになる。
今日から五日後。
その日は北部にて大量に栽培している、玉葱の収穫の日。
そして収穫される玉葱を人類から解放せんとする、玉葱マンによる玉葱解放戦線が襲来する日である。




