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姉妹冒険者物語  作者: 並野
パフォーマンスナイトガール
112/181

17

 西の森。

 ロールシェルトから西にあるソンドロン村へ行き、村から更に進むと辿り着く平地の森林だ。

 浅い位置でも魔力を含んだ薬草が見つかり生物もさほど強くない為、気軽な採取に向いた冒険者に人気のある場所となっている。


 しかしその森を奥へ抜けた先は。

 一転して、肥沃な森林とは真逆の大地に移り変わるのだ。



   :   :



「……わ」


森を抜けた先を目にしたピエールが、一言声を上げた。

 前方を歩くアーサーも、ほんのわずかに瞼を持ち上げて周囲を見渡す。


 荒涼とした山岳地帯が、視界に広がっていた。

 すぐ後ろは緑溢れる森林なのだが、わずかな草原の緩衝地帯を挟んだすぐ向こう側には、赤茶けた険しい大地が続いていた。


 草木の姿は殆ど無い。

 土中のわずかな水分を逃さずため込む多肉植物や、枯れているのか生きているのか分からない痩せ細った木がごくわずか点在する程度。

 地面はどこまでも乾いた砂の赤茶色だ。

 加えて砂粒が粉のようにきめ細かく、踏んだ土の感触は驚くほどパサパサ。


 眼前に続くのは切り立った崖道。

 左手側は地面に切れ込みが入ったかのような深い谷となっており、覗き込んだ底に見えるものはやはり赤茶けた砂と土だけ。

 一方右手側には岩壁。

 どこまでも乾いた土だけが広がる、寂しい世界だ。


「いかにも荒れ山って感じ」

「あたしこういう緑の無い場所って息が詰まりそうになるわ」

「足場が悪いのが嫌ですね。崖際には近づかないで、上からの落石もに注意してください」

「分かった」


小さな声で話し合い、三人は山岳地帯を進み始める。

 隊列は先頭にアーサー、間にチェリ、殿に荷車を引くピエール。

 荷車の上には既に、森を抜ける際に採取した薬草がいくつか積まれていた。

 あくまで通過中に見つけた分だけなので少量だが、小遣いにはなるだろう。


 ぱさ、ぱさ、と土を踏みながら歩く三人。

 乾き切った赤土の地面は時折吹き付ける風に煽られ、錆色の砂埃を巻き上げている。

 チェリの純白のドレスが、真っ先に土で錆色に汚れた。


「……ああ、もう服が汚れちゃった」

「帰ったらニネッテちゃんに綺麗にして貰わないとね」

「そうね。こんな嫌な場所に行かされたんだもの、帰ったら目一杯こき使ってやるわあの下僕」

「また言ってる」


当然のようにニネッテを下僕と呼ぶチェリに、ピエールは苦笑いと共に眉尻を下げた。


「チェリちゃんとニネッテちゃんってどういう関係なの? 友達って言ってたけど」

「別に大した関係じゃないわよ。同じ場所で生まれて年が近かったから友達になって、ついでに故郷から出て旅をしたかったって共通点もあっただけ。それで二人で故郷を出て放浪して、今はロールシェルトにいるって訳」

「ふうん。じゃあその内また旅に出るの?」

「さあ、どうかしら。家でも言ったけどニネッテリトは狙ってる男がいるみたいだから、そいつを捕まえたらこのまま居着くんじゃないかしらね。あたしも別にここに不満は無いから、そうなったら定住するかも」

「そういや言ってたね。……その男の人って、どんな人?」


家でのやりとりを思い出して少々辟易しながらも、好奇心に駆られたピエールが尋ねた。

 するとチェリはあまりいい気はしないのか、若干うんざりした顔で鼻を鳴らす。


「やらしい男よ。立ち振る舞いは丁寧だけどいかにも小物って感じ。アーサーをうんと陰湿で小物にしたらああなるんじゃないかしら」

「……人を嫌な例えに使わないでください」

「だって本当にそんな感じなんだもの」

「嫌味な部分あるもんね、アーサー」


チェリの例えにピエールまで同調し、アーサーは前を向いたまま眉を中央にぐっと寄せた。

 幸い、先頭を進んでいるので表情を二人に見られる心配は無い。


「あとは……そうね。顔が特徴的よ」

「顔? 格好いいの? ……いや、特徴的って言うからには格好いいってことはない?」

「格好良くはないわね。でも不細工でもないと思う。ただね」


脳裏に顔を思い浮かべたチェリが、乾いた笑みを浮かべた。


「鼻も耳も長くて、悪魔みたいな顔してるのよそいつ。はっきり言って不気味だったわ、ニネッテリトはそこが気に入ったみたいだけど」

「……それって」


告げられた特徴に、姉妹は揃って同じ顔を浮かべた。

 先日パウル武具店を訪れた、サミーという名前の男の顔を。


   :   :


 悪魔顔の男の話に言及しようとした姉妹だったが、揃って同じ瞬間に開きかけた口を噤んだ。

 先頭のアーサーが手を上げて歩みを止め、三人は停止する。


「……何かいた?」

「多分。なんか大きそう」

「隠れて様子を見ましょう」


一端立ち止まった三人は歩みを再開し、足早に近くにあった岩壁の窪みへ身を滑り込ませた。

 三人して、岩肌から頭半分だけを出して外を窺う。

 一番上はアーサー。

 二番目をチェリとピエールが静かに頭をぶつけ合って争い、結局チェリが二番目、一番下がピエール。

 三人、頭を縦に並べる。

 暫くすると、地の裂け目から何かが這い出してきた。


 岩だ。

 乾いた褐色の、直径、三、四メートルほどの塊が一つ。大地を転がって角の削れた、その辺に転がる石ころをそのまま大きくしたかのような形。

 そんな岩の塊に、これまた同じ素材の岩のような足が三対。裂け目の壁に力強く先端を突き立てゆっくり堅実に進んでいる。

 それ以外の部位は見当たらない。

 足の生えた岩、としか言いようのない物体だった。


「……なんだあれ」

「歩き岩、という魔物の筈です。読んで字の如くこの山岳地帯を歩き回っていて、土を食べて生きる魔物だとか。土食なので自ら人を襲うことはありませんが、(いたずら)に刺激すれば反撃してくる。あの大きさの岩の塊なので轢かれたり踏まれるだけでも致命傷です。加えて倒しても金銭的には無価値なのでやり過ごすべきですね」

「刺激って言っても隣を歩いたり上に乗ったりしても気にしないんだから安全なものよ。鉱物目当てに岩に鶴嘴突き立てたら寝てる歩き岩だった、なんて間抜けやらかさない限り襲われることなんて早々無いわね」

「なんかそう聞くと可愛い生き物に思えてきた」

「ただ、向こうも人間を全く気にしないので逃げ場のない袋小路や狭路で挟まれたりすると轢かれます。そこだけは気をつけましょう」

「それはやだなー。道ばたの草みたいに踏み潰されちゃうの」


言い合いながら、気配の主が歩き岩だと分かった三人は窪みから出た。

 歩き岩は三人が目の前に現れても行動を変化させることはなく、悠然と裂け目の壁を登り切り、赤茶けた道を横切り、切り立った岩壁を登り始め、


 足を突き立てた壁が崩れて転げ落ちた。

 ごろんと転がる足の生えた巨岩。

 転がった歩き岩は勢い余って地面から再び裂け目へと転げ落ちていく。

 轟音と共に派手に岩肌を荒らし、やがて裂け目の底に落下したのか大きな衝突音を響かせた。

 その光景、三人揃って目を丸くしたまま呆然と見送っていた。


「……落ちたけど」

「……落ちましたね」

「うわ鈍臭(どんくさ)……。死んだかしらあいつ」

「音の間隔から予測する限りでは相当な距離を滑落しましたし、普通の岩なら確実に砕けているでしょうね。あの魔物は普通の岩より高い強度を持つ、らしいですが。いずれにしろこの道はもう危なくて通れません。引き返して他の道を探しましょう」

「可愛い生き物じゃなくて可哀想な生き物だったかー……」


ピエールの呟きを皮切りに、三人は踵を返し道を戻り始めた。



   :   :



 別の道を進み始めた三人。

 しかし目当ての生物には出会うことが出来ず、山岳地帯に入ってから遭遇したのは歩き岩ばかり。

 採集に値する植物や鉱物にも出会えず、何の成果も得られないまま時刻は昼を過ぎた頃。

 代わり映えのしない赤茶色の探索の時間に、何やら変化が現れた。


「待って」


小高い岩壁に左右を囲まれた狭路を歩いていた三人。

 道半ばで呼び止めたのはチェリだ。

 前後の姉妹が立ち止まってチェリを見返すと、彼女は俯いて両手を膝に付けていた。


「どうしました」

「体調崩した訳じゃないからそこは安心して。……気持ち悪い。この先何かあるわ」

「……"ある"? "いる"ではなく?」


アーサーが問い返すと、チェリは大きく一度深呼吸をしてから顔を上げた。

 ピエールは話を聞くのは妹に任せ、一人虚空に視線を投げて周囲の気配に神経を集中させている。


「魔物がどうとかじゃない。そもそも生物の気配ならあなたたちも気づく筈だし」

「瘴気の類ですか?」

「澱みじゃなくて、生命力の屍臭がきつい。多分、この先で生物が沢山死んでる。何が原因で死んでるかは行ってみないと分からないから、気を付けて」


アーサーは眉根を寄せて口元に手を当て、暫し思案に耽った。

 少し考えてから、意を決して姿勢を正す。


「様子だけは見に行きましょう。転進して逃げる備えはしておいてください」

「分かった。……チェリちゃん大丈夫? 乗る?」

「大丈夫、さっきも言ったけど体調崩した訳じゃない。例えるなら普通の人には分からない腐敗臭が突然臭って来て気分悪くなっただけ」

「ならいいけど、きつかったらすぐ言ってね。背中でも荷車でも乗せてあげるから」

「ええ」

「では行きましょう」


再び歩き始める三人。

 先ほどまでの警戒しつつも小声で会話を行っていた時とは打って変わって、三人とも口を開くことは全くない。

 真剣な表情で、周囲の念入りな警戒を怠らない。

 そうして、いくつかの曲がり角を越えた辺りで。

 三人は現場へと辿り着いた。

   :   :

 最初に視界に映ったのは、巨大な枯れ木だ。水樹(すいじゅ)という名前の、地下深くに根を張り地下水を汲み上げるという性質のある木。

 多くの生物にとって、貴重な水源となる木だ。


 その茸のような輪郭の水樹が、葉を付けたまま立ち枯れしていた。

 葉は一枚残らず茶色く枯れており、何枚かは風に吹かれて落ちているものの大半は枝に付いたまま。

 木には瑞々しさも生命力も欠片も残っておらず、まるで人が立ったまま死んでいるかのような不気味さを漂わせていた。


 木の周囲には、多くの生物の死骸。

 歩き岩。三対の足をぴんと伸ばし、地面に胴体を降ろして転がっている。外観は生きている時との差が殆ど分からないが、実際に見てみると、生命力が失われている、というのが何故だかはっきりと分かった。

 茶褐色の兎と蜥蜴。人間ほどの大きさで、三人が山岳地帯に来てから初めて見る生物だ。

 どちらも足先が岩壁を登るのに適した鉤爪状に発達している。

 巻貝か、蝸牛に似た生物。歩き岩並の大きな殻は、うっすらと金属光沢を放っている。金属成分が混じっているのだろう。

 最後に人間。旅路に向いた服を着て、各々武具を握っている冒険者らしき人間の死体が五人分。


 それら沢山の生物が、皆一様に、その身をからからに乾燥させて死んでいた。

 死んでから時間が経過し乾いたのかと思えば、そうとは思えない点が一つ。


 腐敗していない。


 転がる死体たちには、腐敗の痕跡が一切見られないのだ。

 兎や蜥蜴、人の死体は乾き切って皮の張られた骨組みのようになっているのだが、損傷の痕跡も、体液がにじみ出た様子も一切無い。目玉も白く濁って乾き縮んでいるだけだ。破れていない。

 更に姉妹の鼻腔には、腐敗臭が一切嗅ぎ取れない。

 まるで加工済の干物のような、違和感甚だしい絶命の仕方をしている死体たちだった。

 一方で、土埃の被りようが死んでから日数が経過していることを表している。


「……」


現れた不可解な死体たちの姿に、三人は違和感と警戒心を拭えない。

 びくつくほどに周囲を警戒しながら、アーサーは背負い鞄から縄を一つ取り出した。

 先端を輪に結び、投げ縄の要領で自分たちから最も近い位置にあった死体、人間の死体一つを捕らえて手元に引き寄せる。

 念の為、不用意に近づくことはしない。


 ずり、ずり、ずり、と赤茶の土の上を引きずって、死体を一つ手元に寄せたアーサー。

 死体はどうやら魔法使いの女性だったらしい。赤髪を長く伸ばしており、振り上げた右手には短杖が握りしめられていた。

 目も口も大きく見開かれたまま、口の奥深くまでからからに乾いている。

 損傷は一つも見られない。


「どうですか?」


引き寄せた死体を、チェリが検分した。

 膝を曲げて屈み込み、右手を死体の乾いた額に当てる。


「……生命力を根こそぎ吸われてるわ。生命の存在が微塵も感じられない。腐らない訳だわ」

「原因はこの状態で分かりますか?」

「ううん……外傷が無いならやっぱり魔法生物じゃないかしら……ってアーサー! あんた何してんの!」


煮え切らない返事を聞きながら、アーサーは無遠慮に死体の衣服を捲り上げはだけ始めた。

 チェリが声を荒げるのも聞かず腹部を露出させる。


 露わになったのは、内臓も乾き切り驚くほど細くなった腹部。

 そして乾いた皮膚の表面に点在する、いくつかの小さい穴。


「この穴、何だと思いますか」

「穴? ……あ、本当。開いてる。随分小さいけど……」

「小さいのは皮膚が乾燥して縮んだからだと思われます。この大きさなら本来指一本程度は入る程度の大きさの筈」

「その割には血が全く外に出てないわね。服がちっとも汚れてない。となると」

「彼らの生命力は、この刺突痕から吸い出されたのでしょう」

「口吻か根の刺し痕かしら。虫か植物の線が濃厚ね」


おおよその下手人の検討が付き、チェリとアーサーは一息ついた。

 続けて、木とその周囲に視線を向ける。


「大凡の全体像が見えてきましたね」

「答え分かった?」


二人一息ついたところで、ピエールが話に混ざった。

 こういった推理に姉の出る幕は無いので、彼女はいつも結論が出てからそれを聞くだけである。


「広場の右奥の地面を見てください。何かを叩きつけたような跡がありますね」

「うーんと……あ、あった」


ピエールが眉を寄せて奥を見据えると、妹が指した先には確かに何か大きな物を打ち付けたかのような跡が残っていた。

 更に、その跡から水樹へ向けて伸びる足跡も。

 形は人の足跡に似ているが、大きさが人間の比ではない。

 人の数倍はあるだろう。

 数も三、四人分はある。


「犯人は、崖上からあの地点に飛び降りたと思われます。そして水樹に集まっていた生物と水樹そのものから生命力と水分を奪い尽くした」

「……皆の大事な水場まで枯らしちゃうとは罰当たりな奴だ」

「そして、生命力を吸い尽くした犯人は水樹から左手側へ続く跡の通りに、岩壁を登って去っていった。というところですね」

「確かに右にある足跡と同じのが左に伸びて……壁に登った跡がある。なるほどそういうことだったんだ」

「地面にも、足跡以外には不審な裂け目や穴はありません。そもそも側には根を深く張る水樹がある。地中から毒が吹き出た、犯人が今も地中に潜んでいる、そういったことは無いでしょう。……姉さん、一応持ってください」

「うん。危なかったら引いたらいいんだよね」


話しながら自身の腰に縄を巻いていたアーサー。

 縄の反対を姉に握らせ、単身死体の元へと歩いていった。

 今はもう何もいない、と説明されたとはいえ、ピエールの縄を握る手に力が籠もる。

 しかし予測通りアーサーが襲われることはなく、彼女は無事人間の死体五つの前まで到着した。

 ついでとばかりに他の死体の検分もしたが、お気に召さなかったのか少し調べただけで放置だ。


 しかしいくつか気になったことがある。

 まず、大量の足跡。

 まるでその場で足踏みを繰り返したかのような、大量の足跡が複数箇所に散見していたこと。

 加えて、この犠牲者の数。

 些か多過ぎるとアーサーは感じていた。

 大勢の個体が殺されて尚、他の個体は逃げなかったのだろうか。

 逃げた結果がこの数なのだろうか。

 それとも何か、逃げるに逃げられぬ理由があったのだろうか。


 暫く眉根を力強く寄せて場の痕跡を睨み観察してから、アーサーは死体を引きずり二人の元へ戻った。

 縄を解き、背負い鞄に戻す。


「ここに転がってる皆さんは水樹で和気藹々と水を飲んでたところを襲撃されたってことか……無常」

「水樹を襲うのはよくない傾向ね。色んな意味で見境のない危険生物である可能性が高くて、ニアエルフの棲む森でも水樹壊しがあったら総出で犯人探しするところよ」

「そういや結局犯人って何なの? 植物か虫か、とか言ってたけど」


ピエールの何気ない問いかけに、他二人の顔色はやや翳りを見せた。

 それだけで事態を大凡察したピエールが自身も釣られるように顔を曇らせる。


「それがね……」

「組合でこの山岳地帯周辺の生物の情報は可能な限り調べましたが、生命力を吸い、しかも水樹を襲うような危険性の高い魔物の存在は一切聞いていません。組合でも把握出来ていない可能性が高い」

「あらま」

「加えてあの足跡の深さ。相応の重量がある巨体の証です。足跡の数も多いので、単独犯ではない可能性が高い」


説明しながら足跡を指すアーサー。

 ピエールが再び足跡に視線を向けると確かに足跡は数が多く、加えて踏み固められた乾いた地面にも関わらず相当な深さとなっていた。


「……それって、結構やばい?」

「ええ。遺品を回収したらすぐ戻りましょう。ニネッテには悪いですが呑気に獲物探しを……」

「あ」


アーサーの言葉半ばで、ピエールが割り込むように呟いた。

 その暫く後。


 崖上に一匹の獣が現れたかと思うと、間髪入れず三人に向かって飛びかかってきて。

 迅速な動きで先頭に躍り出たピエールが振るった両手持ちの剣による反撃で、一撃で胴体に七割に達する切れ込みを入れられた。

 若干紫がかった血をまき散らしながら断末魔代わりに激しくのたうつが、チェリのドレスの裾に染みをいくつか作ったのを最後に動かなくなる。

 一方姉妹は目聡く後ろへ下がって血を避けていた。


「びっくりした……何こいつ」

「あ、こいつが八足獣よ。しかも雄」

「えっ」


チェリの言葉に、魔物とチェリへ視線を右往左往させるピエール。

 二度見した魔物の死体は、よく見れば確かに八本の足がある。

 ……というよりもまじまじ見るとその魔物、毛皮を纏った九本足の海星(ヒトデ)のような姿をしていた。うち一本は頭。

 獣と呼ぶのもおこがましい不気味極まりない形だ。


「運が良かったわね。あたしが凍らせてあげるからほら、さっさと切り出しなさい」

「一応これを目的に来た筈なんだけど……なんだろうこの扱いの軽さ」

「姉さん、遺品剥ぎを代わってください。私が八足獣の処理を行います」

「あ、うん……」


役割を代わった姉妹は手早く仕事を済ませ、大まかに切り出された八足獣の陰部はチェリの手によって凍結される。

 目的を終えた三人は、周囲にびくびく視線を走らせながらも足早に山岳地帯を後にした。

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